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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
157/236

観戦後その1

少し短めかもしれません

「ゼス! 街の様子は?」


「ご報告いたします。殺気や気迫に圧されて腰が抜けて座り込んでしまった者や、泣き出してしまう者などがおり、暴徒鎮圧や怪我人の手当などを含めて騎士団が対応に向かっております。ですが、眠王の勝利により眠王主催の祭という認識が広がり始め、更なる賑わいを見せ始めております」


「ご苦労。引き続き対応し、明日まで影響が出るようであればまた報告するように」


「かしこまりました」


ゼスからの報告を聞き、指示を出し終えたハルベリアは、小さく息を漏らして部屋の中央に用意された台座に視線を移す。

そこには、役目を終えて塵となった投影玉が小さく山を作っていた。


少し乾いた喉を潤し、ハルベリアが呼び出した者達を見渡せば、先程まで映し出されていた戦闘に唖然としていたり、常峰の言葉について意見の出し合いを始めている。

ハルベリア本人も表情こそ出さないが常峰の言葉には驚かされた。というより、冷や汗をかかされた。


三大国は中立国と個々で同盟を結んでいる。それは常峰と大国の目的が一致している事と、加えて大国としては異界の者を野放しにしない為のもの。

常峰には常峰側で利用価値があったから結んだ同盟であり、そうであるからこそ互いが後ろ盾となり安全の形が取れていた……のだが、眠王個人の戦闘力を見せ付けた上で、今回の常峰の言葉は完全な独立宣言に等しい。


それが意味する事は、常峰の中で大国の後ろ盾が不要になったという事。もしくは不要ではないが、絶対に必要ではなくなった。

どちらにせよ、あの時の同盟書に名を書いた者が居るから中立国は協力関係を続けると遠回しに宣言をされた事には違いない。


――何より常峰君は、彼と私にとっての邪魔者に牽制をしつつ炙り出しに入り始めている。私という王を餌にして。自分という存在を利用しろと。


ハルベリアは周りの会話を聞き取りながらも、自分の脳内で走る思考に苦笑いが漏れそうになる。わざわざ行った名指しの意味をハルベリアはしっかりと意味を理解し、常峰を知る者だからこその彼が求めている事まで分かっているのだ。


リーファの件を話した段階で、既に常峰の中では似たような流れが用意されていたであろう。たまたま今回の場が丁度良かっただけで……。そう考えれば、きっかけを与えてしまったのは自国のせいでもあると、ハルベリアは少しだけ諦めにも似た落ち着きを取り戻す。


「ハルベリア王、此度の異界の者の発言、些か問題があるのでは? 今後我等に刃を向けると申している様なものと捉えますが。ましてや他種族を例外無く受け入れ、そこに差はないなど……人類を貶していると同義ではありませんかな?」


苛立った様子で机を指でトントントントンと鳴らすオーマオは、ハルベリア王の考えがまとまった空気を察して自分の考えを口にした。

その言葉に賛同する者も少なくはない。人間至上主義は珍しい事ではなく、この場にも他種族を下に見ている者は常峰の言葉に不快感と苛立ちを覚えたであろう。オーマオはそれを理解して自分の発言に力を持たせていく。


何よりオーマオは明言こそしていないが、常峰が口にした種族の中には敵である魔族を含まれていることから、既に中立国はログストア国を裏切っているのでは?という疑念すら生まれて始めている。


そんな雰囲気の流れを読み取り、オーマオは更に言葉を続けた。


「先日リーファ王女が中立国へ視察に行かれたと聞いております。何やら以前よりリーファ王女が提示されていた奴隷制度撤廃に向け、中立国の土地の一部を特区として眠王が提供してきたとか」


「異界には実績があると勇者より聞いてな。眠王に意見を貰おうかと話した所、快く協力を申し出てくれた」


「快くですか。まぁ、どれほどの力を持っていたとしても大国の手無しでは国が成り立たないでしょうしな。媚びを売るのも当然かとは思いますが、やはり若く浅はか……己の発言の意味を理解していないのでしょう」


「私としても眠王の言葉には思うところがあるのは事実。オーマオ、お主はどうするべきだと考える」


ハルベリアの言葉に、オーマオは心の中で笑った。

発言が許され、空気は自分の方に傾いている。自分の意見を堂々と発言できるこの機会を逃すのは、愚か者のすることであり、それを与えたハルベリアもその一人だと。


「まずはリーファ王女にお戻りになれた方がよろしいでしょうな。此度は国民にも眠王の力が示されましたが、同時にその力の危険性も示された。魔王を下す様な一個人が危険な思想を持ち、その近くにリーファ王女がおられるのは国民の不安も煽りましょう」


「他種族を受け入れるというのが、それほど危険な思想だと? 我が国も少なからず獣人などが生活をしている。それともオーマオはリーファの奴隷制度撤廃に反対だというか」


「そうは申しておりません。リーファ王女の奴隷制度撤廃は、素晴らしい理想だと私も常々考えておりますよ。それに関しては、私も尽力したいとすら思っております。しかし、それを行うにあたり、中立国では不足であり危険であると私は考えますな。

我が国や他国は深い歴史があり、積み重ねた実績があるから他種族と共存できているのであり、対する中立国はあまりにも浅く何より眠王は若い。狡猾な者が眠王を絆し好き勝手に利用する者が現れてもおかしくはないでしょう」


「オーマオ、お主の考えは良く分かった」


その言葉にオーマオは嬉しそうに頷き、熱くなって上げてしまっていた腰を下ろした。場の空気もオーマオの言葉に納得するモノであり、リーファ王女が中立国へ赴き長期滞在予定まで取り付けているのはオーマオとしても予想外の事ではあったが、一時的にでも戻ってくればオーマオとしてもやりようはある。


もう自分が発言せずとも賛同者は増えていくだろうとオーマオは確信している。

そんな空気の中、ハルベリアは満足気なオーマオに問いと投げかけた。


「オーマオよ。先の言葉通りであれば、お主は現状で他種族とは共存できていると考えて良いな?」


「もちろんでございます」


「ふむ……更には今後、このままでは眠王は狡猾な者に利用され、我が国の敵になる可能性があると」


「その力には驚かされますが、やはり野放しは脅威であり利用価値の高い者であるのも確かでしょう。できれば我が国が率先して手を差し伸べ、眠王が道を間違えぬよう助けるべきが最善だと確信しております」


思慮深く、しみじみといった様子で答えるオーマオを見て、ハルベリアは少しだけ自分の行動を後悔した。

もっと早い段階で対立をしたとしても常峰と関わらせ、もう少し彼の事を知る機会を与えれば今の様な発言はしなかっただろうと。あまりにも、内々で物事を決めすぎていたと。

疑うあまり、新たに信頼を得る事を蔑ろにしていた事をハルベリアは悔いる。


「今の現状で共存できていると考えているならば、リーファとは分かり合えぬ。お主が理想と言うように、リーファが見る先は今よりも遠く、困難な道だ。その道を進むのであれば、建国したばかりの中立国というのは理に適っている」


そして……とハルベリアは圧のある真剣な目を集まった者達に向け言葉を続けた。


「これは私のせいでもあるが、皆は眠王の事を知らなさすぎる。常峰 夜継という男は、飾りで異界の者達をまとめてはおらぬよ。私が過大評価をしている所もあるであろうが、決して過小評価をしてよい相手ではない。今一度認識を改めよ、侮れば容易に足元を掬ってくるぞ」


この場で最も正しく常峰の事を知るのはハルベリアだけであり、次点で挙げるならば黙して話を聞いているゼスぐらい。ここに安藤やモクナが居れば、また話は変わったのかもしれないが、今更呼んだ所でただ話を長引かせるだけだろうとハルベリアは考える。


分岐点を間違えないように、最善の結果を求めて。


-----


同時刻、場所は代わりリュシオン国中央。

昨晩の内に広められたにも関わらず、用意された特設場に人が溢れ、多くの者達が聖女である東郷と皇女であるコニュアと共に常峰とメニアルの戦いを見終えていた。


当然メニアルはコニュアに渡した以外にも投影玉をリュシオン国に撒き、特設場に行けなかったり人数制限の為に入れなかった者達も二人の戦いを見る事ができた。


そんな中で、ギルドから椅子を持ち出して、玄関前に座って観戦していた二人が居た。


「魔王も魔王でバケモンだとは思っていたけど、眠王も相当イカれてるバケモンだな。テトリアちゃんもそう思うだろ?」


「取捨選択が迅速ですね。願わくば敵対する方面は避けたい所です。興味本位でちょっかいを出せば、搾り取られるでしょう。コルが支部長でも、部下の方から逃げるのが精一杯だったようですし」


「いやいや対面したらテトリアちゃんでもそうするって。依頼した結果の報告書読んだけど、テトリアちゃん達だって大したこと分かってないだろ」


「関わろうとしても大国が邪魔ですし、裏から調べようとすれば確実に気付かれます。私達とは相性が悪すぎる相手で、準備をするにも相当な時間を要しますね」


リュシオン国ギルド支部長であるコルガと、その隣に座る副支部長のテトリアは周りに声が漏れない様にして常峰について話している。


「でも、あの闇の精霊と同等ぐらいのが一体、精霊に感づくのが複数体、更には精霊王が接触した可能性が高いってどうなの。信じがたいというか信じたくないというか……」


「精霊達が眠王を甚く気に入っているのは確かです。供物無しに多少の頼みを聞くぐらいには」


「眠王と仲良くすれば砂糖代が浮くかもしれねぇのかぁ」


ケラケラと笑うコルガの隣でテトリアは別の報告書に目を通し、先程まで映像が映し出されていた虚空を見上げて口を開いた。


「ギナビア国のギルドマスターグレイ様からの報告書は目を通されましたか?」


「中立国に商業ギルドの開設の件か? 本来ならありえないけども、グレイの報告通りなら価値はある。というより、今の段階で一枚噛めないと今後は無いだろうな」


「そうですね。ギルドという仲介を通さないとなれば、各国が他国より良い条件を自棄になって提示する事もあるかもしれません。そうすれば間違いなく商業ギルドの市場は大打撃を受けると予想するのは容易いものです」


「問題があるとすれば魔族だけど、どうする気だと思う?」


コルガの問いに、果実水を飲んでいたテトリアは少し考える素振りを見せ、手の持っている資料から一枚の報告書を引き抜いてコルガに渡した。

それを受け取り軽く目を通せば、コルガからは乾いた笑い声が漏れる。


「エルフが中立国に持っていかれました。そして、まだ正式な報告ではありませんが、噂ではギルドからモール様が中立国へ赴く動きが見られます。それが答えでしょう」


「商会会長直々か。自分で見なければ市場は見抜けないとかで奴隷商やってたのに、随分と大物が動くもんで」


「今回のリュシオン国の失態は、声にこそされませんが広まっているのは事実です。魔族に踊らされエルフを襲い、皇女を晒し上げる寸前までいったのでリュシオン国の信頼はガタ落ちですよ」


「皇女と聖女が戻ってきてくれて、眠王の催し物があったから有耶無耶にはなっているが……あの皇帝は何を考えてんだか」


「魔王オズミアルの事も伏せていますしね」


コルガもテトリアも、魔王オズミアルの事は当然気付いている。

念の為にと皇帝であるポルセレルには報告をしたがもみ消され、昨晩に戻ってきたコニュアの代わりに鴻ノ森がギルドへ足を運び、オズミアルには不干渉という伝言をしてきた。


当然二人は不信感を抱いたが、リュシオン国支部である以上、その言葉を無視する事は難しい。更には今日行われた常峰とメニアルの公開戦闘の件で徹夜で作業するハメになり、最早考えるのが面倒だとコルガは投げた。


「まぁ、変に勘ぐるよりは臨機応変でいこうか。この公開戦闘の意味すら俺には分からねぇ」


「眠王は適応能力が高いのでしょう。最後の方の言葉、もう少し後の為に用意していた言葉の様にも感じました。今回の公開戦闘は眠王も予想外だったのではないでしょうか」


「それであの大立ち回りか。あんな戦闘、民衆の大半は理解すらできなかったんじゃないか?」


「あの戦いを完璧に把握できるモノがこの国に居るかすら怪しい所ですね」


「俺は無理。最後の方なんて意味分からん」


「私は魔王メニアルが振るう剣すら追えていません」


二人とも先程の戦闘を振り返り、大きなため息が漏れてしまう。


リュシオン国はギナビア国はもちろんログストア国よりも平和ボケしてしまっている。まともな戦力といえば聖騎士団ぐらいだが、それでも先程の戦いに付いていける者はおらず、最初の方で死体が積み上がるのが容易に想像できてしまう。


何よりも、それを指揮するのが最近やらかしたポルセレル皇帝である。というのが二人の気分を落とさせる。コルガに至っては、先日からポルセレルに不信感すら持っている。


「身の振り方を考えると、眠王に就くのがいい空気ではあるけどさ。どうにも胡散臭いというか、得体が知れないせいで踏ん切りがつかないわ」


「コニュア皇女の近くにおられるので聖女の人柄は知れていますが、眠王は情報を掴む前に動かれてしまいましたからね。ギルドとしても、彼の存在は計り兼ねているでしょう」


「ギルド側はモールの報告待ちだな。でも、リュシオン国の支部長としては街の事やら魔王オズミアルの事を考えると、ある程度腹は括っとかないとな」


「眠王が情で動く人間であればいいのですが」


「そこに打算を乗っけて来るのは目に見えてる」


もう諦めて吹っ切れた様に果実水を飲むテトリアの隣では、頭を抱えて今日一番のため息を吐くコルガの表情は嫌々と歪む。

精霊魔法で簡単な認識阻害まで組み込んで話していたそんな二人の前に、見知った顔が立った。


「私達の王様をご覧になりましたか?」


「鴻ノ森か……。隠れてたつもりなんだけど、よく見つけられたな」


「私には堂々と座っている様にしか見えませんでしたが……隠れていたんですね」


「どいつもこいつも。自信なくしちゃうよ俺」


ガックシと肩を落とすコルガを他所に、テトリアはギルドへ戻り鴻ノ森の分のコップを持ってきて果実水を用意している。

鴻ノ森は鴻ノ森で元々そんなに長いをする気は無く、コニュアからの言葉を伝える為だけに自身のユニークスキルである'終始望む幻想(パラノイア)'で精霊達を惑わせて二人を見つけただけなのだ。


「んで何か用事だったのか」


「まぁ、伝書鳩役です。コニュア皇女より、眠王に取り次いで欲しければ私を頼るといい。と言う事を伝えに」


「そうかよ。皇女サマも得体が知れねぇから怖いねぇ。そこんとこ鴻ノ森はどう思う」


「コニュア皇女はそれほど。私は自分達の王様の方がよっぽど怖い人なので」


おちゃらけた様子で言うコルガに対して、表情一つ変えずに鴻ノ森は答えてみせた。


あまりにもズバッと迷いなく答える鴻ノ森に、コルガのみならずテトリアも唖然とした後に苦笑いが漏れる。そんな二人を数秒眺めた鴻ノ森は、小さく頭を下げて踵を返して人混みの中へと消えていく。


「はー、どうなのアレ」


「信頼してるからこその言葉なのは確かだと思いますけど、噂では彼女は単騎でガレオ聖騎士団長を抑えられるとか聞きましたよ」


「自分だけ精霊の感覚の外に出るってのも大概だし、ガレオと単騎で殺り合えるって言われても不思議じゃないとか思っちゃえるのがもう」


鴻ノ森に見つかった事で、もしかして精霊魔法が切れたのかと思い確認したコルガだったが、別にそういう訳ではなく鴻ノ森に何かしようとすると精霊の方が感覚を狂わせられたらしい事が分かった。


おぉおぉ、こえぇこえぇと頭を掻きながら呟くコルガは、テトリアが追加してくれた果実水を一気に飲み干し、気合いを入れて立ち上がる。


「どうするおつもりで?」


「コニュア皇女宛に手紙と、もう少しだけ様子見と情報収集。下手に動いて皇帝の反感を買うわけにもいかないし、後は流れに任せてみるさ」


コルガの言葉に、そうですかと答えたテトリアも、コップなどをまとめてギルド内へと足を運ぶ。その間にテトリアはひと足早くコニュアへの報告も済ませて。

次も観戦者達の話の予定です。



ブクマ・評価ありがとうございます!

今後も、お付き合い頂ければ嬉しいです!

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