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眠れる王  作者: 慧瑠
それぞれ

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208/236

名と命を売ってきた

短めです

ログストア国奪還を目的とするのはゼス騎士団長率いる第一大隊。

その中で開幕と同時に先行し、敵陣の真ん中で制圧と防衛を同時に行い、臨時奪還拠点の設置を命じられた第一○五中隊。


「設営遅れてる! 資源の持ち込みが可能になっている今、手際よく進めなさい! 異界の方々に遅れるな!」


柵となる大木を突き立てながら声を張り、周囲の者達に喝を入れるのは第一○五中隊隊長のマーニャ・バニアンツ。

リーファ王女護衛の任を解かれ、中隊の隊長に任命されたマーニャは、通達された作戦内容に目を通した時、かなり厳しい戦いになると予想した。


しかし、当初の予定であった転移での移動は、眠王――常峰 夜継の進言により変更され、巨大な門を通るだけでの移動になった。

それだけでも転移魔法を行う部隊に割いていた魔道士達を加えられる。

制圧に加えて防衛をし続けなければいけない分、戦力はいくらあっても困らないのだ。

マーニャは常峰に感謝をしつつ、部隊の役割を分担していた。


「これが力の扱いを覚え、振るう事を許可された異界の者達の実力か……」


だが、いざ開戦すると、予定していた分担も大幅に変更せざるを得ない状況になってしまった。


事前にどこの大隊にも所属しない眠王直属の部隊の話は聞いていた。

こちらに召喚されてからの時間も短いわけではないが、長いという事もなく。全ての者が訓練に積極的に参加していたわけでもない。

そんな者達が連合軍に振り分けられた所で、合わせる事は難しく、遠慮や配慮のせいで動きが制限されるだろう――そんな理由をゼスから聞いた時は、なるほどと納得した事をマーニャは覚えている。


しかしマーニャは自分の考えを改めさせられた。

ゼスの言葉を聞いた時、単純に自分たちの足手まといになるため、眠王の指示の元で自由に行動させるのだろうと思っていたのだが……それでは半分しか理解できていない。


「あらあら」


小さく呟かれる様に聞こえた声。その声を追う様に空気を打ち鳴らす鞭の音。

瞬間、鳥籠の様な蔦の間を抜け、柵を立てようとしていた兵を襲う魔物は、地面から伸びた蔦に絡まれ絞め殺される。

見渡せば、独特な服装に身を包み、怒りを張り付けた様な面の大きく白いナニカを操り群れを屠る者、外さぬ投擲と必殺の一突で確実に貫く鎗を操る者。


自分達の進軍に合わせて移動をしてきた皆傘 園、十島 晃司、篠崎 玄信の三名によって、瞬く間に制圧が行われ防衛へと戦況は移ったのだ。


自分達でも命令を完遂する事は十二分にできたとマーニャは思う。

だが、もし、大隊に異界の者が入っていたらと考えると……あまりにも戦い方や連携意識に差があり、互いに足の引っ張り合いになってしまう。

現に今ですら、先行部隊には困惑と気の緩みが見え始めてしまっている。


一朝一夕では埋まらないであろう差。

正された認識と、それに合わせる動きこそが全体の枷になる事を大隊の隊長達、ひいては常峰 夜継も気付いていたのだろうとマーニャは改めて理解した。


「マーニャさん、拠点はどれぐらいで出来るか分かりますか?」


「ッ、十島くんか……予定では五時間後。君達が大半の魔物を受け持ってくれているから、予定よりは順調よ」


「本当にそうならいいですがね」


最寄りの魔族の懐へと移動した十島の最後の言葉は、マーニャの耳にしっかりと届いている。何故わざわざ十島が聞きに来たのかもマーニャは分かっている。

十島も気付いているのだろう。己達の存在が、先行部隊の足並みを僅かにではあるが、確かに乱している事に。


「全軍――」


再度喝を入れ直そうとマーニャが声を発した。だが、その声は最後まで言葉を紡ぐ事はなかった。

身体を撫で抜けた冷たい風は、水を打ったかの様に場にマーニャの耳から音が消える。


意識も視線も引っ張られたマーニャは、その冷たい風の正体が何かをすぐに理解した。


「皆傘、防衛ラインを少し下げろ! 十島は皆傘の護衛を徹底、篠崎は拠点の設置にまわれ! 以降は追加の指示があるまで防衛に徹するように!」


四本の巨大な木製の杭を浮かせながら現れた常峰は、三人に指示を出しながらマーニャの元へと近づいていくる。

途中、運んできた杭は常峰により扉を中心にして四方向へ叩き込まれ、その柱を起点に新たな蔦の檻が作られていく。


「マーニャ中隊長、皆傘達には拠点防衛を頼んでいるので、拠点設置の際に動き辛い場合は皆傘達に指示を出して構いません」


「気を使わせて申し訳ない」


「いえいえ、こちらこそ大幅に予定を狂わせてしまったようで。これで戦闘は増えるかもしれませんが、変に士気を下げずにすむかと」


「十島くん達はそれでいいのですか?」


「こちらの心配は無用ですよ。士気の上下が薄い……それは、皆傘達の欠点であり長所でもありますから」


「扱い方を心得ていると」


「少し知っているだけです。そして皆さんの事は何も知らない。指揮は任せましたよ」


マーニャに告げると、階段がそこにあるかの様に空中を踏み上がっていく常峰。

飛行能力を持つ魔物や魔族がそんな常峰に気付かないわけもなく、無防備に見える常峰へ迫ろうとするが、誰かが手を出す前に全ての敵はただの魔力の塊によって叩き潰されていく。

遠距離からの攻撃も当然のように魔力の壁に遮られ、常峰に触れる事は叶わない。


「私も見てるばっかりじゃいられないな。

全軍! 予定通りに行動を移しなさい! みすぼらしい拠点なんて晒した日には、合流部隊に笑われますよ!」


急く気持ちを落ち着かせたマーニャは、改めて声を張り全軍に指示を出す。

それにより常峰の登場で動きが止まっていた者達は、ハッとした様子で動き出し、一時間もすれば異界の者達と言葉を交わす声も聞こえ始める。


そして五時間という時間が経過した時には、ローテーションで休憩を取れるぐらいには拠点が出来上がっていた。


--

-


転移魔法で絶え間なく送られてくる魔族や魔物。

その様子を見下ろしながら、自分に気付いた敵を処理していく。


「数が減る様子はない。むしろ余裕を見せるかの様に時折送り込む数を増やしてきている」


交戦開始の報告が各方面から届いてきているにも関わらずだ。

アーコミアの軍の全貌が見えないな。ダンジョンを使って魔物を呼び出しているにしても、数が数だ……限界はあるはずなんだがな。

幾つか予想こそできても、確信は持てないままか。


「おや? これはこれは、こうして挨拶をするのは初めてですかね? お噂は予予、随分とお強いようですねぇ……眠王様」


変更をする必要が出た場合を考えていると、空中を歩いているはずの俺を行く手を阻む様に立つ人影が声を掛けてきた。

ド派手な服装に張り付けたような笑み。言動に合わせた大げさな一挙手一投足。


「生憎、俺はお前の噂すら耳にしたことが無いな」


「おっとこれは失礼しました。私、三魔公などという不相応な肩書を人間から頂いた'フェグテノ'と言う者です。この機会に、眠王の記憶に刻んで頂ければ、嬉しさで目がこぼれ落ちるでしょう」


なるほど、フェグテノね。この魔族がモクナさんと安藤の宿敵か。


身を抱きながら口元を抑え、何やら笑いを堪えている様子のフェグテノは、両腕を大きく広げたかと思うと軽く手を叩いた。

その音はよく響き、地上で何かが蠢き始めた。


死体を操るとは聞いていたが、いざ目にすると気持ち悪いな。


俺が処理した魔物や魔族の肉片が意思を持っているかの様に集まり、次第にソレは一つの形になっていく。

まぁ、ソレの完成を待ってやる必要もない。


「おや……これはこれは」


問答無用でソレの完成を待たず魔力で押し潰すと、ポカンと目を丸くしたフェグテノは、大げさに首を振りながら呆れたと口にする。


「もっと劇的な演出を楽しんで欲しいものですねぇ」


「足止めのつもりかは知らんが、そこをどいて欲しいものだな」


「冷たいですねぇ。もっと私と楽しみましょう!j


「言う割に、随分と姑息な手を使ってくれる」


振り向く事などせず、背後に現れた何かを圧殺すると、フェグテノの口角は上がり、三日月を張り付けた笑みを浮かべた。


「まさかお気付きになるとは」


「誰の土俵に上がっていると思っている。まだ楽しみたいと言うのなら、他所でやってくれると嬉しいんだが」


「そんな事を言わずに、もっと見せてください! 容易く死を呼ぶその力と冷酷さを!」


フェグテノが手を打ち鳴らせば、ログストア騎士団の甲冑や使用人の服を着た死体が喚び出され、俺を取り囲んでいく。

その中には、何時ぞやか見たような気がする顔もちらほらと……。


これで俺の動揺を誘えるかもと考えているのだろうか。


俺は、取り囲む死体に加えて、フェグテノも巻き込む様に一帯を上下から魔力で潰した。だが、潰せたのは死体のみで、フェグテノは「おっとっと」と慌てた口ぶりを漏らし数歩下がって避けたようで……。

口ぶりや動きこそ慌てた様子だが、僅かにもそんな事は思っていないだろうな。


「参りましたねぇ。手を加えていないゴミ程度では、足止めにすらなりませんか」


「ゴミ処理の手伝いなら後で申請をだしてくれ」


「いえいえ、それには及びませんよ。どんなゴミでも私はしっかり手入れをして使う魔族なので」


そうして次に現れたのは、明らかに生きているとは思えない――というより、生き死に以前に人の形を辛うじて模しているだけで、今にも縫合部位が千切れ落ちそな死体達。


「実はコレ、先日手に入れた新鮮な死体も利用していまして、急いで仕上げたんですよ! しかしそのせいか、脆さが目立ってしまいましてねぇ……」


「ヴァロアの襲撃時、行方不明者が出ていたようだが」


「さぁ? どうでしょう? 利用を終えた死骸は私の元へ集まるので、どれがどれだか。どうです? 一緒に元の形へ戻します?」


「結構だ。慰霊碑の前に飾る首は一つで事足りるだろう」


「おぉ、こわいこわッッ――ッ!」


喜々として喋っていたフェグテノは、俺が用意した魔力の壁に思い切り叩きつけられた。

鈍い音と、グチャリという不快な音を立てて魔力の壁にへばりついているフェグテノと、一人は大盾を持ち、もう一人は錆びついた様な赤黒い剣を握り、深々とフードを被った二人の間を俺は抜けていく。


「ここはお前に任せた。俺は先に行く」


「あぁ。感謝する」


-

--


「あぁ、痛い痛い。痛いのに、おかしくて笑ってしまいそうですよ」


辛うじて残っているフェグテノ口元はそういつつも既に笑っている。

適当に喚び出された死体の頭部をもぎ取り、グチュグチュと音を立てながらもぎ取った頭部を残っていた部分にこすり付けると、ギョロリと動いた瞳がフードの二人を見つめ、歓喜の色を浮かべていく。


「おかしいですねぇ、これは実に笑い話ですよ? 死体を扱う私が、死人と戦う。

貴方達が死ぬ瞬間は確かに私は見ていたんです。慈悲もなく潰され、四角形になった貴方達を確かに。あの時は悲しかった……もう会えないのだと思いました。私の目の前で死んでくれたなら、その肉片は一つにしてあげようと思っていたのにです。

なのに何故、私の目の前に立っているんですかねぇ? 是非教えてくれませんか? モクナ・レーニュ、安藤 駆」


フェグテノに名を呼ばれた二人のフードを、風が外し顔が晒される。


「私怨でアナタを殺すために」

「名と命を売ってきた」


「それに応える存在は神ですか? 悪魔ですか? まぁ、なんでもいいですか。こうしてまた貴方達が私の目の前に立つ――なんて劇的でしょう!」


高らかに広げられた両手は、限界を迎えて千切れ落ちていく。その後を追う様に、フェグテノの頭上から大量の死体が降り注ぎ、その姿は見えなくなってしまった。

代わりに聞こえてくる鳴き声は、聞いている者の神経を逆撫でする様な、憎悪に満ちた悲鳴を寄せ集めた様な音。


「レイヴン様、行きましょう」


「あぁ、行こう」


大盾から大剣へと形を変えた安藤と、赤黒い剣を握るモクナは死体の滝へと飛び込んだ。


更新遅れ気味で申し訳ないです。


場面や視点変更が多くなると、なんとなくテンポが難しいですね。



ブクマ・評価ありがとうございます。

スローペース気味な私ですが、これからもよろしくしてくれると嬉しいです。

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