突然に
導入部分ですね。
淡々と簡単に進んでいきます。
窓から入ってくる光が実に心地いい。
机に突っ伏した時に頬がヒヤリとして、少しだけ目が覚めてから、また心地いい眠気が俺を襲う。
朝のHRまでまだ十分ある。これは一眠りできるな。
「このタイミングで寝ると、間違いなくHRの時に先生に叩き起こされるな」
「なんとか阻止を頼みたい」
目を閉じて、ゆっくりと脱力していく中で声をかけられた。
声の主は、学校ではこのクラスになってから少し話す様になった友人の'安藤 駆'。
スポーツそこそこ、学もそこそこの安藤だ。
去年、クラスは違ったが少し関わる機会があって以降、友人の中で一番仲がいいと言って過言ではない。
「先生を阻止するより、俺としてはお前と話して寝かさない方が楽なんだけど」
「そこをなんとか…後生だ」
「いつもいつもよくまぁそんなに寝れるな」
「なんか知らんが、眠くない時が無いレベルで常に眠いんだ」
「もう病気の域だろそれ」
なんか知らんとは言ってみるものの、きっかけはハッキリと覚えている。
適当に前の席に座って俺に苦笑いを向ける安藤に返事を返しつつ、俺の意識はどんどん睡魔に誘われて眠りに落ちていこうとしている。
睡眠は、教室の騒がしい騒音も、慣れれば心地いい子守唄にすらできる俺の唯一の特技と言ってもいい。
「おーはよう!」
もう少しで…という所で、教室の扉が開いて軽い教室内に軽い挨拶が耳へ飛び込んできた。
顔を向けずとも誰かは分かる。
有名校とか進学校とか言う訳ではないが、まぁ学校には何かと頭の良い奴が居たりするもんだ。
俺の学校でそれに該当するのが今、入ってきた男。'新道 清次郎'
運動神経抜群で成績優秀。学年トップ争いには常に参加しているスーパーボーイの新道は、このクラスの委員長君でもあるわけで…。
いつもああして元気な挨拶から始まる俺からすれば眩しい男だ。
そしてもう一人、このクラスには新道の対になるスーパーガールがいる。
それは入り口近くに座っていたため、一番最初に新道へ返事した'市羽 燈花'
市羽は、クラスの副委員長さんで、新道の様に運動神経も良く成績も優秀。しまいにゃ、大層金持ちだという噂もちらほら。まぁ、なんか使ってる小物がブランドだったりするらしく、女子達がそんな噂をしている程度。
この二人に欠点を上げるとすれば、大体が同じ事を言うだろう。
新道は、一人で先走りすぎて周囲を置いてけぼりにしてしまう時がある。ちゃんと言えば対応はしてくれるし、皆もそれなりに理解はしているから文句も上がらない。
市羽は、協調性が皆無に近い。
新道が皆を引っ張ってくれるからか、誰かと何かを協力する事が殆ど無くて一人で全てを済ませてしまう。
まぁ…一人で済ませきってしまうから協力をしないだけなのかもしれないが…。
そんな感じでクラスは二人を軸に、イベントがある時は纏まっている。
個人同士でのなんかあってのギクシャク程度はあるが、笑えないレベルのイジメなんてものはなく…クラス内で気が合う連中同士が適当なグループで纏まってと、少し騒がしいクラスだ。
「なぁ…」
「寝かせてくれ」
目の前に座る安藤が俺に何かを言おうとするが…次の言葉はある程度予想できる。
大体次の言葉は…
「「彼女欲しくね?」」
ほらな。
「おぉ!ついにお前も」
「んなことより睡眠優先で…」
予想して安藤に合わせるように言ってみると、同じ事を思っている様に受け取った安藤が目を輝かせて言ってきた。
それに対して俺は、いつも通りの返答をする。
慣れたやり取りだ。
「お前…本当、何ていうか…将来が不安になるぞ…」
「それに関しては本当に同意できるわ」
安藤がしてくれる俺の将来の不安に同意をしていると、もう十分経ってしまったようだ…。
HRの開始を知らせるチャイムと同時に教室の扉が開き、我らがクラスの担任の'東郷 百菜'先生が入ってきた。
綺麗と言うよりは可愛らしい感じで、クラスからも愛されキャラの東郷先生は出席簿を教卓に置いて、クラス全員が席に座るのを待っている。
そして、全員が席に座ったことを確認すると、満足そうに頷いて口を開く。
「では、ホームルームを始めま…え」
東郷先生が全てを言い切る前に、教室は真っ白に染まった。
---
--
-
視界が一瞬で真っ白に染まるほどの何かがあったのに、不思議と目に痛みは無い。
突然の事で、寝ぼけかけた頭が混乱していると、ゆっくりと視界に白以外の色が戻ってくる。
「ここは…」
クラスの誰かが呟く。
周囲を見渡せば、黒い空間に座っていたはずの俺達は立ち並んでいる。
何が起こったのか…。
頭を悩ませていると、一人の生徒が'異世界転移'という単語を口にした。
俺も詳しい訳ではないが、ニ、三種類ぐらいはそれらしいのを読んだことがある。俺達の様なクラスごとだったり、はたまた不慮の事故だったりで別の世界に飛ばされる作品を。
「つまりなんだ?ここからの流れだと、神に謁見でもするのか?」
異世界転移を口にした生徒の隣に居た安藤が言うと、それに応えるかの様に暗かった空間の一部に光が集まって人の形を成していった。
「理解力があって助かります」
完全に人の形になっただけで、目や鼻は無いが声はしっかりと聞こえた。
中性的で男とも女ともとれる声は、俺達のざわつきを他所に言葉を続ける。
「既に数名が予想している通り、ある国が助けを求めて貴方達は異世界へと導かれました」
人の形の言葉を聞いて嬉しがる者も居れば、困惑する者もいる。
その中で、ぽけーっと状況に追いついていなかった東郷先生が人の形をしたソレに向け質問をした。
「えっと、とりあえずホームルーム中だったんですが…帰れますか?」
なんとも微妙な理由で俺も聞きたかった質問をしてくれた。
「申し訳ありません。召喚途中にこうして介入しただけなので、私が貴方達を元の世界に送り返す事はできません。
そして、今から行く先の世界でも送り返す術はまだ無いでしょう。
元の世界では、時間の前後はあれ、何かしらの理由で一人一人がある程度の違和感の無いように存在が操作されていると思います。
もし、先の世界から元の世界へ帰れる方法を見つけ、貴方達が帰るようであれば、その時は私が全力で元の環境を提供する事をお約束はします」
人の形をしたソレは、東郷先生の質問に答えるついでに、誰かがするであろう質問の答えも同時に返ってくる。
まぁ、誰もしなかったら俺が聞いたかもしれないから、先に聞けてよかったよ。
つまり、もう帰る事はできないし、既に元の世界では記憶操作っぽい認知できない超常現象が起こってしまっていると…。
それにあの言い方…声の主は、俺達が帰る選択をしないと確信しているようにも取れる。もしかして、元の世界で記憶操作をしたのも、この声の主ではないんだろうか。
色々と考えている内に、何やらポンポンと話は進んでいるようで。
「っていう事は、俺等はその特別なスキルが貰えるのか?」
「はい。ユニークスキルは、かなり特別なもので、先の世界では現在持っている者はいません。
それぞれが強力であり、歴史に名を刻めるでしょう。
ですが…もちろん、納得がいかなければ別の道を探すのもいいでしょう。
特別ではありますが、それに限定はされません。
ユニークスキルを腐らすも磨くも当人次第です」
新道は状況を受け入れて声を聞いていた。
何人かはまだ否定的な空気も見られるが、話の中で命の危険性を持ち出され、文句を口にはせずに新道と東郷先生と人の形のソレとの会話に耳を傾けている。
かく言う俺もその一人。
「スキルに関しての詳しい話は、先の世界の住人が教えてくれるでしょう。
そろそろ時間がありません。突然、巻き込んでしまった事はお詫びします。そのお詫びとしてのユニークスキルだと思っていただいて構いません。
では…またいつか」
その言葉を最後に、あまり気分の良くない浮遊感が襲い、次の瞬間には視界が暗闇から綺羅びやかな部屋へと移り変わっていた。
さて…勝手に話が進んでしまった訳だが…どうしたもんか。