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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる
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こわい皇女様

コニュア皇女が連れてきた彼――リュシオン国ギルド支部長'コルガ・ファンテシア'と名乗った男が行ったのは、土下座からの懺悔にも似た暴露。

頭を上げていいと言っても、地面に擦り付けられた額をみる事なく早一時間が経っていた。


「全面的な非は俺にあります。どうか受け入れ許可を頂けませんか!」


それを最後に言葉は止まったものの、頭が上がる事はない。

視線をコニュア皇女に移しても我関せずで用意した紅茶を嗜んでおり、一緒に聞いていたモールさんは笑みを浮かべた表情を一切崩さずに茶菓子をつまんでいる。


まぁ、受け入れ云々の返答を勝手にされても困るんだが、今の話にコニュア皇女が反応を示さないのはどうなのだろうか。


「言いたい事は分かりました。つまり、責任は自分が負うからリュシオンの方々を助けてくれと」


「俺の命で出来ることなら何でもする!」


「はぁ……何でもですか」


どうやらポルセレルに依頼を受けフラウエースを捕らえたのは、コルガさんらしい。それも昔の伝手を使ったようで、一緒に自分は過去に人攫いをしていた事まで教えてくれた。

幼少から生業としていた人攫いから足を洗い、ギルドの監視の元で数年間の実績を積み、今の支部長という地位に立った事まで丁寧に。


更には'ファントムカラー'というクランに依頼をして俺の事を探っていた事。

シェイドが接触してきた内容から予想したのか、かつての自分が所属していた人攫いのグループ達が俺達に迷惑をかけた事まで。

立て込んでいて保留にしてたが、一番最初に安藤達を襲った相手にあった入れ墨は、その人攫いグループのモノとの事だ。


「とりあえず頭を上げて座ってください。幾ら頭を下げられた所で、それだけで受け入れ許可を出すことはありません。それに……その話を持ってくるならば、ギルドの支部長ではなくコニュア皇女が妥当だと思うんですがね」


「私は眠王様のお考えを察しているつもりですので。何が潜んでいるか分からない現状で、無闇矢鱈な受け入れは難しいでしょう。コルガがどうしても眠王様へ取り次いで欲しいと懇願するものですから連れてきたまでで、この件に関して眠王様とお話するのであれば、私は私なりの条件提示を致します」


「それはそれは……」


今回のはコルガさんが持ってきた話であり、リュシオンの国民が関わっているから聞きはするが、今その話をする気はコニュア皇女には無いと……。

どうするかねぇ。個人的には自己犠牲精神に溢れる国民思いなギルドの人、ぐらいな印象で終わりなんだが、自分の立場を踏まえて考えれば無しな提案だ。


「俺の知識が正しければ、ギルドはどこかの国に属しているわけでは無かったはずですよね? モールさん」


「間違っていませんよ。ギルドは、国や個人の寄付金を元に設立された便利屋の様な団体です。現在ではおかげさまでその規模も大きくなり、様々な所に顔が効くようにもなりましたけど」


「ギルド組合連合でしたっけ? 今更解体ともなれば大騒ぎになるでしょうね」


アハハと笑うモールさんに愛想笑いを返しながら、視線を席に座って俯いているコルガさんへと戻す。


この状況、肩身狭いし居辛いだろうな。でもなぁ、色々と暴露してくれたコルガさんには、要求に釣り合う程の価値はない。

ギルドの支部長という肩書は大なり小なりあっただろうが、それすもコニュア皇女とモールさんが暴露を聞いている時点で捨てたも同然。今のコルガさんは、元人攫いの経歴を持つただの人間。


そんなコルガさんに、中立国の国民を危険に晒すほどの価値はない。

避難してきたリュシオン国の人達も一応ダンジョン領域内に入れてある現状が、俺個人の意思できる限界ギリギリの範囲だ。


「ちなみに避難民の正確な数は分かりますか?」


「現在把握できているので百と二万千三百二十一人で、避難中に散らばり、後日ここへ逃げてくる者達も居るかも知れないので最終的な数字は……」


「あぁ、そこまでは結構です。ではコルガさん一人で、ざっと数えて百二万千四百人分の衣食……住はまぁいいです。衣食の準備はできますか?」


「それは……」


「無理ですよね。衣類は各個人で着回しをしたとしても、食は消費していく物。コルガさん一人では一日分すら難しいと考えますが」


「……」


返答はないが肯定と捉えていいだろう。

コルガさんには悪いと思うが、俺の情を誘おうと思っていたとしても、今のままじゃ首は縦には動かない。

それにさっき、後日コニュア皇女が同じ話で別の条件を出すと宣言をしている。まだコニュア皇女から提示されていないが、どちらが好条件を引き出せるかは明らかだ。


「もうお分かりかと思います。無償で聞くには難しい要求であると同時に、コルガさんにはその要求を飲む程の価値はありません」


「酷い言い方をしますね。コルガ支部長もそれは分かっていると思いますよ? コニュア皇女も事前にコルガ支部長からお聞きしていたようですし……それでも急ぎたい理由があったんですよねコルガ支部長。どうですか? それを眠王に話してみては」


俺が拒否を口にした瞬間、間髪を入れずにモールさんが口を開いた。

何を言うかと思えば……まぁ確かに俺も気にはなっていた。フラウエースの件をコニュア皇女がスルーした時点で、コニュア皇女は今回コルガさんが話す内容を知っていたんだろう。


そもそも提示してきた要求はコルガさんがするようなものでもない。もっと別の目的があるとは考えていたが、国民の受け入れで目的が達成される様な内容を受け入れられない結果は変わらないぞ。


「……俺と一緒に鴻ノ森に助けられたテトリアという女が外で避難民をまとめていたんだが、今朝方倒れたと報告があった。症状は腹部に異様な膨らみ、更に急速な魔力枯渇が発生している。多分、テトリアは魔王ショトルに寄生されている」


なるほど。本体ではなく分体だろうが、症状が表に出るほどに活動し始めた魔王ショトルに寄生されてるとなれば、確かにそう長くはないか。

鴻ノ森の報告書には、ジーズィの羽根で治療したと書いてあった。活動のトリガーはこれかもな……ジーズィは、事前に魔力をショトルに覚えられている。


「そのテトリアとは、副支部長のテトリア・イカツァですか?」


「えぇ、モール会長もテトリアとは何度か面識はあるはずですよ」


コルガさんの返答を聞いたモールさんは、少し考え込む様子を見せる。

一応テトリアという名前だけなら、前に艮や鴻ノ森からの報告で聞いているが、コルガさんだけじゃなくてモールさんもテトリアという女性に何かあるんだろうか。


「眠王、避難民の受け入れ、私からも頼めませんかね?」


思わぬ所からコルガさんの援護がきた。

それに対して俺が唖然としている間に、モールさんは話を進めていく。


「このお話は後でしようと思ったのですが、私の権限で商業ギルドを中立国に置く事を許可しましょう。中立国は特殊な立地をしているので、全てを見てから改めてになりますが、空中に浮いている三つの地区に一つずつと下の城下町に一つ。計四つのギルド支部を置く事を許可していただきます」


「以前グレイさんにお願いした時は、各国が関わっている事もあって一個人での判断で支部は増やせないとお聞きしましたが?」


「冒険者ギルドを言われると私も難しいですが、クラン'大地の爪痕'のマスターであるグレイさんからも任せると言われていますので、私とグレイさんの二人の名前があれば商業ギルドであれば可能ですよ。それに、各国が関わっていると言っていますが……現在その各国にどれだけの発言力があればこの機会を見逃せるんでしょう?」


暗に、今だからこそ強引に進められる話だとモールさんは言っている。面倒な交渉をすっ飛ばせるなら願ったり叶ったりなのは確かだが、なぜコルガさんの話に乗る形で出してきたのか。


「それと、最近中立国では金銭の導入を始めたようですね。城下町の魔物が経営しているお店を伺いましたが、中々に珍しい衣類にも関わらず価格は安価。物々交換でも取引が可能なのはいいですが、物価が定まっていない現状で金銭取引の価格だけ固定しているのは、外から来た方々が問題を起こすのも時間の問題ですよ? ギナビアからの奴隷が預けられている所を見るに、あのお店は国営でしょう? そうでなくとも国の監視下ではあるはずですが」


「まぁ、アラクネの判断次第で他所から何かを購入して物々で商品を手に入れられますからね。表記価格より安価で手に入れられる可能性は大いにあります」


「ご理解しているようで何よりです」


これはヤバいな、押されるぞ俺。


「そこでアバルコ商会がギナビア国、ログストア国、リュシオン国の各通貨を各千枚ずつレストゥフル国へ寄付をしましょう。後は商業ギルドができれば、ある程度の通貨はギルドが持ち込む事になるので、通貨が足りないという状況は比較的回避しやすくなるかと。

もし今後レストゥフル国が通貨を発行すると言うのならば、商業ギルドが仲介となり協力もしますよ」


アホみたいに好条件だ。それに、レストゥフル国の抱えている問題を的確に解消しに来ている。しかしこれは飲めないな。

金銭取引が一般化した時、レストゥフルでのレート調整を完全に商業ギルドに握られる。中立国なんて名ばかりで、商業ギルドの国になるのも時間の問題になるだろう。


それにしても、モール・アバルコ……ただの商会の会長ではないだろコレ。幾ら各国の機能が低下してるからって、独断で進められる程に権限があるのか。


「眠王の心配事も分かります。ですので、レストゥフル支部の商業ギルド管理者に、私が眠王を斡旋しましょう。後でグレイさんにも話を通して推薦状を頂ければ可能ですよ。ログストア国ではハルベリア王が同じ様にしておりますので、前例もあります」


「商業ギルドを私物化していいと?」


「構いません。もちろん今後支援金をレストゥフルからも頂く事をしますが、商業ギルドの運営に支障が出ない程度であれば。新通貨発行などの時は、会議などがありますけどね」


商業ギルドでの会議だけで新通貨の発行ができるのか。いや、逆に商業ギルドは通さなきゃならんのか……もはや独立してる巨大な金融機関じゃん。

大規模な総合依託機関って認識は、かなりギルドを軽く見すぎてた。

冒険者ギルドも、軍に属さない兵だと考えれば……構成員はピンキリだとしても戦力としてはかなりのもの。


ギルド組合連合か……国境を持たない国だな。


「あまりにも都合が良すぎて疑いたくなりますね」


「確かに眠王からすればそうでしょう。さらに都合を良くすると、リュシオン国の避難民を受け入れて頂ければ、食料調達なども多少は力になれると思います。商業ギルドを建てる際にある細かな規約も、融通が出来る場所はそうしましょう」


「はぁ……残念ながら、それでもすぐすぐの受け入れはお断りします。テトリアさんが寄生されている以上、他の方々もその可能性が高まりました。国の発展を願えば飲みたいところですが、この先どうなるか分からない現状では、国の安全を考慮したいと思います。

ただ、情報提供やその提示をしてくれた礼として、テトリアさんの治療は協力しましょう」


実際二つ返事で飲みたくなる程に甘い蜜だ。

熟考したい内容だが、そのテトリアさんが危ない状況の今はそんな時間を向こうはくれないだろう。


喉から手が出そう。飛びつきたくなりそう。後でこの判断を後悔すらしそうだが、リスクを背負える程に今の俺に余裕がない。


「眠王のお言葉を聞くに、時間を掛ければ受け入れは可能だと聞こえますが」


「現在避難民が待機している場所に隔離施設を用意し、そこに隔離した上で寄生されているかの確認に入国審査をする事になります。魔王ショトルの寄生を見抜ける者が多いわけでもなく、そこに人員を多くは割けません。寄生されていた場合の対処も考えれば、相応の時間が掛かってしまいます。すぐすぐというのは無理です」


「それで構いませんよ。そちらはその条件で、こちらは先程提示した条件で眠王がご納得できれば。いいですよね? コルガ支部長」


「あ、あぁ……」


嘘だろ……妥協するのか。


「コニュア皇女、勝手に話が進んでいますが良いんですか? こちらの独断でリュシオン国の領地に施設を作ってしまいますが」


「いいですよ。眠王様がお望みならば、現在避難民が待機している領地をレストゥフル国へ譲渡いたしましょう」


ダメだ。目的がテトリアさんを助ける事以外に見えてこないし、他を探る道が見えない。

しかも時間稼ぎ目的でコニュア皇女に振ったが、そう言わせてしまった以上はモールさん、ひいてはギルドへの印象も悪くなり、信用を失う可能性も作り出してしまった。


はぁ、完全に詰められたな。


「セバリアス!」


「お呼びですか? 我等が王よ」


名前を呼べば、俺の隣にセバリアスが現れる。


「現時刻を持ってリュシオン避難民はレストゥフル国の庇護下になった。テトリア・イカツァという急患が魔王ショトルに寄生されている可能性が高い。釣り出すとすれば、魔力を覚えられているジーズィが適任だろうから、ジーズィと治療経験のあるエマス、それと念の為に二代目で対処にあたってくれ」


「かしこまりました」


「後、今コア君に壁と屋根を用意してもらってそこを隔離施設とした。隷属魔法と寄生が見られなかった者から施設外の利用を許可。隔離施設の外に別の宿泊棟を何棟か用意しておくから、誘導を頼む」


「審査には並木様にご助力を頼んでもよろしいですか?」


「話は後でしておくから、今はテトリアさんの治療と人員調整を頼む。必要なら俺の方で用意するから、無理はしない、寄生には気をつけるを心がけてくれ」


「ご配慮痛み入ります。ではすぐに」


「頼む」


スッと消えて移動するセバリアスを見送り、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干して一息ついてから、モールさんとコルガさんに言う。


「これでいいですか?」


「あ、ありがとう。眠王……ッ」


「確かに。迅速な人員の手配には驚かされました。今度は、私の腕の見せ所ですかね?」


「人手が足りない場合は手伝ってもらいますよ。それと、後で書面で交わすとしても、先程の提示した条件を反故にした場合は、相応の覚悟をしてください」


「そうならない為にも、今日はこの辺で失礼します」


「俺も、テトリアの様子を」


「どうぞ。後日また話し合いの場が必要であれば、隔離施設に居るレストゥフル国の者に一言いただければ都合を付けますから、今日はお開きという事で」


俺がそう言えば、モールさんとコルガさんは会議室を後にした。しかし、何故かコニュア皇女は俺の目の前に座ったままで紅茶をおかわりしている。


まぁいいか。コニュア皇女は何か話があったわけでは無いようだし、少し気になったことを聞こう。


「コニュア皇女はテトリア・イカツァを知っているんですか? というより、以前に報告でテトリア・イカツァと妹のフューナ・イカツァはコニュア皇女の指示で諜報と俺達の監視していたとか」


「知ってはいます。聖女様の護衛を依頼しておりました」


「実のところ何者なんですか、そのテトリア・イカツァという方は」


「クラン'ファントムカラー'はギルドが作ったクランです。匿名性が高く、その構成員同士でも互いの顔を知らないまま。そこに明確な階級の上下は存在しません……ですが、そうであっても上下は生まれます。

ファントムカラーにおいてテトリア・イカツァは非常に高い評価を持ち、階級が存在するならば彼女は上流でしょう。モール会長にとってテトリアという情報源を失うのは痛手となってしまうのです」


なるほど。偽名でも使ってるのかは知らないが、とりあえずファントムカラーの幹部といっても過言ではないと。


「匿名性が高いクランなのに、コニュア皇女は良くご存知で」


「伊達に長生きはしていません。それに……私の秘密を探ろうとおいたをしたテトリアを拾い、ファントムカラーに混ぜた張本人ですから」


知ってはいます。じゃないだろ、バリバリの関係者じゃん。

まさか、モールさんと俺が話していたタイミングでコルガさんを連れてきたのは、偶然じゃなくて狙ったか?

モールさんがテトリアさんを見殺しにしないと分かっていて……。


「ちなみにですけど、もし俺がそれでもとモールさんの提案を断っていたら、コニュア皇女はどんな条件を提示するつもりだったんですか?」


「モール会長が口を出さなければ、あの場で私が交渉していましたよ? 後日ある会議で眠王様への全面肯定と、リュシオン国は大国の名を捨て眷属国家としてレストゥフル国に下ると。今では中小国家なんて言い方でしたね」


「は?」


「そうすれば、現在避難民が待機している場所はレストゥフル領地。対応せざるを得ませんよね?」


「正気で言ってるんですか?」


「えぇ、至って正気です。ですがまぁ、その様な条件をあの場で出せば、モール会長が違和感を覚えて口を出してきたでしょうけど」


「間違いなくコニュア皇女の狙いを探ろうとはしたでしょうね。だってそんな事をすれば……」


「リュシオン国の通貨価値がどうなるかわかりませんからね。ただでさえ三大国が占領され荒れている市場に、モール会長も苦労しているようですから」


初めからモール会長に交渉させる気だったのか。

もしモール会長がラプトと通さなかったら……あぁ、結局コニュア皇女が場を用意するな。


「ですが眠王様も好条件でギルド建設の契約を結べたようで、何よりです」


「アハハ、おかげさまで」


「これからもどうぞ、リュシオン国をご贔屓に」


ハハッ……こっわ。

なんとなく自分で察して警戒や管理をしていたつもりですが……体調を崩し喉をやられました。

次は勝ちます。



ブクマありがとうございます!

これからもお付き合い頂けると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 大国3つが潰れてる以上中立国にギルドを置きたいのはモールの方が強いだろ 夜継がちょいちょい無能晒すのがなぁ
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