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眠れる王  作者: 慧瑠
切られた火蓋は、波に煽られ燃え上がる
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その先の目的

短めかもしれません

音がしているのかも怪しい中でゴリゴリと削れていく魔力。

感覚で残存魔力を計算して、それから俺が耐えきれそうな時間をはじき出して――やばいな、最悪の場合に備えて市羽達に準備は頼んであるが、本当に任せる事になるかもしれん。

このまま行くと、レストゥフルも守れなくなりそうだ。


《皆傘、篠崎、今からギナビア側とリュシオン側の魔力壁を解く。対応できるか?》


《ふふふ、大丈夫ですよぉ》《一応準備はできてるけど、俺で防げるのかコレ》


《少しの間防ぐなり威力を削ぐなりしてくれ、念の為に市羽と東郷先生には連絡をいれてある》


《あー、んじゃまぁ頑張ってみるか》


今ピリッと一瞬何か干渉した感覚がしたが、次が来る様子もないし……これでもう少しこっちに集中できるな。


《頼む。キツくなったら無理せずに限界来る前に言ってくれ。向こうにも連絡しなきゃいけないから》


《ふふっ、わかりました》《了解》


二人からの返事を確認した俺は、ログストア全域に張り巡らせていた魔力を少しずつ集めて壁の強度を上げていく。

想像以上に重かった一撃。そこから継続して襲いかかる連撃。正面から防いでいるせいか、拡散した魔力は下の民家にも被害が出ているが、流石にそこまで配慮する余裕がない。

後ろに流さないだけで精一杯だぞ。


「ふぅー……焦るな俺。防げているんだから、その間に頭を回せ」


口に出しながら急く気持ちを切り捨て、状況整理に思考を切り替えた。


視界の端では蔦で作られた壁が見え、魔力砲で削られた先から新しい蔦が生えては削られを繰り返し、反対側では巨大な夜叉が両手を前に翳して受け止めているのが確認できる。

期待通りに皆傘と篠崎は魔力砲を防いでくれているし、二人が防げているということは飛び回っている鎧共の相手も新道達ができているという事だろう。


その鎧共も何体か俺の所へ来ようと動きをみせたが、崩れ落ちたり飛来した剣に叩き落されたりと俺には近づけていない。


うん、ギナビアとリュシオンを狙われた時は少し焦ったが、今の状況はまだ修正できる範疇だ。言ってしまえば、俺がこんなにダメージを食らって動けなくなる以外は想定内。

理想は魔力砲は俺一人で防ぎきれれば尚良しだった。まぁ振り返るのは後にしよう、今考えるべきは次だ。


「このまま攻撃を防ぎきったとして、神の城を奪いたい所だけど……まぁ、今は無理だな。それよりも気になるのは――「私がこのまま何もしないわけがない。ですか?」……何もしないで大人しくしてくれると嬉しいんだが」


背後からした声の持ち主に肩越しで視線を向けると、おそらく転移魔法で現れたのだろうアーコミアは随分と愉快そうな笑みを浮かべている。


「それではつまらないでしょう。こんなのはお好みではありませんか?」


口を開いたかと思えば、アーコミアは指を鳴らした。一瞬周囲を警戒したがダンジョン領域内に新しい反応はない。

変化の無い周囲に、見せかけだけの動作か? と考えた矢先に念話が繋がり、そこから伝えられた言葉は俺の予想していた嫌なこと一覧上位の一つだった。


《常峰君、ギナビア国内に大量の魔物と魔族が現れたわ》

《ごめんなさい常峰君! さっきのお話は難しいかもしれません。魔王オズミアルが動き出しました》


「やってくれるな、この野郎」


「お気に召したようで」


嫌味の如く返された言葉に俺は苦笑いを浮かべて強がるのが精一杯だ。

アーコミアが前よりも余裕ぶっこいてるのも、俺が動けずに割と限界だという事に気付いているんだろう。


とりあえず作戦変更だ。


《わかりました。こっちはこっちでなんとかしますが、万が一には備えててください》


《リュシオン国も何かあったのね。分かったわ》《すみません、可能な限り手伝える様にはします》


市羽は俺の返答で察したのだろう。東郷先生にも、俺の焦りが伝わってしまい余計な負担を掛けてしまっているみたいだな。

こっちをササッと終わらせてから向こうを手伝えればいいんだけど、流石にアーコミアはそれを許すとは思えない。


「息が上がっていますね。汗もひどい。限界なのでは?」


「ふぅーッ……そんな気遣いが出来るならコイツ止めてくれ」


「せっかく眠王を相手に優位を取れたのに、そんな事をするわけありません」


「だろうな」


一向に止まる気配がない魔力砲の停止を促してみたが、まぁやっぱ無理だった。


正直アーコミアの言う通り限界が近い。

体力もだが、魔力消費がエグすぎて魔力の壁の維持が厳しい。少しでも気を抜けば俺は塵になるだろう……ってか、いっそこのままアーコミアを道連れにするのも手ではなかろうか。


「私を道連れに……なんて考えてはいけませんよ。眠王が魔力壁を解くと分かった瞬間に、私は転移魔法で逃げさせてもらいます。ついでに、他の異界の者達も何処かへ飛ばしましょう」


「その前に俺に拘束されるとは考えないのか」


「こう見えても少々魔法発動速度には自信があるんですよ。私の数少ない武器と言っても良いですね」


「そいつぁなによりで」


「本来なら眠王をコチラに呼ぶ予定だったのですが、どうやら不用意に転移魔法を受けない様に対策はしているみたいなので、わざわざ私が来たんです」


「悪いな。二度目は無いように対策はバッチリだ」


さっき受けた干渉はアーコミアの転移魔法だったのか。

無効化があって良かったと心底思うわ。あのタイミングでどっかに飛ばされてたら、今の状況が一瞬で崩壊してた。


「それで私から眠王に提案があります」


「提案だと?」


「えぇ提案です。取引と言ってもいいですね。

こうしている間にも眠王は限界へと近付き、その魔力壁が維持できなくなるのも時間の問題。ですのでどうでしょう? 眠王が私と協力関係になってくれると言うのであれば、神の怒りを今にでも止め、撤収するというのは」


「はぁ?」


アーコミアの提案に俺は思わず間抜けな声が出てしまった。

それもしょうがないだろう。だって、本当にアーコミアの目的が分からなくなってきたのだから。


魔神の復活という目的があるのは分かるが、そこに俺が必要な理由が一切分からない。俺達が召喚される前からの目的である以上は、俺達の協力が必要ではないはず。

なのに何故アーコミアは協力に拘る。

それとも異世界召喚を織り込んだ上での魔神の復活なのか?


ダメだな。頭が回らない。回らないが、答えは決まってる。


「悪いがそれはできないな。こうしてログストア国を襲うなんてやり方で動かれた以上、アンタ等に協力はできない。それにその提案は前に断ったはずだが? ニルニーアと会わなかったのか?」


「ニルニーアから報告はしっかりと聞きましたよ。その上での提案です。これ以上被害を出さずに事を収めるには、もうコレしか手はないと思いますが……それが分からない眠王でもないでしょう」


ダンジョンの機能で全員の位置を確認すると、上手いこと新道達は俺から離れ、下手をすれば俺の目の前にアーコミアが居る事自体気付いていない。

念話で伝えたところで、鎧共を使ってでも阻止しに来るんだろうな。


「強引なお誘いは勘弁してほしいな。それに、アンタの目的に俺等が協力できるとは思わんけどね」


「あぁ、勘違いしてますね。私が欲しいのは異界の者ではなくて貴方です眠王」


「なんだ? モテ期到来にしちゃヘビーすぎるな」


「今回の眠王を含めた異界の者達は、この世界にしがらみが無い事に加えて、三十一人という人数のせいか立ち入る隙の無い一つの勢力となってしまいました。戦力確認を済ませた後は、動向を伺いつつ最低限の干渉のみで済ませていたのですが……」


「思ってた以上に俺達が大きく動きすぎたか」


「そうです。割り切った勢力というだけであれば良かったのですがね、事もあろうに人間の重要人達を懐柔されてしまった。それも、とても良い距離感と関係性で。本来であればもう少しゆっくりと手に入れるはずだった神の城を、予定を繰り上げてまで急ごうと思う程度には」


長話に付き合いたくないのが本音だが、アーコミアの動きが分かるというのは価値があるし、時間稼ぎをされているのと同時に時間稼ぎができている。

余裕があるわけじゃないけど、まだ付き合えるな。


魔力残量と周囲の状況を考えながら、ギリギリまで魔力壁を薄くして答える。


「それは悪かった。こっちもチンタラと時間を掛ける暇がなくてな。魔神復活阻止もあれば、魔王とやらの脅威を取り除かないといけない「そして、元の世界へ帰る準備を進めなければいけないですか?」――話を遮るのが得意だな」


「元の世界へ帰る為に孤島から資料を集め、まだ私の知らない情報を眠王は持っています。ですが、逆に眠王がまだ知らない情報を私も持っているんですよ」


「……」


「召喚の魔法陣を発動するには特殊な条件があるのですが、帰還魔法にその条件が必要となるでしょう。そして眠王はまだソレを知らないと断言できる」


「神の城が発動条件の一つか」


「流石! まだ未確定なままでも正確に情報を整理できるのは一つの才能ですね。しかしそれだけではありません」


「なるほど……そういう事か」


あぁ、やっとアーコミアの目的が見えてきた。

神の城がなければ、おそらく帰還魔法が不安定だか発動だかできないんだろう。爺達が召喚魔法に手を加えた方法――それが神の城と召喚魔法の関連付け。


そうする事で出来たのは、俺が居た世界の座標固定と召喚頻度の固定。そのほかに何があるかは知らんが、神の城は俺達の世界と繋がるのに適した場所なのは確かだ。


んでもう一つ。

ここからは予想でしかないが、召喚魔法は元々この世界の神様とやらが用意した。それを弄り回して維持したとなれば……魔神の封印ねぇ。


「魔神の正体は初代勇者と初代魔王と今は居ない神様らしいな」


「気付きましたか。神の城、そこには魔神が封印されています」


「一つ聞きたい事がある。協力するかしないかは、その後に答えよう」


「いいですよ、協力者にはできるだけ隠し事はしない主義なので」


できるだけね。

まぁ、おそらく嘘を付かれる事はないだろう。ここまで動けば、いずれ分かるだろうしな。ただ今のうちに確認をしておきたい。

俺達が来なければアーコミアはそのうち人間を根絶やしか飼育していただろうに、わざわざ俺達が来る事を止めず、それすら目的の為の過程に織り込んだ理由……予想が外れている事を祈ろう。


「アーコミア、魔神復活の先にあるアンタの目的はなんだ」


「異世界へ」


「残念だ」


魔力壁を維持しつつ、少しだけ余らせていた魔力でアーコミアを両側から潰す。

しかし自信は確かな様で、アーコミアは既に俺の隣へ転移していた。


「私達魔族が眠王の世界に行く事が、そんなに問題ですか?」


「悪いけど大問題だ。俺達の世界の住人は新しいモノに目がなくてね、帰りてぇ奴らが居る以上あの世界を荒らさせるわけ無いだろ」


アーコミアが喋る俺に触れた瞬間、俺の身体にはピリピリッとした感覚が駆け抜ける。


「私独自の隷属魔法なんですが無効化とは……やはり貴方は敵にしておくには惜しい」


「ありがとう。だけど嬉しいことに敵だ」


魔力の枯渇なんて気にしている場合ではない。

アーコミアの狙いが俺達の世界ならば、それを俺は止める。


「こちらの世界に来なければ能力を持たないというのに、才能や発想力は素晴らしい。魔法を再現する探求心は、恐ろしさすら感じる」


やはりアーコミアは知っている。

元の世界での俺達は、魔法に対する抵抗を持たないことに。科学が発展し、全面戦争ならば勝ち目はあるかもしれないが……蝕む侵略に科学では気付くのが遅れる。


「後三百年ぐらいはゆっくりしてくれ」


「その時に貴方達は居ないでしょうが、貴方の血は継がれている。それは困りますね」


魔力での攻撃を転移魔法で確実に回避しているアーコミアからは、まだまだ余裕が見て取れる。対する俺は、カツカツの魔力でなんとかって感じだ。

あぁ、やべぇな。意識が少し遠く――「限界ですね」


疎らになった思考では反応が遅れるのは当然。


嘲笑いながら目の前に現れたアーコミアに反応ができず、額を軽く小突かれた。

それだけで身体を突き抜けた凄まじい衝撃波に身体は吹き飛び、魔力壁はもちろん維持出来ずに俺を飲み込もうとする。


なんとか出来る事といえば、自分の身体を魔力で包む事ぐらいで、この魔力砲はもう俺じゃどうしようもできねぇな。


「聞いていたより魔力が少ない……何処に消費していたんですか?」


「念の為の切り札ってやつだ」


怪訝そうな表情のアーコミアに答えた瞬間、俺はスッと魔力砲に飲まれる。


まぁ、俺の魔力量を感じていたなら分からんだろう。ここら一体は俺の魔力で溢れていたし、切り札も結局は俺の魔力があってこそだからな。


……後は頼むわ。


薄れていく意識の中で切り札の発動を確認した。同時に俺の魔力は完全に枯渇する――そして、'カチリ'と鍵を挿した様な感覚がした。


---


「ふん、罪人共の言葉を鵜呑みにするか。部下がこれでは眠王の底が知れるな」


「私共の事は結構ですが、我等が王を愚弄する事は許しません」


避難した者達の中で一部の身分の高い者達は、魔族や城下町の者達と同じ空間である事に異議を上げた。

それを受け取ったラフィは、要らぬ問題を起こさない為に臨時で別の場所を用意したのだ。そして柿島のスキルである'言霊'で煽動者を特定し暴動を鎮圧を終え、シーキー達による尋問が行われた。


結果名前が上がったのが、オーマオ・ドブロスであったが、当の本人は暴動の件も毒の件も否定。

柿島のスキルで確認はしているのだが、本心からの否定であり実行犯達を見下す空気さえ含まれ、話し合いは平行線であった。


「であれば部下の躾ぐらいするように伝えておけ。ハルベリア王が贔屓にしているからといって、私に濡れ衣を着せるなど」


「無礼を働き失礼しました。念の為ですので最後に、本当にオーマオ様はご関係は無いのですね?」


「くどいぞ!!」


他の者達も居る中で敢えて質問をしていたラフィは、腹を立てたオーマオに肩をどつかれた。


ダンジョンに仕える者達は、オーマオが一度自分達の主を嵌めて殺そうとした事を知っている。例えそれで巡り会えたとしても、感謝など一切なく、こうして手を出される事を望んでいた。

それで得た大義名分で、否応なしにオーマオを拘束するつもりだった……のだが、ここでラフィの予想外な事が起きる。


どつかれた反動で身体は揺れ、不運にも常峰から受け取ったダンジョンの子機が落ちてしまったのだ。

そして居心地が悪く部屋を出ていこうとするオーマオは、落ちたダンジョンの子機を踏み割った。


「チッ、色気づきおって」


子機は小さなガラス細工の様なモノで、柿島達が見ればキーホルダーの様にも見える。キーホルダーを知らないものでも、それが特殊なモノだとは分からないだろう。


もちろんオーマオにも女子供が持つ小物にしか見えず、踏み砕かれたことに時間が止まった様に硬直してしまっているラフィが仕事に持ち込んだ物程度にしか見ていない。

対するラフィも、自分の不注意で常峰から受け取った物を踏み砕かれ、思考が止まっていた。


だからだろう。いの一番に気付いて良いはずのラフィが気付くのに遅れたのは。

そこ以外からも感じる懐かしい雰囲気に気付かなかったのは。


「なんだ貴様は」


部屋から出ていこうとしたオーマオの前に突然現れた少し身長の小さい青年。


オーマオから声を掛けられた青年は、オーマオを無視して状況を理解して泣き崩れてしまいそうなラフィへと近付き、優しく頭を撫でる。


「泣き虫なのは相変わらずだねラフィ。それじゃあ、またセバ君に呆れられちゃうよ」


「え?」


聞こえてきた声は聞き慣れた声。

少し下手な撫で方は、嘗て敬い慕い惹かれた感触。


だけどもうそれを求める事はできなかったはずのモノ。


「わが、主?」


顔を上げた先には、その昔に見た時と変わらない屈託のない笑みを浮かべる青年――初代ダンジョンマスターが居た。


「元ね。今の主は常峰君だろう? だったら今のラフィがやる事は、泣き崩れる事じゃないよね」


「……はい、そうですね。元我が主よ、なんとお呼びすれば良いでしょうか」


ラフィの問いに、んー……と少し悩む素振りを見せた青年は、何度か頷くと嬉しそうな弾んだ声で答えた。


「僕の事は'コア君'って呼んで! 後の二人は二号と三号辺りでよろしく!」


イタズラの準備を楽しむ様子で答えられたラフィはやっと気付く。ダンジョン内に――正確には父であるセバリアスと、同僚であるルアールの元にも懐かしい雰囲気が漂っていることに。

んー、体調が優れません。

もしかしたら、次の更新は遅れるかもです。



ブクマありがとうございます!

まだまだ未熟ですが、これからもお付き合い頂ければ嬉しいです!

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[気になる点] 一向に止まる気配がない魔力砲の停止を促してみたが、まぁやっぱ無理だった。 正直アーコミアの言う通り限界が近い。 体力もだが、魔力消費がエグすぎて魔力の壁の維持が厳しい。少しでも…
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