王と騎士
乱れた息を整える暇が無い。そもそも安藤がその隙をくれない。
――猛攻。
そんな言葉が頭をよぎる。
横薙ぎ、切り上げ、変形利用で後ろから、押しからの変形で突き、突上げ下げからの拳圧……。
粗いながらも流れる様な繋ぎ目に、避けた所で一撃一撃の余波でカウンターはしづらく、できた所で筋肉装甲のせいで生半可な攻撃はダメージにすらならない。
それどころか、ジリジリと俺の方が削られていく。
厚めに展開した魔力の壁の上から抜けてくる衝撃と、それで乱れた魔力の壁を突き崩す様な追撃。
俺も時間経過で余裕が生まれて狭い隙を狙うが、ダメージが無い。あったとしても、そのせいで安藤はスキル効果で強化されていき、結局俺が押される。
故に考え、俺は一撃を用意した。
連続攻撃やコスいやり方でダメージ蓄積をした所で、安藤を倒せるどころか強くするだけ。俺の時間経過に比例するように、安藤は蓄積ダメージで強化されていく。だからダメージは与えず、防御に徹してタイミングを図っていく。
一撃で潰す。強化など意味の無い、お前の耐久を越えた一撃で全てを削り落とす。
「'シールドバッシュ'」
ここか?
そう思い、薙ぐのではなく押す安藤の一撃に合わせて敢えて踏み込み、盾の側面を抜けて鳩尾に触れようとするが、踏み込もうとした足にある違和感に俺は気付く。
一瞬だけ確認すれば、俺の足を安藤が踏んでいて動かせない。そしてその一瞬は明確な隙となり、盾が密着した状態から一撃が放たれた。
「ァ”ッ」
変な息の漏れる音と共に、呼吸の仕方と意識が一緒に飛びそうになる。
ただで受けるわけにもいかず魔力を操作して盾を身体の間に層の様に壁を作ってはみたが、受け流すことの出来ない衝撃に上半身だけ反れ、踏みつけられ固定された足から引きちぎれそうな痛みが走った。
安藤の攻撃はこれで終わらず、盾の裏から伸びてきた拳。
咄嗟の判断で拳の側面を魔力ではたき、僅かに軌道を逸らして逃れはするが、安藤もすぐさま切り替えて弾かれた拳でガッシリと胸ぐらを掴み引き寄せられて再度密着した盾。
ヤバい。流せない。意識が飛びかけたせいで対応が間に合わない。
その事だけは分かった。だが、まだ脳が揺れた感覚がする俺では次の対処法まで思考が回らず、二度目の衝撃が俺の身体を抜けた。
記憶に間ができ、気が付けば俺は安藤に持ち上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。
抵抗もせずに叩きつけられた俺の身体は、ゴムボールの様に跳ね上がり、視界には振り下ろされるハルバートが映り、朦朧としながらもなんとか魔力で壁を作って防いだ――のはいいのだが、元よりそのつもりだったのか、力任せに振り下ろされたハルバートの勢いで、俺はまた地面に叩きつけられた。
逆流して口から吹き出る血がゆっくりと視界に入ってくる中で思う。
戦いながら安藤は成長している。防御に徹しているにも関わらず、時間経過して強化されていく俺の動きに対応し、こうして俺は追い詰められているのが証拠だ。
これでもし俺が自棄になって攻撃しようものなら、もっと早々に決着がついていたかもしれない。
流石にこれ以上ダメージを喰らえば、せっかくの準備も無駄になってしまう。
「チッ」
距離を詰めて今度は大剣を振り下ろそうとしていた安藤から舌打ちが漏れた。
俺が転がっていた串を飛ばした事がうざかったんだろう。
眼前に串が迫り、反射的に防御をしようとした動き。その必要は無いと分かっていても無意識で動いてしまい、意識的に防ぐ行動を止めて串を受ける安藤。
当然串は安藤に刺さることなどなく、目だけを避けて受ければ串は簡単に弾かれる。
その判断と行動の間は、俺にとって十分に間だった。
絡ませる様に魔力で安藤の身体を固定し、動きを止めれば次に繋がる間が出来る。大剣を振り下ろそうとし、判断して串を受けた不自然な体勢では満足な防御などできまい。
位置よし、タイミング良し、準備も終えてある。
このチャンスを逃すまいと俺は着地と同時に腕を振り下ろした。
膨大な魔力の塊が、防御を最低限に維持して密度を高めた魔力の圧が、頭上から安藤を襲った。
遠慮は配慮など無い。例えドラゴン相手でも圧し潰すつもりでの一撃は、当然地面までも潰して余波で砂煙が舞い上がる。
更に追撃で魔力の塊を叩きつければ風が起こり、砂煙を吹き飛ばす。
そしてその中央で安藤は身体中から血を流し――突き立てた大剣の隣で、腕を組んで仁王立ちをしていた。
「あらら……」
我ながら情けない声だ。
完璧に決めたと思ったんだが、どうやら安藤はそれを正面から堂々を受けて見せた。
完敗だな。
心の何処かで思った。そしてそれは正しかったようで、力強く歩いてきた安藤は俺の両肩をしっかりと掴み、上半身を逸らして勢いよく安藤の頭が振り下ろされた。
それは今までのどの攻撃よりも強く、凄まじい衝撃に俺の脳は揺れ、次に視界に映ったのは曇天の空だった。
「頭突きってお前……どんだけ石頭だよ」
「額にも筋肉はあるからな。骨だけの硬さじゃねぇ」
「そういう話じゃねぇよ、この脳筋め」
そんな会話を交わしていれば、カチリと何か鍵を差し込んだ様な感覚が身体に走る。この感覚を俺は知っている。
ユニークスキルが囁く感覚だ。枷を自覚した感覚だ。そして今回は、俺の負けが確定した感覚だ。
夜空から曇天になっていて気付かなかったが、どうやらもう日の出は迎えたらしい。
そうとなればそろそろ……。
《常峰、予定通り終わったよ。ゼスさんもエマスさんのおかげでパブロフから帰還できて救助と誘導を手伝ってくれた。後は最後まで残ると言って譲らなかったハルベリア王とゼスさんで終わりかな》
俺の予想通り新道から念話が届く。
《分かった。ハルベリア王とゼスさんは、エマスにダンジョンに送らせてくれ。新道と江口は第二予定配置で待機、皆傘達も次の配置に移動しつつまだ人が居た場合は救助を優先。攻めてくる魔族や魔物は、そっちの判断に任せる》
《俺と江口だけ別で待機という事は、負けたんだね常峰》
《見事にな。まぁ、詳しい事が知りたければ後で話す。だから絶対に俺の指示があるまで動かないでくれ》
《大方予想は付いてるから大丈夫。流石にモクナさんをどうするかまでは分からないけどね》
アハハと笑った新道は念話を切り、俺からは溜息が漏れた。
安藤と会う前に、串焼きを買いながら新道だけには一言だけ伝えていた事がある。
それは、'モクナさんだけは救助をしなくていい'という一言。
それを告げた時、新道は何も追求せずに分かったと了承をしてくれた。多分その時に、新道の中では幾つかの予想が生まれて、今では答えにたどり着いているんだろう。
だから、今の頼みにも質問や疑問すら無い様子で了承をしてくれた。
さて、俺も動かないとな。
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「安藤、俺の負けだ」
仰向けで倒れてながら言う常峰は、反撃の様子がない。
完全に脱力しきっていて、瞬発的な動作準備もない様子だ。
「負けを認めんのか」
「あぁ、完敗だよ。これ以上続けても事態は悪くなるし、時間切れってのもある」
「時間切れだと?」
俺は常峰の言葉の意味が分からず聞き返す。そしたら常峰は、糸に引っ張られる様に不自然に起き上がり、傷や指の動きなどの確認を始めながら答えた。
「俺は親友としてお前を止めたかったが、まぁ面白いまでに返り討ちにあった。侮っていたつもりもないし、本気でやったんだけどな」
その答えに俺は少しだけイラついてしまう。
常峰が本気だったのは分かっている。さっきの攻撃は凄かった。
だが、俺が忘れているなんて思っていないだろう常峰。お前にはまだ先がある、次の段階がある、俺は時間を掛けすぎた。
それでいて、負けを認めて本気でなんて戯言を。
そんな事を考えていると、顔に出ていたんだろうな。常峰が苦笑いをしながら、言葉を続けた。
「そう怒るな。言っただろう、親友として俺はお前を止めたかったんだよ。ここから先は、俺は王として動かねばならん。なまじキーワードがキーワードなせいでな、今回の切り替えポイントだよ。だから、その前に少し話そうぜ」
親友として……その言葉が嬉しいと思ってしまうのが、自分ながらにズルいなと思ってしまう。
「話しって、さっきもしただろ」
「まぁ続きだ。俺の近況報告もどきなんだけど、ちょっと聞きたい事がまだあったんだ」
「まだ俺に聞くことがあんのか」
「あぁ、絶賛ラブラブなお前にだから聞きたいんだが……俺な、市羽に告白的な感じのされたんだ。だけど残念な事に俺にはそういう感覚がイマイチ分からん。だから教えてほしいんだが、惚れるってどういう感じだ?」
俺の中の時間が止まったような感覚がした。
え、今、なんつった? 市羽が常峰に告白? 常峰が思い込みをするとも思えないが、市羽が常峰に惚れるという流れが一切浮かばないんだけど。
さっきまでの緊張感は何処へやら。
俺の頭は混乱し、常峰が何を言っているのか理解するのに少し時間がかかった。
「ほれ、え? 常峰、お前マジで言ってんのか」
「俺も本気なのか分からないんだ。だが市羽が言うには、どうやら俺に惚れたらしい。な? 流れが分からんだろ? 俺にも分からんもん」
「だから俺に惚れるって感じを聞きたいと……」
「そうだ。だってお前、魅了抜きでモクナさんに惚れたって思ったんだろ? 安藤の思う様にでいいから教えてくれよ」
そう言われて俺は悩む。
惚れているのは間違いない。モクナの為ならばと、モクナが幸せであるようにと考えるし、そう願う。
だけどもっとこう……一言では片付けられないし、俺にはこの気持を的確に伝えられる言葉が浮かばない。
「お前からすれば庇護欲にも取れるかもしれないが、幸せであってほしいし、守ってやりたいし、モクナの願いは叶えてやりたい。一緒に喜びたいし、辛いなら寄り添ってやりたい……そして自分勝手かもしれないけど、それは俺でありたいんだ」
ダメだな。何を言っても足りない。
「なるほどな」
「いや、今のじゃ不十分だ。だから、ちょっとだけ待て、もっとこうだな――」
「十分だよ。お前の気持ちは良く分かった」
カツンと音が響いたかと思えば、もう少し重たく突き刺さる様な音が連続で響き始め、その数に比例して常峰の周りには大量の武器が突き立てられた。
そして常峰から感じる雰囲気と圧も変わる。
「俺は愛だの恋だのが世界を救うなどとは考えない。そもそも、そういうモノの理解に貧しい。経験が無いからなのか、興味が無いからなのか……まぁそれはどちらでもいいか。
ただな安藤、そういうのが結果的に何かを救うのだろうとは思う。その先の結果で救われた者が世界を救うのであれば、きっと愛が世界を救ったと言うのだろう」
「リアリストなのかロマンチストなのか分からねぇな。そんで、何が言いたんだ?」
「安藤、お前はモクナさんを愛しているんだろ?」
「あぁ」
「モクナさんの騎士なのだろう」
「……? そうだが」
全く常峰の言いたい事が分からない。
何を意味して聞かれているのかも。
「騎士は主を守らなければならない。そう思わないか?」
「あぁ、主の望みを叶え、守るのが騎士らしいとは思う」
常峰の言う主をモクナに置き換えれば、その言葉はすんなりと出てくる。そして俺の答えを聞いた常峰は満足そうに頷き、握った剣先を俺に向けた。
「忘れてないだろ安藤。お前は俺に命をくれている。故に王たる俺が、騎士たるお前に命令しよう。安藤 駆、守ってみせろお前の主を」
「は? 常峰、一体何を言っているんだ?」
「深く考える必要はない。お前は真っ直ぐに進めばいい。これは、親友を止められなかった不甲斐ない俺からの、出来る限りのお膳立てだ」
そこでやっと俺は気付いた。
モクナが俺を守ろうとした事に、こうして常峰と戦わせるのが一番俺にとって危険が少ない事に。
モクナは分かっていたんだ。常峰が俺を殺す様な事はしないと、俺も常峰も全力で戦ったとしても殺し殺されないと俺達が信頼している事を分かっていたんだ。
「わりぃな常峰。俺は本当に「みなまで言う必要はない」
俺の言葉を遮った常峰の表情は優しく、今までと何一つ変わらない目で見る。
「わりぃ事なんか一つもねぇよ。言っただろ? 俺とお前の仲じゃねぇか。気にせず、好きに、存分に……満足するまでやって来い。後顧の憂いは任せろ親友。
そしてその背中、惚れた女にくれてこい。んでちゃんと、その胸に抱いて帰ってこい」
それに対して俺は謝りたい気持ちを抑えて頷き、ユニークスキルを使ってモクナの持つ主の証を辿り、瞬間移動を発動した。
その時に、もう一つだけ分かった事がある。
最初から気付くべきだった。
ダンジョンマスターである常峰が、ああして俺と向かい合っていた事に。それでいて、扉を出すなんてダンジョン機能を使えていた事に。
常峰の攻撃は絶対的ではないが、俺の防御が絶対というわけでもない。
意識してやっとハッキリ分かる……そう、常峰が俺の所に来た時点で騎士の領域は、ログストア城内以外は全てダンジョン領域内だった。
「やっぱ常峰にはかなわねぇな」
「おや?」「駆……さん」
派手な服装と仮面を付けた男が振り下ろした剣を握り潰しながら呟けば、男は驚いた表情を浮かべ、モクナも涙目のまま驚いている。
周りを見渡せば、床に転がるモクナのナイフを見つけた。
「どうして」
「俺の親友はお節介らしくて、俺の王はまだ俺を騎士として見てくれているらしい」
俺がここに居る事に困惑しているモクナに言うと、意味が分からない様な表情を浮かべる。
そりゃそうだ。常峰の中で、俺は裏切り者ではないなんて理解できないだろう。そう考える俺でも意味は分からない。
だけど俺のやるべき事は分かる。
「モクナ、俺はモクナが死ぬ事を幸せだとは思わない。そしてそれがモクナの幸せだとも思わない」
「でも、駆さん……私は」
「終わったらゆっくり話そう。俺の為というのなら、一緒に生きようモクナ」
「はぃ、はいっ!」
俺はモクナを守る。
倒れ込む様に抱きついてきたモクナを優しく抱き返し、ちゃんと自分の手の中に居る事を実感していると、背後から拍手が聞こえた。
「いやはや素晴らしい! 美しいですねぇ、思わず涙がこぼれてしまいそうになりましたよ!」
大げさに泣いていますよと表現する男は、パン!と大きく手を鳴らして腕を広げる。
「このフェグテノ、人間がおりなす愛の物語は大好きです。儚く美しく、実に感情が揺さぶられる。そして、愛する者が死す瞬間、残された者が泣き崩れて喪失する様は胸が締め付けられそうにもなる」
フェグテノと名乗った男が喋る中、フェグテノを中心に広がる魔法陣からは死体の山が顔を出す。
「それが私はとても大好きなのです。美しいとは思いませんか? そこまで他者を思える心が、揺れ動く感情が、それ以外の全てを投げ捨てられる可能性を持つ気持ちは。素晴らしいですよね? 唯一無二でありながら、様々な形を持つ愛というものは」
尚も楽しそうに喋るフェグテノが指を鳴らすと死体は動き始め、閉まっていた扉が開いたかとと思えば、明らかに死んでいるログストア城の使用人達が入ってくる。
同時に後ろからギュッと服を掴んでいたモクナの手に力が入ったのが分かった。
「あ、もしかしてコチラの方々をまだ覚えていましたか? それはそうですよね、私を殺そうとした理由ですもんね!」
「どういう意味だ」
嬉々として語るフェグテノの聞いてみれば、フェグテノが手を挙げるのに合わせて二つの死体が深々と頭を下げた。
「ちょっと喋る事はできないので、代わりに私が。はじめまして異界の者よ、うちの娘がお世話になっています」
その言葉でモクナの手に入る力が更に強くなった。当然俺も頭を下げている死体が誰なのかすぐに理解する。
あの二人はモクナの両親だ。
既に皮膚はただれ落ち、かろうじて残っている肉も間違いなく腐っている。中途半端に保存処理でもされているのか、人としての形だけはかろうじて残っているのが不快感を更に駆り立ててきやがる。
「もう古くなったので素材にでもしようと思っていたのですが……いやぁ、良かったです。素材になる前に自分の娘の恋人に会えたんですから! そうだ、お話でもしますか? 私が仲介役として言葉の代理をしてしまいますが、あぁ、そうなればお茶も必要になりますね、いい所に使用人も居るので丁度いい」
一挙手一投足を大げさに振る舞うフェグテノの言葉に、死体達は拍手をしている。例え手に残っていた肉が嫌な音を立てて落ちようとも気にせずに。
「もういい」
「おや? ふんふん、なるほどなるほど。駆君、うちの娘はやらん! だそうですよ。いやはや怖いですね、お父さんというのは! さぁさぁ、駆君はどうしますか?」
「喋るなフェグテノ。お前はあまりにも不愉快だ」
震えて堪えるモクナの頭を優しく撫で、俺が一歩踏み出せば、俺の大剣が壁をぶち壊して現れる。
その飛んできた大剣を握り、フェグテノへ向けて振り下ろす。
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多分あの辺だよな?
安藤が武器を忘れて移動した事に気付いた俺は、新道に安藤の位置を聞いて大剣をぶん投げた。
新道が言うにはあの辺に居るらしいけど、多分ちゃんと届いてる。きっと、うん。
「さて、様子見は終わりか?」
大丈夫だと自分を言い聞かせ、振り返りログストア城を背にすれば、以前にエルフの里の時にシェイドが相手した魔族がその他大勢を引き連れて現れる。
確かニルニーアがシューカと呼んでいたな。
「やっぱり気付いていたのね。これでも隠れるのは得意なのよ?」
ダンジョン領域内である以上、俺が意識して気付かない訳がない。それに、堂々と団体様で領域内に転移魔法を使って現れるなんて、嫌でも気付く。
「悪いが、今ログストア城内は立入禁止、非公開なんだ」
「ふーん。別にいいわよ? ログストア城に用事なんてないもの。私の用事はあ・な・た」
シューカが手を上げた瞬間、それが合図だったようで魔族達は魔法を、魔物達は俺へ目掛けて動き始めた。
俺に用事という事はアーコミアの指示か。
先に迫る魔法を視界に捉えつつ考え、大方狙いが分かった俺は踵で地面を踏み鳴らす。すると、地面に現れた穴から大量の白紙が巻き上がり、魔法が紙に触れると吸収されて消えていく。
流石ドラゴニクス親子の品だ。注文通り、しっかり魔法を吸収してくれる。
一枚で一つしか吸収できないし、吸収したからと言って放出なんてできない。あまりに大規模な魔法も吸収できないとあるが、数の持ち運びに困らない俺からすれば十分な武器だ。
同様にダンジョン領域内であれば、俺は他の武器の持ち運びにも困らない。
「あら、さっきの戦いは本気じゃなかったのね」
地面に刺さっていた武器を魔力で操り、近寄ってきた魔物から両断していく俺を見て、そんな事をシューカが呟いた。
違うぞ。俺はさっきも本気だった。
「親友として本気だった。ただ、俺の全てをぶつけたわけじゃない。安藤は別に、俺の敵ではない」
「屁理屈は嫌われるわよぉ」
「俺の理屈だ。そして敵には容赦しないと決めている。邪魔をするなら、相応の覚悟をしろ」
「お友達の為に頑張る子は、好きよ私」
「言ってろ」
――我が王也。
その一言で待ちわびた様に枷が外れ、周囲は静寂に包まれた。
ちょっとバタバタしている為、もしかしたら次の更新は少し遅れるかもしれません。
ブクマありがとうございます!
これからもお付き合いいただけたら、嬉しいです!