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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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魔族の一手

ローバープラントの訓練を始めて一時間程。

訓練をする気のない俺は、観戦というか……少し離れた所に椅子とテーブルを用意して訓練の様子を見ていた。


最初こそ、わーわーギャーギャーと絶叫に加えて俺への罵声を飛ばしていたクラスメイト達だったが、今では普通に訓練している。

追加で言えば白玉さんとエマス、そして休憩がてらに指導の手伝いに来たダンジョン勢の数名以外は、クラスメイト達と一緒になって指導を受ける側に回っている。


にしても……真剣だからなのか、俺が知っている以上に場数の違いがあるのか分からんが、クラスメイト達はなんであんなにもローバープラントに慣れるのが早いんでしょう。

俺は今でもコア君考案訓練は、出来る限りご遠慮願いたいというのに。


どんどん立ち回りも上手くなり、ローバープラント達の攻撃速度と手数も上げていくクラスメイト達を引き攣りそうになる頬を抑えながら見ていると、その中から一人抜けて白玉が俺の元へと来た。


「夜継様は、ご一緒に訓練は?」


「遠慮しておきます」


「それは残念です」


俺の反応を見てクスクスと笑う白玉の為に椅子を呼び出せば、白玉は軽く頭を下げて腰掛ける。その様子に気付いたのか、ダンジョン勢一人が俺に向けて深々と一礼してこの場から離れていった。


少しすれば飲み物やら何やらが用意されるだろう。下手に俺が手を出すより美味いし、そっちは任せるかな。


「夜継様とメニアルさんの戦い、ご拝見させていただきました。最後の方に負傷した手は、大丈夫なのですか?」


「とんでも体質なもんで。寝れば治りました」


「まぁ!」


驚く仕草と共にチリン…と尻尾の鈴が鳴る。

九つの白い尾に、全ての尾先にある九つの鈴。曰く武器でもあるそれは、自然に鳴る他に白玉さんの心情に呼応して鳴る事が多いらしい。


孤島から逃げる際に、白玉さんはかなり無茶をしたと聞いた。こっちではそんな素振りを見せないが、ログストア国に到着したと同時に倒れたとも聞いた。

こうして話せて鈴が鳴るって事は、多少は白玉さんもこの生活に馴染み始めてる証として良いんだろうか。


「でも大変だったとお察しします。先日ログストア国からお戻りになったばかりで、メニアルさんとの戦いでしたよね」


あぁ、なるほど。ハルベリア王が保護している人達の事が聞きたかったのか。

確かに白玉さんからすれば、早く合流したいよな。


「岸達や消えない篝火の皆さんの手伝いもあって、エルフ達の移住は予定より早く進んでいます。孤島の皆さんを連れてくる事も問題ありません」


「そうですか……。千影や菊池にはお会いできましたか?」


「千影さんと菊池さんですか? いいえ、向こうでは会っていませんね。孤島の皆さんはハルベリア王の管轄で保護されているようです。おそらくお二人も皆さんと一緒にいるかと……何かありましたか?」


俺が聞くと、白玉さんは少し考える様子を見せながら口を開く。


「千影と菊池はしっかり者なんですけど、この四日ほど連絡が途絶えておりまして」


「念話でも使っていたんですか?」


「いいえ、念話ではありません」


言葉の後にチリンと音が鳴ると、白玉さんの手の上には袖から出てきた折り鶴が止まる。


その折り鶴がどうやら連絡方法のようで、白玉さんが開いて見せてくれた中にはログストア国で保護されている孤島の人達の事が書かれていた。


「それ以降連絡が途絶えてしまっています。何か心当たりがあればと思った次第でした」


「いえ、一応孤島の皆さんはログストア城付近の施設に居るとは聞いています。逆に言えば、ハルベリア王が保護してくれているという事で、任せても問題無いと考えていましたが……気になりますね」


連絡している事を知ったとしても、相手が俺という事が分かればハルベリア王は止めないだろう。俺の知らない連絡手段だが、セバリアス達が気付いていたとしても止める前に俺に一言あるはず。

逆にセバリアスすら気付かなかったのなら、誰がそれを邪魔できるのか。


検討を付けられる相手が魔王ぐらいしか出てこないな。


でもなぁ……下手に邪魔をすれば白玉さんは気付きそうなもんだし、予想できるのは菊池さんと千影さんが連絡すら飛ばしていない。又は飛ばせない状況って所が妥当か。


四日前からとなると、ハルベリア王が動くよりも前にオーマオが何か仕組んでた……それか、そろそろ安藤とモクナさんが何かしらの動きをし始めたのか。

そうなると、ダンジョンの領域を縮めてくれっていうハルベリア王の手紙も怪しいな。


「すみません、今から少し調べてみます」


「お願いします」


これは……早急に対応が必要かもしれない。


とりあえず千影さんか菊池さんを見つけようとしたけど、ダンジョン領域がログストア城の方へ広げられない。魔力が足りないわけじゃないようだし、別のダンジョン領域がある訳でもないのに、何か別の領域ができている。


俺への干渉はユニークスキルで完全に防げるけど、俺が干渉する場合は話が違う。する側の場合は別に俺が絶対的優位という事はないし、ダンジョンの機能となれば俺のスキルという訳でもない。

防ぐ手立てはいくらでもあると考えられる。ダンジョンに関しては、間違いなく俺が知るより研究されている可能性だって高いだろう。


あぁ、ダメだな。色々考えて、可能性を考えてもチラつく。このわけわからん領域がユニークスキルなんだろうなって。


「今、少し探ってみましたが、ログストア国で何か起きている可能性があります。場所が場所なだけに下手な手出しができません。先に安全確認だけは済ませます」


「大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよ」


仮に安藤が何かしているのならば、本当に大丈夫だ。モクナさんの目的が分からんが、今まで秘密裏にしていた動きに加えて、孤島の人達の存在は俺に対しての人質にもできる。

散々俺に裏切りの可能性を示唆してたんだ。信頼あれど、多少なりとも俺を警戒している証拠だろう。そんな俺への抵抗手段を自分から潰すとは思えない。


仮に安藤じゃなくて、オーマオみたいな輩だったとしても今はまだ大丈夫だろう。メニアルとの戦闘後の様子を見るに、それなりに俺は注目されているし警戒されている。すぐに動くのは分が悪すぎる。


考えられる中で高い可能性のモノは、ある程度理由ありで大丈夫だと言えるな。これがハルベリア王の気が変わったなり、魔族の仕業なりだった場合はまた変わってきてしまうけど。


「エマス!」


とりあえず今は、安全確認優先で情報が欲しい。


「如何なされましたか? 我が王よ」


「新道達を連れてすぐにログストアへ戻ってくれ。到着次第、ハルベリア王が保護している孤島の者達の安全確認を取ってきて欲しい」


「かしこまりました……もし、戦闘になった場合は」


少しの間を置いて問いかけてきたエマスの雰囲気は、どことなく何かを察した様子だ。


できる事なら何事も無く、荒立てる事も無く済むのが理想。しかし何か起こっていた場合は、それは難しい。

エマスには臨機応変に即時対応する必要が出てくるかもしれないから、ある程度は自由にしてもらったほうが良いだろう。


「状況判断に任せるが、優先目標は孤島の者達の状況確認。場合によっては保護だ」


「お任せください。我が王のご期待にお応えしてみせましょう」


「頼んだ」


一礼で返して新道達の元へいくエマス。

おそらくこれで今日中には状況が掴めるだろう。


俺が気付いた事に気付くか、元より気付かれている体で行動していなければ穏便に済む。

逆に気付かれていたら、抵抗や対策がされていると考えていいだろう。その場合……荒事は覚悟しておかないとな。


「夜継様、私もログストアへ伺いましょうか?」


「嬉しい申し出ですけど、今回は待っていてください。戻ってくる場所には絶対に白玉さんが居たほうがいいでしょう」


「それは暗に戻れなくなるかもしれない……そう仰ってるのですか?」


「かもしれないってだけですよ。物事、何が起こるか分かりませんからね」


何が目的が分からない以上、そんな所に白玉さんを送り出せない。

いや、というよりは、白玉さんが出向いた結果、白玉さんに危機が迫って菊池さんや千影さん、その他が身代わりになっちゃいましたーなんてことになったら面倒だ。


心配なのは分かるが、大人しくしといてもらおう。


さてと、新道達もエマスから話を聞いて準備に向かったようだし、後は最悪の展開と面倒な展開が起きた場合の処理準備をしますかね。

そのためには、岸達にも動いて貰わなきゃいけないな。


「岸!そろそろ始めようか」


「うぇーい!!! おけぃスリーピングキング!!」


俺は長野達とじゃれている岸の名前を呼ぶ。

願わくば、この準備が徒労に終わる事を祈って。


---


ピチャン……と水が跳ねる音が反響する中で、俺は自分の手の感覚を改めて確認する。


自分で潰した手だが、白玉さんに言ったように綺麗に治っており、痛みや違和感は無い。そのはずなんだが、やっぱり潰した記憶があるせいか、若干不思議なもぞがゆさを感じる。

軽度の幻痛と言えばそれらしい。あくまで俺のイメージのせいで起こる現象だ。


「しっかし、こうして湯に浸かってると血が巡ってるなぁって実感するわ」


反響する独り言と共に、両手の指先までしっかりと血の巡りを感じている俺は、今日の出来事の整理をしていく。


朝っぱらから書類整理とニルニーアの訪問。そこからニルニーアに関する情報整理を終えて、岸の頼みを聞いた。

ついでにやる気のクラスメイト達の為に訓練をしていると、白玉から菊池さん達の様子を見て欲しいという流れになって、エマス達をログストアへ向かわせた。

後に岸の戦力強化と共に長野達も個々で欲しいモノがあるとの事で、ダンジョンの機能で出せるモノはある程度用意した。んで、並木を抜いた岸達異世界巡り組も送り出した。


並木が居るだけで、後はいつもの畑と中満、柿島の三人だけか。できれば橋倉にも残ってもらって帰還の方も進めたかったんだがな……それは古河と並木に止められ、佐藤と長野にはめっちゃ力強く肩を掴まれた。


べらぼうに多い資料達を見ていくには人手が欲しい所だが、並木が頑張るとか言っていたし頑張ってもらおう。

一応セバリアスにも、今まで通り手が空いた者達にも手伝ってもらう様に頼んでおくか。


「リーファ王女にも手伝ってもらいたいが、ログストアの状況が掴めるまでは保留だな。何かトラブルがあった場合リーファ王女はハルベリア王の娘、ただで転ばんだろうし……何より、今のリーファ王女は何をしでかすか分からん。突発的に動く可能性が高い分、ハルベリア王より厄介に思っちまう」


何はともあれ、今はエマスの報告待ちだな。ログストアで何が起き始めているかの確認が取れないと、どう手を打つか結論が出しきれない。

しかもヒューシさんには、もうギナビアからペニュサさんの事が伝わっていてもおかしくないし、その事も処理しておかないとなぁ。

リュシオン国はその後の動きがないのが逆に怖いし、何故かリュシオン支部ギルド長は俺を高く評価しているような感じの報告が鴻ノ森からあったし。


あああああ、だるい。細々なの切り捨てて、大きなのだけでもダルい。それにこれに加えて魔族だろ? 俺に何してんの?って誰か言ってくれ。

そしたら分からん。って言って変わるから。中立国あげちゃうから。


「まぁ、もう俺個人で決められないんだけどな」


ハハッと乾いた笑いも反響して俺の耳へ戻ってくる。


ダンジョンは譲らないとして、中立国ももう無理だ。メニアルとの一件がそうさせている。

メニアルの顔に泥を塗ってそんな事をしてみろ。暴動が起きかねないし、寝起きの俺を誰かに暗殺されかねない。主にジレル辺りが率先してやる気を出すだろう。


「さて、愚痴はこの辺にしておくか。これ以上続けると、そっち方面に進めようと考え続けちまうしな」


一度頭まで浸かって思考をリセットして、大きく息を吐く。


色々と考えた時、どうしてもモクナさんのやり方と目的が見えてこない。

安藤が絡んでくる事は事実だろうが、それ以外が分からん。安藤が裏切りだと思っているだけで、蓋を開ければそうでない可能性すらある。


俺達の動きは安藤から伝わるが、モクナさんの動きや目的は安藤で止まる。おかげで誰が協力者かも分からないし、モクナさんが持つ魅了を考慮すると……野郎は全員怪しく思えてしまう。

だからと言って同性がそこから外すこともできない。


「疑う事しかできないのは面倒だな」


やっぱり今の俺が崩せるのは安藤かモクナさんの情報だけか。


「くくっ……まぁ、安藤は俺と違って真っ直ぐだからな。言えん!と一言で切り捨てられるのが目に見える」


本当に、一番やりづらい相手だ。

物事に対しての温度が違いすぎて、こういう時に俺と安藤が理解し合うのは難しい。そこが本当、羨ましい。


……モクナ・レーニュか。

幼少期に親族を失い、ゼスさんに拾われてログストア城の使用人となる。長年仕えている為、使用人の間でも信頼は厚く、ハルベリア王からも信頼を得ている。んでもって魅了(チャーム)のスキル持ち。


戦闘力不明、性格も俺は分からん。だけどおそらく表立った発言力は無いものの、ログストア城では彼女の発言は無視されるモノでもないだろう。

いつから目的を持って行動しているかは知らないが、一番予想として上げやすい協力者は――やっぱオーマオ・ドブロスだな。


ログストアの人間を知らなさすぎて、それぐらいしか上げられないのが悲しいわ。

でもなぁ、オーマオだった場合、リピアさんが何か知っていそうなもんだし、ギナビアが絡んでくる可能性も出てきてしまう。


市羽がなんかやらかしたであろうギナビア国が、今のタイミングでこんな動きをするか? いや、それは考えにくいだろ。

仮にリュシオンの人間だったとしても、コニュア皇女が見逃すだろうか。絶対とは言い切れないが、無いだろう。東郷先生――聖女という存在は大きいすぎるはずだ。


「持っている情報を照らし合わせて考えても、やっぱりモクナさんの目的は見えてこない。もしかして、もっと個人的な目的か?」


ちょっと気分転換にと冷たい水を頭から被った俺の脳裏に、ふと考えが浮かぶ。


「いつの間にか国単位で考えすぎていた。もっと個人的な目的だとした場合、その枠に嵌めるのは無意味だ。もっと自由に考えていい……そう、例えばモクナさんの協力者は魔族だったり」


自分で考えて鼻で笑っちまう話だ。

モクナさんが天涯孤独になったきっかけは魔族だ。それなりに恨みがあってもおかしくないだろう。むしろ、協力し合うなんて以ての外だ!と思っている方がそれらしい。


その感情を俺は測れないけど、家族や友達、知り合いとかその時の夢とかは村ごと魔族に殺されている。

魔族に復讐する!が目的でもおかしくないわ。


「ん? いや待て……確かモクナさんは、ご両親の機転で床下だか地下だかに隠されてたんだよな?」


なんでモクナさんだけ見つからなかったんだ?

たまたま見つからなかった? ゼスさんがたまたま見つけた? 思考できる魔族が、地下を見落とす事があるのか……?


いやいや、偶然を予想するのは難しい。何か細かな要因があっての結果かもしれない。だけどもし、モクナさんは本当は魔族に見つかっていて、生かされただけだとしたら。


「生かされた理由があるとしたら……」


冷ましたはずの頭で浮かぶ事は、思いの外納得できる事なのに、それが正解だとは考えたくない。

安藤がどこまで知っているかは知らんが、全て知っていた場合を考えると、これから起こる事は俺にとって最悪だ。


こんどはさっきと違って、否定する為に理由を探している俺を嘲笑う様に、新道から念話が届いた。


《常峰、ログストア城が魔族に占領された。そして――安藤が裏切った》


ははっ……嫌な予想ってのは、どの世界も共通で当たるもんだ。

もう九月も終わりが近いですね。

今年も、残り三ヶ月とちょっとだなぁと考えると、とても早く感じます。中々物語は進まないのに……なるべく進む様にがんばります!



ブクマありがとうございます!

よろしければ、最後までお付き合いください!

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