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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる
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会議

中では各国のお偉いさんが待機している会議室の大扉の前で、服装に乱れが無いかの最終チェック。

後ろのチェックはセバリアスに任せていると、少し緊張している俺の様子を察してか言葉を掛けてくれる。


「先程のギナビア国の王との対談は如何でしたか?」


「あー、まぁ一応落とし所というか、ギナビア国の国民も避難民として受け入れをする方針で頷いてはくれたよ」


「詳細は存じ上げませんが、ギナビア国の王はそれで納得を?」


「軍は軍として受け入れるからな。思ったよりすんなり頷いた所を見ると、大方レゴリア王が回避したかったのは、ギナビア国が無力であるという印象を残すこと。建国したばかりのレストゥフル国よりも劣るという印象を与えない事だ。

まぁ、俺の対応次第では今後の立ち位置と発言力を掻っ攫いに来ただろうけどなぁ」


「それはそれは気が抜けませんね」


セバリアスと雑談をしつつ、さっきまでしていたレゴリア王との会話を思い出すと、どうやら俺の狙いに気付いている節があった。

同様にハルベリア王もレゴリア王の要求に対して俺がどう対応するか。それを聞くだけ聞き、会話に入ってこなかった所を見ると……今から行われる会議で俺が提示する事も察していそうだ。

いや、もしかしたら、その先に個々で思惑はあれど、二人とも俺と同じ考えなのかも知れないな。


臨時的に各国の軍を一つにした連合軍の設立。


コニュア皇女には、レゴリア王との対談が終わった直後にその内容を書面で送ってはある。おそらくコニュア皇女はそれで応えてくるだろう。

レゴリア王も、ハルベリア王も、コニュア皇女も三大国がほぼ同時に攻められ、落とされたという結果になった時点で分かっているはずだ……自国だけではどうにもできないと。


だから俺がログストア国やリュシオン国を即時放棄した事を突っ込んでは来ない。当たり前の様に、多少の無理を承知で避難民受け入れの準備をする俺を不思議に思わない。

何より、この結果を予測できていた様な俺の対応に疑問を口にしない。


根回しをする必要も無く三大国の利害は一致している。

見据えている先は違えど、目先の道は同じだと分かっている。


そうとなれば、俺は俺で目的をこなしつつ、協力者である三大国の機嫌を損ねないようにするだけ。


「だけ……とは思ってみるものの、それがしんどいわ」


「御気分は如何ですか?」


「戻って寝たい。もう眠たい」


「緊張は解れたようで何よりです」


セバリアスの言う通り、さっきよりは幾分もマシな気分ではある。しかし完全に緊張が無くなったわけではない。わけではないが、程よい緊張はあっていいもんだろう。

うん、悪くはない。吹っ切れている部分があるのか、不思議と心地が良い。


「いつも助かる」


「我が王の歩む姿を見守ることこそ生き甲斐ですので」


「年寄りみたいなことを言う」


「それなりに時は刻んでおります故」


「まだ隠居はしてくれるなよ。見守るだけではなく、共に歩めセバリアス」


「あぁ……なんと嬉しきお言葉でしょうか」


一歩進んで大扉に近寄れば、両サイドに待機していた片方の使用人からセバリアスが剣を受け取り、最終確認を終えて俺の後ろに控える。


「念の為に確認だ。安藤とモクナさんは?」


「既に移動を終えております。ご心配には及びません」


「結構」


俺は視線で待機している使用人に合図を出せば、二人はゆっくりと会議室の大扉を開けた。

瞬間――漏れ出す空気は穏やかなものではない。


レゴリア王、ハルベリア王、コニュア皇女の三大国代表から始まり、ハルベリア王の隣にはリーファ王女、コニュア皇女の隣にはギルド支部長のコルガさん、レゴリア王の隣に座る男性は……一際多い勲章の数。おそらくあの男性がヴァジア・ベンルベド元帥か。

他にも、クランマスターのグレイさんやモールさん。後は見覚えはあるが顔と名前が一致しない人物達や、そもそも初めて見る人達。

そして会議室の壁際には、ゼスさんやガレオさん、ルコさんなどズラリと並ぶ護衛の者達。それぞれが牽制をするように気が立っている。


まぁ、この場が和気藹々としてたら逆に困惑するか。

さてと……始めるか。


「お待たせして申し訳ありません。少々準備に手間取ってしまって……この度はお集まりいただきありがとうございます」


俺が座る予定の席まで移動し、ニ、三度軽く会釈をしながら言えば、品定めをする者、見下す者、早くしろと急かす者、個々に様々な意味を含んだ視線を向けてくる。

その視線の中で安堵や信頼は少ないが、全く無いわけではないのは、それなりに積み重ねてこれている証拠かねぇ。


「お初にお目にかかる方々も多いので自己紹介をさせていただきます。中立国レストゥフルの王、常峰 夜継と申します。私の事を眠王と呼ぶ者もいますので、呼称はお好きにしていただいて構いません」


自己紹介を終えた後、周囲から声が上がる前に指を鳴らせば、四つのモニターの様な物が天井付近に現れ、そこにはコチラを見る国民達の様子が映し出される。


「改めて皆様、この度は急な開催にも関わらずお集まりいただきありがとうございます。またそれに伴い、代理出席の方もいらっしゃるかもしれません。その場合、新参の私では把握ができていない事もあり、ハルベリア王、レゴリア王、コニュア皇女を除いた皆様の発言は挙手制とさせていただきたく思います。

発言がある際は、挙手後、名前と肩書を明確にした上での発言をよろしくおねがいします。円滑に会議を進め、判断を誤らない為ですので、皆様のご協力をお願い申し上げます」


「堅苦しいぞ眠王。お前に下から来られると、今の俺等は下げた頭が上げられなくなる。それとも上げさせないつもりか? 多少は崩せ」


そういう意図も込めていたのは確かだが、レゴリア王にわざわざ指摘されてしまっては意味も無くなってしまったな。

思い通りにはいかないか。


「そういう事でしたら、私の方も多少は崩させてもらいます。皆さんもあまり気負わずに自国の事を考え発言してください。あぁ、それと、ご覧いただいている通り、今回の会議状況はレストゥフル国内で見れる様にしてあります。証人は多い方がいいでしょう」


俺がそう言えば、それぞれが驚いた様子で映し出されている各国の見上げている国民達へと視線を向けた。

当然向こう側は四つの映像どころではなく、至る所にコチラの様子を映し出している。見る見ないは向こう任せ、いつでも見られるという状況に意味がある。


これがどういう意味を持つのか。それを踏まえた上でどういう発言をするのか。その発言がどう取られるのか……俺を品定めするのは勝手だが、自分達もされる身だという事をちゃんと理解していたほうがいい。

最も、俺の狙っていた印象操作の初手はレゴリア王の指摘で潰されてしまったんだけどな。レゴリア王の勘の良さには驚かされる。


「では始めましょう。今回の会議は通達した通り、今後の方針についてです。曖昧なままで進めるわけにも行きませんので、複数あるでしょうが今後の方針の一つをまず明確にして進めていきます。

魔王アーコミアとの戦争又三大国の奪還について……ですが、その前に済ませておきたい事があるので、もう少しだけお時間をいただきます」


セバリアス――と名前を呼べば、セバリアスは深く一礼をして一度会議室から出ていく。そして数分もせずに、拘束具で動きを制限されている安藤とモクナさんを連れて戻ってきた。


「既にご存知の方も居るでしょうが、安藤 駆並びにモクナ・レーニュはログストア国陥落の主犯格です。彼等は魔王アーコミアと繋がっており、手引し、ログストア城の制圧に加担した事を確認しています。

又、この事に関して二人の処断をハルベリア王から私は一任されています。念の為の確認ですが間違いありませんね? ハルベリア王」


「相違ない」


俺とハルベリア王のやり取りに疑惑の目を向けてくる者も居るが、温情処置の為だと予想でもしているのだろう。


「では時間を取る必要もないので判決を。安藤 駆並びにモクナ・レーニュ、二人には斬首を言い渡す。処刑執行は今だ。言い残す事があれば聞く」


セバリアスに手を差し出しながら言うが、二人は首を横に振るだけで言葉を発する事はない。その間にセバリアスから剣を受け取った俺は、それを抜き、一言も告げる事なく首を刎ねた。


宙を舞う首。切断面から吹き出す血を一滴も漏らさない様に魔力で包み、スキルなど意味を持たない様に、完全に死ぬ様に、畳み掛ける様に圧殺する。

ゴリゴリと嫌な音が響き、数秒後には二人の形は正方形へと変わった。


「ルコ」


「確認しましたが、二名とも本人に間違いありません」


静まり返った中でレゴリア王とルコさんのやり取りはハッキリと聞こえた。

どうせ誰かが鑑定のスキルでも使って確認するだろうと思っていたが、案の定だな。


ふぅ……心臓がバクバクとうるさいな。覚悟していたとは言っても、知り合いの処刑は普通にストレスだ。気分の良いものではない。


「処刑した事にも驚いたが、まさかこの場で執り行うとはな。安藤 駆は眠王の同郷だったと記憶していたが?」


「同郷の誼みですよ。娯楽の見世物にも、奴隷落ちにもしない。私なりの優しさです」


「その割には表情一つ変えないとは、立派なもんだ」


「まぁ、中立国では奴隷の持ち込みや所持をとやかく言う気はありませんが、犯罪者を他者の奴隷にする法はありません。罪状に合わせて罰や懲役を決め、国で労働と更生を強いるつもりなので、同郷でなくとも今回の罪状は処刑でしたよ」


「なれば眠王、噂では魔王メニアル・グラディアロードの裏切りが囁かれているが、事実であれば同様の処置を取ると考えていいんだな?」


「事実であれば……ですがね。今お答えできるのは、メニアルの裏切りは私の中で予定通りですので、皆様はご心配なく。今後の行動も大方の予想はできていますし、対処にも問題はありません」


少し心拍が落ち着いてきた所で、驚いたという割には一切その様子を見せないレゴリア王からの問いに、剣をセバリアスに返した俺は椅子に座りながら答える。

同時にセバリアスには、正方形に圧縮されたモノを部屋から持ち出して貰った。


これでとりあえず二つ。

安藤達の事と、噂は噂として切り離せるキッカケは作った。後は会議が終わってからだな。


「さてと、これ以上は中立国の話になってしまいます。会議の流れで必要であれば答えますが、不必要な面も多いでしょうから話を戻しましょう。

魔王アーコミアと三大国奪還についてですが、現状報告も兼ねて私の方から一つお伝えしておきます。

残り約二十日間は魔王アーコミアから攻めてくる事はありません。そして、同じ期間中は私から攻め入る事もできません」


そう告げれば、会議室内はざわつく。


「眠王と言ったか。ログストア国の大臣兼隣国を治めておるオーマオ・ドブロスだ。貴様に問うが、魔王が攻め入ってこない根拠はどこにある」


あの人が例のオーマオか。

何かと腹の中に抱えているようだが、さてどう来るか。


「アーコミアとひと月の停戦協定を結んでいます。そしてその間、アーコミアは神の城を扱うことができません。少なからず魔王軍も消耗した現状で、アーコミアも無理をして我々と事を構えようとはしないでしょう」


「薄いな。神の城の落下が異界の者によって止められているのは把握しているが、一度奪われた神の城をアーコミアが扱えぬというのが信用ならん」


「それはこうして抑えつけています。'この場の者達に法を敷く。 俺の許可無く発言する事を禁ずる'」


「!?」


手を翳して'眠王の法'を使えば、会議室には強制された静寂が訪れ、オーマオは驚きの表情を浮かべた。

それを確認した俺が軽く手を払いながら「廃止」と呟けば、ざわつきが戻ってくる。


「……なるほど。つまり貴様のスキルによりアーコミアは思うように動けぬと」


「その認識で結構。しかし誤解の無いように言うと、私が敷いた法は神の城の機能を使うことだけ。別に行動制限をしているわけではないので、今頃アーコミアもお茶ぐらいしていると思いますよ」


「ギナビア国軍海軍にて将軍の位を預かっているバルロス・レークと申す。俺からもいいかね? 眠王」


俺のちょっとしたユーモアには反応もせず、ふむ……と考える素振りを見せ始めたオーマオに代わり、次はヴァジアさんの隣に座るガタイのいい男が手を挙げた。


「もちろんです」


「魔王から攻めぬというのは分かった。そこは先に見せた眠王の力で納得はしよう。なればこそ、今が攻め時と考えてもおかしくはないが、何故わざわざひと月待つ」


「まず一つに、俺のスキルも便利なものではなく制約があります。それなりの準備が必要なんです。次に、被害を考えた場合にも準備期間が欲しい。相手の総大将は魔王アーコミアですが、ショトルやオズミアルなどの他の魔王が加担している以上、無策のままでは必要以上の被害が出ると予想します。

ただ停戦協定を結んでいるのは私とアーコミアであって、他の方々が攻めるのは勝手ですよ? やめたほうが良いとは思いますが、私は強制して止めませんので」


嘘は言わず、わざと勘違いするような言い方をしてみる。

こう言えばアーコミアが動けない間、スキルの制約で俺が動けないと認識しやすくなるだろう。

アーコミアに戦いを挑みたいのなら勝手にしてくれていい。そこに俺は加わらない。相手の受け取り方次第では、俺は加われないと勝手に考えてくれる。


「なるほどなぁ。あの悪魔を飼いならす王だけあって、臆病者というわけでもないようだ。いや、試すような真似を失礼した! レゴリア王が気にかける相手だけある。眠王の言葉、しかと聞こう……だから、そう煽るものではない」


「いえいえ、どうやら私のほうが失礼な言葉を発したようで」


一瞬俺を睨んだかと思うと、ハッハッハと笑うバルロスさんに言葉を返しつつ周りの様子を伺う。

んー……始まったばかりとはいえ、オーマオもだったが思った以上に突っかかってもこなければ、自己主張の激しい意見が出てこない。

こう……話が脱線して不幸自慢や目先の待遇改善の意見が出ると思ったのにな。本番は会議が終わった後だろうけど、意外と全員周囲と相談したり意見のすり合わせをしたりと話し合っている。


公開会議と安藤の処断を目の前で行った事は、結構効果的だったか?


後先を考えなければ戦争を再開する事は簡単だが、目的と終着点が見えていないのならば不毛でしかない。突発的に勢いのまま戦争をしたがる者が居るのなら、その者は今後の作戦から切り捨てようとも考えていたけど、その必要は無さそうだな。

それに、変なボロを出そうとしても、この調子だと他が止めそうだ。


ただなぁ……個人的にはそういう人物が一人ぐらい居てくれても良かった。

この会議は、俺にとって'ついで'が多い。想像してたより円滑に進みそうで、できない'ついで'が出てくるな。

しかし、無理にそのついでをする訳にもいかない。そっちは別の手を考えるか。


「眠王様、勝利する為に時間を取ったというのであれば、眠王様はどうするのが良いとお考えですか?」


「そうですね、まずは国籍などの垣根を越えた連合軍を作るべきかと」


少しの間を置いて発言をしたコニュア皇女の言葉に、下手に時間を掛けても仕方ないと考えた俺は、会議を一つ先に進める事にした。

ぎっくり腰に見舞われました。



ブクマ・評価ありがとうございます!

まだまだ未熟ですが、どうぞこれからもお付き合い頂けると嬉しいです!!

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