表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/236

三日目EX

「改めて乾杯だ」


飲んで食って歌って騒いで――途中から大広間には、とんでもなくでかいベッドを男用と女子用とで二つ用意。

疲れた奴から順にベッドの魅力に負けていく。そして気が付けば、寝ている者より起きている者の方が少なくなった頃、俺はベッドの誘惑に抗い続けて場所を移動した。


「わざわざ夜に来るなんて、正直驚いてるぞ」


「うるせぇ。いいからホレ」


炎が揺らめく暖炉の側で、俺の登場に驚いている安藤の持つコップに、無理矢理自分のコップを打ち付けて音を鳴らす。

そして適当に大広間から盛ってきた料理をテーブルに置いていく。


「モクナさんは?」


「今日は寝たよ」


「おっと、それは邪魔したか?」


「茶化さないでくれ」


苦笑いの安藤を他所に料理を口へ運ぶ。

うん、うまい。今日の集まりの予定を聞いた時、ルアールとシーキーとラフィが張り切って畑が居る厨房へと向かっていったのは知っていたが……自然と口を開ける気がしない程に美味いな。


ふと唸り声が聞こえて視線を上げてみれば、安藤が実に険しい表情で次々を料理を口へ運んでいく。

その速度からして別に不味いわけではないっぽいが、何を唸ってんだコイツ。


「なぁ常峰……やはり男でも料理をするべきだと思うか?」


「まぁ、作れたらカッコいいとは思うが」


「常峰……俺にりょ「べちょべちょチャーハンなら教えてやれるぞ?」――セバリアスさんかルアールさんに教えてもらえると心強いんだがなぁ」


俺的オススメの講師はシーキーだが、ラフィやリピアさんを含めて名前が出てこない辺り、無意識にモクナさんに気を使っているのかねぇ。


「色々と終わったら練習すりゃいい。五年……それがお前等を表に出さない期間だ」


「長いは長いが、俺のした事を考えると短すぎるな」


「自覚があるならいい。次があるならもっと上手くやれ。それに、色々と終わるまでは働いてもらうぞ」


そう告げながらダンジョンの機能を使い、自室から設置物として安藤用の作戦を記した資料を喚び出してテーブルの上に置く。


「モクナさんと見ろ。拒否権はない」


「常峰、これ」


「名無しじゃ不便だろ。それを遂行する間はレイヴンとでも名乗っておいてくれ。流石に安藤 駆って名乗らせるわけにはいかないからな」


「それが俺の新しい名前か……」


「そこは好きにすればいい」


安藤は小さく「あぁ…」と答えると、真剣な表情で資料に目を通し始めた。


モクナさんと一緒にって言った気がするが……まぁいいか。安藤は安藤なりの覚悟が出来ていて、そして'レイヴン'と名乗る気なのだろう。

俺が考えるよりも重々しく、確固たる覚悟を持って。


どこまでも愚直で真っ直ぐだ。どこまでも……お前が親友で良かったよ。お前がそうだから、俺は逃げずに済んでいる。

お前は俺の切り替えを羨む事があるが、俺はお前の揺らぐことない意思を羨ましいと常々思う。


「常峰、この協力者というのは誰だ」


「明日紹介する予定だから、そこは読み飛ばせ」


「わかった」


……負い目があるか安藤。遠慮なんてせずに、聞かせろと食らいついてくりゃいいものの。


安藤の僅かな変化に少し寂しさを覚えつつ、時折投げかけてくる質問に答え、飲み物や料理をつまんでいると部屋の扉が開く。


「……お客様ですが」


「あぁ、遅くまですみません。流石にこれ以上はフラセオさんに迷惑ですし、俺達が場所を変えますよ」


「?……いいですよ? 私は寝ませんから」


そう言って部屋から出ていくフラセオさんと入れ替わりに、随分と出来上がっているような東郷先生と市羽が部屋に入ってきた。


「あんどーくーん! 先生はっ、先生がー」


うるうると瞳に涙を溜めていたかと思うと、いきなり安藤に抱きつこうとした東郷先生。その首根っこを捕まえて止めている市羽。


ようなではなく、こりゃ完全に出来上がってんな。


チラッと市羽と目があったが、俺はそっと逸らす。

言葉にこそしないが、そろそろなんとかしてくれないかしら?と視線で訴えかけてきていた。

おそらく出来上がってから結構立つんだろうな。あの場に居なかった安藤に会いに行きたいと言い始め、落ち着かせてはいたものの面倒になったんだろう。


「他の皆は?」


「誰かさんが居なくなって少ししたら、新道君と安賀多さん達以外は寝たわよ。起きている四人は仲良く演奏しているわ」


「なるほどな」


目は合わさずに市羽に聞いてみれば、少し圧が乗った声で答えが返ってきた。

おー、怖い怖い。


「ごめんなさい、不甲斐ない先生でごめんなさぁいぃ」


「いや、あの、東郷先生、別に俺が勝手にしたことで東郷先生が謝る事なんてのは」


「頼りなくてごめなさいぃぃ」


安藤の声なんて聞こえちゃいなさそうだな。

先生って酔っ払うと泣き上戸なのか? というか、流石に生徒にこの姿を見られたと知ったら、東郷先生の性格上パニックになるどころじゃないだろ。

恥ずか死でもしそうなのが目に浮かぶ。


「どんだけ飲めばあんなになるんだ」


「メニアルの三分の一ぐらいかしら」


「は!? 血中成分八割ぐらいアルコール化しちまうぞ!」


それに、東郷先生は酒に強いタイプには思えない。そんな人がそんな状態であんなに動いちまったら――「オロロロロロ」「ちょ、東郷先生!! し、資料が!」


まぁ、そうなるよな。


予想通りの展開にどうするか悩んでいると、ちょっと……そこそこに酸味が混じったニオイが広がり始めた。


「ラフィ」


「ここに」


「東郷先生を頼めるか?」


「お任せください」


名前を呼べばどこからともなくラフィが現れ、俺の言葉に応える様にどこからか毛布を取り出して東郷先生をくるんでいく。


「お掃除の方は」


「俺がするから構わん」


「我が王のお手を煩わせるのは心苦しいですが……わかりました」


謝罪の言葉を並べながらも「う~~ん」と唸っている東郷先生を簀巻きにしたラフィは、深々と俺に頭を下げてから東郷先生を担ぎ、扉を使い移動した。

俺は俺で指を鳴らし、酸味のニオイを漂わせる原因を消してから、改めて残っている料理を口へ運んでいく。


「よく食えるな」


「まだニオイは残ってるが、特に支障はない。それよりも……風呂、入ってきたらどうだ?」


「…………そうするわ」


服に染み込み始めた吐瀉物を溢さない様に気をつけながら部屋から出ていく安藤を見送り、安藤が読んでいた資料は適当に丸めて暖炉に焼べる。

後で新しく資料は用意しておかないとな。


「それで? なんで東郷先生を連れてきたんだ?」


「東郷先生が安藤君に会いたがっていたからよ」


「連れてくるのなら、へべれけになる前に連れてこれただろう。わざわざ泥酔させてから連れてきた理由を聞いているんだが」


「構ってちゃんは嫌いかしら?」


「市羽の口からそんな事を問われると笑いそうになる」


「笑ってくれていいわよ? 見てみたいわ、夜継君の屈託のない笑顔」


市羽の言葉には、返事をせずに肩をすくめるだけに留め、適当にカップを使って紅茶を用意していく。

その様子をじーっと市羽は見ているが……もぞがゆいな。吐くほど甘い紅茶にしようとしたら止めてくるんだろうか。


「夜継君の淹れた紅茶なら、どれだけ甘くても構わないわよ」


「口に出してたか?」


「そんなに砂糖瓶を見つめていたら、予想ぐらいできるわ」


「その程度の要素で思考をドンピシャに当てられちゃ、たまったもんじゃないな」


そんな会話をしつつストレートのままの紅茶を差し出せば、市羽は一言お礼を告げてから口をつける。

味の保証はないが、まぁ、飲める程度の味にはなっているようだ。


「そういや、その名前呼びはどう受け止めるべきだ?」


「嫌かしら?」


「別に嫌って事はない。ただ、あまり呼ばれ慣れないから違和感がな」


「ふふっ」


そこから市羽は特に会話をしようともせず、ただ静かな時間が流れていく。

二十分程すれば、水気を残した安藤が戻ってきた。


「わりぃ、待たせた」


「クククッ、気にするな。あのままだと、安藤もキツかっただろう」


「笑うなよ。本当にキツかったんだぞ」


必死に笑いを堪えつつ冷水を用意してやれば、安藤は不満げな表情を浮かべながらもそれを手に取り一気に飲み干していく。


「……なるほど。牙は折れていないようね」


「ん?」


「いいえ、なんでもないわ。私は行くわね、改めてこれからもよろしく――レイヴン」


転移魔法でも使ったのだろうか。その言葉を残して、市羽の姿は淡い光に飲まれて消えた。

市羽、今'レイヴン'と言ったか? おかしいな、まだ安藤にしか言ってないはずなんだけど……あぁ、入ってきた瞬間に資料を見たのか。


「なぁ常峰……市羽の奴、俺の事を今レイヴンって呼んだか?」


「机の上に資料は置きっぱなしだったからな」


「マジかよ」


「気をつけろよ? 市羽がモクナさんと仲良くなった日にゃ、お前の行動は筒抜けになりかねん」


「一番気をつけなきゃならんのは常峰だろ」


「何かあった時の証人だな」


「何かあった時、一番最初に手を下すのは市羽な気がするんだが」


「……眠てぇな」


現実逃避。

別に市羽は何かしてくる事はないだろうが、何かあった時に自ら巻き込まれに来るかも……なんて考えると、無茶もしづらくなりそうだ。


「こりゃ常峰は尻に敷かれるな」


「まだ決まったわけじゃないだろ」


「もしもの話だから気にするな。もしも、だからな」


「既に敷かれてる奴の言葉には重みがあるなぁ」


俺の言葉の後に数秒の間が空き、どちらからとも無く笑いが漏れてくる。


こういう時間を作れるのは、次は何時頃になるだろうか。

今から寝て、次に起きた時は、また王として動かなきゃならん……初めてかもしれんな、寝たくないなんて思ったのは。


「常峰、逃げたいのか」


「そう見えるか?」


「……いや、寂しいだけか」


「それはあるかもな」


安藤への返答は驚くほどすんなりと出てきた。

その事に俺自身驚いている。


どこか物寂しさは実感していたが、どうやら俺が思ってた以上にクラスメイト達との別れは寂しいと感じていたようだ。

癖が強い奴等ばかりで、別に安藤の様に関わりが深かったわけでもない。それでも俺にとっては楽しくて居心地が良かったのだろう。

こっちの世界に来てソレを実感させられていた。


本当は、決断の時が一番来てほしくなかったのは、俺だったのかもしれんな。

しかしまぁ自覚するのが決断後でよかった。

準備も進めていたし、覚悟も出来ていた。それで大丈夫だと思っていたが……あぁ、全てが終わる前に自覚出来てよかった。


「一人にゃさせねぇからよ。お前もいつもどおり、これまで通り好き勝手しろよ常峰」


「どの口で言ってんだか……お前はお前の居場所が出来ただろ」


それに、逆に言えばそれだけだ。

自覚しただけで、だからと言って何か変わるわけでもない。今回自覚出来てよかったのは、俺の安息な睡眠の質があがった事。

その瞬間が来た時、一体何が俺の睡眠を妨げるのか事前に答えを得られた事。


分かるか安藤、そもそも俺は一人だなんて思っていない。

守るモノも増えちまったし、守ってくれる奴等も増えちまった。何より帰れる場所を俺が作り維持しているのは、ちょっとした優越感すらあるんだぜ?


帰ってきた者達が騒いで笑って疲れて寝る。それを横目に、BGMに俺は寝る。そして静寂の中で二度寝する。

あぁ、そんな睡眠はきっと、いつもと違った心地よさが俺を包む。

どうしようも無いほどに、これまでも、これからも俺は、最高の眠れる時間さえあればいい。


「明日から忙しくなる。そろそろ寝ておけ」


「なんだ、やっと眠くなったのか」


「馬鹿言え、俺は常に眠くてしかたねぇよ」


空になった皿とコップを食堂へ送り飛ばし俺も立ち上がると、座りっぱなしだったせいか、はたまた眠いからか、身体が変な音を立てる。

同時に睡魔が限界を告げてきた。


「ふぁぁ~……明日、朝には新しい資料を持ってこさせる」


「分かった。おやすみ」


「あぁ。おやすみ」


部屋の扉をそのまま大広間へと繋いで開けば、どうやら安賀多達も寝てしまった様で、シーキーが片付けをしていた。


「そのままにしておいても良かったのに……いや、ありがとう。助かる」


「もったいないお言葉。我が主もおやすみになられますか?」


「紛失した資料の作成を終えてからな」


「ラフィから連絡は受けております。吐瀉物により汚れてしまった資料は、ルアールとレーヴィが改めて作っているはずですので、我が主は最後のご確認のみでよろしいかと」


ルアールとレーヴィは今回の資料を作る時に手伝ってもらっているし、戻った時には終わっていそうだな。

そうとなれば、資料の方はもう少しルアール達に任せてしまおう。


「手伝う。と言っても、食堂への飛ばすだけだから……逆に迷惑か?」


「まさかご迷惑などと。我が主がお手伝いしてくださるなんて、少しばかり時間を掛けたくなってしまいます」


そう言ってシーキーは頭を差し出してきた。

言葉といい、素振りといい、だんだん甘え方が積極的になってきている気がするシーキーの頭を軽くひと撫でしてから、二人で食器を片付けていく。


まぁ、ほぼほぼシーキーが手早く片付けたのだが、少しサボれた。ついでに言えば限界だった眠気が更に誘惑を強めて俺を夢の国へと誘ってくる。

これ以上は最終確認する気力すら無くなるな。


「じゃあシーキー、悪いが後は任せる」


「お任せください。我が主よ、どうぞごゆっくりとおやすみくださいませ」


「あぁ、おやすみ」


深く頭を下げたシーキーの肩を軽くたたき、そのまま喚び出した扉を抜け寝室へと移動した。



--

-



翌朝、常峰が告げた通りに安藤の元へ作り直された作戦資料が届く。

届くには届いたのだが……安藤、そして共に居たモクナは、その資料を届けてきた者に目を丸くした。


「そこまで驚かれるとは思ってなかったな。そんなに俺が来たのが意外か?」


苦笑いを浮かべながら、ピラピラと資料で仰ぎ風を起こす男――ジグリ・バニアンツ。


「……早く中に入って。さむい」


「あ、あぁ、悪い」


ドンッ!と後ろから押されたジグリは、すぐに体勢を立て直し後から入ってきた少女に頭を下げる。

道が空いたことで少女は室内の三人に目もくれず、トコトコと暖炉の前を陣取った。


「あんたは確か……」


その姿に見覚えのある安藤が名前を必死に思い出そうとしていると、先に暖炉前でほくほく顔になった少女が口を開く。


「ジーズィ。我が主からの頼みにより、貴方達を鍛える。だから幾度となく貴方達を殺す――まず一回」


声が聞こえた瞬間、三人の喉元には皮一枚の所で羽根が静止している。


「……できるだけ死なないように頑張って」


ふわふわと羽根はジズの元へ戻るが、次の瞬間には安藤以外の二人が壁に叩きつけられていた。

今月はやたらとバタつかされますね。

更新遅れてしまいすみません。



ブクマ・評価・感想ありがとうございます!

よかったら、これからもよろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です!(((o(*゜∀゜*)o)))
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ