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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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予定は元気に狂わされる

ゆっくりと上ってくる意識。

聞こえてくるのは、談笑と鳥の声。そして腹部の圧迫感。


目を開ける事なく二度寝に赴こうと、上がり始めた意識を沈めて行く中で思う。


談笑?


「――なの。私の興味のないところでも色々とあるのねぇ……そんなことより、コレも美味美味」


「ターニアさんは本当に変わりませんね」


ターニアさん?


開けたくない目を開き、腹部に圧迫を感じながら視線を動かせば、一人は椅子に腰を掛け、もう一人は姿勢正しく立ったままで談笑をしている。

渋々とフワフワしている意識を叩き起こして、何度かの瞬きでぼやけた視界を調整すると、どうやら二人とも俺の知る人物だ。


聞き間違いじゃなかったのか……。


「あら、目が覚めましたね?」


「おはよう御座います。常峰様」


「おはざます。ターニアもウィニさんも、お久しぶりですねっと……あぁ、腹部の圧迫感の正体はこれか」


起き上がろうとすると、一層強まった圧迫感の正体は、布団を捲ればすぐに分かった。

バッチリと、ガッシリとしがみついて、離れない様に幸せそうな顔で寝息を立てている小さな三人目。


「チーア様は、本当に常峰様がお好きなのですね」


「お気に入りだもの。ふふふっ、幸せそう」


「お二人は何故ここに」


チーアの様子を見て微笑む二人を横目に、俺は離れないチーアを起こさないように体勢を起こし、壁を背もたれ代わりにして問う。


「私は、チーア様が常峰様の魔力がすると走り出しまして、そのままおやすみになられたので待機させていただきました」


「私は暇つぶしかしらね」


ターニアの方は予想してた。それより、ターニアの言っていた'あの子のお気に入り'のあの子はチーアの事だったのか。

残念な事に、俺には精霊を視る事はできないから、ターニアとは別にそれらしい精霊が居るのかと思ったんだけど……情報がある今なら、チーアが俺に懐くのも少しは納得する。


「俺の魔力はそんなに面白いかね」


「そうも寝ている間に魔力が増え続ければ、感じ取れる子達は皆面白がるわよ? それに貴方の魔力、とっても心地いいの。他の子達の言葉を借りれば、私に包まれているみたいって」


それは俺から母性が溢れ出ているとでも言うのだろうか。いや、俺の魔力が母性なんて言うのであれば、俺は母性が増え続けているのか……。

俺は男だから、母性というより、父性と言ったほうが正しそう。


コア君も、俺の魔力は寝ているとか言っていた気もするが、魔力のそういう違いはイマイチ分からんな。


「それにしても、貴方は楽しそうな事をしていますのね。ココには無いみたいですけど……また子供達が喜びそうなことを~」


ニッコニコなターニアの言葉に俺は驚く。ターニアの隣では、ウィニさんが首を傾げているが、俺は何の事を指しているかすぐに分かった。

戦闘に関してはスキルに頼りきりな俺の切り札。まだ使ったこともないし、使える保証もないが、コア君曰く可能な裏技。


コア君ですら初の試みだからとワクワクしていたぐらいの保証のなさ。メニアルにもバレない様にとコア君達は慎重に準備をしていたはずだが……それに、ターニアは気付いたというのか。


「そんなに警戒しなくても何もしないわよ? ただ、とても面白そうな事をしていると、子供達がざわついているだけ。多分、貴方の所に居る子達も気付き始めているはずだわよ……ウィニ、これで伝わるかしら?」


おそらくシェイドとケノンの事だろう。


「伝わっていると思いますよ。随分と、言葉を練習されましたね!」


「んふふ~。言葉は新しく生まれるから楽しいのよ!」


談笑を始めた二人を眺めながら考える。

精霊達が気付き、ターニアが知り、シェイド達が気付きかけているというのなら、他にも薄々勘付いている者もいるだろう。

だが、できれば口外したくはないな。保証がないという理由もあるが、あくまで俺の切り札である以上は、その札を切るまで伏せておきたい。


「ちなみにだが、それが何かをターニアは分かっているのか?」


「さぁ? とても面白そうな事でしょ? 子供たちがソワソワしているだけ、それも凄く嬉しそうにソワソワしているのよ。私も気になっちゃて、ソレっていうのが何か教えてほしいぐらいなのよ?」


ターニアが嘘を付くとも考えづらいし、詳細まではバレていないのか。ただ、俺がなにかをしているというのは、気付いているヤツがチラホラ居るという事だけは事実だな。


んー……これぐらいなら妥協できるか。流石に詳細までバレてはいない。であれば、この程度バレても仕方ないだろう。むしろ、コア君が完成させたと言った今までで、これぐらいしか気付かれていないなら上々だ。


「俺もその時までは知られたく無いんでね。楽しみにしててくれ」


「ですね。ですね! 知る瞬間まで知らないのも、また楽しいですよね! ではでは、次に会う時はその時にしましょうか。それじゃあその時まで、楽しく見物させてもらいましょう――王様」


随分とご機嫌なターニアは、そう言い残すと、陽の光に溶け込むように消えていった。


「本当にターニアさんは変わりませんね。光貴さんも、ターニアさんの自由気ままさには苦笑いをよくしていましたよ」


次はこっちか。ターニアと親しげに話している所を隠していなかったから、薄々その気はないと思っていたけど……。

ハルベリア王といい、ウィニさんも隠す気はないと。


「いつから気付いて居たんですか?」


「おや?気になりますか? 確信をしたのは、白玉の子がログストア国に保護されて来た時になります。岸様がスキルフォルダを調べ始めたと聞いた時、もしやとは思いました」


「スキルフォルダ……」


「既に知っておられるでしょうが、スキルフォルダは特別なモノですから。光貴さんも興味を持っていたんですよ! なのでもしやと思い、後の判断は白玉の子に任せようと」


「孤島への手掛かりを渡したと」


「はい!」


あぁ、とっても良い返事ですね。おかげで色々と集まり、知れたのだから文句はないけどさ……爺が俺の性格を知り尽くしているというか、俺が爺に似てきたと言えば良いのか……複雑な気分だ。


「爺も沢山迷惑かけたでしょう……今回の件を含め、ありがとうございました」


「いいえ、光貴さんには私もお世話になりましたから」


「神の子の世話をできたんですか。あの爺」


「ふふふっ。神の子といえど、私は絞りカスにしかすぎません。ただ寿命が無いだけで、人と大して変わりませんよ? お皿割っちゃいますし、お料理は何故か真っ黒になっちゃうんですよ……」


「あ、あはは」


しょんぼりするウィニさんを見た時、脳裏にシューヌさんがウィニさんの事を'天然者'と言っていたことを思い出した。

いや、流石に、そういう意味では無いと思うけど、ドジっ子感はたしかにある。


「あっ! 今、私の事をドジっ子とか思いましたね!」


「まさか、頭の中を」


「そういう顔してました! 私、そういうのには鋭いんです!」


「ハハハ、気の所為では」


「誤魔化してもダメですよ! まさかって言ったの聞き逃してませんからね!」


ウィニさんがぷくーっと頬を膨らましていると、部屋の扉がノックされ、声を返せば扉が開いた。


「やはりこちらに居ましたか。ウィニ、チーア様のお食事の準備ができました」


「え?あっ、チ、チーア様!ご飯ですよ!」


扉を開けたモクナさんに言われたウィニさんは、時計を見て慌てながら俺に張り付いているチーアをゆすり起こそうとしている。

それでもチーアは起きず、ん~~~と唸りながら揺すられて起きる気配はない。


それから五分程して、ぼーっとしているが一応起きたチーアはウィニさんに抱かれて部屋を出ていく。


「常峰様、本日のご予定は」


「少し出かけてからハルベリア王と話をしたいんですが、大丈夫ですか? 昼過ぎには戻ってきます」


「かしこまりました。ハルベリア王には、その様にお伝えしておきます」


一礼をして部屋を後にするモクナさんを見送り、俺も軽く身体を伸ばして気合を入れる。

ハルベリア王にも予定があるのに、こっちに合わせて貰っているからな。さっさと俺個人の用事を終わらせてしまおう。


「そうと決まれば、一度戻らないとな」


-


「ほぉ……こうやってしっかりと見たのは初めてだが、結構独特な雰囲気があるな」


ダンジョンから持ってくるモノと、念の為に皆傘と武宮に場所の確認を取ってから城下へと訪れた俺は、お上りさんよろしくキョロキョロと街並みに気を取られている。


上にというよりは、横に広い建築物。見張り用の高台よりも高い場所は城ぐらいしかない。これはこれで面白い。もっと見て回りたいが……それは今度の楽しみにでもとっておこう。

今は、えーっと大通りから少し脇道にそれた所に――あった。


花園と書かれた看板がある一軒家。扉には、数日休む旨が書かれた紙が張られている。


「おぉ、すげぇな」


そう。ここは皆傘が経営している花屋。

大した意味はないんだが、ついでに立ち寄ってみようと思って皆傘に場所を聞いてきた。


「そのちゃんのお店は、きょうはお休みですよ!」


「ん?」


皆傘の店を眺めていると、いきなり声を掛けられた。声の主を見ると、両手で花瓶を大事そうに持っている女の子が俺を見上げている。


「この店を知っているのか?」


「えーっと、このお店のおとくさまです!」


おトク様? あぁ、お得意様か。


「よく花屋に来るのか」


「そのちゃんが、そだてかたを教えてくれるの!」


「そうか。良いお店だな」


「うん! みんな、いい人!」


ふと視線感じて向ければ、隣の家からこの子のお母さんであろう人が様子を伺っている。

変に不審者だと思われても面倒だし、そろそろ移動するかな。


「ありがとう。今度は、休みじゃない時に来るよ」


「わかった! そのちゃんに言っておくね!」


俺が見えなくなるまで手を振りそうな勢いで、バーイバイとしている子に別れを告げ、簡易的な地図を片手に次の目的地へ。

皆傘の店よりも入り組んだ場所にあり、少し迷いながら辿り着く。


休みでない事を確認し、店内へと足を踏み入れた。


「すみませーん」


「あ”ぁ!!ちと待っとれ!!」


「うす」


店員さんが見えずに声を張ってみると、奥の部屋からドスの利いた声が俺の鼓膜を揺らした。

その声で指示された言葉に従って店内を眺めてどれくらいか……奥の部屋から、ちっさいヒゲモジャなおっさんが出てくる。

安藤とか武宮から聞いては居たが……ドワーフって、本当に俺の半分ぐらいの身長なんだな。


「誰じゃお前」


「一応客です。少し見て欲しいモノがありまして、武器が作れそうならお願いしようかと」


「武器なぁ……とりあえずそのモノとやらを見せろ。後、武器の要望は? 剣か、槍か、弓か」


「これと言って要望はありませんね。作れそうな武器を作ってもらってから慣れようかなと。あ、コレがソレです」


乱暴に用意された椅子に座り、自分がどれなら扱えるかなぁ……とか考えながら、ダンジョンから持ってきた'精霊の涙'をカウンターに置く。


「お、お前さん、コレは本物か」


「精霊本人から貰ったので、一応本物だと思います。武宮もそう言っていたので」


「お前さん、バカ弟子の知り合いか。なるほどのぉ……バカ弟子もバカ弟子でとんでもねぇとは思ってたが、バカ弟子の同類か……」


そんなしみじみ言わなくても……。ユニークスキル持ちという所は同類かもしれんが、俺に鉄は叩けんぞ。

絶対途中で寝落ちして、俺の指がへしゃげる。


ムムムと険しい顔でターニア産の'精霊の涙'とにらめっこをしている武宮の師匠――ボルディルさんは、なんかモノクロの様な道具を使ったり、ランタンで強めの明かりを当てたりと色々した後で、大きな溜め息を漏らした。


「密度も純度も高すぎる。正直、俺もコレ程の素材を扱った事がねぇ」


「加工は難しいですか」


「ったりめぇだ。難しいどころじゃねぇ! そもそも、こんなもんが現存しているなんて、こう見せられた今もテメェの目を疑ってらぁ」


ターニアは、なんてもんを残していってくれたんでしょう。セバリアスが高評価を出したって事以外で、これの価値を正確に俺は知らない。

稀少価値があるんだろうなぁ。ぐらいで持って来たのは、考え無し過ぎたかな。武宮に聞いても、お師匠の意見が欲しい!という答えが返ってきたから持ってきてみたが……。


「難しいだけで不可能ではないと」


「まずもって他の仕事をしながらじゃ無理だ。それと、お前さんバカ弟子から聞かなかったのか?」


「何をですか?」


「'精霊の涙'だけじゃ武器は作れねぇ。脆すぎる。だが、こんな代物と合わせられる鉱石なんか限られすぎて、手に入らねぇ」


「あー、ミスリルとか?」


「それも悪かねぇが、それに加えてアダマントも欲しい。っても、どっちも簡単に手に入る代物でもねぇよ。アダマントなんか、生まれてこのかた見たことねぇ。アダマントも俺が見た資料通りならって話で、ミスリルとアダマントを使うなんて、それこそお伽噺の話だ」


お伽噺か。聖剣とか、魔剣レベルの話なんだな。

貰った時には、良いもん貰ったなとか思ったけど、こうも扱いが面倒だと困る。このまま俺が持ってても、豚に真珠だろう。


ちなみにダンジョン機能でアダマントやミスリルが用意できないかと試した所……びっくりする程の魔力を使うものの用意はできるみたいだ。


「それらが用意できるとしたら、作ってもらえたりしますか?」


「俺に聖剣を作れってか」


「剣でなくても良いですけど、ぶっちゃければそうなります」


正直、作られた武器が俺に合わないようなら、合いそうなクラスメイトに譲るなり貸すなりでいいかなって思っている。

ターニアに悪い気もするけど、俺の寝室でアンティークになるよりかはな……。


「……まさかガキの頃からの夢が、こんな風に巡ってくるなんてなぁ」


「ということは「すまねぇ、俺は打てねぇ」――?」


「お前さんには分からねぇかもしれねぇが、コイツは俺に打たれる事を望んでねぇ。多分、バカ弟子の方がコイツを上手く扱える。アイツの目と感覚は俺を超えてらぁ……俺が保証する! 俺じゃねぇほうがいい」


「つまり、武宮に武器を作らせたほうがいいと?」


「間違いねぇ。俺の勘でしかねぇが、そうした方がいい。まだまだひよっこだが、そこは俺が補助に付く!!」


なんか知らんが、ボルディルさんが熱い。

自分でしたいけど、ソレじゃダメって自分で分かってるけど、それでも関わりたいんだろうな。もう、メラメラと熱意が熱い。


「分かりました。それでは、一応武宮とも話してからにしてみます。武宮が頷いたら、'精霊の涙'と一緒に必要な量のミスリルとアダマントを持たせますんで」


「軽く言いやがる。お前さんがどこの誰だかは深く聞かねぇが、普通こんな話は酒場でする笑い話だ。少し常識を学んだほうがいい」


「肝に銘じておきます」


ミスリルはギナビア国が提示してきた中にあった気がするけど、アダマントとか現実味が無いんだろうな。酔っぱらいの戯言か、子供の夢か……そんなレベルの素材なのか。

色々こっちの知識は覚えたつもりだったが、まだまだだな。


「それでは俺はこれで」


「おう。アダマントが手に入らなくてもまた来い。あんな精霊の涙を見せてくれた礼で、次は少しまけてやる」


「期待しててください」


精霊の涙を袋に入れ、俺は最後にボルディルさんに軽く頭を下げて店を後にした。

店を出る前に時計を確認したが、いい感じに昼前。今から戻って、先に昼食を済ませてから、ハルベリア王の時間ができ次第に話し合いを済ませて帰る。


完璧だ。


帰ってからの予定も考えつつ、少し足早に城へと戻り、一旦荷物を置きにダンジョンへ繋がる扉を目指していると、徐々に大きくなる足音に気付き振り返った。


「――ぁ~~~~つぐっ!」


「ぐふぇっ」


振り返った瞬間、鳩尾に走る衝撃。変な声を漏らしつつも、俺は咄嗟に精霊の涙入りの袋を魔力で保護し、後頭部が地面に叩きつけられる。


「チ、チーアちゃん。頼むから、次からは飛び掛からないでくれ……」


「あい!」


とても良い返事ですが、本当に分かっているんだろうか。


後頭部と鳩尾の痛みに耐えながら、精霊の涙が無事な事を確認した俺は、ロケットずつきそのまま抱きついてきたチーアを引き剥がそうとするが、離れない。

遅れて追いかけてきたウィニさんは、走りながらペコペコと頭を下げている。


この時に、俺は察していた。

予定が狂った事を。


そしてそれを確定するように、チーアが俺に言う。


「ちーあ、おひめさまだからガマンした! あそぼ!」


「そうだな。約束は守らないとな」


嬉しそうに顔を綻ぼせるチーアを抱きかかえながら立ち上がり、追いついた苦笑いのウィニさんに、俺は同じ様に苦笑いを返すことしかできなかった。

この後、めちゃくちゃ遊んだ。



虫取り網とか、久々に持ちました。




ブクマありがとうございます!

これからも、是非お付き合いください!

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