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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる
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二日目後半、女子会

短めです

『だぁかぁらぁ! 真実なんかどうでもいい! 誰が着けていたら嬉しいか、誰の物だったらパッションが高まるかの問題なんだよ!!

聞けば分かって当たり前じゃボケェ!! 過程を楽しめよ!!』


『テメェ!! 開き直った上で人をボケ呼ばわりたぁ……いい度胸してんじゃねぇか!! 表出ろ!!』


『ここが表だ! やんぞコラァ!!』


『『最初はグー! じゃーんけんっ――』』


壁越しに聞こえる岸と佐々木の声。

そして数秒後に響く爆発音。


故意なのか、忙しく気が回らなかったのか――隣同士の大部屋を区切る壁は、防音機能があるわけでもなく、叫べば声は筒抜けである。


『『あいこでぇぇ!!』』


爆発音。

先程から言い合いに発展しそうになると、スキルありの'あっち向いてホイ'が行われているようで、女子会に参加している面々は慣れ始めていた。


『くそがぁぁ!!』


どうやら岸が負けたようである。

壁越しから聞こえてくる心底悔しそうな叫び声に、爆発音で驚く事の無くなった橋倉がオロオロとし始めてしまう。


「元気だねぇ~」


「岸君が触れれば一発で終わる話なのに、興味津々で会議なんか開く割に触らないとか、意外とピュアなんだね」


女子会の大部屋では、足の低いテーブルが幾つか壁に立て掛けてあり、女子の面々が敷いた布団で床が埋められている。

壁際に近い一角でオロオロとしている橋倉を挟んだ両サイドでは、今、男子が言い合っているパンツの真相を知っている並木と古河の二人がお菓子をつまみながら話していた。


その他には、皆傘と鴻ノ森が静かに紅茶を嗜み、安賀多と中野、九嶋の三人はシーキーに頼み用意してもらった木材で首から下げられる短い円筒の笛'コカリナ'を作っている。

橋倉達と反対側の壁際から生えた作業台でコカリナを作っているそんな三人の隣では、武宮が安賀多に説明を受けつつコカリナ作りに初挑戦中。


漆と市羽は欠席らしく、数える気にもなれない何度目かの爆発音が聞こえた頃に、お風呂に行っていた柿島、藤井、艮、城ヶ崎、そして東郷先生の五人が大部屋に入っていくる。


「遅くなり『流行りで嫁をとっかえひっかえしてるやつに、ハーレム主人公貶す資格あると思うのか! なんちゃってハーレムはセーフだとでも思ってんのか! おぉん??』……んふふ」


自分の声を遮って聞こえてきた岸の魂の叫びに、東郷先生はどういう反応をしていいか分からず苦笑いを浮かべ、一人隣の部屋へと向かった。

残された四人は、チラッと横目で東郷先生が隣の部屋に入った事を確認すると、特に触れる事はせずに大部屋へと入っていく。


「隣、すごい賑やかというか……喧しいけど、どうしたの?」


「あぁ、実はね――」


もそもそと空いている布団に足を突っ込みながら問う城ヶ崎に、近くに居た並木が状況の説明をする。

話が進むにつれて、城ヶ崎以外にも理由が気になっていた三人の表情がなんとも言えないモノへと変わっていく。


「つまり、マープルを下着だと思いこんで騒いでいると?」


「艮さん顔、女の子がしちゃいけない顔してるよぉ」


「いえ、だって……」


聞き間違いではない確認をする艮の表情は、なんとも表現し辛いモノで、古河に指摘されてもなかなか元には戻らない。

言葉にこそしないが、柿島や藤井も同じ様な気持ちのようで、何かを言う前に布団の中へと身を滑り込ませ始める。


そんなこんなと大部屋では個々が好き好きにしていると、東郷先生が戻ってきた。

それに気付いた者は、耳をすます必要も無く聞こえていた隣の様子が一切聞こえてこない事にも気がつく。


「戻りました。あれ? マープルちゃんだったんですか」


戻ってきた東郷先生の手には、黒い魅惑的な下着が握られていたのだが、その下着はもにゅっ……と動いたと思うと黒猫へと姿を変えて大部屋をキョロキョロとする。

そして、'なー'っと一鳴きすると皆傘の膝の上にスッポリと収まった。


「あらあらぁ」


「可愛いですね」


元の世界の紅茶とこちら側の紅茶の違いで盛り上がっていた皆傘と鴻ノ森の二人は、膝に収まって寝始めたマープルを愛でる。


「そう言えば先生、男子が静かになったけど何を言ってきたの?」


「大したことは言ってないですよ? 部屋に入ったら皆静かにしてくれたので、下着を没収――マープルちゃんを引き取ってから静かにとお願いしただけです」


「あー……流石に先生の前で騒ぎ続けるのは無理だったかぁ」


東郷先生の言葉に並木が納得したように頷いていると、コカリナ制作に勤しんでいた武宮が休憩を取るついでに東郷先生達の元へと近付いて腰を下ろした。


「先生、正輝悪ノリしてた?」


「江口君ですか? 楽しそうではありましたよ?」


「悪ノリしてるんだね~。まったくも~」


口ではそう言うものの、武宮の口元はニヨニヨと緩んでいる。

勉強に熱心であり、勉学では市羽と新道に続く江口ではあるが、お祭り騒ぎを好みムッツリは面もある事を武宮は知っている。

あの騒がしい中でこっそり楽しんで居た事も、もちろん武宮は分かっていた。


その後も東郷先生達は話を続け、柿島はその会話を聞きつつ艮と共に柔軟ストレッチを行い、皆傘と鴻ノ森は雑談に花を咲かせる。

安賀多達は魔法を上手く使い黙々とコカリナを作り、静かになってほっとしたのか、橋倉は古河にもたれ掛かる形で寝息を立て始める。


男子会より幾分も、比べる必要も無いほど静かな女子会。しかし、女が三人集まれば(かしま)しいとも言う訳で……。

夜も更け始め、時間が過ぎていくうちに、個々で話していた面々も加わって武宮から一つの話題が提供される。


「恋バナしよ」


そっと静かな核弾頭。


「なんか、市羽さんの様子見る限り、あれって王様に気があるよね?」


着火するのも忘れない。

自身の事に興味がなくとも他人のことには少なからず興味はある。

恋に恋する者もおり、最初に立った白羽の矢が滅多に隙を見せない市羽の事となれば、安賀多の作業ペースも少し落ちて聞き耳が大きくなっていく。


「あー、なんかそんな雰囲気というか、物腰は柔らかくなってきた気はするよねぇ~」


武宮の言葉に古河が同意をする中、市羽から直接それっぽい事を聞いた城ヶ崎は自分に振られない様に気配を消し、昨夜色々と進展があった藤井も寝たフリを決め込みつつも、やはりしっかりと耳は立てていく。


「艮さんはどう思う?」


「え? 私ですか?」


柔軟ストレッチを終えて水分補給をしていた艮は、聞き耳を立てていたとは言え、いきなり話を振られて目を丸くしてしまう。

どう思う?と問われても……と口にしつつ、一応自分なりの考えを答えていく。


「私、案外王様さんの事は苦手でして……市羽さんや新道君に意見を言えるのも凄いですよね。今はあまり気になりませんけど、元の世界に居た時は絶対にできなかったと思います。

そう考えると、市羽さんが王様に恋心を抱くのも、関わり的に別に不思議では無いんじゃないかな……柿島さんはどう思います?」


「あ、こっちに振るんですね。私は恋愛ごとに無頓着というか、あまり考えた事ないのでなんとも……。

あぁでも、王様のお手伝いでリーファ王女やヒューシさんと関わる事が多くて、リーファ王女には新道君の事で相談されましたし、ヒューシさんには求婚された事を考えると、やっぱり局所的でも一緒の時間が多くなるとそういうのもあるのかなぁと思いますよ? こういうのは、人生経験豊富な東郷先生に聞くのが参考になりそうです」


サラッと求婚された事を漏らした柿島は東郷先生へと視線を流す。

あまりに自然に出された求婚発言は、コカリナ作りを休憩して話を聞いていた九嶋が吹き出すだけで一旦終わり、柿島から話をパスされた東郷先生はアハハ……と苦笑いを浮かべる。


「えっとですね、その、中学生の頃に一度だけ彼氏がいただけでですね? それからは勉強勉強で……」


「「oh...」」


どんどん影が差す東郷先生の境遇を察し、九嶋と武宮の声がシンクロして漏れていく。

そして流石に語らせるのは心苦しいと思った並木が、軽く咳払いで流れの骨を折り、常峰を話題に上げていく。


「でもさ、一応私達ってこっちじゃ特別扱いで、それをまとめてるのも周知の事実になってるだろうし、あの若さで建国して、個・国共に武力もある。何より三大国のトップが認めていて、人脈だけ見ても特殊で凄い人脈を持ってる……一見すると、かなりの良物件だよね」


言われてみれば。と並木の言葉をきっかけに個々が思う良物件の要素を上げ、話は盛り上がっていく。

途中で寝始める者も現れるが、それでも女子会は女子会で会話は絶えずに夜が更けていく。


--

-


「やたら大部屋が修復されるから何事かと思えば、防音忘れてたのか」


書面で上がってきた連合軍の編成案をベースに、レストゥフル国の戦力振り分けを考えていた俺は、頻繁に修復をする大部屋が気になり確認をした。

すると、何やらマープルを巡って岸達が文字通り全力で'あっち向いてホイ'をしていたようで、その余波でダンジョン機能の自動修復が行われていたみたいだ。


暴れられて壊れる事はないだろうが、流石に音漏れが酷いと他に迷惑だろう。


そう思い、ダンジョンの機能ですっかり意気消沈している男子の大部屋を防音化していく。後の細かい所はコア君任せだ。


「大部屋で何かあったのかい?」


「いや、修学旅行気分で単に騒ぎすぎてたみたいだ。東郷先生が止めてくれたよ」


「ははは、このまとめを見ても思ったけど、その様子だとちゃんと福神さんは約束を果たしてくれているみたいだね」


俺の向かいでは、新道が書類整理の手伝いをしてくれている。

その新道が言うように、現在の神様である福神さんは、俺との約束を一つ守ってくれたらしい。


「向こうの頼み事を聞く条件だったからな。守ってくれなきゃ困る。代わりに新道に迷惑を掛ける形になってしまったけどな」


「別に構わないよ。片手間になるだろうけど、それでもいいんだろう?」


「あぁ。何もしないよりは新道が動いてくれるだけで幾分もマシになる」


「常峰の期待は怖いね。それにしても、長野が帰る事を選ぶのは予想外だったなぁ」


新道が手に取った紙には、既に帰還か残留かを決め、決定を報告してきたクラスメイト達の振り分けをしている。

昼前に藤井と長野が帰還を決めたと報告しに来たばかりで、新道はさっきそれを知って驚いていた。


「これも抑制が無くなった結果かな?」


「別にそういう訳ではないだろう。自分がそうじゃないからと言って、別に理由を用意してやるな。岸達も納得している事だ」


「そうだね。少し罪悪感が出てきてしまってね」


だが、もしかしたら少しそれも要因としてあるのかもしれない。

新道の口にした'抑制'。それは福神さんが俺達に施した'生殺への嫌悪、恐怖感の抑制'の事。市羽がこちらに来て最初に感じた違和感の正体はコレだった。


最初の方で市羽から違和感の事を聞いていた俺は、福神さんから頼み事をされた時に、それを受ける条件の一つとして'もし抑制をしているなら止めてくれ'と頼んだ。


最終決断をするにあたって、残りたいから残る、帰りたいから帰るで決めるのは当然だ。

そして、残りたくないから帰る、帰りたくないから残る。それで決める事も俺は否定する気はない。だが抑制したままだと、その決断が鈍るだろうと思って福神さんには頼んだ。


「しかし、まさか本当に抑制をされていたとは……可能性としては半々ぐらいで確信しきれていたわけではなかったんだけどな」


「でも確かに市羽の言う通り、こっちに来たばかりの時、皆が受け入れるまでの短さは気になる所ではあったよね」


「単に肝が据わってるだけだったりもするだろう。どうやら俺は、抑制を食らっていなかったみたいだしな」


「聞けば、そのスキルのせいで干渉できなかっただけだろう? それに常峰には必要無かったことも今が証明しているよ。

逆に抑制されていなくて良かったと俺は思うけどね。もしされていたら、常峰は無気力になりそうだ」


「……否定できねぇ」


そんな話をしつつ書類をまとめていると、またダンジョンの修復が始まった。

防音に加えて振動が漏れる事も無い様にしたから、あまり大きな問題にはならないと思うが……今度は何をしてるんだ。


『『叩いて被ってぇ~ じゃん けん ポン!』』

『おらぁ!』『はい、ガーーード!!』


大部屋の映像を映すと、秋末と湯方がじゃんけんで攻守を決めており、その周囲では他の観戦組が野次を飛ばしていた。


「こいつら酔ってんのか?」


「ルアールさん伝いだけど、畑がチョコレートボンボンみたいなお菓子を考案してたみたいだよ」


「……誰が誤食したんだよ」


「さっき岸が食堂に居たけど、多分岸かなぁ」


なるほど。酔っ払っててこのテンション。

まぁ……クラスメイト同士でバカできるのも最後だろうし、これぐらいはいいだろう。


「新道も俺の手伝いばっかりじゃなく参加してきていいぞ?」


「遠慮させてもらおうかな」


「遠慮しなくていいぞ」


「常峰も大概意地悪な面があるよね」


そんなつもりは無いんだけどな。

本心から溢れ出る優しさを新道は素直に受け取ってくれないらしい。


ちょっと新環境でバタついています。慣れるまでもう少し掛かりそうです。




ブクマ・感想ありがとうございます!

これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

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