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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる
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ありきたり

少し短めになりました。

「あ、ここにも地味に血が固まってら」


一人ぼやきながら指に当たる塊を少し揉めば、髪を伝って落ちていく泡は若干赤みを含んでいる。そんな感じでお湯に流されていく泡を目で追いながら、俺は髪を洗い、体を洗い、浴槽へと身を沈めて疲れを溶かしていく。


「ん~~あ”ぁぁ……」


口から勝手に出てくる反響した自分の声を耳に思う。

別に疑っていたわけではないが、どうやら本当に俺が思っている以上の大量出血をしたらしい。布団も綺麗で、体にもそんな痕跡は無かったが、髪を洗い始めれば根本の方に乾いた血がチラホラと残っていた。


報告書に目を通し、食堂で皆にちやほやされながら飯を食った後だから、起床からはそこそこに時間が過ぎているのだが……先に風呂に入ればよかったと、少しだけ思っている。


「そこまで出血してて貧血してない不思議。睡眠時は出血死もしないなら、寝てる俺からは採血仕放題じゃん。A型の輸血ストックはバッチリだな……異世界での血液型ってどうなってんだろ」


なんて言葉を口にしていると、風呂場の扉が開く。


「やぁやぁ常峰君!」


「コア君……最下層に居なかったか?」


「久々に肉体を得たから絶賛エンジョイ中さ。さっき食事を済ませてきたけど、ラフィは随分と料理が上手くなったねぇ~」


「忙しい合間を縫って頑張ってるらしいからな。もう少し趣味に割く時間を作ってあげればいいんだが、流石に今は難しい」


「セバ君達はがんばり屋さんだからね。きっとラフィの腕前も凄いことになるだろうね!」


水を操りながら体と髪を素早く洗い、浴槽に入ってきたコア君を見て、あの洗い方いいなと思っていると、コア君はダンジョン機能で小さな扉を喚び出しそこから野球ボール程の水晶玉を取り出した。


「占いでもしてくれるのか?」


「アハハハ、残念ながら僕は占いはできないよ。コレは常峰君と同郷の天才ちゃんのモノさ。常峰君が寝ている間に城ヶ崎ちゃんって子から僕が預かったんだよ」


「市羽の? ってか、そういや俺が血塗れになった理由も分かってるんだっけ?」


「理由というよりは……まぁ、何となく分かってるだけだね。詳しい事は知る機会が来ると思うから、今は気にしなくていいと思うよ」


「何となくなのに、詳しい事を知る機会が来る事は分かるのか」


「多分だけどね。僕もハッキリと分かっているわけじゃないから説明しづらいんだよ。もし機会が来なかったら、僕が分かった事は教えるから一緒に考えようか……さて、それよりも今はコレを見よう!」


モヤモヤだけ残して話を切ったコア君が、持っていた水晶玉を浴槽の縁に置くと、ログストア国で見た時の様に空中に映像が映し出された。


市羽のモノとか言ってたけど、これどうみてもログストアの技術では? と出そうになった言葉を飲み込んで映像を黙って見れいれば、どうやらそれはギナビア国であった市羽と魔王ショトルとの戦闘を録画したもののようだ。


「報告書にあったショトルとの戦闘か」


「城ヶ崎ちゃん曰く、天才ちゃんから撮っておく様に言われてたみたいだね」


「なんでまた」


「見たら分かるよ」


コア君に言われるまま、俺はとりあえず映像を見ていく。


開幕大技を使った後は、何やらしながら武器を使ってショトルを攻撃。武器の数が減ってくれば、城ヶ崎が武器箱を送っているのは分かった。

だが逆に言えばそれしか分からん。市羽の動きに目が追いついていかない。


「録画ミスとかではないよな? コマ送りにしか見えんのだが」


「しっかりと撮れてるよ。まぁ、起きて五、六時間そこそこの常峰君じゃ天才ちゃんの動きは見えないだろうね」


「コア君は見えてるのか?」


「いいや? 全然分からないよ。魔法の発動は大体分かるけど、動き自体は追えないね。三号が映像を見て驚き褒めたぐらいだし、相当なモノだと思うよ」


「三代目がねぇ……」


DMルームで指導を受けたのは一、二回ぐらいだが、そりゃ笑うだけ笑ってダメ出しのオンパレードだったのは覚えている。

視野が狭いだとか、動きが硬いだとか、終いには勝手に武器を喚び出して襲いかかってくる始末。最後にはスキル恩恵がなけりゃ秒殺だなとの評価を頂いた次第。

そんな三代目が褒めるとは……。見ている限りでは魔王ショトルを圧倒しているし、かなりのモノなのは分かるが、俺の物差しが短すぎて正確な凄さが分からん。


多分、メニアルの言った物理で圧倒しているんだろうな。


「……ん? コア君、これって巻き戻しとかできるか?」


「流石にその機能は無いから最初からになるね。一時停止ぐらいはあるよ」


「頼む」


最初からになった映像を見落とさない様に集中する。

大技でダメージを受けたショトルが回復し始め、市羽が最寄りのショトルを魔力で粉々にした……その後だ。

片手だけ手袋を着けて武器を振るい、属性に合わせた現象が起きる。そしてショトルは形を保てなくなり、おそらく死んだ。死骸は生きているショトルが吸収しているようだが、その間に市羽の次の一撃が別のショトルを屠っていく。


「ショトルを倒せている? コア君、俺の目では魔法の様な現象が見えるんだが……ショトルは、まだ市羽の魔力を覚えられてないのか?」


「いいや、最初の方でそれは天才ちゃんが確認してるよ。それでも間違い無く天才ちゃんはショトルを倒してる」


そう言っている間にも、市羽は一つ攻撃をすると手袋を変えて様々な魔法を使い、ショトルの数を少しずつ減らしていく。


「あの手袋に小細工があるのか?」


「察しが良いね。天才ちゃんがとっかえひっかえしてるあの手袋、多分天才ちゃんの自作だけど、魔力を無理やり別の魔力に変換してるみたいなんだ」


「魔力変換?」


「そう、魔力変換。属性を変えるとかじゃなくて、根本的に魔力の質を変えているんだよね、アレ。魔力って個人個人でDNAみたいに少しだけ質が違うんだ。良し悪しではなく、別物って意味合いで。ショトルはそれを覚えているんだと思うんだけど、天才ちゃんはその質を人工的に変えて魔法を使ってるんだ」


なるほどな。あの魔法陣付き手袋というフィルターを通す事で誤認させてるのか。


「それは難しい事なのか?」


「魔法陣無しでは無理に等しいね。それに、天才ちゃんが手袋を取り替えてるのを見ると、おそらく一度切りの使い捨て魔法陣。そうする事はショトルにしか意味がないのに、わざわざやろうとは思えないぐらいに大変だと……普通は考えるね。見た感じ、天才ちゃんはベースを既に創り上げてて、それの一部を変えるだけで質を変えているみたいだ」


「他人が運用するとなると、厳しい所がありそうだな」


「一つとして同じのを使ってはいけないし、上限があるだろうねぇ。加えて言っちゃえば、魔力を漏らさずに魔法陣を正確に通して使わないとダメってなるだろうから、手袋なりなんなりで更に手を加えないと必ず失敗する人は出てくるかな」


最大限用意するにしても、何か道具を噛ませてと考えると……色んな面でコスト的にも難ありか。

ただ、主要人数分ぐらいなら用意しててもいいだろう。覚えられている者や、これから覚えられた者でも一度だけチャンスが作れる。

手札として用意してておくに越したことはない。


準備の計画を頭で考えながら映像の続きを見ていると、手袋のストックが切れた市羽が物理での戦いにシフトしていく。

既に追えていない市羽の動きが更に追えなくなり、気が付けばショトルが増えては減っていくを繰り返している。だがそんな俺でも、市羽がショトルの攻撃を一撃たりとも食らっていないのは分かるし、何より市羽の目が生き生きとしているのは分かる。


「しかし、俺達でも強化魔法無しでここまで動けるもんか」


「常峰君の着眼点は良いよ。そう思うでしょ? でもね、普通は無理だね。これを他人に強要するのは酷すぎる。天才ちゃんの戦闘センスがずば抜けているのもだし、何より強化魔法無しじゃとっくに限界を超えているよ」


「でも強化魔法無しで市羽は動けてるみたいだが……。じゃなきゃショトルは減らないだろ」


映し出されている中では、間違いなくショトルの数は減ってきている。追加で現れたり、増えたりとしているのも確かだが、それでも市羽の殲滅速度が上回っている。


「天才ちゃんは新しい強化魔法を使ってるんだよ。多分独自で編み出した強化魔法を」


「市羽のオリジナルか」


「今までで誰かが考えたりはしたと思う。僕もショトルの性質を知った時は、常峰君に伝えてみようかな? と思ったぐらいにはありきたりなね。でも、それを実現して実用化するなんて、正直僕は天才ちゃんに引いてるよ」


コア君曰くありきたりなオリジナル。それを使っている市羽のどこに引く要素があるのか分からない。そんな俺の思考を察してか、コア君は言葉を続けた。


「ショトル相手に強化魔法が使えないのは、強化魔法を使用していると体外に魔力が漏れ出すからなんだ。体表面にも魔力の膜が張られる様なイメージしてくれれば、一番近いと思う。そして、武器や技にもその魔力が多少乗ったりするんだよ」


「何となくは分かる」


「でも天才ちゃんが使ってるのは、一切武器にも体外にも魔力を漏らさない強化魔法。行き過ぎな程の繊細な魔力操作で、細胞の一つ一つまで魔力を満たし、更には血管や血流、強制的に心拍数まで魔力で操作してる」


「……それ、人体に影響ないのか?」


「当然あるよ。体温は高くなるだろうし、魔力の操作を少しでもミスれば自壊してもおかしくない。だから僕はドン引きだよ、それを使って戦える人間が居るなんてね。多分だけど、天才ちゃんはこの時、常時全身に治癒魔法を使ってるから人体でも自壊しない」


「治癒魔法まで込みでの強化魔法か」


「体外に漏らさずにね」


コア君の説明を聞けば、この戦いでの市羽がかなり異常なのは分かった。よくよく見れば、薄っすらと浮かんできている模様は、血管である事が理解できる。

コマ送りでも市羽の手数が増え、ショトルの減る速度が上がっていくのが分かり、紙一重を更に詰めた様な危なっかしいはずの行為があまりにも自然に行われ、芸術にすら見えてきた。


そして、市羽は不自然に剣に貫かれ、メニアルの様に開いた空間に自分の刀を突き立てた所で映像は切れる。

城ヶ崎から事情を聞き、セバリアスに回収させてもう安全なのは分かっているが、流石に肝が冷える映像だった。しかし、録画をしたという事はこの戦いで市羽が伝えたい事があったのだろう。


「市羽の判断ミス……とは考えにくいな」


「そうだね。でも、あの攻撃で止まらなきゃ、天才ちゃんは再起不能になっていたかもしれないね」


「不慮の事故にも見えなくはないが、何かがあったのは確かだな。まぁ、それは市羽が起きてからで良い。今はこの映像から分かる事を整理しなきゃな」


「落ち着いてるね。何か分かりそうかな?」


これでまだ市羽の安否が分からなければ、もっと焦っていただろう。だが市羽の安否は確認できているし、この映像のおかげである程度分かった事もある。


「準備が居るが、魔王ショトルに対する打開策は見つかったよ」


「そりゃ良かった」


「あぁ、本当に良かった。魔王ショトルの分体は、わざわざ俺達が相手をする必要はなさそうだ」


「今の映像でどうしてそこまで行き着けたのかは気になるけど、僕は先に上がるよ」


そう言うとコア君は水晶玉を喚び出した扉に落とすと、浴槽から上がって風呂場を後にしようとする。


「コア君はこれからどうするんだ?」


「んー、ダンジョンコアの魔力ストックは呆れる程にあるから、適当にセバ君達にちょっかい出しながらブラブラと肉体を堪能しようかなって思ってるよ」


「そうか。まぁ、魔力の方は適当に吸っててくれて構わないから、次の戦いまではゆっくりしてくれ」


「言われなくても~」


手を振って出ていくコア君の背を見送りながら、俺は顎がお湯に着くぐらいまで体を沈め、大きく息を吐く。


この風呂から出れば、俺も俺ですることがまだあるんだ。

レゴリア王への返事を書き、会議開催をハルベリア王達にも知らせ、避難民の事を考え、魔王ショトルの事は市羽のおかげで目処が付いたから良いものの……他にもオズミアルやガゴウの事もある。

まだまだ目を通していない報告書もあれば、市羽達の見舞いにも行きたい。


それに、クラスメイト達にもそろそろ決めて貰わないとな。

こちらに残るのか、あちらに帰るのか。ハッキリと明確にしてもらって、アーコミアとの戦いに備えなければならない。


ふぅ……。


「細々と他にもやることあるし、処理している間にも追加で問題起きそうだし……寝ようかな。風呂に使ってる最中に寝ちまったら、それは睡眠じゃなくて気絶だって聞いたけど俺のスキルは発動するのかな」


以前に風呂で寝落ちした時はあったかな? どうだったっけか。などと思考の寄り道を繰り返しつつ、大まかな今後の予定を決めていく。


そうこうして風呂を上がったのは、コア君が出てから一時間後。

髪を拭きながら部屋に戻ると、机の上には新しい報告書があり、それに目を通した俺は風呂場へと逆戻りしたくなった。


---------

魔王メニアル・グラディアロードに裏切りの疑いあり。

重症であった側近ジレル・フォサイスの治療完了。

面会可能となりました。

---------


ジレルが重症だったのを初めて知りました。というかメニアルの裏切りって……。

その報告書が誰からのものなのか視線をずらせば、そこに書かれていたのは'ラプト・ローニル'の文字。

メニアルの側近が襲われて、メニアルの側近からメニアルの裏切りの可能性報告って……もう、なんだよ。意味分からん。


あぁ……レゴリア王達に宛てた手紙を書き終えたら、ちょっと予定変更でジレルの所に行くか。

短めです。



ブクマ、感想ありがとうございます。

そしてあけましておめでとうございます! どうぞ今年も、今年と言わず今後ともと欲張り、よろしくおねがいします!

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