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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる

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三日目

「んぁ……寝落ちしてしまったか……」


座っている状態で目が覚め、軋む身体をほぐしながら室内を確認すれば、肩には軽めの掛け布団が被せられ、机の上は俺の涎を吸収していた紙を除けば最後の記憶と比べると随分整理されている。


セバリアス達には頼み事を優先させているし……新道か。

流石だな。俺が分かりやすい様に整理してある。


「さて、新道には後で礼を言うとして」


独り言を漏らしながら新しい報告書を確認していくと、神の城の近況報告で目が留まった。


ダンジョン皆にも交代で監視を頼んでいた。そしてレゴリア王達も当然警戒を怠らず、そちらかの報告も俺の元へと集まる。

三大国の監視に加えて、ダンジョン勢の監視からも同じ報告。


―神の城にて破壊された主砲の修復を確認―


各国の報告に些細な違いはあれど、要約すれはそういう事が書かれていた。

ダンジョンの機能を使い、俺も映像を映し出し確認してみる事に……あぁ、実に報告通り。破壊された三門の主砲が完全に復元されている。それどころか、三門とも横並びで砲口はこちらに向いている。


「神の城の機能は使えない。となれば自前で修理をしたか……アーコミアが所持するダンジョンの機能で作り出したか」


攻めるにしろ守るにしろ、どうであれアーコミアも準備を始めているのは確か。つまりは、アーコミアは俺等と一戦交える気があると……。


「アーコミアが予定している転移方法はまだ完璧ではない。未完成なのか、転移する時に時間を有するのか」


まぁ、どっちでもいいか。アーコミアが描くシナリオには、俺等と戦う事が組み込まれているのは確かだ。

こちらの動きどれだけ把握されているかは不明だが、現状のペースで焦る必要はまだ無い。むしろ後手に回る事を前提として、アーコミアの動きが変わった時に即座に対処できるようにしておくか。


元の世界に戻る為の魔法陣を安定させられるかどうか。仮に間に合わなかった場合、アーコミアの用意しているソレを奪う事も視野に。

爺達が用意した帰還方法と、アーコミアが用意している転移方法。どちらも利用するつもりで、どちらも保険とするぐらいでいいだろう。


俺等は元々時間が足りてない。

爺達やアーコミアが費やした時間を最大限に利用するぐらいじゃないと、到底間に合わん。


後はレストゥフル国の方針だが……流石に急ぎすぎたな。

ログストア国以上に建国後から全てが浅すぎる。今でこそ共通の敵が居るからいいものの、それが無くなったとしたら……はぁ、完全な中立を維持できればいいんだけどな。


あぁ、そういえば、魔王を殺した勇者は、勇者としての役目を終えればただの脅威――昔、安藤としたゲームでそんな展開があったな。


「……最悪の場合は、レストゥフルを潰すか」


元より俺に王は荷が重い。よくよく考えれば、判子を押すだけの作業も俺の手首への負担を考慮すると回避したい。

やべぇ、最悪の場合が最善の手段に思えてきたぞ。


ついつい口に出してしまった言葉に理由付けをして、それを優先しようか?とか考えていると、部屋の扉がノックされた。


「はい」


「ふふふ。キングさん、入っていいかしら?」


「皆傘か。開いてるから勝手に入っていいぞ」


扉の向こうに居る皆傘に答えれば、秋末が扉を開けて皆傘を筆頭に園芸師の恩恵を受けている十島達も入ってくる。


「朝早くからどうした?」


「ふふふ、お昼前ですけどね。今日は三日目ですからねぇ。忘れてしまう前に、どうするかをお伝えしておこうかなぁと」


皆傘の言葉を聞き、今まで確認してなかった時計に目をやる。

なるほど十一時……朝だな。朝。まだ昼じゃない。


咳払いを一つ。少し引き攣りかけた事を誤魔化して本題へ。


「昨日の内から何人かは伝えに来ている。悪いが変更は認めないけど、それでもいいんだな?」


「構わない。お嬢様と俺の意思に変更はなく、こちらの世界に残らせてもらう」


念の為に確認を取れば、一度頷いた十島が一歩近づき皆傘の分と自分の分の意思を伝えてきた。視線をズラして皆傘を見ると、頷いている。

十島の言葉に同意という意味だろう。


整理された書類の中から残留組と帰還組で分けている名簿を引っ張り出し、皆傘と十島の名前を残留組に書き加える。

さて、次は……。


視線を皆傘の後ろで控えている湯方達へと向ければ、察したようでそれぞれが意思を告げてくる。


「俺は残る」


「俺は帰るよ」


「篠崎は残留組、秋末は帰還組な。湯方は?」


「あー……俺は……帰るよ」


「……分かった。湯方は帰還組だな」


湯方の反応を見て一瞬問い直そうかと思ったが、俺は言葉を飲み込み、湯方の名前を帰還組に書き加えていく。


ここで俺が問い直すわけにはいかない。

悩んで決めたであろう答えに、俺の言葉は邪魔だ。これは湯方に限った話ではない……時間の限り相談に付き合うなんて事はできないし、更には急かしている俺が、これ以上踏み入って覚悟を乱すのは失礼だ。


「五人の意思は分かった。決断してくれてありがとう」


「うふふ、では私達はこれで失礼しますね」


「あぁ」


部屋から出ていく皆傘達を見送り、手元の紙に視線を落とす。

今の段階で残留組は市羽と彩、岸に佐藤、そして皆傘と十島に篠崎。後は安藤か。

帰還組は新道と東郷先生、長野と藤井、武宮、江口、そして秋末と湯方。


さて、予想にはなるが、最近の様子と心境変化がなければ橋倉は残留組かな。

ハッキリと言いはしなかったが、彩の様子から察するに城ヶ崎は帰還組の可能性が高い。


「ん?」


まだ報告に来ていないクラスメイト達の事を考えながらレストゥフル国内の映像を切り替えつつ様子を見ていると、何やら下町の広場で子供達が集まっている様子が映し出された。

パッと見た感じでは国籍問わず集まっているようで、少し離れた所には保護者と思われる大人達も集まっている。


「ほぉ……知らない一面だな」


トラブルという訳ではなさそうだが、少し気になり映像を切り替えるれば、その中央には見知った三人組の姿が。

音まで拾っているわけではないので詳しくは分からない。それでも安賀多達と子供達が演奏をしている事は分かった。


しかし、安賀多達が配ってるアレはなんだっけか……小さい木製のリコーダーみたいなやつ。んーー、ダメだ。名前が思い出せん。


まぁなんであれ、安賀多達も子供達も見守っている大人達も笑顔だ。


「楽しそうで何より」


状況が状況だけに皆に不安は付き纏っているはずだ。

それでも子供達が笑えている……安賀多達に感謝しなければな。


山盛りの報告書を漁り読んで見れば、安賀多達はああして下に降りて路上ライブの様な事を繰り返しているらしい。

そして楽器を貸し出し、子供達とああしてセッションしていると……。


「滞在組であれば更に嬉しい所だが、未報告のクラスメイト達の事を考えるのなら、安賀多達に限らず帰還組として予定は組んでおいたほうがいいか」


まぁ、全員が残るなんて結果になったら本末転倒だ。帰還組が多いのなら、それだけ俺は喜ぶべきなんだけどな。

矛盾だ。自分でも笑っちまう。


誰にも聞かれる事のない大きなため息を漏らしつつ、書類の処理を進めていく。


「やぁ、常峰君。僕にも手伝ってほしいかな?」


「残りの二人も手伝ってくれたら両手を上げて俺は寝るよ。コア君」


「ニ号は医療面でセカセカ動いてるし、三号は既に連合軍を絞ってるから残念だったね! 常峰君を手伝えるのは僕だけだ!」


「あぁ、コア君が楽しそうで俺も嬉しいよ」


ケラケラと笑いながら自分の分の椅子を用意するコア君を横目に、クラスメイトの名前を書き込んでいた紙を唯一散らかっていない枕の上へと投げる。


「おや? それはもういいのかい?」


「コア君が手伝ってくれるならクラスメイト達の事は後回しだ。というよりは、皆の決定が分かってからでいいさ」


「……そうかい。常峰君がそれでいいなら僕は何も言わないさ」


何を思ったのかは分からないが、先程までとは違いコア君の表情は優しくなった様に思える。

せっかく何かを察してくれているんだし、わざわざ掘り返さずに話を進めるか。


「コア君、もしコア君が魔王オズミアルと戦うならどうする」


「なるほど、そっちの方向で話を進めるんだね。そうだねぇ……ガゴウという鬼の魔族が提供してきた情報と僕の断片的な記憶とでは、氷帝ちゃんに甘えていたオズ君とはかけ離れてるんだよねぇ」


「ルアールもそんな事を言っていたな」


「そりゃそうさ。オズミアルは'フライトタートル'っていう魔物に氷帝ちゃんが名前をつけただけで、魔王なんて肩書を持つ様な魔物じゃないからね」


「フライトタートル? ちょっとまってくれ、オズミアルは飛ぶのか?」


「まぁ、飛ぶだけだけだよ。本来ならね……」


そこからコア君は'フライトタートル'と呼ばれる魔物について簡単に説明をしてくれた。


フライトタートルは非常に弱い魔物らしい。

弱点は腹。魔物しての特徴は飛ぶ事。甲羅の耐久はそこそこ。しかし、それでも多少高火力であれば甲羅を破壊する事もできる。

気性が荒くなり向こうから攻撃してくる事もあるそうだが、基本的には無害な亀。

生息地も海が主で、この世界の者達にとっては大量繁殖したとて大きな影響がある魔物ではない。


ここまではセバリアス達からも聞いていた事だ。だがオズミアルは当然例外。

何の縁か'氷帝'が拾い、家族のように溺愛されていたオズミアル。

そして、オズミアルを魔王足らしめているのが、その氷帝が与えた知識と加護だろうとコア君は言った。


「氷帝というスキルもさることながら、彼女は魔法にも精通していてね。その知識と技術を子供に教える様にオズミアルに教えていたんだよ。

そして、彼女が最後に暴走した理由。スキルの扱いにも長けていた彼女が何故?とは当時思っていたけど、ガゴウの話を聞いて大体分かったよ」


そう言ってコア君は、ダンジョンの機能で一つの映像を用意する。

映っているのはリュシオンの方角の風景。その風景の真ん中辺り、かなり遠くにある山をコア君は指差し、話を続けた。


「この山はオズミアルの背に聳える氷山なんだけどね……これ多分、氷帝がオズミアルを守る為に遺したスキルだよ」


「……は?」


「氷帝が二度目の暴走した時、オズミアルはまだ小さかった。そしてこんな氷山を背負ってもいなかった。

だけどこうしてオズミアルの気配を肌で感じて分かったよ……アレは'氷帝'というスキルの破片だね。何を思ったかは知らないけど、氷帝はスキルそのものになってオズミアルのスキルになったみたいだ」


発想がぶっ飛びすぎて困惑するんだが……え?

自分がスキルそのものになって他人のスキルになるなんて、可能なのか? いや、可能だからオズミアルが居るのか?

しかし氷帝はセバリアス達が殺したと言っていたはずだ。


俺が必死に情報を整理していると、それを察したコア君は説明を続けてくれた。


「セバ君達が氷帝を殺したのは間違いないよ。任意の暴走――暴走と言っていいのか分からなくなってきているけど、オズミアルのスキルになろうとしたのはいいものの、おそらく当時のオズミアルでは全てを受け入れる事は出来なかったんだと思う。

だから一端を分け与えるだけに留め、事後処理をするためにセバ君達を利用したんだろうね。この方法だと、氷帝が生き残った時点で、オズミアルにこんな風なスキル継承は行われない。それこそ変にスキルが暴走してオズミアルを殺しかねない」


「スキルを制御するために自分がスキルに成る必要があって、そのために自分は死ななければならなかったと?」


「詳しい事は分からないよ。少なくとも僕はそんな事をしようなんて微塵も思わないからね。ただ、先天性のスキルを継承する方法としては、考えられる方法ではあるかな」


コア君の見解では不可能ではないという事か……まぁいい、それが事実であり、当時氷帝が何を思ってそうしたのか、それを知った所で現状は変わらない。


「話を戻そうコア君。今のオズミアルは俺の敵である事には変わりなく、俺がコア君に聞きたいのは今のオズミアルと戦う場合どうするかだ」


「ふふっ、常峰君は冷たいねぇ」


「今のオズミアルは敵だ。今の話で色々と考える所はあるが、過去があるのはオズミアルに限った話ではない。敵である以上、それで俺が手を緩める事はしない。

それともコア君はオズミアルを助けてほしいのか?」


最初にオズミアルがリュシオンを襲った時、報告から分かるのはフラウエースを利用してオズミアルを釣ったという事。

現在はガゴウとの戦闘でオズミアルは動けないらしいが、それも数日という話しだ。そろそろ活動可能になっていてもおかしくはない……しかし、もし完全にアーコミアがオズミアルを操れる様になっていた場合、同時に対処をする必要も出てくる。


もしそこにコア君が助けて欲しいと願うのなら……俺はきっと必死に頭を回してしまうだろう。

最も、戦闘を回避できるのならそれに越した事はないけどな。


「いいや、僕としては是非殺してあげて欲しい。僕の知るオズミアルは優しい魔物だった……そろそろ彼を休ませてあげて欲しい」


目を閉じて小さく頷いたコア君の答えは、実にシンプルなものだった。


「だから僕がオズミアルと戦うとしたら、心臓を完全に破壊する方法を取るかな」


--

-


コア君なりのオズミアル攻略を聞き、それとガゴウからの話を元に対オズミアル戦をコア君と考えていると、既に三日目も夜に差し掛かっていた。

その間にもクラスメイト達が部屋を訪れて決定を報告しに来てくれた事もあり、組分けの方は終わっている。


残留組の追加は古河と橋倉だけ。

他の皆は帰還組。


「ありがとうコア君。ある程度オズミアル戦の流れはまとまった」


「アハハ! まぁ、不確定要素が多いからまだまだ足りないけどね」


「いや十分だ。これを元に色々と考えられる」


書き散らしながらまとめていったせいか、対オズミアルの作戦に関する紙は分厚くなってしまっている。

流石に後で、少しはまとめないとな。


「さて、そろそろ行ってくる」


まだまだやる事はあるのだが、俺は別の用事があるのでコア君の見送りを背に部屋を後にする。

向かう先は城の広間。


全員の決定を聞いた俺は、夜は皆で食事でもしようと思い、手の空いている者に声を掛けておいてもらう様に頼んだ。

扉を抜けて大広間に足を踏み入れれば、安藤を除く全員が揃っている。

一応安藤も誘いはしてみたのだが、どうやら参加は断ったらしい。


大広間に入った俺に視線が集まる中、俺は深呼吸を終えてから口を開く。


「集まってくれてありがとう。色々とあったし、まだ目の前の問題はあるが、こうして全員(・・)が生き残れた事を嬉しく思う。

だが、これからはこうして集まる事も出来なくなるだろう。次にこうして集まる時は決戦の時だ。だから今だけは、他愛もないただのクラスメイトとして楽しもう」


俺がテーブルに置いてあったグラスを手に取れば、皆も察したようにグラスを手に取っていく。

全員がグラスを手にした事を確認した俺は、大きく息を吸い、グラスを少しだけ掲げて言う。


「乾杯」

---

残留組

常峰、安藤、岸、佐藤、十島、篠崎

市羽、古河、橋倉、皆傘、漆


帰還組

新道、長野、江口、中満、畑、田中、佐々木、湯方、秋末

東郷先生

並木、安賀多、中野、九嶋、武宮、藤井、城ヶ崎、艮、鴻ノ森、柿島

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更新が遅れに遅れて申し訳ありません。

時間的問題といいますか、体力的問題といいますか……ちょっと要因が色々と重なってしまいました。

すみません。



ブクマ・ご感想ありがとうございます。

これからもよろしくしていただけると、嬉しいです。

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[気になる点] 氷帝...帝王...王より....つおい...? [一言] 更新お疲れ様です‼
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