会議中
『賛成ありがとうございます。では、現時刻より連合軍を結成。今後連合軍に関してはハルベリア王、レゴリア王、コニュア皇女の三名に最終決定権を所有してもらい、二名以上の賛成・許可があったモノを連合軍の総意として行動する。というものでよろしいですか?』
会議が開始してから一時間が過ぎた。ポツポツと意見が飛び交いながらも、映し出される会議は進行を見せていく。
その様子は、会議前に常峰に集められていたクラスメイト達も見ていた……当然、安藤の処刑瞬間も。だがその瞬間も、後になった今でもその事には誰も触れず、時折会話をしながら会議を見ていた。
「長引きそうね」
「大勢に見られながら会議をするなんて初めてだろうからね。それぞれ出方を伺っているんだと思うよ? まぁ、そのせいで会議は進んでも常峰の狙いは幾つか失敗しているようだけど」
『一つの大きな決定ができたので、これから十分ほどの休憩時間を設けた後に会議を再開したいと思います。席を離れる事は自由ですが十分後には戻られるように……では、失礼します』
新道と市羽が話していると、映し出される常峰からそんな言葉が聞こえてきた。
言い終えた常峰は軽く全員を見渡し、何か質問が無いことを確認すると、一足先に会議室から出ていったようだ。
残された者達も数秒してから動きを見せ、会議室から出ていく者、隣の者と先ほどの会議の内容を振り返る者、使用人に飲み物のおかわりを要求する者など様子は様々。
「再開後からが本番かしら」
「ある程度の雰囲気とやり方は分かったと思うからね。この休憩時間で色々と情報収集したり調整してくる……と、常峰も考えて休憩時間を設けたね」
新道の言葉に、そうね。とだけ答えた市羽は席から立ち上がり、そのまま城の大広間から出ていこうとする。
特に何も告げず出ていこうとする市羽にクラスメイト達の視線は当然集まる。
「もう見なくていいのかい?」
そう新道が問えば、扉に手をかけていた市羽は小さく振り返り映像に目を向けて答えた。
「三大国が主体の連合軍ができた時点で会議の目的の半分は済んだ様なモノ。これから始まるでしょうアピール合戦に興味はないわ。そこから有益なモノを拾うのは、今は彼しかできないもの」
「それもそうだね。これから市羽は?」
「彼がしたかった事のお手伝いよ。まずはそうね……死者に話を聞きに行く事にするわ」
「なるほど、俺もそうしようかな」
市羽の返答を聞いた新道は、カップに残っていた紅茶を飲み干すと、先に大広間を出た市羽の後を追う。
本人達だけしか分からないテンポで意味深な会話だけをして出ていった二人。そんな会話でも、薄々察していた者も居れば、何のことを言っているのか分からない者も居る。
「東郷先生、少しいいですか?」
「いいですよ。どうしました? 江口君」
新道と市羽に小さく手を振って見送っていた東郷先生は、自分を呼んだ江口の方へと顔を向けた。
その落ち着いている様子と、いつもと変わらない表情。江口にとってはそれが不思議に思えて仕方がなかった。
会議の流れは大方理解はできた江口。しかし問題はその前……安藤の処刑の瞬間だ。
江口の隣では、顔を青くして気分が悪そうな武宮が腕に抱きついている。他にも、今でこそ落ち着いてきているが、その瞬間だけは言葉はなくとも小さく悲鳴を漏らしたり、目をそらした者も居た。
その中で東郷先生は、首が刎ねられた瞬間こそ顔しかめたものの、その後で荒れた様子もなく落ち着いた様子で会議を視聴している。
同様に安藤の処刑に対して反応が薄かったのは、何か察している新道と市羽を除けば、並木と漆。
新道と市羽の会話で江口もなんとなくは察してきているが、その確認のために選んだが東郷先生だ。
「結構落ち着いている様に見えるですが、その、安藤の処刑に思う所はないんですか?」
江口からの問いに東郷先生は目をパチパチとして少し首をかしげる。そして言うことがまとまったのか、優しく笑みを浮かべて口を開いた。
「常峰君が手を下した事に心は傷んでいます。でも、何ででしょうか……あの場で首を斬られたのは安藤君には思えないんです。モクナさんの方は分からないんですけど、あれは安藤君ではないと確信気味に思っちゃってるんです。どうしてでしょうね?」
「事実安藤君じゃないし、あんまり気にしなくても良いと思うよ?」
「そうなんですか? 並木さん」
会議の様子には目もくれず、安藤の処刑が終わってからは、大広間内に待機している使用人に頼み常峰 光貴達が遺した資料に目を通して並木。
そんな並木は資料から目を離さず、こともなげに答えた。
「うん。だってあれ、モクナさんも安藤君もマープルみたいだったし」
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「市羽は二人がどこに居るのか分かっているのかい?」
「随分と深くに居るようで見つけるのに時間が掛かったわ」
「んー……じゃあそっちは任せようかな。俺は別の人に聞き込みにいってくるよ」
「アテがあるのかしら?」
「会議に出ていない人の中で、丁度情報をくれそうな人が居るからね」
「そう。なら私は先に行くわね」
市羽がそう告げると、足元に淡い光が生まれ、次の瞬間には市羽は極寒の中に立たされていた。
「正確に把握して計算するべきだったかしら? 感覚だけで転移すると、流石に座標はずれるようね」
転移魔法を扱える者が聞けば、驚愕するような事をサラッと漏らしながら市羽は吹雪の中を歩いていく。
その足取りは寒さを感じていない様に軽く、数分もすれば目的地の場所が見えてきた。
雪が積もる氷の外装の一軒家。
それでも中の様子は見えないが、市羽は確かに三つの気配を捉えている。
「……? お久しぶりです」
「お久しぶりね。フラセオさん」
その一軒家の玄関を叩こうと一歩踏み出せば先に扉が開き、そこの家主であるフラセオが顔を見せた。
「中に用事があるのだけれど、入っていいかしら?」
市羽が聞けば、フラセオは表情こそ変えないものの考える素振りを見せる。そこで察した市羽が続けて言う。
「眠王からの許可は貰っているわ」
「……どうぞ」
眠王という言葉に反応を見せ、許可があると告げればコクリ。と小さく頷いてフラセオは市羽を招き入れた。
そしてフラセオはそのまま先導して、個室の前で足を止める。
「ここに二人とも居ます」
「ありがとう」
礼の言葉をフラセオに言った後、市羽はノックと同時に自分の名前を告げる。すると、中から返答があり、扉を開ければ用事のある二人が座っていた。
安藤 駆とモクナ・レーニュの二人が。
その二人は、入ってきた市羽を一瞥すると、視線を映し出されている会議の映像へと戻す。
「自分が殺される瞬間を見た気分はどうかしら。参考までに聞かせてもらえる?」
「あれでバレないのか不安だ。バレれて困るのは常峰だろうに」
「回収したショトルの残骸――今はマープルだったわね。あの子が着ていた拘束具には、鑑定阻害が埋め込まれていたわ。スキルを使って視た所で、貴方達はちゃんとあの場で死んだと認識されているでしょうね」
「それでもだな」
「後は貴方達の行動次第でしょう? あの瞬間に歴史上で貴方達は死んだ。貴方達の外見なんて残っていたとしても文字、または誰かが描く絵だけでしか残っていないわ。その文字でも、きっと貴方達の印象は正方形にされた罪人よ?
それでもまだ不安なら首を差し出しなさい。私が歴史の後追いをさせてあげるわ」
冗談で言っているのか、はたまた本気なのか安藤には分からない。ただ空いている席に座った市羽から感じるのは、それをする事に一切の迷いはないという空気のみ。
「俺、そんなにお前に嫌われる様な事をしたか?」
「今'お前'と言われて重ねて不機嫌にはなったわね。ふふっ、でも心配はしないでちょうだい。ただ貴方に嫉妬をしているだけ。あんな茶番を彼にしてもらえるなんて……って」
「……深くは触れないでおく。多分俺の手に余るというのは察した。それで? わざわざ会いに来たという事は、何か俺に用事があったんだろ?」
濁りもなく、ただただ素直に嫉妬を口にし向けられた安藤は、眉間に寄ったシワをほぐしながら話を変えた。
すると、市羽の視線は安藤からモクナへと移る。
「貴方というよりは、貴女に用事よ」
「私……ですか?」
突然話を振られたモクナは少しだけ驚いた表情を見せ、市羽と目を合わせた。瞬間、その瞳に飲まれそうになる。
それほど関わりがあるわけではないのに、全てを見透かしているような瞳。逆にこちらからは何一つ読み取れるものがなく、ただただ深い黒の瞳。
「貴女の協力者は誰かしら」
「え?」
とぼけたわけではない。本当に問われている内容がモクナには分からない。
それは当然安藤も同じで、市羽の問いの答えが分からない。
二人の脳裏で出た答え……協力者ならば安藤だ。
安藤自信もモクナから詳細を聞き、まだお互いに知らない事は多いが、協力者が居るならば自分にも教えられているだろう。と考える。
しかしそんな事を市羽は聞いていない。安藤が協力者だということなど、市羽で無くとも知っているのだから、明らかに別の人物を名前を求められている。二人にはそれしか分からず、互いに目を合わせた所で答えは出てこない。
「聞き方が悪かったわね。ごめんなさい。貴女の計画実行の目安はどこで決めたのかしら? 迅速に外部に漏らさずログストア城を制圧したようだけれど……ゼス団長さんの日程も貴女は把握していたの?」
二人の様子から本人達の意思に関係なく協力されたものだと理解した市羽は、少し質問の内容を変えて問い直す。
「確かにゼス騎士団長の予定を調べ、その日に合わせはしましたが……実行日の決定は私から情報を得た魔王アーコミアが決めましたので、市羽様の仰る協力者に心当たりはありません」
「次の問いよ。当日の遠征隊の編成を把握しているかしら?」
「当日変更もあるので詳細までは分かりかねます。ゼス騎士団長以外では、ジグリ部隊長が同伴する予定ではありましたね。その他の編成は状況に合わせてお二人が決めますので」
「ジグリ・バニアンツだったかしら? 当日の負傷者名簿に彼の名前があったはずだけれど、その日遠征には行かなかったのかしら」
「そのようです。ハルベリア王の拘束にこちらの被害が広がったのはジグリ部隊長が居たからだと、ログストアを担当していた魔族が漏らしていましたので」
市羽は今の情報を元に思考を走らせていく。
浮かんでくる幾つもの可能性を、自分が持っている情報達を混ぜ合わせて消していき、数秒のうちに可能性を数種類に絞った。
「そう。有益な情報を感謝するわ」
もうここには用がないと判断した市羽は立ち上がり、ぽーっと映像を眺めていたフラセオにも一言礼を告げてから部屋を出ていこうとする。
「行くのか?」
「えぇ行くわ」
「そうか……常峰の事、頼むな」
「貴方達もお元気で。また会える日を楽しみにしているわ」
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「ここに居ましたかマーニャ副団長」
「ん? これは勇者新道? 私を探していたんですか?」
「えぇ、少しお聞きしたいことがありまして」
「はぁ……まぁ、立ち話もなんですしどうぞ」
新道はリーファ王女が滞在している宿へと足を運んでいた。そして予想した通り、宿の一階で食事をつまみながら会議の様子を見ているマーニャ・バニアンツを見つけることができた。
当のマーニャは新道が自分を訪ねてきた事に驚きを見せつつも、隣の椅子を引きつつ新道の分の飲み物を店員に頼む。
「ありがとうございます。お食事中にすみません」
「いえいえ。それにしても眠王は凄いですね、完全に話の流れを掌握してる」
「ここまではまだ想定内でしょうからね。ここからは、常峰でも頭をかなり回してになるので、難しいと思いますよ」
「私は脳まで筋肉な人間ですからその想定すら難しい。団長にもよく頭を使えと怒られてばっかりで」
えへへ。と照れくさそうに言うマーニャは、ハッとして新道に頭を下げた。
「すみません。何か私に聞きたい事があったんですよね?」
「あぁ気にしないでください。大した事じゃ無くて、騎士団の連絡方法をよかったら教えてほしいなと」
「連絡方法ですか?」
「はい。外部に漏らさずログストア城が制圧された事が気がかりなんです。本当に迅速に制圧され、こっちから確認するまで分からなかった……一つしか手段がないのなら、予備を考えておくべきかなと思いまして」
「あぁ、なるほど。遠方の連絡は念話を扱える者が担当してますよ? 近辺、城内外をつなぐのは伝令兵が走っていますね。今回は伝令兵から抑えられたのではないか? と予想はしてます」
新道はマーニャの話を聞きつつ、城の見取り図と城下街の地図を頭に浮かべながら相槌をうつ。
浮かべた城の見取り図には、当時の捕虜が集められていた場所や、自分が確認した騎士団の死体の位置などを記していき、マーニャに次の質問をする。
「抑えられたということは、伝令兵は一箇所で待機しているんですか?」
「流石にそれはしませんよ。日によって待機場所は変わりますねぇ……私はリーファ王女の護衛についてから最近の配置は知りませんけど、その日も前日とは変えていたと思いますよ」
「ローテーションがあったりしますか?」
「決まった配置はしない様にはしています。伝令兵もその場でずっと待機というわけでもなく、個人の判断で問題がない程度であれば移動しますからね」
記憶から当日の配置を粗方予想できた新道は、なるほど。と納得の言葉を漏らして出された飲み物で喉を潤す。
「近場でも念話が可能なら念話での連絡もいいかもしれませんね」
「傍受方法をギナビア国が持っているますし、念話も多人数や連続発動をすれば魔力を使いますから……以前提案はあったんですけどねぇ、難しいようですよ?」
「あぁ、確かに」
マーニャの言葉で念話の基準が常峰になっていた事を反省した新道は、その後も少し会話をして情報収集を行い、会議が再開し始めた辺りでマーニャと分かれて宿を後にした。
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「どうだったかしら?」
「まぁ収穫はあったかな」
特に決めていたわけではないが、どちらからとも無く合流した二人は、互いに得た情報を交換する。そして、次に会いに行く人物が決まる。
「ジグリ部隊長は」
「治療施設に居るはずよ」
おおよその場所にも目処をつけ、二人は治療施設へ向けて足をすすめる。
遅くなりすみません。
ちょっと立て込んでいて、書き始めるのが遅くなりました。
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どうぞこれからも、お付き合いいただければ嬉しく思います!!