寝かせてくれ。
さて新章突入です。
やっと常峰君がダンジョンマスターになったことですし…また、新しいキャラも増えていく予定です。
「思っていたより便利だな…」
寝る!と宣言したのはいいが、寝床が無いことに気付いた俺は、さっそくコアの力とやらを使おうとしていた。
「あ、ちょっと色々試してみるから、自由行動で」
コアについて何にも分かってない俺は、地べたに座り消えたコアを取り出そうとしたが、ドラゴン執事が玉座を熱くプッシュしてきたので玉座に座り、手元に呼び出したコアを観察している。
その様子をドラゴン執事並びに、メイドと執事合わせて計五十人が見ているんだが…そう観察されると、なんかもぞがゆさが身体を刺激するので、自由行動をお願いした。
まぁ、お願いした所で、彼等は俺の目の前から、カーペットの縁にメイドと執事に分かれて綺麗に並んだだけなのだが…。
ドラゴン執事だけは、彼等のまとめ役なのか玉座に座る俺の隣に移動して、ビシッと一本杉の様に姿勢を崩さず立っている。
「それでいいなら…まぁ、いいが…」
俺は彼等の事をよく知らない。きっと、彼等にはこれが自由行動に値するのだろう。と自分に言い聞かせ、俺はもう一度コアを意識する。
俺の手の中に消えたコアは、呼び出そうと意識すれば出てきて、その性能を知ろうとすれば片っ端から教えてくれた。
俺の隣に立つドラゴンは、龍族と言う現代では絶滅種の残り。
整列して並ぶ彼等も、様々な種族が入り乱れ、ダンジョンの力を授かり人型を基本としているだけらしい。
本来の姿にも成れるようだが…ドラゴンもそうであるようにサイズがかなり大きいのもいる。
だから、基本は人型。ドラゴンが本来の姿で現れた理由は、ダンジョンの機能が停止していたから残り僅かの自分の魔力を使い出てきたと言うのが頭の中に入ってくる。
次に、ダンジョンについてだが。
エリアの拡張は、自分の魔力、コアに保存している魔力で拡張ができる。
他のダンジョンとエリアが被る場合は、それ相応の魔力を必要とするが、上書きもできるらしい。
んで、ダンジョンの力を使うのには、基本魔力を使うと…。
エリア拡張と同じように、自身の魔力かコアに保存してある魔力。
コアは、俺の体内に居るだけで俺が自然回復している魔力をつまみ食いするような形でストックしていくようだが…ここで俺の'眠王'のスキルが輝いてしまった。
俺は自分の限界魔力量というのを知らない。知らないし、俺は寝てしまうとその限界数値がどんどん上がっていく。
本来の睡眠時の魔力回復と言うのは、上限まで回復するとそこで終わりで、自動で必要最低限を消費してまた自然回復をするという。
その微量の回復から、コアはつまみ食いをして溜めていく仕組みなのだが、俺の場合は寝ていれば上限が上がり続け急速回復を続けていく。
何が言いたいかと言うと…急速回復の効果をコアはつまみ食いし続け、俺が寝ていると異常に魔力を溜め続けていくようだ。
もちろん俺に支障がでる程に魔力を食っていく訳ではなく、急速回復の効果の方が上回り俺に問題はない。
まぁ…つまり、俺が寝れば寝るほどコアは俺からつまみ食いを繰り返し、どんどん魔力を溜め込んでいく仕組みだ。
それでも俺の上限魔力は上がるわけで…足りなきゃ俺が出すが、基本はコアが溜め込んだ魔力だけでも事足りそうだな。
「ま、フルに活用できるなら、それに越したことはない」
消費量に関しては試してないから分からないが…今から寝室を作るぐらいはできそうだ。
目を閉じて自分のダンジョンを意識すると、現在のエリアが頭に流れ込んでくる。
今、このダンジョンは、玉座があるこの部屋だけ。場所的には…どっかの洞窟らしいな。
今回はコアの魔力は使えない。ダンジョンを起こすのに魔力を使って、俺が足して流した分は…この内装に使われていた。
だから俺は自分の魔力をコアへ流し、自分の領域を広げていく。まずは上下に広げてみる。
すると、頭に様々な情報が流れ込み始めた。
下は魔物も生息しているが、それを無視して広げ…上は、広げていくと意識した範囲内の空までもが自分のダンジョン内にできた感覚。
俺はその上と下を起点に円形を描くようにエリアを拡張した。
だいぶ広範囲をダンジョン領域内にしたことで、かなりの魔力を持っていかれ倦怠感が俺を襲うが…まだ余裕はある。
自分の魔力の余裕を確認しながら、俺はダンジョン内情報を頭に流していく。
次々に集まってくる情報をまとめ、ここが何処かの森の中にある小さな山の洞窟のダンジョンで、俺は今の流れで山から地下、周辺の森の少しをダンジョン内として確保したようだ。
一応確認の為に、エリアの縮小も試してみた。
縮小にも魔力を少し使うみたいだが微々たる量だな。
とりあえず、俺はこのダンジョンがある小さい山をダンジョン内と指定して、上空と地下も適当に指定し終えると、残りの部分は破棄した。
あんまり広すぎても今の俺には邪魔になるし、小さいとはいえ山一つあれば十分だ。
「さて…今はささっと臨時寝床を作るか」
ダンジョンと言えば、宝箱やら敵やらとゲームでよく見るダンジョンを浮かべるが…俺は今、それよりもなによりも寝床の確保を優先する。
建築センスなど持ち合わせていない俺は、頭の中に簡単なイメージを浮かべていく。
階層を上に三階ぐらい。地下は、適当に深く広く一つの部屋を用意して、この玉座の部屋を移動してトレース。
多く見積もって上に作った階層に部屋を六十ぐらい用意して、各個室に風呂とトイレを設置して終了。
よし、俺にしては完璧だな。
俺の意思を強引に反映していくダンジョン君の努力は、この地鳴りで良く分かっているよ。
トイレや風呂の設置を意識した時に、簡易的なテンプレートデザインリストみたいなのも浮かんだが…その辺のセンスも無い俺はダンジョン君に丸投げをした。
ダンジョン君のセンスはこの部屋を見て分かる。君に任せて大丈夫だと俺は確信してるぞ。
などと、意思があるかも分からないダンジョン君のハードルを上げつつ自分の寝床作成を開始した。
別に場所とか拘りもないし、上にある階層の二階辺りの行き止まりをぶち抜いて部屋を作り、同じように風呂とトイレ。そして、'素晴らしく質のいい枕'と'天にも登るような心地よさのベッド'と指定をして部屋に並べて終了。
「さて、寝るか」
ダンジョンを階層分けして作ると、指定しなければ階段など階層ごとを移動する通路が勝手にできるらしいが…あくまでそれは来客者が使う通路。
ダンジョンのコアを持つ俺は、ダンジョン内であれば特別な移動法を使える。
それが、俺の前に現れた一枚の扉。この扉、開けた先を俺の意思一つでダンジョン内であれば自由にできる魔法の扉だ。
俺は扉をもう二枚呼び出して、各階層に繋げる。
「んじゃ、各自好きな扉に入って、その先にある好きな部屋を使ってくれ。
一緒の部屋がいいとかあれば、後で言ってくれれば部屋を繋げたり移動させたりはできるから。
あー…なんか欲しい家具とかあるなら、部屋に用意してある紙にまとめて後で持ってきて欲しい。
遠慮はしないように。これから俺は皆をこき使うと決めたから。それぐらいは安いもんだ。
俺は一足先に寝る。これからよろしく」
現れた扉を眺め、きょとんとした表情の彼等を放置して、俺はコアを体内に戻し、一人で最初に呼び出した扉を抜けていく。
堅苦しい連中かと思ったが、そのきょとんとした表情を見る限りそうでもないようだ。
出た先の壁に掛けてある'二階'と書かれたプレートを見る限り、思った通りに扉の先は二階の廊下。
扉がズラリと並び、その一番奥には少しだけゴージャスな扉がある。
「特別感は別にいらんかったんだがな…。
まぁ、ダンジョン君もこれからよろしく」
伝わっているのか、聞こえているのかも分からないが、俺はそんな呟きをして部屋に入り…これまた一層ゴージャスなベッドに引きつつも寝てみれば至福。
そのまま身を任せ…意識は沈んでいった。
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我等の新たな王は、ふんぞり返る事も、その力を暴虐無道に行使する事も無く扉の先へと移動された。
「お父様、私達はどうしたら良いでしょうか」
メイド達を仕切る私の娘は、困惑の表情を浮かべ聞いてくる。
「此度の王はお優しい。
その言葉、真摯に受け止め…今は、久方ぶりの睡眠を取りなさい」
「かしこまりました」
「皆も、新たなる我等が王に感謝し、その命、燃え尽き心ゆくまで仕えなさい」
「「「「「我等が命は王の為に、我等が死は王へ捧げます」」」」」
以前と変わりのない言葉を下の者は口にする。
しかし、皆も王の魔力を身に受けた時に聞いたはず。新たなる王は、私達に'悔い無く生きろ'と思ってくださいましたな…。
なれば、我等は生きねばなりません。勝手に死ぬなど、王の命に逆らうも同じ。
王の為に生き、王の為に死ぬ事を本望とする我等にとって、降りかかる厄を払うも我等の役目、それでも我等は生きねばなりません。
古き王の様に、死んでも守れと言って頂ければ…どれほど楽か。
しかし如何なる苦難を迎えようとも、我等は生きることを諦めないでしょう。
我等は、王が最後に見るその風景をお側にて拝める日まで…生き続けましょう。それが我等の望みであり、成し得なければ、それが我等にとって最も悔いる事なのですから。
「では皆、今は一時の休息を満喫しなさい」
そう言い残し、私は王が入って行かれた扉をくぐり、王の部屋に一番近い部屋へと足を進めた。
後ろからは少し騒がしい声が聞こえてきますが…その気持ちも分からないわけではない。
永遠とも思える時間を暗闇で過ごし、王が現れた時は皆が心を躍らせた。
しかし王は、コアからの干渉を一切通さず、それは王である事を拒否している様にも感じ…また、あの無意味な時間を過ごさねばいけない絶望感が私達を襲いました。
それでもと…私の為、皆の為に残り少き魔力を使い、惨めながら懇願をすれば王は慈悲を我等にくださった。
温かき王の魔力。久方ぶりの外の空気…なんとも心地よかったか。身体に血が流れ、生を授かり、お言葉を頂ける。まさに天にも昇る心地とはこの事かと確信をする程。
危うく昇天しかけそうになり、今もまだ気持ちが高ぶっているのを感じる。
「これではいかんですな…」
王は我等に休みを与えてくださったのだ。今は、休まねばなりませぬ。
自室と決めた部屋にたどり着き、扉を開けながら、少し大きくなった下の者の騒音を耳に、綻ぶ顔を引き締める。
しかし、ハメを外しすぎる様では…再教育も必要かもしれませんな。
そう思いつつ、私も今は床に就く。
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「ドラゴン執事、あんたもウッキウキしてるけどな」
俺はベッドの上で目を閉じつつも呟いた。
意識はさっき沈んでいったはずなのに、急に叩き起こされた様に意識は覚醒して様々な情報が頭の中に流れてきていた。
その情報…うるせぇんだ。
ダンジョンに関する事ではなく、さっき並んでいたメイド&執事の心情が滝のように流れてきているんだ。
つまり、今のドラゴン執事の心の声もバッチリ聞こえていた。
他には、久々の外を喜んでいたり、俺を崇拝するような声も多数。まぁ、大体ドラゴン執事と似たような事をウキウキと弾む様な心情で思っているようで。
魔力からそんな事を感じ取られるとは思わなかったが、確かに生きろとは思った。でも、そんな仰々しく構えないで欲しいものだ。
だがまぁ…言った所で、きっとドラゴン執事を筆頭に早々簡単に変わるもんでもないんだろうな。
せっかくなんだ。'死ぬな'とも思うし'生きろ'とも思う。だけどな…
「コア、この皆の心の声みたいなのを遮断してくれ。必要な時は頼むから」
思えばシーンと頭の中は静かになり、改めて静寂の訪れと共に睡魔が俺を誘惑してくる。
だけどな…今は、寝かせてくれ。
クラスメイト側と常峰君側をどう上手くやっていくか悩みますね。
視点がコロコロ変わってしまう可能性がかなり高いですが、自分も読んでくださってる方々も楽しめるよう頑張っていこうと思います。
どうかお付き合いください。
ブクマありがとうございます!
そして、評価もありがとうございます!
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