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眠れる王  作者: 慧瑠
冒頭
16/236

新しい寝床

これで冒頭…もしくは、第一章終わりです。


途中は東郷先生視点です。

「そろそろ三十分になります。お目覚めください…我が王よ」


身体を煽る熱風で寝苦しさを覚え、身体を震わす様な声で目が覚める。

まだ眠い。だが寝る必要は無さそうだ。


「まだ夢の中か…」


目を開けた先には、巨体故か全貌の見えない人ならざるモノが俺を見ている。

ちょっと口を開ければ、俺なんかパクッと喰われてしまう程にでけぇ口を持つ顔。縦に裂けた瞳孔に金の色彩の瞳。


知ってる知ってる。この顔さっきも見たわ。

あれだ…ドラゴンだ。


「我が王よ、夢ではございません」


何やらドラゴンは、渋くしゃがれた声で俺を王と呼ぶ。

同時に、熱風が俺の肌を撫で…俺の意識はどんどん覚醒していき気付く。


あ、これ夢じゃねぇ。


もはや寝ぼけ頭ではなく、起きて目が覚めていると理解した上で目の前のドラゴンを見た。

見つめ合う俺とドラゴン。

そこに言葉はないが、俺は必死で寝るまでを思い出すために頭を回転させる。


Q.寝る寸前、俺は何をしていた?

A.玉と遊んでた。


ダメだわ。どうしてドラゴンと見つめ合う様な状況になっているのか分からん。


攻撃してくる様子もないし、俺の事を王と呼ぶし…。そもそも、寝るまでここには何も居なかったはずだが…実はここはドラゴンの住処だったのか?


「急かすようで申し訳ありませんが…王の魔力を頂いてもよろしいでしょうか?皆、王のお呼びを心待ちにしております」


俺の魔力?王のお呼び?何言ってんだこいつ。

頂くってどうすりゃいいんだ。パクッと喰われればいいのか?嫌だぞ。


「本来であれば、触れた際に選定が終わり、王の魔力を頂く事になっているのですが…王は特別な力をお持ちのようで、魔力を頂く事も叶わず。

どうか…我々に慈悲を…」


そう言ってドラゴンは、大きな口にも関わらず器用に咥え、あのツヤツヤな玉を俺の前に置いた。


「選定を受けた覚えも無いし、あんたの王になった覚えも無いんだが」


明らかに罠臭い誘いに俺の警戒心は高まっていく。

当然だ。突然、知らんヤツに王と呼ばれて、なんかしろって言われてほいほいするわけ無いだろう。


一応周囲を見渡したが、寝る前と変わった所はない。

我々と言っているが、他に誰か居る様な気配も…多分無い。一度寝ちまったから、スキル補助も薄れて、その辺の感覚はもう鈍っているだろうが…分かる範囲では居ない。


「選定はコアに触れた際に行われております。精神汚染が行われ、それでも尚正気を保ち、屈しなかった者を次代の王としております。

その選定が終わり次第、選ばれた者から魔力を回収する様になっていたのですが…」


コアと言うのは、この玉の事として…要は、全て俺が無効化したと…。

精神汚染とか危なすぎるだろ。終わったら魔力を吸い取るって…完全に罠じゃねぇか!本当危ないわ。無効化出来てなかったら、罠にノコノコかかっていた。


無警戒に行動しすぎたな…一歩間違えば、廃人になっていた。


「すまんが、あんたの王になる気はない。

俺はここから出るから、次の王でも待っていてくれ」


「なりません…」


立ち上がり移動しようとすると、一層低くなった声が響く。

予想はしていたが、できれば回避したかった。だが、どうやら俺はこのドラゴンと戦わなきゃならんらしい…。


「邪魔をするなら…俺だって抵抗はするぞ」


「王の邪魔をする訳ではありません。

ただ、既に王は王として認められ、コアは王を離れないでしょう」


「離れなかったらなんだ…」


「それは既に王は、このダンジョンの王として存在していると言うこと。

ダンジョンの王は…ご自身のダンジョン外へ出ることは叶いません。出ようとすれば身が滅びます」


「…」


回避していたと思ったが…どうやら俺は、のこのこ罠にひっかかったらしい。

それでも無視して歩こうとすると、後ろにあったはずの玉が俺の目の前に転がっている。


……。干渉を完全に無効化した俺が、そのよく分からん縛り内にあるとは思えない。思えないが、'例外'という言葉が頭をよぎり、俺の足が止まっている事を理解する。


「王よ…どうか、我等の王として君臨を…」


震え、懇願する様に告げられる言葉。

それを聞いて俺は変に確信をした。


このドラゴンは嘘をついている。身が滅ぶのは本当かも知れないが、俺はその干渉すら無効化しているはずだ。

例外が存在したとしても、このコアからの干渉は当てはまらないだろう。もし、例外的干渉ならば、俺から魔力を吸う事も出来ているだろうしな。


そう…まだ王としての契約の様なモノは済んでいない。目の前で淡く弱々しく光るコアもそれを理解はしているのだろう。


…それでも何故か俺の足は動かない。


「前の王が居なくなって何年だ」


「もう三百は経とうとしております。

その間にも様々な者が訪れましたが…皆、選定にて精神を壊し世を去っております」


「その間、あんたはどうなっているんだ。さっきは居なかっただろう」


「コアの中にて暗闇に。我等はコアに縛られ、王を待ち、王の為に生きる契約をした者達。

我等は自らそれを望み、王を待ち続けておりました。

王は我等が生きる意味。王が居なければ、我等は生きる意味も無く死んでいるのと変わりません。

寝ることも起きることも無く…ただ虚ろの中にて王を待つ。それだけでございます」


「そうか。寝れないのは…大変だな」


自分で聞いておいて、出てきた言葉はそれだけ。


多分、聞く前から足が止まっていた時点で俺の考えは決まっていたんだと思う。

話しを聞いて同情をしたのかもしれない。だだ、寝れないのが大変そうだなと思ったのも本心で…俺は必死に自分に理由を付けていく。


三百年という月日を待っていたと言うことは、三百年前の情報を持っているはず。


我等と言うぐらいだ。他にも居るのだろうし、このドラゴンと言う存在が今の時代でどれだけの認識をされているか分からんが…戦力にもなるだろう。


ダンジョンと言うぐらいだ。きっと追加で戦力も増やせる可能性もあるだろうし、そこの王になればこの世界での帰還場所として保証になるのではないだろか。


懸念はもちろんある。この世界での'ダンジョン'と言う存在がどう認識されているかだ。人間ではなくこの世界で。

やたらめったらに敵を増やしたくはない。それでは帰還場所としては成り立たない。


俺は頭を回して求める答えへのこじつけを作っていく。その為に聞いておくか…。


「ドラゴン。あんたは三百前の事を知っているのか?」


「全てにお答えはできませんが、生きた間で知ったことをお伝えするぐらいは可能でございます」


なら、知りたいことがある。


「ドラゴン…いや、あんたらは戦う事ができるのか?」


「当然でございます。王の身をお守りするのも我等の役目。行道を阻むのであれば、それを退けるのも我等。降りかかる火の粉の盾となるのも我等でございます。

王の為に生き、王の為に死ぬのであれば、本望でございます」


戦力にはなりそうだ。


「あんたらは増えるのか?」


「コアの力をお使いになれば、眷属を増やす事も可能でございます」


そうか。必要な分だけ増やせるのか。


「ダンジョンは世界の敵か?」


「そういう認識の時代もありました。

魔物を使役する事もできますので、人間からは敵視をされる事も多く…ただ、過去には友好関係を結んだ王もおりました」


要は立ち回り次第でどっちにも転ぶと。


「正直に答えて欲しい。

俺は、ここから出られるな?」


「……可能でございます。

王は王として選ばれましたが…此方側からの干渉を全て無効化しております」


やっぱりそうか。

俺は無効化をしきった。これは例外に該当しない。

つまり、後からでも無効化できるモノ。並木のスキルを途中で無効化できたんだし…可能だろう。


だったら俺にデメリットは存在しない。強いて言えば…情が湧く可能性があるぐらいか。


「なぁ、ドラゴン。あんた、寝るのは好きか?」


「は?睡眠でございますか?

…そうですね。もう三百年以上睡眠を取ったことはありませんので…できることならば、ゆっくりと安息の地にて眠りたいとは思います」


ドラゴンの返答を聞きながら足元に転がる玉を俺は拾い上げる。


淡く光っているのは変わらないが、どこか弱々しくも感じるな。


俺はその玉…コアをドラゴンへと突き出した。


「…やはり、お帰りに「勘違いするな」…!」


俺にはメリットはあってもデメリットはない。だから、そんな弱々しい声を吐くな。


もし仮に、これまでが嘘で、俺の情を誘う為に演じたのであれば…成功だよ。俺の負けだわ。

ただそれで敵なら俺は抵抗をする。それだけだ。だから生きるといい。


「俺は寝るのが好きだ。愛していると言っても過言ではない。

この世界に来たのは最近でな…結構いい寝具は知っているんだが、いい寝床が無いんだ。


それに色々と厄介な問題も山積みで、信用できる人手も中々足りなくてな。

……だから、俺は結構こき使うぞ?」


「!!…それが、王の為ならばっ!」


「知り合いが大変になったら、その為に動く事もある。

あんたらにとっては面倒かもしれんが、それでも遠慮なく頼むぞ」


「それが王の望みならば!」


血迷ったな俺。

きっと、これで厄介事は増えた。だがそれでも…寝れんというのは辛いもんだ。


俺は突き出していたコアに魔力を込めていく。

ついでに、コアが俺から自動的に吸おうとしていた事も許可する。精神汚染とやらは、選定の段階で終わっているんだろうし、仮にしてこようものなら無効化すればいい。


身体から何かが抜き取られていくのが良く分かる。俺はそこに追加して、何か…魔力を押し流していく。


「なら、これだけは命令する。

しっかり寝ろ。そして俺ももう一度寝る。話はそれからだ」


すると、コアは俺の手の中に吸い込まれ…暗かったはずの空間は天井から下がるシャンデリアに照らされ明るくなり、俺の後ろには玉座が現れ、ゴツゴツとしたはずの岩肌は、綺麗な石造りの壁床へと変貌していき…


「「「「「おかえりなさいませ。我等が王」」」」」


何時の間にか現れたメイドや執事が、俺の前に並び頭を下げていた。


「お心遣い、感謝致します。我が王よ」


ずらりと隊列の様に並ぶメイドや執事の先頭に立つ初老の執事が俺に言う。


その初老の執事は、さっきのドラゴンだと理解できた。

きっとダンジョンの王としての力か何かで察したのだろうな。


「んじゃ、寝るか」


ダンジョンの力について色々と調べたりもしたいし…安藤達に連絡を取ろうとも思うんだが…寝ると言ったんだ。寝よう!


------

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私は、元の世界でも日課としていた日記を書きながら、部屋に置いてある時計を使って時間を確認する。


部屋で待つように言われて二時間が経ちました。

正直、数日経った今でも私は環境に慣れきっていません。クラスの子達は、すぐに慣れ始めていたようで…私は変化に戸惑うばかり。


そんな中でも先生であろうと頑張ってはみましたが…模擬戦練習をした三日目の食事の時に、常峰君に気を使われてしまいました。


-先生は環境の変化に戸惑っているようですが、あんまり焦って無理してまで慣れようとしないでください。

できれば、先生には先生のままで居て欲しいんです。こちらの常識に呑まれず、向こうの先生のままで。

守りたいと思うでしょうが…戦いを知らなかった時の事を覚えていてください。それはきっと、戻りたいと願った生徒が戻った時の為になるはずですから。


そうですね…それでもきっと何もしないのは先生には無理そうなので、回復魔法を覚えて欲しいです。俺たちの癒やしとして、先生として…守ってください-


きっと、私が持つスキルも考慮しての言葉だったのでしょう。



私は、子供の頃に憧れていた'先生'を目指していました。その為に沢山勉強もして…結果、いい人には恵まれませんでしたが、今の高校の先生になって。今のクラスを受け持つ事になりました。


初めは結構大変だったんです。中々まとめると言うのは難しい事で、生徒達の意見を潰さないというのはそれ以上に難しい事だと…改めて気付かされましたね。

先生という立場からの言葉は、意識しなくても強制感があって、選択を潰す結果になってしまったりするんです。

そういう面で、常峰君という存在は大きいと思いました。


彼は、教師という立場を理解して、生徒の中で先生の意見も提示するような生徒です。

もちろん生徒という立場からの意見なので反対される事もあって、生徒達が自分達で決める事を率先していました。


きっと私が言ってしまっては、それで決定してしまう内容でも。


ずっと皆の前に立つ訳ではなく、すぐに誰かにパスをしたりしている所も目立ちましたが…それでもとても利口な子でクラスメイト想いの子でした。

立ち回りが上手いと言うか…不思議と言えば不思議な子だったと思います。


「だからかなぁ…」


常峰君は、ここ数日、皆を誘導していました。

急激な変化を認識しないように、緩やかに慣らせていくように。少しずつ砕いて変化を個人に任せて浸透させていく様に。


そのおかげか、皆は変わった環境でも笑えていました。


でも、変化はやっぱり急に来てしまうものです。

要として、楔として頑張っていた常峰君が居なくなって…。


「先生失格ですね」


私は何もできなかった。

今は、市羽さんと新道君が常峰君の意思を引き継いで皆を誘導して居るようですが…私は、何もせず、何もできずに見守るばかり。


常峰君に関しては、見守ってあげる事すらできないまま。


今日の常峰君達の戦いを見て、私は怖かったと言うのが本心です。

武器選びの時も、自分が扱えそうな武器は無かったですし…私は戦場に立てない。


自分の弱さが情けない。


「せんせー!お風呂一緒に入らない?」


「いいですよー、少し待っててくださいねー」


外から呼ばれてハッとする。私は、まだ途中の日記をそのままに、お風呂の準備をしていく。


落ち込んでも仕方はありません。常峰君はがまだ生きていると言うことを皆が信じているんです。私がここで止まるわけにもいきません。


だったら私もできる事をしていかなきゃダメですよね。回復魔法を覚えて…皆が癒やしとしてくれるように!


「せんせーまだー?」


「今行きますよ―!」


……ところで、癒やしってどうすればいいんだろう?


-----

---


場所は変わり、森の奥。より奥へと進むと、森の木々は開拓され、ポツポツと家が並び始めたその更に奥。

小さい城が建っている。


周りに並ぶ家には、人形から獣、虫と様々なモノが生活をし…その城の玉座には一人の女が目を閉じ、肘掛けに肘を立て、手の甲に顔を乗せながら座っていた。


「……。この気配、この数…放置しておくには、ちと不味いか?」


女はゆったりとした動きで立ち上がり、玉座の部屋から出ていこう歩き始める。


「また…人間ですか?」


その部屋の扉の両サイドに立っていた一人が、出ていこうとした女に聞いた。


「人間…だったら、まだ楽かもしれぬなぁ」


「?」


「まぁ、すぐに戻るよ。我が居ない間、皆を任せた」


「ハッ!お気をつけて…メニアル様」


艷やかな銀の髪を靡かせ、素肌が見え隠れする様にデザインされたボロボロの黒いドレスを揺らしながら――。

古くに主を失ったはずのダンジョンへと、女―魔王'メニアル・グラディアロード'は向かう。


今更ですが、そこそこ視点が変わる様な書き方をしています。なるべく分かるように書いているつもりですが…分かりづらかったらすみません。

少しずつ、上手く書けるようになりたいと思います。誤字脱字も…なるべく無いように頑張ります


毎度の事ですが、ブクマありがとうございます。

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