表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
160/236

戦う為に

ニルニーアが帰り、書類整理を半分ほど終えた頃。丁度一息つきたいなと思う俺を見越してか、ナイスなタイミングで飲み物と軽いつまみを持って、セバリアスとルアールが俺の部屋に来た。


「この世界、おかき作れたんだな。ルアールが作ったのか?」


「いえ、作ったのは畑です。そして畑もそんな事を言っていました。魔族が持っていた米を見て、畑が驚いていましたが、我が王が居た場所では珍しいものなのですか?」


「珍しくはない。それどころか、一般的なお菓子だ。ただ米にも種類があって、俺はあんまり詳しくいなんだが、これを作れる米は粘り気が強い米なんだよ」


「米の種類ですか?」


「そうだ。こういう粘り気のあるのを糯米(もちごめ)って言って、普通のを粳米(うるちごめ)なんて言ったりしてな。糯米で作るのは、おかきとかあられとか言うお菓子で、粳米は煎餅って言うお菓子になるんだよ」


「畑の調理を見ていても思いましたが、米で菓子を作るという感覚は何処か新鮮ですね」


「乾燥したお供えモノを、どうにかして食べたようとした結果から生まれた。なんて言われてるけど、確かにどうやってコレが生まれたんだろうな」


気晴らしのお菓子談義も程々に、俺は二人を呼んだ本題に入ろうかと、書類整理ついでに俺の知っているニルニーアの事をまとめた紙を探す。


あれ、どこやったっけ。見つからね。


「我が王、お探しものはこちらですか?」


「ん? あぁ、ありがとうセバリアス」


俺の動きで何か探しているのを察したセバリアスは、ささっと近場に落ちていた紙を拾い上げて俺に手渡してくれた。


なるほど、落ちてたのか。

それじゃ改めて。


「ルアールもセバリアスから聞いていると思うが、少しニルニーアについて教えて欲しい。俺が知っているのは、血を操るスキルなり魔法なりを所持している可能性。それと脅威と思える程の死ににくさ。後、ちょっとドの超えた変態気質である可能性だ」


……。

少しの沈黙が刺さってくるような気がするが、仕方ないだろう。本当にこれぐらいしか思いつかなかったんだ。


さっき話した時も、死にかける事を望んでいる節以外は俺の品定めをして、アーコミアが持ってきた話しの時は分かりきっていた流れをなぞっている様に感じた。

正直に言ってアーコミアに与している理由が分からない。


なんとなく……そう言われても納得する。それほどにニルニーア個人の意思が見えなかった。

しかしどうであれ今は敵の戦力。好戦的な雰囲気がチラついた以上は、できるだけ知っておいて損はないだろう。


「我が王のお考えどおり、ニルニーアは血を操る事が可能です。私が知る限り、彼女は現在数少ない吸血鬼の中でも最古の吸血鬼。何より始祖の吸血鬼の血筋なので、基本的には不死と言っても過言ではありません」


基本的に不死って、不死ではないのでは? とも思うけど、認識の違いか。


俺はチラッと視線を移動させ、自分でやったにも関わらず綺麗に元通りになっている自分の手を見る。

あの時は確実に骨までどうにかなっていたはずなのに、寝て起きた時には、痛みも無く後遺症も無く全快していた俺の手。


骨が粉々になっていた可能性もあるし、アドレナリン全開じゃなければ大声を上げてのたうち回っていてもおかしくなかっただろう。自分でも、あの時に喋れていたのが不思議なぐらいだ。

それもこれも、俺の手まで治してしまうスキルのおかげなのだろう。呆れてしまう超回復……傍から見れば、コレも不死に見えるのかもな。


「それでセバリアス、基本的に不死という事は死ぬんだろう?」


「死ぬと言う表現が合っているのかは悩みますが、血の一滴まで乾けば消滅するでしょう」


なるほど。ニルニーアは血筋で本当意味での始祖が居ない理由は、そうやって消滅したからか。


「前回ルアールから逃げたって事は、ルアールはそれが可能なんだな」


「できなくも無いですが、ニルニーアを殺すとなれば俺も本気でやらなきゃ逃げられてしまいます。周囲への被害を考えると、お恥ずかしい事ですが厳しいですね。前回の時も、ギナビア国を盾に取られましたから」


「ちなみにセバリアスならどうだ?」


「私もルアールと同じ結果になるかと。ニルニーアの消滅は可能ですが、その後の結果は我が王が望むものではありません」


セバリアスとルアールの前提には俺の意思がある。そのせいで、失えば俺にとって不利益になる可能性があるモノを盾に取られると、その時点でニルニーアを逃す結果が伴うか。


そうなるとルアールかセバリアスをニルニーアにぶつける前に、何もない二人が本気を出しても問題無い舞台を整える必要が出てくる。

だが、それにニルニーアが釣れる可能性はかなり低い。わざわざ負ける為の場所に来るとも思えない。


「例えば出血のしすぎで死んだりは……しないよな」


「無いでしょう。始祖の吸血鬼は数滴でも自身の血があれば、自らの血を増やせます。始祖にとって血とは消耗品であり、同時に死とは遠い事象なのです」


「なるほどな……それじゃあ、次はニルニーアという個人について知りたい。何か知ってる事があれば教えて欲しい」


とりあえず、その始祖の吸血鬼の血とやらが厄介なのは理解した。

倒す事がここまで厄介で面倒なら、籠絡する方面で固めていったほうが良さそうだ。そのためにも、今度はニルニーアという人物を知らねば。


そもそも、俺が知りたかったのはこっちの方だしな。


「俺は臆病な死にたがりって印象ですね。前の主の時も、瀕死になるまで戦っていましたし」


「ですが、私やルアール達を相手にしても生き延びているので、戦う事を好む者だと私は思っております」


「あー、セバ爺の言う通りかもしれません。ニルニーアは俺や妹弟達と戦うのはかなり嫌みたいですし」


「そうなのか?」


「その以前、我が王のご友人達がニルニーアと会った時にも、かなり嫌な顔をされました。俺に殺されるのは望む死じゃないし、俺やレーヴィ達には死ぬほど興味がないとか」


「死ぬほどね。随分と洒落た言い方をするもんだ」


今の所、死にたがりというよりは、死にかけたがりのイメージだな。

さっきも生きている実感云々言っていたし、不死であるが故に死にたい訳じゃないが、死と隣合わせで居たい……そんな所だろうか。


ただ、ルアールの言っている事がそのまま言われた言葉なら、望む死が存在している様な口ぶり。そのためにニルニーアはアーコミア側に居ると考えるのが妥当なラインかな。


理想の死に方を持つ不死者か……ああは言ったが、その理想が何か分からんし、アーコミアから引き抜くのは難しいか。


「二人ともありがとう。俺の中でのニルニーア像がある程度固まった。ニルニーアが彩達に興味を抱いている事は分かってるから、後で彩達にもニルニーアの情報を共有する。その時は、戦い方や癖、目立った傾向が分かれば嬉しい。良かったら紙かなんかにまとめててくれ」


「「かしこまりました」」


血を使って戦う相手か……彩が相性が良さそうだと考えるが、結果は一度負けかけている。逆に使われるからこそ相性が悪いのかもしれない。


そうなるとあの場で有効的な手段は、ユニークスキルではなく磨いて鍛える魔法と技術になりそうだ。

完全にユニークスキルを把握しているわけではないから、もしかしたら城ヶ崎の大怪盗や藤井の死の支配人(ネクロマネージャー)が有効かもしれないけど、それに頼った考えのみは危ない。


ニルニーアの情報を与えれば、それは向こうでも考えてくれるだろう。一応はこっちでも対策を考えてはおくか。


「スリィーピィーングキーーーング」


頭の中で色々と考えをまとめていると、俺のあだ名を呼ぶと共に入ってきた岸は、セバリアスとルアールの顔を見て申し訳無さそうに頭を掻いた。


「あっ、すんません。話し中だったっすか?」


「いいえ、これから私は資料作成に入りますので問題ございません」


「俺も大丈夫だ。セバ爺の手伝いするだけだから、気にしないでくれ」


「それならスリーピングキング! 頼みがある!」


「頼み? まぁ、聞くだけ聞くが……」


俺に頼み事をするのに、あんな意気揚々と入ってきたのか。一体何を頼まれるんだろう……と、できれば簡単な事を願いながら岸の言葉を待つ。


「ダンジョンで召喚した魔物を俺にくれ!!」


「ん? あー……ユニークスキルで使役したいのか?」


「理解力あって助かるぜ」


なるほど。確かにダンジョンで召喚できるモンスターは沢山いるし、コア君曰くこの近辺じゃ見ない魔物も呼び出せるらしい。

魔物によって生息環境が違うから、ダンジョンの機能でそこもいじれるんじゃない? とか、自由度の高さの話をした時に言っていたのを思い出した。


「別に構わんが、ダンジョンで召喚した魔物も使役できるのか」


「さっきまでエマスさんと白玉達に訓練頼んでたんだけど、そん時に白玉が魔物ならスリーピングキングから貰えば?って言っててな。エマスさんも、使役した後にダンジョンの契約をスリーピングキングがしたら外にも連れ出せるんじゃね?って」


「まぁ、ダンジョンの外に出れる魔物って限られてるからな。エマス達だって、俺から少し魔力供給をしつつダンジョンと繋いでる形らしいし。でもそうか……勝手に繁殖して増えたのは外に溢れる事もあると聞いたし、自然発生の魔物と変わらないとコア君も言っていたから、別の供給源があれば召喚したばかりでも解除は可能なのかもしれんのか」


「普通のテイマーでも、試して失敗したヤツの方が多いけど、元ダンジョンの魔物を使役してる事もあるってよ」


「なら可能なんだろうな。失敗の有無は技量もあるだろうが、それこそ直接ダンジョンで召喚されたか繁殖したかの違いと、ダンジョンがその魔物と契約を結んでるか辺りっぽいな」


もし問題なくできるなら、岸の戦力強化ができる。ちょっと岸達には頼み事があるから、岸の戦力強化ができるなら俺も得する。

試してみて損はないだろう。


「エマスと訓練してたって言ったな?」


「今もげんじぃ達はしてるぜ? ダンジョンの一階層のほら、十島と佐々木が殴り合いした場所」


「なら俺達も行くか。セバリアス、ルアール、少し任せていいか?」


「任せてくれ我が王よ」「お任せください。我が王よ」


立ち上がって深々と一礼と一言を返してくれた二人にもう一度「任せた」と言葉を掛けて、嬉しそうな岸と共に長野達が訓練している場所へと向かう。


すぐに辿り着く道なのだが、移動する時に岸が俺に質問をしてきた。


「そういやさ、スリーピングキングはダンジョンで召喚した魔物とかに愛着湧いたりしねぇの?」


「薄情なのかは知らんが、数が多くなるとそういう感覚は薄まってきてるな。セバリアス達は特別扱いしているが、元は俺が召喚したわけじゃないからダンジョンで召喚したって感覚が無いし、一番最初に召喚したゴブリンは気にかけてしまう。そのゴブリンと一緒に行動する事が多いスケルトンナイトも特別視していると言えばしてしまってる」


「うーん。やっぱしちまうよなぁ」


「召喚できる身、してしまう身として、どっちが良いのかは分からんが……まぁ、何らかの理由で個体を意識するのはおかしい事でもないし、悪いとも俺は思わんな」


「それって使役する側の気持ちで、される側ってどう思うよ」


「俺の場合は召喚したら放置に近いからな。生まれ方が違うだけで、狩る狩られるは野生とあんまり変わらない」


言い方はアレかもしれんが、配下を増やすという面では俺と岸は似ている力がある。

岸も最近少し使役魔物は増やしたみたいだが、やたらめったら数を増やすのか?と思えばそうでもなかった。


きっと、道具ではなくペットや家族の感覚が生まれてしまっているんだろう。

俺の場合はゴブリン君の時に愛着が湧いたが、移住を受け入れる過程でダンジョンでの召喚機能が必要だった以上、そこは割り切った。だが、これはあくまで俺の場合で、そういう事があったからに過ぎない。


多分俺も、魔族の事がなければ愛着が湧いてしまって、まともに召喚できなかったかもしれん。


「俺は利用する為の召喚を割り切ったが、別に個体に愛着が湧いてもいいだろう。使役できるスキルだからって、大量に使役しないといけないなんて事もない。特別な魔物だけを使役するのもいいんじゃないか?」


割り切る為に。自分の行動を自分の中で正当化する為に出た言葉だが、どうやら岸は少しでも納得できたらしい。


「特別な数体か……へへっ、ならうんと強い魔物にしねぇとな!」


「俺とダンジョンで良ければ協力するさ」


本当は岸のスキルで何処まで、どれほどの数を使役できるのか把握しておきたかったが……まぁ、それは機会があった時にでもしよう。


-


岸からの質問に答え、訓練している場所へと繋ぐ扉を開けると、その先では俺が予想していなかった光景が広がっていた。


「訓練って、長野と佐藤だけじゃなかったんだな」


「あれ? 言わなかったか?」


「聞いてないわ」


扉の先では長野や佐藤、エマスや白玉だけではなく、江口や新道や十島、古河や橋倉に九嶋などといった他のクラスメイト達も訓練していた。

教えているのはエマスに白玉はもちろん、何故かリーファ王女の護衛として来ているはずのマーニャさんや、魔族の自警団のおっさんに消えない篝火の人達まで居る。


「なんか、思ってた以上に居るんだけど……本来ここに来れないはずのギルドの人とか、なんで居るんだ?」


「あー……俺等が実はスリーピングキングと顔見知りってバレてな。異界の者ってのはバレて無いっぽいんだが、名前的に白玉の所の住人だったって認識で」


「そうやって誤魔化したとか言ってたもんな」


「ハハハ。んで、スリーピングキングの戦いを見た後、やっぱ俺達も前みたいにうぉぉぉって火が着いちまってな? 戦い方知ってそうな人達に声を掛けた結果だ!」


あぁ、うん、まぁ……。一応ダンジョンの存在も少しずつ公にしているから、問題無いとは思うんだけどな。

俺以外の扉移動の管理は、コア君達を一応通してるからコア君達が大丈夫だと判断したんだろうけど、ちょっと驚いたわ。


「ダメだったか?」


「んにゃ、別にいい。どうせ下の階層に行った所で、居住区があるだけだ。ただやっぱり皆が訓練してる所を見ると、驚いてな」


もし外から訪れる人が増えたら、この層もそれなりの整備して開放する予定だったし、大した問題じゃない。寧ろいい予行練習になった。


「失礼じゃね?」


「悪いな。同郷の人間が戦う事に熱心になる風景ってのに、どうやらまだ慣れないらしい」


「……。そりゃ、同郷の人間があんな風に戦ってる様を見たらな。命のやり取りが身近に感じるし、やっとかねぇと、何時死ぬか分からねぇもん」


「俺のせいか」


「少なからずあの戦いは、俺達にまた影響を与えたな」


他者からどういう風に映っていたかは分からんが、クラスメイト達も何か思う所はあったんだな。皆傘ですら、嫌々とした雰囲気はあるが、親衛隊達と一緒にエマスに手解きをしてもらっている。


「そういやさ、スリーピングキングはどうしてあんなに戦えんだ? いつもは机作業ばっかなイメージなんだが」


「どうしてって言われてもな……机作業ばっかなのは間違ってないぞ」


「だよな。でも、なんかこう、捌き方?が慣れてるっぽかったってマーニャさんが」


「あぁ……避けるのと逸らすのだけは、身に覚えがあるわ」


間違いなくコア君の訓練の成果だ。


「マジか! どんな感じ? 俺もやってみたいわ」


そんなキラキラした目で言うのはいいが、内容も聞かずにやってみたいとかは言わないほうがいいぞ。


「本気か?」


「え、あ、あぁ! きっと、皆もやりたがる!」


今、俺はどんな顔で岸に聞いたのだろう。

でも俺の表情と言葉で何かを察した岸は、ちゃんと皆を道連れにしてきたわけで。その期待を裏切るわけにはいかんな。


「じゃあ、俺がやってる訓練をした後にでも、使役する魔物を選ぶか」


「そうだな。皆が訓練をしている内に、先にしていたほうが良いよな!」


おーい!と訓練中の皆の方へと駆けていく岸を見つつ、俺はローバープラントを召喚する準備をしていく。


数分後、ダンジョン一層にはクラスメイト達の俺へ向けられる怒声と悲鳴が響いた。

遅れて本当にすみません。急いだのですが、間に合いませんでした。



ブクマ・評価ありがとうございます!!

なるべく遅れない様に頑張るので、今後もよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ