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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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ご武運を

短めかもしれません

当然百点の回答なんて出来ない俺は、その後も軽く情報共有に加えて市羽の予想を聞いて念話を切った。と同時に自分でも驚く程の深い溜息を漏らしてしまった。


「なんと言えば良いのやら……いや、そもそもだ。恋愛ってなんだ」


ぐるぐると頭の中を回る言葉を理解はしていても共感ができない。そうである'必要性'なんていう単語が、きっと俺の共感を削ぎ落としている。

そんな事が分かってはいても、俺がこの事柄に明確な対応と答えを出す日は一体何時になるのやら。


「はぁ、面倒だな。止めだ止め。こんな事を考えていると、眠くなってきて仕方ない。流石に今寝るとか、確実にダメだろう。目が覚めたら大国が滅んでましたとかなってたら、アッハッハッハ……はぁー……」


しかし、寝たい。

そんな言葉を必死で喉元辺りで抑えつけ、頭の中もゆっくりと吐いた息と一緒にリセットをかけると、今の状況と今後の予想を整理していく。


まずログストア城制圧は、十中八九魔族の仕業だと考えていい。

その目的として挙げられるのは、侵略、宣戦布告した俺への当てつけ、他の場所を落とす為の陽動など色々と出てくる。今挙げた全部を目的としていてもおかしくはない。


しかしこの目的の先にアーコミアが掲げる'魔神復活'が絡むとなると……ログストア国自体にも何らかの用事があると考えられる。

侵略や当てつけ、ましてや陽動だけならログストア国である必要はない。何気なくで選ぶには、アーコミア側にもそれなりのリスクがある。もしもあるとしたら何だろうか……何処でも良かったわけではなく、ログストア国でなければならない理由は。


うーん、考えるのは良いが、今この疑問にこだわるのは無意味かもしれないな。魔神復活に関する情報の少なさから、相手の次の関連する動きが予想しづらい。浮かぶモノは多いものの、そこから削れない。

予想出来る中で手遅れを避けたいモノに対しては手を打ってあるし、全てを指示した所で視野を狭めてしまうだけだろう。

皆と流れに任せつつ、もう少し情報が集まれば見えてくるモノも変わってくる。


「俺達が動きを見せてアーコミアが傍観だけするってのは、まぁまず無いだろうしな」


今まで大した動きと反応を見せてこなかったのにも関わらず、突然してきた宣戦布告は、余裕の現れとも取れるが、逆に焦りであるとも取れる。

アーコミアの中で俺等への認識が変わった現れであるなら、現状はアーコミア達の動きをハッキリと把握するのにはチャンス。


うん、こう思っていたほうがプラスだな。


《エマスさんと江口が孤島の皆を保護した》


《相手にはバレたか?》


《今の所、動きはなさそうだね。でも、これだけ手際が良いのに監視が薄すぎたから、別の方法があってバレてると思ったほうが良さそう》


《そうだな。わざわざ監視を付けているのに薄いのは、俺達の動きの目安にしたいのかもしれんな。

しかしまぁ、だからといって孤島の人達を蔑ろにはできない。エマスがダンジョン領域内に入り次第、扉を繋ぐ》


《分かった伝えておくよ》


新道との念話を切った俺は、エマスが領域に入るのを待ちつつ、ラフィの元へと扉を繋げて移動した。


「ラフィ」


「我が王よ、お待ちしておりました。ご指示の通り、召喚した魔物達をダンジョン内の偵察に向かわせております」


「頼んでいた物は?」


「それもこちらに」


そう言うラフィの隣にある荷台には、ラフィとセバリアスが用意してくれた大量の白紙束と、シーキーが用意してくれた特製の靴が乗っていた。

俺は、その少し重めの靴に履き替えて感覚を確認しながら、念の為に紙の確認をラフィにする。


「一応ダンジョンの機能で召喚できるんだよな?」


「ダンジョン領域内に限りますが、道具設置の要領で可能だと、その昔に初代が仰っていました」


なるほどコア君が実践済みか。それなら、戦いながらでもダンジョン領域は弄れた方がいいな……ってわけで、コア君に任せた。


手を前に翳せば、手のひらからヌルヌルと出てくるモノを見て目を丸くしている。


「我が王、それはもしかして」


「ダンジョンコア――の子機だ」


「こ、子機ですか?」


「セバリアスとルアールにも渡してあるが、念の為にラフィにも渡しておく」


「我が王が私に! 有り難く頂戴いたします!! それで、これは御守りか何かでしょうか?」


「御守りっちゃ御守りだ。あまり便利なモノではなく、誰かが砕けば全部発動するけど危ない時に砕けばいい」


「そんなダンジョンコア――ましてや、我が王からの贈り物を砕くなんて!!」


「あぁ、それは問題無いから安心してくれ。また欲しけりゃ用意しよう」


コアの子機というだけあって、大本のコアは俺が持っている。子機を作り出すにはかなり魔力を使う割に、誰かにダンジョンコアの権限を貸し出す事しかできないのでコア君ですら使ったことの無い機能だ。


だけどまぁ、俺にとって便利な機能だった。おかげで切り札を一つ用意できた。魔力に関しての問題は俺にとって無いに等しいしな。


「そ、それでもですね我が王……」


「必要なら渋らず使ってくれ。幾つでも作り出せるソレより、ラフィやセバリアス達を失うほうが俺は困る」


「んんっ、勿体無きお言葉! では我が王の為に私は武器の準備をしてまいります」


「あぁ、それじゃあダンジョンの事は任せる。後、白玉を城の大広間に呼んでくれ」


「任せください。それでは皆を代表して――我が王よ、ご武運を」


にへっと嬉しそうに表情を崩したラフィは、大事そうに子コアをしまうと深く一礼をして部屋から出ていく。

それを見送った俺も靴の具合を確認し終えて、丁度エマスの気配も拾えたので大広間に繋げ、自分用にログストア国へ直接扉を繋げ向かった。



「新道、現状報告を……なんか、店内ってこんなになってたんだな」


一時拠点として、ログストア国にある皆傘の店に繋げたのは良いが、いざ移動してみると店内は壁一面に蔦が蔓延り、至る所に花が咲いている。

前に外から見た時、こんなんだったっけ?と首を傾げていると、新道も現状報告のついでにこうなっている理由を教えてくれた。


「今の所、魔族はまだ動き出してないかな。住んでいる人達も同じ様に、いつもと変わらないみたいで問題は起きていない。皆傘が王都中を監視しているから、異変がアレばすぐに気付くと思う」


「その監視にこの部屋の状況が関係あるのか」


「俺も驚いたよ。ログストア城が制圧されたと分かって戻った時、いきなり店内に生えたんだ。聞けばそういう理由らしいよ。あぁ、それと避難時のルートだけど――」


流石に自然発生じゃなくてユニークスキルだよな。

これだけ咲いているのに、臭いが強いわけでもないし花粉が舞っている様な感じもしない。そう言えば、ログストア国の地下通路にも蔦を張っているみたいな事も言っていたか。


「ふふふ、キングさん、少しいいかしら」


テーブルの上に広げられた地図に印を付けながら新道と話していると、おそらく商品であろう花の手入れをしていた皆傘が手を止めて話しかけてきた。


「動きがあったか?」


「いいえ、多分エマスさんも気付いていると思うんですけど、ハルベリア王さん達は皆さんと別の所に捕らえられているんですよぉ」


「一応新道越しだが、エマスから聞いている。城内地図が無いから分からないが、ある程度の場所もエマスと江口は把握できているんだよな?」


「ふふふっ、それでも何やら感知しづらい場所があったんですけど、今見つけましたよ。晃司、アレは用意できた?」


「こちらに」


ササッと十島がテーブルに広げたのは、右上に'ログストア城'と書かれた見取り図。


王都の地図とか、皆傘の希望する部屋を書いていた時にも思ったんだけどさ。十島って見取り図書くの上手いな。びっくりするほど見やすい。


「ふふっ、まずこちらに使用人の皆さんがまとめられているようです」


そう言いながら近くにあった羽ペンで印を付け、そしてハルベリアさんは……と別の階層の一部屋に印を付けていく。

次に大臣の人達がまとめられている場所、そしてと言葉を続けて二箇所印を付けた。


「ここは?」


「えーっと、ここは子供部屋でチーアちゃんだったかしら? あの子が一人で居るみたいですよぉ。そしてこちらには、ウィニさんがいらっしゃるみたいですよ」


「よく分かるな」


「ふふふ、お花屋さんなので、ご贔屓にしてくれているお客様の事は分かりますよ。顔も城内も」


普通の花屋は分からんのでは?とも思うが、今は置いておこう。それよりもウィニさんとチーアの事だ。


チーアを逃がす為にウィニさんが囮になって捕まった。と考える辺りが妥当かな。チーアの正体を知っているかは分からないが魔族の手には……ん? もしかしてアーコミアの目的はチーアか?


「ただですねぇ、ウィニさんの方は少し危ないかもしれないですよ? その部屋には魔族も居るようですし、花達が血を吸っている様なので、拷問でもされているんでしょうかねぇ」


「出血量が分かるか?」


「あらあらごめんなさい。そこまでの詳細はわかりません。ただ花達が困るほどなので、把握できない部分まで考えるとすればぁ……致死量は越えていてもおかしく無いかもしれませんよぉ」


ふわっと浮かぶ柔らかい笑みとは裏腹に、皆傘の口から出た言葉はかなり危ない状況が予想される。


ウィニさんが神の子と言えど、人とあまり変わらないと言っていた。それに、本当にチーアが目的ならウィニさんの事まで知っていてもおかしくはない。

何か知りたい事がある拷問でいきなり殺しはしないと思うが、どうせ城の中に居るならと虱潰しに出るのも時間の問題だな。


「新道達は準備をしてくれ。このタイミングでウィニさんを失うわけにはいかない」


「ふふふ、顔は出さなくて良いのですよね?」


「三大国産のローブさえ着てくれればいい」


「分かりましたわ。晃司、湯方君と篠崎君も、秋末君が武宮さんの護衛から帰ってきたらすぐに出れる様にしておける?」


「「「かしこまりました」」」


後は任せていいだろう。エマスも、もう少ししたら戻ってくる。さてと……全てが動き始める前に、やって置きたい事があるし、行くかな。


「頼む。俺は先に行くけど、新道にこの後の大まかな事を任せていいか?」


「エマスさん達と予定通りに動いておくよ。優先は今の様子だとウィニさんからでいいんだね?」


「できればチーアからが理想だが、現場での判断は任せる。俺からは'可能な限り死なせるな'それだけを頼んでおく」


「分かった。行って来い常峰、こっちは俺に任せておけ」


「頼りがいありすぎて焦るわ本当……皆、俺に気を使いすぎだ」


俺の肩を軽く叩く新道に、何やら優しい顔で見てくる皆傘に加えて、まさかの親衛隊の三人からも温かい視線が。

流石に気恥ずかしい。


けどここまで期待されたからには、なぁなぁにはできないな。


「まぁ行ってくる」


軽く手を上げて店を出て空を見る。

何やかんやで時間は経ってしまって空は暗いが、見上げた空はいつもと変わらず、少し騒がしく感じる街もいつも通りなのだろう。


「さてと、待ちぼうけくらわせた文句でも飛んでくるかねぇ」


大通りに出て人混みの中を歩く先には、これまたいつもと変わらないログストア城が佇んでいた。


----

--


「まだ喋る気になりませんか? ウィニ」


扉を開けて入ってきたモクナは、飛び散った血が跡を残す部屋で服も与えられず拘束され、吊るされ、既に両手にはポッカリと穴ができ、血を全身から滴らせているウィニに話しかけた。


「……モクナさん、魔族の、方々は拷問、もう少し勉強した方、が、いいですよ。オススメ、書物庫から持って来て、あげましょうか?」


対するウィニは、ヘラヘラと笑みを浮かべて、喋りづらそうに答えてみせる。


「それはいいのでチーア様の居場所を教えてくれませんか? これ以上は、間違えて殺してしまうかもしれません」


「チーア、様? はて、なんのことか」


「随分と長く生きているようですが、ウィニは誤魔化し方を勉強した方がいいのではないですか?」


「数百も、生きていない小娘、相手に、は、分かりやすくという、心がけが、活きてしまって、失礼しま、した」


「哀れですね」


「えぇ、とって、も、哀れですよ、モクナさん」


掠れている声にも関わらず、ウィニはしっかりとモクナの目を見て言葉を紡ぐ。その見透かすような目と言葉に、思わずモクナは自分から目を逸らしてしまう。


「でも、モクナさんは、恵まれま、したね。安藤さまが――」


「私は戻りますので、また様子を見に来ます。ウィニ、元同僚としてチーア様の居場所を教えてくれれば助けてあげるので、あまり粘らないでください」


モクナはウィニが喋っているのを無理矢理遮り、部屋の中で拷問をしていた魔族達に告げ、最後に未だに見てくるウィニに対して一言を残して部屋を出ていく。


扉が閉まれば拷問は再開される。そして、またウィニの噛み殺しきれない悲鳴が響くだろう。

だが扉が閉まる前にモクナの耳にはハッキリと聞こえた。


「夜を従え敷く背が来ましたよ、モクナさん」


バタンと閉じた扉の向こうからは、喉が切れた様な音を漏らす声が聞こえる。それを背にして城内を歩くモクナの頭からは、ウィニが言った最後の一言が離れない。

その言葉が誰を指しているかなんてモクナには分かっている。


常峰 夜継。

私が慕ってしまった駆さんの無二の親友で、彼等は今、私のせいで敵同士。


二人の名を思うだけでモクナの心は揺れてしまうのだ。

自分の為に親友を裏切った安藤と、それを許容する親友。対する自分は、慕う者の為にすら動けず、手を差し出して貰い救って貰うばかり。


そう考えると、モクナの足は止まってしまう。その場にしゃがみ込み、頭を抱えてしまうのだ。幼少の頃より掛けて来た目的の為の時間よりも、今の安藤といる僅かな時間が心地よく、自らそれを破壊しようとしているのが分かってしまうのがモクナを心を締め付けていく。


「何を迷うのですか。駆さんに甘えた代償なんて、分かりきっていたことでしょう。もう後戻りなんて、今更すぎるでしょう。私の全てを終わらせる為に、私から駆さんを解放するために、お父さんとお母さんと、村の皆の為に……止まれないんです」


荒れた呼吸を整えたモクナは、変わらない表情を貼り付け、しっかりと前を見て歩き慣れた城内を進む。

そこに先程生まれた迷いはなく、心を惹かれた安藤の言葉も心の奥にしまい込む。それはモクナの宝物であり、最後の後押しと最初の後悔をもたらした時間。


それを共有したいのは、この世界で唯一人。


「駆さん、ご武運を」

最近時間が取りづらいです。

なるべく遅れないようにがんばります……。


もしかしたら、次からは章も新しくするかもしれません。悩み中です。



ブクマ・評価・感想ありがとうございます。

是非最後までお付き合いいただければ、嬉しいです!

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