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眠れる王  作者: 慧瑠
冒頭
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動き出すそれぞれの物語

そろそろ冒頭が終わらせられそうです。

理解をすれば、それが一瞬だった様に感じる。

ゼス騎士団長が常峰の石を砕き、こっちに向かって歓声の中を満足そうに歩いている時だった。


俺達も常峰の戦いを見て色々と感じる所もあったが、何よりも先に労いの言葉を掛けたかった。


「バカな…」


誰もが唖然としている中、ゼス騎士団長の声が耳へ届く。

バカな?ふざけるなよ…。


「これがアンタ等のやり方か?」


堪らえようとしても、言葉が口から出ていってしまう。


「何を考えているかは知らねぇが…ただで済ますと思うなよ!あ”ぁ?」


止まる事の無い言葉は大きくなり、腰に下げていた剣を抜いてゼス騎士団長へ一歩足を進めると、軽く俺の肩が叩かれ足が止まる。


「少し落ち着け安藤」


「止めるな新道」


肩に置かれた新道の手を払い、剣を握る手に力を込め斬りかかろうとしたが…急に服が引っ張られ首が締り、また足を止めてしまう。


「市羽…てめぇ」


「口調が怖いわ安藤君。

おそらくだけど、常峰君はまだ無事よ。だから落ち着きなさい」


「無事だ?んなことが「並木さんが私達のスキルを見れないのよ」…」


小さく俺だけに聞こえるように言われた言葉で、怒鳴りそう出そうになっていた言葉が引いていく。


並木が俺達のスキルを視れないと言うこと。それは、まだ常峰のスキルの支配が続いていると言うこと。


「フゥー…悪かった。新道も、悪かったな」


「いや構わない。俺だって結構限界だよ。安藤が動かなかったら、俺がやってたかもしれない」


息を吐き、昇った血を鎮める。

無理矢理笑っている新道を見ていると、俺だけがキレて暴れる訳にはいかないと落ち着きを取り戻していく。


だが…落ち着いたとは言え、この事態を見逃す訳にはいかない。


「説明、お願いしていいかしら?」


俺達より一歩前に出て、腕を組みゼス騎士団長に問う市羽。その表情に笑みは無く、冷たい視線がゼス騎士団長を捉えている。


「…すまない。分からないと言う他無い」


「そう。ゼス騎士団長、私が提示した事は忘れてはいないわよね?

判断は個人に任せはするけど…少なくとも私の意見は変わらないわよ」


「待ってほしい。この事態は王の意思を無視したものだ。

時間をくれ。そして、恥を承知で頼む……協力をしてほしい」


「その言葉を信じろと言うのかしら」


「私の首を賭けてもいい」


「ちょ、団長!」「何言ってんだ!」


「そう…。なら、ここでは判断できないわね。

もし違ったら、貴方の首を落とさせてもらうわ」


ゼス騎士団長と市羽の会話を聞いていたジグリとマーニャは驚きゼス騎士団長へと詰め寄るが、市羽は表情も変えず、言葉に抑揚も無く淡々と宣告した。


市羽がハルベリア王達に提示した内容というのは、俺達は皆聞いている。

常峰を頭として俺達は協力をする。その事は、事前に市羽から東郷先生を通して全員に伝えられてはいた。


その内容に、反対する奴等は俺達の中にはいない。面倒事である事は分かっているし、常峰がそれを引き受け、常峰の指示さえ少し聞けばアイツは俺達を極力縛ったりはしない。

見知らぬ土地で、見知らぬ人間に好き勝手言われるよりは幾分もましだと言うことを皆は理解している。


現に常峰は数日の間だけでも上手くやっていたと思う。

環境の変化で皆が溜まっていたストレスも、風呂の用意や身内同士だけでやるお遊びの様な模擬戦は、少しずつこの世界に慣れさせていっていた。


そんな中で常峰が恐れていた事もある。時間が経てば経験するであろう'死'の直面を。

自らの手で呼ぶか、目の前で起こるかは分からないが、必ず来るソレを常峰は警戒していた。その訪れる'死'の中でも一番警戒をしたのが…クラスメイト達の死だ。


放り込まれた世界の中で、この世界での繋がりが浅い内に起こる知り合いの死はストレスになり、暴走する引き金になりかねないと頭を抱えていた。だから警戒を高め、後日ある実践訓練の計画も考えていたというのに…。


今回は常峰の'死'を連想させた。


「ひとまずは王へ連絡をする。

今日中には王からお呼びがかかるはずだ、そのつもりでいてくれ。

それまでに聞いておきたい事があるのだが…君達の中に'魔導帝'のスキルを持った者が居るだろう」


「ひぅ…」


「…居たら何かしら」


自分の事をいきなり言われて驚く橋倉は小さく悲鳴を上げ、ゼス騎士団長の視線を遮る様に市羽が移動して相手をした。

俺達の後ろに居る橋倉の周りには、既に岸達三人が橋倉を隠す様に立ちはだかっている。


「聞きたい事があるのだ。

調査を進める為に、魔導帝の力を借りたい」


「いいわよ」


市羽は、ゼス騎士団長の申し出をあっさりと了承する。


「私も後で聞きたい事があったのよ。

多分、ゼス騎士団長と同じことだと思うわ」


了承した事が気に食わないのが態度にでてしまっていたのか、市羽は俺に説明をすると共に橋倉を手招きして呼ぶ。


呼ばれた橋倉は、おどおどと岸達と共に市羽へと近付いた。


「橋倉さん、少し聞きたいのだけれど」


「は、はいっ!」


「常峰君を包んだ光…あれは魔法よね?良かったら、貴女が視て覚えた事を教えてほしいの」


「ぁ…えっと…あの、て、転移魔法の一種で…た、単体長距離転移型だと…。

は、発動条件を、リンクさせていた、ま…魔法の停止を条件として……その、今回の場合は、だ、ダメージを肩代わりしていた装備者を対象としていてです。


ほ、本当だったら…転移先まで決めてたりするみたいなんですけど…えっと…常峰君に使われたのは………転移先が未設定だったみたい…です」


「未設定だった場合は不発にはならないの?」


「転移魔法の場合は、その…ストッパーが無いだけなので……発動自体はおこなわれて、何処かに転移…するみたい…です」


おどおどと小さくなりながら答えた橋倉の言葉に俺は驚いた。

まだこっちに来て一週間と経っていないのに、よくまぁそこまで分かるもんだ。これが'魔導帝'というスキルの真髄なのか…と。


俺が驚いている中、橋倉の言葉を聞いていたゼス騎士団長は近場の騎士に何やら指示をだしている。


「助かった。

君達はまだ知らないだろうが、転移魔法というのは誰でも使える魔法ではない。

必要魔力も多く、事故の危険性も高い高位な魔法として存在している。長距離となれば尚更だ。


その様な魔法を使い、機密技術の身代わりの石に小細工ができる者となれば…自ずと絞られてくる。協力感謝する」


ゼス騎士団長は橋倉に頭を下げ、模擬戦に参加していた騎士達に指示を出し始めた。


その場は俺達も解散となり、数時間後…今日の晩飯の後に王との話し合いの場が設けられた。


------一方その頃



「やられたな…」


二度目となるあの独特な浮遊感に襲われた後、何処かへ転移された俺は、体力と眠気が限界のせいか起き上がることも無く仰向けで倒れていた。


「転移魔法も俺への干渉ではあると思うんだが…そうか、そういえば石からの干渉許可はしていたなぁ。

こうも早々に仕掛けてくるとは思わなかった。


さて…どうしたもんか」


仰向けに倒れながらも分かることと言えば…ここは涼しめ空間で周囲は岩肌だというぐらいか。少し奥の方は暗くて見えんし、手触りからゴツゴツとした岩の感触。


早く動いて安藤達の元へ戻る方法を模索しなければ…と思いつつも身体を動かす気力は湧かず、首だけを動かしてもう少し現状把握をしようとすると、少しだけ離れた所に明らかにこの場では浮いている玉があった。


「怪しいよなぁ…」


その玉はソフトボール程の大きさで、磨かれた様なツルッツルの表面。そして何より、この暗さの中でも淡く光っている様に感じる。


長時間の起床で研ぎ澄まされていく感覚には、何かが近くに居るようには感じず、言ってしまえばあの玉と俺は二人きり。

このままでは埒が明かないのも確か。


俺は、仰向けからうつ伏せに体勢を変えつつ、その怪しい玉へと近付き…触れた。


「罠か」


触れた瞬間、ピリピリピリピリと干渉し続けられている何かを無効化し続ける感覚が俺に伝わってくる。

同時に玉は光を増し始め、まるで寝ていた玉が俺が触れる事で起きたようだ。


ここから物理的に何かされても嫌だと思い手を離してみると、触れていたはずの玉は消え、うつ伏せになっている俺の背中に少しだけ重さが追加された。


「……。」


まぁ、俺もバカではない。

考えうる限りでは、さっきまで触れていた玉が俺の背中に乗っている。現に、俺は今も何かを無効化し続けるピリピリを感じているのだ。


しかしこのピリピリ…ずっと感じていると、電気マッサージをされているようで心地よくなってくるな。


「このまま寝るわけにもいかんよな」


睡魔、倦怠感、ピリピリとトリプルコンボに襲われつつも身体を起こし立ち上がると、ゴトンと何かが落ちる。

音の原因を見れば、やっぱりと言えばいいか…あの玉が転がっていた。


こいつが俺の背中に移動したとして、この玉には意思でもあるのだろうか。


なんとなくだが、俺は玉を遠くへ向けて強めに転がしてみる。


「思ったより奥行きあるな」


転がる玉を目でおっていると、玉は暗闇の中へと消え見えなくなり…転がる音も聞こえなくなった。


考えられるのは、壁に当たる前に止まったか…まだ転がり続けていて、壁が遠いか。


とりあえず壁際まで行ってみる事にした俺が一歩足を踏み出すと、コツンと足先に何かが触れる。視線を落として蹴ってしまったモノを確認すればヤツがいた。


「今度は玉に懐かれたか?」


そう。転がしたはずの玉が、ドヤ顔でもしているかの様に淡く光り存在を自己主張していた。


俺は試した。


投げる転がす蹴り転がす。むしろ自分から離れてみる。

傍から見れば、一人で玉と戯れる青年。


同じことも含め、何度かやってみたが…この玉は俺の近くに戻ってきた。


なんだかなぁ…。ピリピリはまだし続けているが、それ以外に何かあるわけではなく、玉の対応が面倒になった俺はその場に腰を下ろした。


あぐらをかき、なんとく玉を膝に乗せてみる。

ツルツルで傷一つ無い玉はそれなりに硬い。さっき蹴り転がした時も、ちょっとだけ痛かった。

整地されていないゴツゴツした床を転がっても傷が付いていない所を見ると…それなりの強度があるようだ。


「はぁ…少し寝てから考えるか」


ゼスとの戦闘の後で疲れていたにも関わらず、玉に弄ばれた俺の気力はすっかり抜かれ、眠気も限界を既に超えている。


少しだけ。少しだけ…と自分に言い聞かせ、俺はその場で横になり目を閉じた。


睡魔からのスキンシップも激しかったせいか、こんな場所だと言うのに数秒と掛からず俺の意識は闇に沈んでいく…。


「おやすみなさいませ」


沈み切る瞬間、何やら渋めの声が響いたが…俺が聞き取る事は無かった。

ここから冒頭第1話へと時間は流れます。


ブクマ、ありがとうございます。読んでいただけてるというのは…励みになりますね。

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