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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
159/236

来客

メニアルとの戦いから早三日。一日目は起きる事無く、二日目は午後からはちょくちょく起きていたが、あまりにも気怠く、起きる度に積まれていく紙の山から目を逸らした。

そして三日目。流石にこれ以上無視をしたら紙山が俺の布団になりそうなので、重たい身体を無理矢理起こして、ラフィが用意してくれた優雅な紅茶を粗野な態度で一息。


「この世界でメニアルがどれだけ脅威だったかが分かるなぁ」


紙の山から適当に一枚引き抜いて目を通せば、俺の機嫌を伺う様な言葉が並べられ、中立国の存在を認める様な一文で締めくくられている。

テンプレでも存在してるんだろうか?と思うほどに似たような内容だが、そのテンプレを使っても問題無い程度には認められたらしい。


「これでひとまずって感じだな。友好的かどうかは、今後の俺等次第って所……のはずなんだけど、市羽は行動が早いというか、完全に未来予知レベルの行動だろこんなの」


集まってくる紙と情報を整理してくれていたセバリアスが、重要案件として認識して分かりやすくまとめてくれていた書類の中で、キラキラとしたデザインが施された目立つ紙。

そこに書かれていたのは、'ギナビア国の総意として空軍将軍ペニュサ・パラダの国籍を中立国レストゥフルに移し、ギナビア国預かりのままギナビア軍在籍とする'という事だった。


そして一緒にまとめられているもう一枚は、市羽からの報告書。


---

ペニュサ・パラダ 旧姓ペニュサ・リンクベドパラダ


リンクベドパラダ家は、元帥ヴァジア・ベンルベドが家長を務めるベンルベド家の分家にあたり、現在は取り潰されている。

名声と実績、ベンルベド分家という事もあり信頼もあったが、国家反逆の疑いをかけられ当主並びに一家は公開処刑にされたと記録。しかし、当時子供であったペニュサと身籠っていた側室だけはヴァジアの図らいにより処刑を回避。


その後ペニュサ・パラダと改名し、ペニュサはギナビア国軍預かり、側室は存在抹消。七年前にエニア・パラダの出産と共に側室の死去を確認。


この事は極秘とされ、エニアの存在を知っている者は元帥ヴァジアと国王レゴリア、工場長ゴゴールと宿娘セジュ・スケープ、義姉ペニュサのみである。

尚、元帥ヴァジアと国王レゴリアがエニア・パラダと接触した形跡は無し。姿すら確認していないと予想。


考察。

何故、元帥ヴァジアがペニュサと側室を助けたのかは不明ではあるが、リンクベドパラダ家の取り潰しには裏があり、濡衣の可能性が高いと予想される。


リンクベドパラダ家が領地内に敵対魔族を匿っていた事が反逆の主な証拠として挙げられているが、隣接していたグレンド家領地内の可能性が高く、ナールズ・グレンドにより嵌められた可能性がある。

---


その後も、予想されるとは言葉ばかりで、決定的な証拠っぽい事をつらつらと書き連ねられていた。


まぁ、リンクベドパラダ家の事は分かった。要するに、ペニュサ将軍は元大貴族の分家で、エニアちゃんという子はリンクベドパラダ家の庶子って事か。


同情のみでレゴリア王が動くとは思えない俺からしてみれば、元々濡れ衣の可能性を知っていたが時間切れだった可能性もあるな。もしかしたら、今のレゴリア王は真相を知っているのかもしれん。

ヴァジア元帥の方は……知らんわ。話した事も会ったことも無いから、人間性から予想ができない。


「どちらにせよ、ペニュサさんがどこまで真実に近づいているかは知らないけど、二人からすれば一種の責任逃れだな。他国ではあるけど友好国の地位を与えて、今後掘り返された時に言い逃れできる様にしたつもりか?」


二人からしてみれば、限定的で癖はあるけど使えるカードな感じはするが、よく他の者達が認めたな。将軍という肩書は、そんなに安いモノではないと思うが……ギナビア国の判断を煽って急かす為に、市羽が何をしたのか考えたくないわ。


それにこの報告書でもう一つ確定した事がある。

ギナビア国内の義賊で名高い死神くん。まさかの死神ちゃんだったとは……。前回ペニュサさんは、死神はエニアの事を知っていると言っていたが、名前は伏せていた。だけど、市羽の報告書には死神の単語の変わりに宿娘のセジュ・スケープという名前がある。


これは疑う事無くイコールって考えていいだろうな。

セジュ・スケープ……彩達が泊まっていた宿の娘だったか。その名前は彩からもニャニャムからも聞いていたし、ニャニャムに関してはセジュが死神の可能性が高いと報告してきていた。


最近のニャニャムからの報告でも、セジュは彩達にかなり協力的な所があると聞いていたが……前々からペニュサさんに協力していたのなら納得だ。

立派な偽善心より信頼できる相手に変わるな。


「ログストア国が一番早く動くと考えていたのに、まさかギナビア国が一番とはな。と言っても、ログストア国も今頃はバタバタしてるか。リーファ王女をどうするかで意見がまとまらないって所かねぇ」


後はリュシオン国だけど、リュシオン国に関しては今は放置。

先日の件もあり、あまり急かしても良い結果にはならんだろうし、コニュア皇女が居るかぎり中立国を目の敵にする事も無いはず。


ご機嫌取りの手紙を送ってきている中小国も気にならないわけではないが、実質統治者は大国の貴族連中である以上は、大国の動きが第一だろう。

経過を見つつ対応していけば、最高の結果といかずとも最悪の結果にはならないはずだ。そうなると後は……撒いた餌に対象が食らいつくかどうかだな。


一人で溜まっている書類を処理しつつ、色々と考えていた予定と予想の修正を頭の中でしていると、ノックの音が部屋に響いた。


「我が王、セバリアスです」


「入っていいぞ」


「失礼いたします。我が王にお客様が参られました」


「誰だ?」


「アーコミア軍よりニルニーア・ミューチが」


そうか。やはり食べに来るか。

どういう話をしに来たかは、大体予想できている。せっかく来たのに、そうそうに帰すのも悪いだろ。


「俺が向かおう。案内してくれ」


「かしこまりました」


流石にここには情報がありすぎる。部屋に入れるわけにもいかないし、セバリアスもそれを分かっていて連れてきていないんだろう。


俺はセバリアスに案内してもらい、ニルニーアが待つ部屋へと向かった。


扉を開ければ、客人用のカップで紅茶を飲む姿がサマになっているニルニーアが座っており、俺を一瞥すると咳き込みながら喋り始めた。


「ごほっ。あぁ、待っていましたよ眠王」


「待たせて悪いな。俺も俺で立場上忙しいんだ」


「三日……ごほっ、三日ほど街々の様子を見ましたけど、ごほっごほっ、随分と平和な国ですね。以前のダンジョンとはごほっ、大違いのようで」


三代目の時の事を言っているのか?

ニルニーアの事を詳しくは知らないが、既に三百年以上は生きているという事だろうか……それより、三日という事は、あの戦いの後にすぐアーコミアは動いたんだな。


ダンジョンの機能が反応を見せない所を考えれば、今のニルニーアに俺を害する意思が無いのは確かだし、俺の予想以上にアーコミアは俺の動きに対応をしてきている。


「ごほっごほっ、眠王は世界平和をお求めで?」


ニルニーアについて考えていると、俺を見定める様な瞳で問いかけてくる。


世界平和か。俺のやっている事は、傍から見ればそういう風に映るのかもしれんな。だけど、残念なことに世界平和などは求めていない。


「平和であろうとする国なのは確かかもしれんが、別に世界平和なんてものを求めてはいない。俺は俺の邪魔をするなら、それに合わせた対応をするつもりだ」


「仮にそれが、ごほっ、戦争であってもですか?」


「できるだけ回避はするさ。それでも無理なら、そうなるんだろうな」


俺の答えを聞きながら紅茶を飲み、頷くニルニーアの様子は、興味深そうに頷いている。


「力とは、ごほっごほっ、実に分かりやすく絶対的なモノの一つだとごほっごほっ、私は考えます。ごほっ。人間はそこに不必要なモノを付け足し、ごほっ、くだらない見栄を張って飾りますが……眠王は力を正しく、ごほっ、理解しているみたいですね」


「郷に入っては郷に従えという言葉がある。この世界は、俺達の世界とは似ている所もあれば、大きく違う所もある。その最たる例があんたの言う力だろうな。俺からすれば、この世界の人間社会は俺達の世界に近付こうとはしているが、それでも力がモノを言う。今回で、それを更に実感したよ」


「ごほっごほっ……種族には種族の決まりがありますが、世界で見れば自分達だけである事なんでごほっ、たくさんありますからね。人間は、そこを勘違いしやすい」


「だから他種族を淘汰するか制圧する事で、人間の正しさを世界の基準にしようとする。生存競争であり、生存戦略の一つだ」


「なるほど。ごほっごほっ、それが人間というのなら、ごほっ、文句を言うのも間違いですね」


「別に間違ってはいないだろ。人間からすれば間違いかもしれないが、あくまで人間基準で間違いだ。強要してくるモノが気に食わないのなら、反論や文句が出て当たり前だ」


「ごほっ、貴方の意見はつまらなく、ごほっ、冷たいほどに割り切っていますね」


一体何の話をしているんだろうな俺。

ニルニーアの質問の意図が分からんけど、俺個人の意見であると分かっていて聞いているのは分かる。

その目から分かるように、残念ながらニルニーアのお好みでは無かったらしいけどな。


「まぁ、分かりました。ごほっ、面白くはないですが、ごほっ、興味深い意見ではありました。では本題です」


あぁ、今までは別に本題ではなくて世間話的な何かだったのか。


「ごほっごほっ、アーコミアより、同盟申請を伝えに来ました」


ニルニーアが告げた言葉に俺は驚かない。

予想通りだ。どこかに潜むアーコミアの手先が、あの戦い……というよりは最後の言葉をアーコミアに伝えたのであれば、こう来る可能性を予想していた。

だけど一応とぼけてみるか。


「同盟?」


「ごほっ……眠王は言いましたね? ごほっ、種族の垣根は無く、魔族もごほっ、そういう対象だと」


情報は割と正確に伝わっているな。上からではなく対等な立場の要求となると、あの戦いを直接見ていた可能性も出てきた。

やっぱりアーコミアの手が何処に伸びているか分からん。こうして話し合いに釣り出す事はできたけど……さて、どういう結果になるかねぇ。


「よくご存知で。個人同士で好き嫌いが出てくるのは知らないが、確かに中立国には種族の垣根は存在しない。魔王アーコミアが同盟を組んでくれるというのなら、俺としても嬉しい限りだ。だが、知っての通り三大国と先に同盟を組んでいる以上、そっちの事も少し考えなければならない」


「条件付き、ごほっ、というわけですか」


「現在行っている侵略行為を止めること。そして、魔神の復活とやらを諦めてもらいたいね」


「……アーコミアとは決裂しましたね」


「元からそのつもりだった癖によく言う」


安定の決裂か。

メニアルもアーコミアは魔神復活を諦めないと言っていたし、分かりきっていた事だが、実に残念だと思う。

だけど、三大国と関わりがあり、俺達が召喚された目標の一つであるコレを譲るわけにはいかない。協力関係であり、絶対的な味方ではないが明確な敵になるなんて事を俺がするわけにはいかんのよ。


「ごほっごほっ、ではこうなってしまった場合の言葉を」


「聞こうか」


「魔王アーコミアは、ごほっごほっ、眠王に宣戦布告を「セバリアス。動かなくていい」――ごほっごほっ」


ニルニーアの言葉を聞いた瞬間、扉前で控えていたセバリアスが動こうとしたのを止める。


「わざわざご苦労さん。宣戦布告はありがたく受け取っておくよ。これからは、より一層アーコミアを警戒してやろう」


「ごほっ、この場で私を殺そうとはしないのですね」


「逃げ切る自信があるんだろ? 人員を無駄にしたいなら、もっと下っ端を寄越してくるだろう」


「えぇ。過去に私は逃げ切っています。命からがら、ごほっごほっ、瀕死の状態で生きている実感をしました。あぁ、ごほっ、あれはよかった」


うっとりと紅潮した表情でニルニーアは言うが、申し訳ないが理解はしてやらん事もないけど、同意はできない。

そしてそれに応えてやる気もサラサラない。


「話が以上なら終わりだ。俺もそんなに暇じゃない。セバリアス、丁重におかえりいただけ」


「かしこまりました。ニルニーア、おかえりはコチラです」


「ごほっごほっ、残念です。えぇ、非常に」


本当に残念そうな顔をするな。仮にニルニーアみたいな存在じゃなくても、俺は丁重に帰すさ。アーコミアが何を仕込んできてるか分からない以上は、言ったように警戒して当たり前だ。


「そういえば、ごほっ、ギナビア国のお仲間達、ごほっごほっ、彼女達は面白いですね」


「次はルアールには邪魔をさせないさ」


「いいのですか! ごほっごほっ、殺してしまうかも知れません!」


「いいさ。なんかアンタは、アーコミアから引き抜ける気がするから」


「ごほっごほっ……へぇ、それは楽しみですね」


その言葉を最後に、俺はセバリアスに後を任せて自室へと戻る。


我ながら最後の言葉は謎だが、それを自分で否定する気は無かった。落ち着いて考えても、わりとそんな気はするし、何より彩に興味を持ったあたりがニルニーアの運の尽きだろう。


過大評価をする事はしたくないが、過小評価はもっとしたくない。ニャニャムの報告を聞くに、彩達は彩達で戦闘面でも強くなっている。ギナビア国には市羽が居るというのも大きい。

自分勝手ではある連中だけど、それでも彩達は俺の期待を裏切った事は少ないんだ。


「けどまぁ、少しニルニーアの事も調べておくか。一度しか戦ってないとは言え、ニルニーアが普通よりも面倒な相手ってのは分かっているわけだしな」


また書類に目を通し始めた俺は、ニルニーアを送り終わったらセバリアスにルアールを連れて部屋に来る様に伝えながら、さっさと重要案件だけは終わらせようと筆を握った。


-----

---


ダンジョンの範囲外まで見送られたニルニーアは、一人で森の中を歩いていた。


来た時も、警戒心を必要以上に煽らないように森の中に転移し、自分の足でダンジョン内に足を踏み入れていたニルニーアは、せっかくだからと少しだけ森の中を散策し始める。


「ごほっごほっ」


魔物の気配や少し離れた所に居る魔族の気配を感知しながらも、ニルニーアの頭の中は眠王の事で埋まっていた。


「アーコミアの言う通り、ごほっ、色んな意味で厄介な人間。ごほっごほっ」


ニルニーアは、常峰の表情の動きや心音から、先程のやり取りは予想されていた事だと察している。加えて最後には、自分から振った話とはいえ希望に応える様な返答までしてきたのだ。


アーコミアは言っていた。「眠王の言葉は一種の毒物の様なモノ」だと。聞いた時には理解がしづらかったが、今回話してニルニーアは理解できた。


その不死性のせいで生きるというモノがどういうモノかを忘れそうになるニルニーアは、ありとあらゆる毒物を試してきた。そして死ぬことはなく、こうして生き長らえている。結果として、様々な毒に耐性を持ってしまっているが、現在でも毒に侵され続けている。


咳が止まらないのも、その結果の一つでしかない。


死にかけ死に続ける事で、その生を見出す事にしか興味が無くなってしまったニルニーアにとって、常峰 夜継という存在は面白い者だった。

考えはつまらなく。一見すればただの人間でしかないが、確かに彼はニルニーアにとって有毒で、行動を制限するような言葉を口にしてみせた。


「傍若無人な異界の者は、ごほっごほっ、それはそれで期待してしまいますが……ごほっ、じわじわと蝕んでくるのも、ごほっごほっ、またこれはこれで」


実に今日はいい日だ。軽やかな足取りが取れ、気分も清々しい。

先代の様に朽ちる事を選ぶなんて以ての外。やはり世界は、新しい事が生まれ、それを見る事で私は生を実感する。


恍惚の表情を浮かべて空を煽るニルニーアは、暫く森を歩いてからアーコミアの元へと帰ったのだった。

どれぐらいで終わらせましょうかね。悩みならが、久々にPS4を起動しました。




ブクマありがとうございます。

今後も、お付き合い頂ければ嬉しいです!!

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