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眠れる王  作者: 慧瑠
敵と味方とダンジョンと
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風呂~ログストア~

半分お風呂回です。

夜。異界の者達が呼ばれた部屋には、再度勇者一行と王達が集まっていた。


東郷 百菜、市羽 燈花、新道 清次郎を先頭としてクラスメイト達が並び、正面にはハルベリア王、隣に娘のリーファが座りゼスが後ろに控えている。

それだけではなく、新道達を囲むようにハルベリア国の重鎮達が険しい面持ちで座っていた。


「時間が遅くなってしまってすまない」


「それは構いません。お話を始めてもいいですか?」


ハルベリアの言葉に東郷先生が真剣な顔で問う。


どういう状況であるかは、座る者達も理解しているため、引かぬ態度に口を出すことも無く沈黙を貫き、東郷先生の言葉にはハルベリアが一度だけ頷き口を開いた。


「事の顛末は聞いておる。

常峰 夜継が転移魔法により、模擬戦後消えた。違いないな?」


「間違いありません」


「此方としても予想外の事態である事は理解してほしい。

調査は難航しているが、魔導帝の協力もあり進んではいる。その報告もお主達には聞いておいて貰いたい。


アガリア!」


ハルベリアの言葉に反応し、一枚の紙を片手に一人の男が立ち上がる。


「ハッ!勇者様にはお初にお目にかかります。

自分は、ハルベリア国技術部の統括をしている'アガリア・フルーバス'です。


現在、常峰殿が装着していた身代わり石を解析しておりますが、魔導帝様のご報告通り身代わり石の効果停止を契機として転移魔法が組み込まれている事は分かりました。


ですが…身代わり石というのは、我が国の機密の一つであり、その生産には膨大な魔力と時間が掛かり短期での量産は不可能。加え、その構造上、本来であれば他の魔法を組み込む事は実験の結果非常に危険な事が証明されており、技術部では禁忌の一つとしております」


「だが、事は起こったのだぞ?」


アガリアの報告を聞いているハルベリアは、自身の潔白を証明する事に走りかけた事を察し、話の軌道を戻す。


「はい。そこで一つ勇者様方にお聞きしたいのですが…本当に、これは事故なのですか?」


アガリア言葉は、その場の空気を一層張り詰めさせた。同時に、アガリアは血の気が引くような感覚に陥り、無意識に冷え切ったと錯覚する手先が震えてしまう。


「貴方は、夜継が自ら転移魔法を使ったと言いたい。そういう事?」


腕を組み、少しだるそうに立っていた女子生徒…'(うるし) (あや)'が紅く光る瞳でアガリアを睨みつけていた。


その事に声を上げようとしていた安藤だけではなく、殆どの生徒が驚いていた。


常峰の事を下の名で呼ぶ事にも驚いたが、漆は基本的に率先して発言をしようとしない。

学校でも常峰と関わっていた様子もないし、女子とは仲のいいイメージはあったが、男子に関しては交流を持とうとすらしない様な生徒だった。


そんな漆の発言に驚く安藤達をよそに、アガリアは震えた声で答える。


「か、彼は優秀な人材だったと聞いてい、います。

ここ、この数日は、書物室でスキルは魔法に関する本を…読んでいたとも報告があり。

転移魔法を 覚えて て もおかしくはないかと ぉ 」


「アガリア?」


喋っている間にも唇が変色し始め、震えは強まり、ハルベリアが異変に声を掛けるが、返事をする前にアガリアは糸の切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。


「アガリア!」


「殺しては無いから話を続けない?」


「君は…一体何を」


「そこの人が、不愉快な事を言うから血圧を下げ続けただけだけど。

脳に後遺症を残さない様には配慮をしてあげてるんだから、早く話を続けましょうよ」


あっけからんとした様子で言ってくる漆にハルベリアは言葉を失った。

そして再確認をする。


-彼等は、扱いを間違えれば自分達を崩壊させかねない存在-


その事実を。


「漆、お前」


「何?えっと…安藤だっけ?

確かよく夜継と居るヤツだよね?アンタだって夜継とよく居るなら分かるでしょ。夜継はそういう事をしない。むしろ、面倒がるタイプなの。


無駄な話をしに来てるわけじゃないの。


別にね、夜継の意思なら問題ないし、別の誰かならその可能性ぐらい考えるし、その場合の対応は夜継がしたはずなの。

こんな場を設ける必要も無かったはずなのよ。


こんな私達が問題を起こしたみたいな感じで囲んでるけどさ…どっちが問題を起こしたかぐらいは、考えてくれない?」


漆の言葉に誰も返すこと無く、また静けさだけが場を包む。


静寂から少しして、テーブルを叩く音が響き、一人の男が立ち上がって声を荒げた。


「貴様等!さっきからその態度、王の御前だぞ!

考え、立場を理解できていないのはどっちだ!」


「オー「そんなに声を荒げて…血圧、上がるわよ」


ハルベリアが立ち上がった男を沈める前に、漆の紅い瞳が男を捉え言う。

同時に男は焦点を揺らし、立ちくらみで立っていられなくなり、慌てて座るとテーブルに滴る血に気付く。


「オーマオ殿!鼻血が!」


「うるさ。大げさねぇ」


オーマオと呼ばれた男が鼻血を出している事に気付いた隣の席の女が、叫ぶように言うと、アガリアの様子を見る為に呼ばれた回復魔法の心得のある衛生兵が慌てて入ってきて、アガリアとオーマオの二人の様子を見始めた。


その様子すらも、漆は嫌悪の表情で見ている。


「漆さん、少しやり過ぎよ。これじゃ逆に話が進まないわ」


「…。悪かったわ。話が変な方向に行きそうでついね。

もう何もしないから、続けて」


市羽の制止の言葉に、漆は肩を竦めながら素直に謝り、紅く光っていた瞳は黒色へと戻っていた。


ハルベリア達は、漆が目を閉じて、もはや興味すら失ったような態度に逆に安心を覚える。


「うちの生徒が失礼しました。

手を出してしまったのは此方なので、また日を改めるのであれば今日はここまでにします」


東郷先生も漆の行動には驚いていたが、発言する態度に怯えや引け目は無くしっかりとハルベリアを見据えている。


「いや、失言があったのは確かだ。

だが報告を聞けなくなってしまったのも確か…すまぬが、日を改めさせてもらう。

もちろん調査は続け、進展があればそれも報告させてもらおう」


「分かりました。

謝罪もその時にご本人達にさせていただきます」


ハルベリアに対し、東郷先生は一礼すると生徒達を連れて部屋を出ていった。


異界の者達が居なくなったことで、部屋の空気は少し緩み、ハルベリアは大きくため息を漏らして頭に手を当てる。


「王よ!あの態度はやはり問題があります!」「強力なスキルを持って調子に乗っているのだろう」「何か手をうって手綱を握らねば、より調子づかせるだけですな」「しかし、先のは我等の方にも失言はあったと思うが」「下手に刺激しない方がいいんじゃないかしら?それに、結局転移魔法がどうして組み込まれたかも分かってないんでしょ?」「だからそれは本人が」「その可能性も否定はできぬが、決めつける事もできなかろう」


「ぐっ…ぅ…私にこの様な…!ハルベリア王!これは反逆行為に値しますぞ!」


途端に意見が飛び交い始めた室内と、回復魔法である程度意識がハッキリしたオーマオが声を荒げて言う。

もちろんハルベリアは全ての声を耳に入れてはいるが、頭の中では自分の未熟さと、今後の対応で埋め尽くされていた。


「此度はここまでだ。調査の方は進めるが、今回は此方にも非がある。

彼等は協力者だ。皆、その事は頭に入れておくよう」


ハルベリアは、そう言い終えるとリーファとゼスを連れて部屋を後にした。


自室へ戻ったハルベリアは、ゼスが調べ上げた調査報告書に目を通し始める。


「お父様、少し休まれたほうが…」


「そうはいかん。今回の事故は、私が国の癌を取り除けていない結果でもある。

彼等は、私達の都合に巻き込まれた者達なのだ。


…まったく、不甲斐ないばかりだ」


自室まで着いてきていたリーファが心配そうに声を掛けるが、ハルベリアは報告書から視線を外すこと無く答えた。


「お父様は、頑張っていると思います。

疑わしき者達を全て罰していては国が保てないのも事実だと理解しています」


「そうしなければ国が保てぬというのが、既に問題なのだよ。

疑惑を晴らすにも、この国には洗い流さねばならぬモノが多すぎる。晴らす為にと動いても、他の問題が邪魔をする。


正しきだけで国が成り立たぬのも確かだが、不正が蔓延り正しさを霞め歪めまかり通るのは良き国とは言えぬ。

私の代である程度は、良き国だと他国からも言われておきたいのだ。リーファが胸を張り、後を継げる様に」


報告書を置き、隣に立つリーファの頭を優しく撫でる。

自身を見る父の優しき顔に、リーファは父を誇らしく思い…同時に自分の無力さを感じていた。


-----

---


「意外だったわ」


「何がー?」


「貴女が常峰君の事で、あんなに行動するとは思わなかったもの」


「ただ本当に話が長引くのが嫌だっただけよ」


「それにしては、随分と親しみのある呼び方をしていたように感じたけれど?私、漆さんが男子生徒の名前を覚えているだけでも驚いたでしょうに」


「あぁ、別に大した意味はないわ。

昔の癖ね。夜継の事は昔から知ってただけ」


この場には、漆と市羽の二人だけ。お湯が流れる音と、その湯気であまり先までは見えないが、声は反響していた。


湯に浸かる市羽は、髪を洗う漆を横目に身体を沈め話を続ける。


「あら、それはそれで意外ね」


「遠い親戚よ。私の母方の祖父と夜継の父方の祖父が兄弟でね。

よく私の祖父に連れられて、夜継の家に行ってたりしたの。昔は」


「そうなの?学校では、そんな素振りも無かったけれど」


「夜継と最後に会ったのは、私の祖父の葬式の時。高校で久々に姿を見た時は驚いたわ。

他人と言えば他人なのは違いないし…まぁ、夜継は私を良く理解してるのよ」


髪を洗い終え、身体を洗い始めた漆の話を市羽は黙って聞いている。


「私、少し変わっていてね。昔、夜継にそれを知られる機会があって…。

まぁ元々知り合いだったからなのかも知れないけど、夜継はそれを知って一瞬も驚く事無く、なんてこと無いように私に言ったのよ。


だったら何なのか。俺は違うけど、別にそれでもいいんじゃん。って。


一人で抱えてたから、夜継の言葉は嬉しかった。その後も、誰にも言えてないけど夜継は私の話を聞いてくれたし、嫌悪することも無く態度が変わる事もなく。何も変わらないまま接してくれた。

まぁ、夜継にも会う機会が減って連絡すら取って無くて、さっきも言ったように高校で久々に見たのよ。

夜継も夜継で、一応気付いてはいたみたいだけど、私の事を知ってくれているから別に話しかけもしてこなかったわ。


だから、知り合いなんてイメージの定着も無かったんじゃない?」


言いづらそうにする事もなく、喋りながら身体に着いた泡をシャワーで洗い流す漆。対する市羽は、少し考える素振りをした後に口を開いた。


「その変わった所って言うのは、私に話しても良かったのかしら」


「んー?どうして?」


「いえ、予想にはなるけれど…おおよそは見当が付いているから」


「ふーん。なら当ててみてよ。別に、もう知られても平気だからさ」


「男性恐怖症とか、過去に言い辛い事があった辺りかとは考えてるわ」


市羽の回答に、頷きながら漆は市羽が入っている大浴槽に身を浸けていく。


「別に恐怖症ではないかな。言い辛い過去は…まぁ、自分の失敗でそうなっちゃったから…半分正解」


「あら、そう」


「せっかくだから答えを教えてあげる。

私は、元の世界に戻る気もないしね」


漆はスススッと湯を掻き分け市羽へ近づくと、肌に優しく触れ、耳に顔を近付け、反響もしないほど小さな声で囁いた。


「私、女の子が好きなの」


「あら…そう…」


暫しの沈黙の後、市羽はどう答えれば良いか分からず、そう言うしかなかった。


「そうなの。だから、夜継と話してて誤解とかされたくなかっただけ。

普通に男は嫌いだしね。


それにしても…市羽って、綺麗な肌してるわよねー…」


「私はノーマルよ」


「無理強いはしないわよ…多分ね」


フフフと笑う漆に、一瞬だけ市羽も身を硬くするが、すぐに力を抜き平常に戻る。


きっと漆が怖がっていたのは、ソレが知れた後の対応の事。仮に何かをするのであれば、そういう噂は流れただろうし、漆なりに制御だって出来ているのだろうと考えた。


「あれ?逃げたりしても良いのに」


「貴女のスキルは私達には使えないし、そうでなくても別に逃げたりはしないわよ。

無理強いをして私達が拗れて、常峰君が困るのは貴女も嫌なのでしょう?」


「…。そうね、夜継には昔色々と世話にはなったからね。

でも残念。いつもクールな市羽の赤らむ瞬間ぐらいは見たかったな」


「そこは常峰君のスキルに感謝するわ」


「本当、夜継もやってくれたわよ」


つまらなそうに市羽から離れ、漆も浴槽の縁に頭を置いて湯を堪能し始める。

市羽はそんな漆の様子を見つつ、漆のスキルの事を考えていた。


漆は、市羽と同じ各国遠征組だ。

だから組のスキル把握の為に漆からスキルの事も聞いて、並木を通して確認もしていた。


(うるし) (あや)のスキル血姫(けっき)


簡単に言えば、血を操るスキルの一言で終わる。

だが、それは触れる必要も無く、視界に捉えるだけで使用可能であり、体内の血流・血圧まで操作が可能というもの。

本人曰く、大量の血の操作は無理らしいが、二、三人ぐらいであれば問題はないらしい。欠点と言えば、操作する相手、操作中の相手は視界に捉えとかなければならない。途中で遮られれば、その間は操作できないと言うこと。

そしてこのスキルはもう一つの効果を持っている。


それが、血からスキルを回収できるという効果。


回収したスキルが劣化するのかは試した事は無いから分からない。と本人は言うが、本来得る事が出来ないような特殊なスキルも扱えるようになるのだけでも十分だと市羽は考えている。


漆は、模擬戦の時に軽傷で血を流したクラスメイトからスキル回収を試みようとしたが、それも常峰のスキルが邪魔をしたと言っていたのを市羽は思い出し、改めてあの時に常峰が全員にスキルを使用していて良かったと思っていた。


「あーあ、早くチャームみたいなスキル持ちと合わないかなー。ハーレム作りたいぃー」


何気なく隣で漆が呟く。

その言葉を聞いて、市羽は何故自分達の組へ漆が来たか察した。


「その為に、他国に行く気なのね」


「本当は夜継達の所の方が出会いやすいとは思うけど…夜継に何言われるか分からないし、色んな国を見たほうがグッとくる子が見つかりそうだしね。


何より、ちょっと男と野宿とかしたくないから」


「そう。まぁ、暴走しないようにね」


「迷惑はかけないよ。バレないようにするから大丈夫」


そういう話では無いのだけれど…。と市羽は思うが、その言葉は飲み込んだ。

漆とて考え無しなで行動はしないだろうと分かっている。何より、常峰さえ帰ってくれば面倒事は投げられるのだから。


その後、市羽と漆は他愛もない会話を続け、少しだけ親睦が深まった。

こう…そういう描写は今後も予定がないのであしからず。



お読み頂きありがとうございます。

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