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眠れる王  作者: 慧瑠
それぞれ

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パティ・ニカの小さな変化

オズミアルの完全消滅を確認した俺は、気絶している橋倉をおぶり、ジーズィさんと並走をしている。

ひとまず目指すのは崩壊したリュシオン城。

本当は橋倉をすぐにでもレストゥフルに送り届けたいところなのだが、まこっちゃんや古河の様子も気になるからな。


「テイマー、先に行って」


「……いや、橋倉を頼むよ。ジーズィさん」


並走していたジーズィさんが止まり、それに気付いて俺も数歩先で足を止めた。

リュシオン城までは後五分もあれば着くだろうけど、流石にコイツ等を放置して行くわけにゃいかねぇ。


「私の方が強い」


「わーってますって。でも、だからこそ橋倉を頼みてぇんすよ。ジーズィさんなら俺よりも確実に安全にまこっちゃん達を回収して、臨時拠点なりレストゥフル国なりに確実に届けられるでしょ」


「自殺願望はよくない。我等が王が悲しむ」


「そんなもんじゃないっすよ。ただの英雄願望……男の子なら誰でも持ってるカッコつけたがりだ」


「死なない?」


「そのつもりはサラサラ。俺ってば罪づくりな男で、保留してる答えがあるんすよ。だからほら、答えを出す前の過程っていうか、今のままじゃ任せっきりでカッコわりぃままっすから。ここは俺に華を持たせると思って」


おぶっていた橋倉をジーズィさんに渡し、寝息を立てているその可愛らしい顔を数秒眺めて頭を撫でてみる。

まだ完全に体温が戻っていないのか、その身体も髪も少し冷たい。


俺より小せぇし、力もない。気弱でオロオロして、まるで小動物みたいなのに……一人でオズミアルをやっちまうんだもんな。

今の俺にゃ、その気持に答えられねえ。答えてやる資格もねぇからさ。

どう答えるかも決まってねぇけど……まぁ、ひとまずは橋倉が憧れている俺を崩したくねぇってのは確かだ。


「分かった。死なないなら、それでいい」


「あざっす」


ぐしゃぐしゃになった髪から手を離すと、強い風が舞って次の瞬間には高く離れたジーズィさんの姿があった。

周囲を飛び回る光にも目配せをすれば、高速で離れていくジーズィさんの後を追っていく。


「さてと」


小さくなったジーズィさんを背中にして呼吸を整え、改めて周囲の気配を探れば……居るわ居るわうじゃうじゃと。

どこに隠れてたのかも分からん大量の魔物の気配があるじゃないですか。


「あれー?」「おにーちゃんだけ?」


突出した魔物ではない二つの気配。

一番最初に俺が気付いた気配なんだが……なんというか、まさかねぇ。


「マジで子供かよ。やりづれー」


スリーピングキングが集めた情報の中にあった'三魔公'というカテゴリー。その中にあった'パティ・ニカ'の名前。


特徴は双子。

風貌は子供。

予想されるスキルはテイマー系。

戦力は未知数。ただ最新の情報ではヒュドラの幼体を使役していた。


見た目に騙されないように――なんて注意事項があったっけか?

スリーピングキングよぉ、お前は会ってないからんな注意事項を書いたのかもしれんけどさ……。


「お遊びで肩書を持ってるわけじゃなさそうだぜ」


確かに子供でやりづれぇけど、無邪気な笑顔から発せられる圧というか殺気が、子供のソレじゃねぇわ。

俺の警笛も、使役してる奴等もビンビンに反応してる。

気を抜けば死ぬぞ。って、冷や汗が止まらねぇ。


「でもおにーちゃん」「お友達沢山いるよね」


「いるいる」「あの鳥ほしー」


「ほしー」「ほしー」


「「お兄ちゃんのお友達、ちょうだい?」」


にぱーっと悪気の無い笑顔のまま発せられた言葉に合わせて、周囲から飛び出して襲いかかってくる魔物達。

地面の下からの反応もある。


バッドの翼を操って高く飛び上がると、俺の立っていた場所を丸呑みにして蛇の頭が一つ、二つ、三つ、四つ――おいおい、九つってヤマタかよ!!


「がおー!」「うがー!」


パティ・ニカはヒュドラの攻撃に合わせて楽しそうに吠えているし、他の魔物達はヒュドラを足場にして俺が飛んでる高さまで上がってきやがる。

だけど甘ぇ! マシュマロ並にあめぇぜ! パティ・ニカ!


魔物達の攻撃を避け、俺に噛みつこうとしていたヒュドラの頭に触れ……ようとしたが、別の魔物が間に割って入ってしまった。


瞬間、頭の中に使役した魔物の情報が流れ込んでくる。


ストームバタフライ

鱗粉と砂塵を振りまく蝶の形をした魔物

生息地は主に砂漠

砂を操り時間を掛けて衰弱させていくタイプ


場違いにも程があるな。

まぁいいや。とりあえず使役空間に引っ込ませて、あのヒュドラからっ!!


「ふれただけで」「お友達?」「「ずるーい」」


ぷんぷん!と頬を膨らませているパティ・ニカの言葉を聞いて、俺は少し驚いたぜ。

まさか一回でバレるとはね。中々の観察眼じゃねぇのさ。


それでもやることは変わらねぇけどなっ!


「ほれタッ……チッ」


流れてくる情報はヒュドラのものではない。それに思わず舌打ちをしてしまった。


また俺が触れる瞬間に割り込んできたな。偶然か?

しかもヒュドラの首は俺から距離を取り始めたし、胴体はまだ出てきていないし……ここは、フェイントを絡めつつ度距離を取り、最速に乗ってヒュドラの首へ近付いていく。


そして更にフェイントと――


「ミスト!」


ミストスパイダーの力を借りてヒュドラの首の後ろを取る。

全部の首が俺を狙っていたからこそ、全ての首の後ろを取れた。


後は一本に触れて、完全に使役できればそれでよし。

多頭だからってことで一本しか使役できなくても、やりようは幾つもある。


「って、おい! ミスト!?」


後ちょっとで触れられると思った瞬間、別方向に引っ張られて俺の手は空を掴んだ。

頼んでもないのになんで勝手にとミストに視線を送ろうとする前に、俺はヒュドラと目が合った。


触れようとしていた首の奥で、口を開いて待ち構えていたヒュドラの首と。そして更に、地面を突き破って鈍くエグい色のブレスが間欠泉の様に吹き上がってくる。


「十本目……助かったぜミスト」


大穴を空けた異臭を放つブレスが消えると、その穴からしっかりと俺を見据える目が見えた。

胴体が無いから気にはなっていたが、まさかまだ首があるとはな……。


ヒュドラか。

向こうの知識通りなのかは知らねぇが、首を落とせば増えて再生するとかいう怪物。これはギリシャ神話だったか?

別の神話では灰色の粘液海の脳みそチューチュー生物だし、オリジナリティ溢れる性質を持っていても不思議ではないよな。


加えてパティ・ニカの存在。

間違いなく俺に触れさせない、もしくはカウンターを狙って指示を出している。

追加で魔物も増え始めているしなぁ……相性自体は悪いとは思わねぇんだけど、ちょっとばっかし俺の知識が足りない。


「見たことも無いし名前も分からない魔物が多すぎる」


効率にしろ、その場での戦力強化にしろ、どれが適切な魔物でどれだけ回収すればいいか分からないぞ。

近隣の魔物は頭に叩き込んだつもりなんだけどなぁ。


「こんなことなら、スリーピングキングに魔物の展覧会でも開いて貰うべきだったぜ」


飛行できる魔物の数が少ないのが幸いしてか、避けながらも考える時間は取れている。

ヒュドラ自体も大雑把な攻撃が多く、ブレスも直線的で意識すればまだ避けれる。


「っと……」


一瞬空中で身体がぐらついた俺は、一気に高く上へと飛び上がり融合しているバッドと控えのバッドを入れ替えて体勢を整える。


強いて言えば使役している魔物の体力が不安ってのがあるか。


融合している魔物の体力がなくなれば、俺の魔力と体力の消費が倍になるのがキツイ。切り替えのタイミングを作れなければ、無理をさせることになっちまうし、控えもそれほど多いわけじゃねぇ。

控えの面じゃあ、そんなに余裕もないか。


「やっぱ現地調達しねぇといけねぇよな」


飛行可能の魔物の回収。

ヒュドラの対策。

パティ・ニカをどうするか……ちょっと試してみるか。


「おい双子! なんで戦うんだ!」


「なんで?」「お友達がほしいから?」


「だったら戦うのはちげぇんじゃねぇの!?」


「でも倒さないとお友達にならない」「それにおにーちゃんはニカの友達とったもん」


「戦わねぇなら取らねぇ!」


攻撃を避けつつ両手を上げて無害アピールも欠かさない。

あの二人、様子から見て敵対をしていると言うよりは、信念や目的も無く無邪気に戦っているだけのようにも見える。

交渉の余地はあるだろ。


「アーコミア様が言ってた。人間はこーかつだって」「異世界の人間はズルばっかりするって」「「おにーちゃん達は嘘つきだって」」「「意地悪ばっかりするって」」「「なんでも持っていっちゃうって」」


「「だから、ころせって」」


あ、余地ねぇわこれ。


目が据わった途端、周囲の魔物の雰囲気も変わった。

殺気立って、俺の周りを囲んで――ヒュドラの全ての首が俺に向けて口を開く。


ブレス。


俺の逃げ道を塞いでいる魔物諸共狙った容赦無しの十発。


「ミスト!」


ブレスの範囲の外からミストに引っ張ってもらっての緊急脱出を図るが、数体の魔物に体当たりをする形になって思うように移動は出来ず、左足がブレスに触れる。


「ィッ……ガアアアアアア!!!」


やべぇ。意識飛ぶ。ってか死ぬ。

一瞬で腐った。

秒も待たずに肉が落ちた。

間もなく骨が黒く朽ちていく。

欠損した場所から激痛が、高熱が、精神的ショックが俺を襲う。


こういう時って、なんかアドレナリンで感覚麻痺るとかじゃねぇのか!?

痛みが引かねぇ。むしろどんどん、他の場所まで――毒か!!


無くなった足に視線を見れば、傷口にブレスと同じ色の粘液がべっとりと張り付いている事に気付き、俺は手近な魔物に触れる。


「食え!」


俺に触れられた魔物は、躊躇いも無く俺の傷口ごと余っていた左足を食いちぎり、数秒後には毒に侵され息絶えた。


「火ッよ……'火球'――ォォォォォォッォあってぇぇぇ!!」


食いちぎられた事で更に増えた出血を抑えるために、魔法を使って傷口を焼いての止血。


冷や汗止まらねぇ!

血管切れそう!

声ださねぇと意識飛ぶってこんなの!!


もうどう表現するのが正しいのか分からず、単語にもならない声でなんとか意識を繋いでいく。


「うっっぷ……吐きそう」


それでも、次から次へと何かしらの異常が俺の身体を襲う。

多少なりとも回ったんだろうな。これでも一応耐性はそれなりに積んだつもりなんだけど、いや、積んでるからまだ意識を保ててるのか。


「掠っただけでこのザマかよ……クソが……」


飛行するのが辛くなり、自然落下の軌道だけ変えて木々の隙間に落ちていく。

バッキバキになんかやべぇ音が身体から鳴るが、それを上回る痛みのせいであんまり気にはならない。


少しだけ呼吸が落ち着いてきた。っていうか、色々と身体の感覚がやっと無くなってきた。


「死ぬ気はねぇけど、死にそうだ」


このまま意識を飛ばせば楽になるんだろうな。なんて考えを振り払い、数分もすれば俺を見つけるであろうパティ・ニカへの対策を考える。


やっぱあのヒュドラが厄介だ。

デバフもりもりの今の俺じゃあ、ミスする確率がたけぇ。最悪一瞬でお陀仏だろう。

しかも飛べない状況だと、他の魔物の攻撃手数も増えてくるのは間違いない。


「詰みじゃね?」


どれだけ考えても打開策が浮かばい。

ここで誰かが颯爽登場してきたら、そいつに惚れちまいそうなぐらい浮かばない。

もうごまごまスリスリとお手々でこねくり……あ、まだ手があるじゃん。


完全に諦めムードになっていた思考に一筋の光が差す。

他の考えは切り捨て、それ一本に絞って頭を回せば、なんかイケる気がしてきた。


「ただ、割と運ゲーだからな。付き合わせるのはわりぃわ」


軽く地面を叩いて使役空間を開けば、今まで使役してきた魔物達がゾロゾロと顔を出してくる。


「時間稼ぎは俺がする。だからお前等は……まぁ、こんな場所じゃ生き残れるかは分からんけど、頑張って臨時拠点を目指せ。

んで、でっかい門に意地でも飛び込め。そこから先は自由にしらたいい。スリーピングキングの部下達なら気付いてくれるだろうし、少しぐらいなら面倒は見てくれると思うからよ」


そう言うと、使役していた魔物達はオロオロとした様子を見せ、ジョニーに至ってはへろへろと俺に飛び寄って頭をこすりつけてくる。


「特にジョニーは不死鳥とかいう超絶貴重な魔物なんだから、しっかりとスリーピングキングの所に戻れよ? じゃねーと、流石にスリーピングキングにがられそうだ」


本当はこんな所で放すのは間違いなんだろうけど、流石に時間が無いっぽいわ。

こうして話している間に、周囲から聞こえる魔物の声は近くなってるし、今、まさにヒュドラの首の一本と目が合っちまった。


「さぁ、行け。もし俺がラッキーボーイの称号を手に入れたときにゃ、また世話になるからよ」


少し強めに言えば、魔物達は振り返らずに走り去っていった。

強い種の魔物ではないけど、だからこそ危機回避能力は高いだろう。現に俺も何度かソレに救われている。


まぁ、こんな事をしているが、俺は今も死ぬ気はない。

保険だ保険。もしもの可能性は高い賭けだからな。


自分に大丈夫と言い聞かせ、これからやる事の覚悟を何度も何度もしていると、一切待ってないけど待っていた声が聞こえた。


「みーつけた!」「かくれんぼはおしまーい!」


「おうおう。次は鬼ごっこと行こうぜ」


背もたれ代わりにしていた木を支えに立ち上がり、全身に強化魔法を掛けていく。

その間にもヒュドラ以外の魔物達が現れて俺を取り囲むが、まぁなんとかなるだろ。


「鬼ごっこ?」「じゃーニカ達がおにー」「「がおー!!」」


考えているのか、なんとなくなのか、自分達が鬼役を買って出るパティ・ニカの言葉に、俺は思わず笑みが浮かぶ。


そして合図代わりにヒュドラのブレスが俺に放たれ、鬼ごっこが始まった。


まずは確認の為に近場の魔物に触れてみたが、他の魔物が俺が触れた魔物を食い散らかしたのを見て現地調達のルートをカット。

見上げて上空もついでに確認……なるほど、かなり高高度で待機している。ここから触れに行けば、ただの的だな。

正直、スーパーケンケン移動はキツイから飛びたかったんだが羽の調達も諦めだなこりゃ。


「まてまてー」「にげるなー」


「そんな大雑把じゃ当たらねーぞ―」


魔物たちの攻撃を避け続け、時折撃ってくるブレスも魔物を足場に飛び跳ねる様に避ける。

んでもってヒュドラの位置と首の数の確認は怠らない。


視界にあるのは九本。一本はおそらく地面だろう。

よしよし、勝機が見えてアドレナリンが出てきたのか、色々と感覚も麻痺ってきたぞ。もう少し気張れよ、俺。


「これじゃあ何時までやっても捕まる気がしねぇなぁ!!」


「なにをぉ!」「まけないもん!!」


挑発をすれば、魔物たちの動きが荒くなる反応はある。

もう少し……もう少し……。


息がしづらいな。


「まだまだ子供だなぁ!」


おっと、あぶねぇ。躓いちまった。

地面を思いっきり殴って身体を浮かせ、近場の枝を掴んで体勢を整えてスーパーケンケン移動に戻れば、目の前にヒュドラの顔。


口は開かれて、異臭がやばい。

潰れてたはずの嗅覚を更に捻じ曲げて潰してくる悪臭。


ここ……いや、まだだ。


口に溜まっていく粘液と魔力を見て動きかけた腕を止め、身体の力を抜いて枝を離すと、ブレスは指先に掠るだけで避けられた。


「火よ――'火球'」


掠った指は毒が回る前に根本から焼き払う。

それでも少しは毒が回ったのか、右腕の感覚は完全に無くなった。


「もー!」「避けないで!!」


わーわーと首の一本の上で騒ぐパティ・ニカの様子を見て、俺は異臭が肺に入る事も気にせずに深呼吸をする。

同時に正念場へ踏み入る覚悟も終え……一気に、全身全霊でパティ・ニカを目掛けて跳んだ。


「そらよ! 当ててみなぁ!!」


「あた――え?」「パティ!!」


「は?」


挑発に乗ったパティ・ニカが俺を指差した瞬間、ヒュドラが大きく首を振った。

その動きは予想外だったのだろう。双子の片割れは体勢を崩して踏ん張れず、そのまま落ちていく。


ヒュドラの雰囲気が変わった?


それは俺にとっても予想外で、落ちていくパティを目で追っていると、地面から隠れていたヒュドラの首が口を空けて待ち構えている姿が。

届かないと分かっていて必死に手を伸ばしているニカ、それを掴もうと手をのばすパティ。


「風よ! 障害を穿て! 'エア・バレット!' うっぐぉおおくぉがぁ!!」


気が付けば俺は考えるよりも先に動いていた。

魔法を発動して、その内の一発を残っていた片足でそれを踏みつけ、落ちていくパティへ向かって吹き飛んでいく。


残っていた風の弾丸がヒュドラを牽制するが、まぁ……俺の膝下がぐちゃぐちゃになる程度のダメージが、その装甲を抜けるわけもなくパティを喰らおうを首を伸ばす。


「しゃらくせぇ!!」


更に追い打ちで魔法を自分に当て加速をすれば、ヒュドラよりも早くパティの元へと俺がたどり着き、感覚が微妙に残っている左腕で抱きかかえ――代わりに俺の足と右腕が食いちぎられた。


痛みはない。だが、その勢いに俺はパティと共に吹き飛ばされる。


「ぐっ……ふ」


なるべく内側にパティを抱え込み、背中で木にぶつかる衝撃を受ければ、漫画みてぇな勢いで口からは血が吹き出た。


「どう……して……」


「俺が聞きてぇよ……ったく、作戦は成功したもののこれじゃあな」


身体に力が入らねぇな。

指一本動かねぇ。


まぁ、両足と右腕で無い今、動けても満足には動けないか。

だけど賭けには勝った。

こうして考える暇があるのが証拠だ。


俺の腕を食ったヒュドラは、腕を食った瞬間に俺の支配下に入った。

魔力はすっからかんになったけど……あぁ、良かったわぁ……オズミアルみたいにならんくて。


「後は……ヒュドラとゆ……うごうして……ど、くの……むこうか……さいせい…………かんぺ……」


あえ? さみぃ。くらい。

夜だっけ?

はは、スリーピングキングじゃあるまいに……ねみぃ。


----


「パティ! パティ!」「ニカ……おにーちゃんが……」


微動だにしなくなったヒュドラから飛び降りてきたニカに、パティは岸を揺すりながらどうしたらいいか分からずニカへと視線を向ける。

ニカもパティがどうしたいかは分かるのだが、どうすればいいかは分からず、二人とも周囲の魔物を見渡すばかり。


そんな中、空から巨大な瓢箪と共に一体の鬼が降ってきた。


「ハッ、死んじまったかぁ?」


「ガゴウ!」「ダメ!」


現れたガゴウが岸に触れようとすると、パティ・ニカが立ち塞がって叫び、その声に反応するようにヒュドラが動く。


「鬱陶しい」


一撃。

振り向く事なく打たれたガゴウの裏拳に、ヒュドラの首が二本弾け飛ぶ。

そして、その様子に震えているパティ・ニカを越えて伸ばした腕で岸を掴み上げた。


「餓鬼共を守ろうとしたってことは、テメェまだ死んじゃいねぇな。丁度いい、手足の貸しはコレで返してやる。まぁ、コイツが死ななかったらだがなぁ」


カラカラを笑うガゴウは、そのまま岸を肩に担いで瓢箪を引きずりながらその場から離れていこうとする。

しかし数歩進んだ所で足を止めて振り返った。


そこにはガゴウを見上げるパティ・ニカ。

一歩進めば、パティ・ニカ達も一歩だけ進む。


「死にてぇのか?」


「パ、パティもいく」「ニ、ニカもいく」


面倒になり蹴散らす事が脳裏を過ぎったガゴウだが、首が再生し増えたヒュドラが牙を向けている事に気付き、真っ直ぐ見つめてくるパティ・ニカを見下げ、大きくため息を漏らす。


「助けはしねぇ。着いてくるなら勝手にしろ」


「「うん!!」」


「……それと、雑魚共は引っ込ませとけ。騒がしくて殺しちまいそうだ」


その言葉だけ残して、心底くだらなそうな表情でガゴウは臨時拠点へと足を進めた。

夏に負けました。脳みそぐつぐつです。


そろそろ漆達ですかねぇ……。



ブクマ・評価ありがとうございます。

これからもお付き合いいただけると嬉しいです!

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