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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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疲れたので、とりあえず一眠り

あれから軽い雑談を交わし、そろそろ時間だからと部屋を出ていく皆傘達を見送った。


「はぁ……」


部屋に一人になり、思わず漏れてしまう溜め息。


確信までは無い様子だったが、皆傘は薄々気付き始めている。モクナさんの不審な動きが、ログストア国の意向に沿ったものではないと。

モクナさんの魅了(チャーム)や安藤が協力をしている事まで察していない……と思う。しかしそれも時間の問題かもしれんな。


「ダンジョンの範囲を下にまで広げれば、多分俺でも張り巡らされている地下を精密に把握できる。だけど正直に言って、そこまでハルベリア王に話を通さずにするのは、侵略行為に触れる気がするな」


なにせ使うのはダンジョンの力だ。知られれば、王としてではなくダンジョンマスターという事で白羽の矢が立ちそうなぐらいだ。

ギナビア国を利用してダンジョンの事を広める手筈を整えている今、下手な事を無理して進める必要もないだろう。それに、ログストア国の問題にこちらから踏み込む必要もない。


「モクナさん関連で問題が起これば、少なからず安藤は関わってくるだろうが、俺がするのは問題が起こってから。事前にどうこうするのは、ハルベリア王の役目だろう」


事前段階でハルベリア王が俺に何かを言ってくるのであれば、それには応えられる様にしておくか。その時に皆傘に頼む事もあるかもしれないが、当人の意志を尊重するならば'異界の者'である事は伏せたい所だな。


確か皆傘は一般的に異界の者とバレていないはずだ。彩達の様に知られている人物と行動はしていないし、表向きは王都に店を構える花屋の店主。強いてあげるのならば、報告をする為に親衛隊連中が城に出入りしているが、単に王家御用達って程度で誤魔化せる範囲だろう。

今後を考えるならば、今のうちに用意しておく方がいいかもしれんな。


「セバリアス」


「ここに」


「忙しいのにすまん。少し頼みたい事がある」


「我が王がお呼びとあらばどこにでも。それで、頼み事とは」


「シーキーと……人手が要りそうならアラクネ達に俺の名前で協力を仰いでいい。中立国の国章を刺繍したローブを、顔がバレない様に認識阻害を組み込んで、ダンジョン勢分とそれとは別に二十着用意してほしい」


「色などのご指定は」


「白以外で頼む。三大国が用意した異界の者の証明用ローブとの差別化を図ってほしい」


「かしこまりました。すぐにシーキーと摺り合せて参ります」


一礼をしてから、現れた時の様にサッと消えていくセバリアスを見送ると、改めて俺の口からは溜め息が漏れる。

今や中立国の国章となった校章。大国の上層部は認識をしているし、ギナビア国に関してはルアールに協力をしてもらって印象は与えているはずだ。


後は異界の者達が纏うローブとは別に、中立国の重役の証として俺がローブを用意すれば異界の者ではなく中立国の者として印象を与えられる……と思う。


「悪用もしやすくなるから、あんまりそういうのを増やしたくはないんだけどな。悪用した場合の罰も考えたりしないといけなくなったが、後々しようと思っていた事だし、丁度いいか」


ギルドの技術がパクれればいいんだけど、その辺を交渉するタイミングがあるかなぁ。どうしても無理なら最悪の場合は、セバリアスか橋倉に……。


「腹減ったな」


眠さと相まって空腹が重なり、俺の思考も散漫になっていく。もう、何も考えずに寝たいと考えてしまうループが発生し始めている。

リュシオン国の事も少し気になるし、ログストア国への訪問予定、帰還方法の事、アーコミアとかの事もある程度予想を立てておきたいのに、ダメだなこれ。飯食って寝よう。


せっかく皆も居ることだし、誰か居れば気晴らしに一緒に食おうかなと腰を上げると、タイミングを見計らったかのように部屋の扉がノックされた。


「はい」


「畑だ。飯を持ってきた」


「マジ? 入っていいぞ」


本当に狙いすましたかの様なタイミングだが、声と共に鼻孔をくすぐる香ばしい匂いに、俺の腹は小さく鳴き声を漏らしかけている。


上がった腰を下ろせば、畑が扉を開け、香ばしい匂いは一層濃くなり、もうこのまま寝てしまえば食の夢が待っていると俺は確信できた。が、寝るわけにはいかん。空腹を満たし寝れば、更に心地よいモノが待っていると俺は知っている!


「中満も居たのか」


「気付くの遅くない?」


「夢心地の空腹に酔いしれていた」


「……アホかな?」


「いいから食うぞ」


畑が押している台車を見れば、明らかに一人分ではない量が乗っている事に気付く。

俺は広げっぱなしだった地図を片付け、食器を置ける様にすると、中満の言葉には深く触れずに魔力で料理を並べていく。


「そんな事も魔力でやっちゃって……」


「あぁ、ちょっと待ってくれ王様」


「どうした?」


中満が何か言っているが無視して並べようとすれば、畑からストップが掛かり、俺が並べた料理の位置を変えて始める。

何か拘りがあるのか?と思い眺めていると、俺の前には同じ料理が二つ並べ置かれた。


「なんで二人分?」


「どっちも少なく盛ってある。合わせれば一人分ぐらいだ」


「あ、そう」


確かに言われてみれば、俺の前に並べられた料理は、畑達のに比べれば少ない。元々そんなに大食いでもないし、一皿だけでも何ら問題はないんだが……分けられているのには意味があるんだろうか。


「とりあえず食ってみてくれ」


「これに何の意味があるのか分からんが……いただきます」


目の前に並ぶ料理は、所謂ステーキ。何の肉か知らないけど、いい匂いが食欲をそそる。

用意してくれたナイフを使えば、抵抗も無くスルリを切れ、一口だいにカットした肉を肉汁と共に口に運べば――うめぇ。


とんでもなくうめぇ。


評論家とかは、これをどうやって表現するんだろうか。

米があれば、肉汁だけで茶碗は空にできるかもしれんし、口の中から消えた肉の残り香だけでも進む進む。次の一口が待ち遠しくて仕方がない。


「王様、次はこっちを食ってみてくれ」


「んぐ」


もう次の一口を入れてしまったので、頷く程度でしか返事ができないのは察していただきたい。そして無くなれば次の一口へ手が伸びかけるのだが、畑と中満の視線に気付き、まだ手を付けていない皿の方のステーキをカットして口へと運ぶ。


ん、これもうまい。でも個人的には最初の皿の方が好きだな。


「どうだ」


「どっちもうまいけど、俺は最初の皿の方が好きな味付けだ」


「……やっぱりか」


やっぱりという事は、何かしら味付けが違うんだろうか。

そんなに上等な舌は持ってないし、細かな違いも分からない。


「その料理な、調理法や味付けは同じにしてある。唯一の違いが肉の違いなんだ」


「へぇ。違いがあるなってのは分かるが、肉が違うだけでこんなにも違うんだな」


「ロンドカウという魔物の――まぁ、牛肉だ。ログストア国の立食の時にも振る舞われていたんだが、片方は狩ってきたロンドカウ。もう片方が、こっちに来て初めて魔族達が出荷して王様に献上してくれたロンドカウの肉だ」


おぉ、ついにか。飼育環境が変わって苦労させてしまっていたが、ちょっとずつ出荷できる様にはなってきているんだな。


「そうかそうか。畜産の方も進んでくれているようで嬉しいね」


「ちなみに、最初に王様が口にした方が、献上された肉だ」


「ほー……俺は飼育品の方が好きなんだな」


「いや、肉自体の品質も魔族達が飼育した方が上だ。というより、ちょっと前に牧場の様子を見に行った」


「どうだった?」


「環境に拘り、餌も特定のモノしか与えなかったりと、魔族達は食うための肉を作っている」


まぁ、畜産だしな。そりゃ食うために飼育しているだろう。

それがどうしたのだろう?と首を傾げながら料理を口にしていると、畑は一つの予想を俺に告げた。


「ログストア国で出た肉は、王様が後に食べた方の肉だ。それが気になって少しルアールさんに協力してもらってロンドカウの事を調べたんだよ」


「ん」


「それでな……ロンドカウは生息地が広く、雑食性な事もあってか、多少劣悪な環境でも生きていける魔物だった。サイズや生息地によって味に変化があり、特殊個体になれば独特な味をしている事もルアールさんに聞いた」


「ん」


「ロンドカウの生態を調べた結果、群れを成して行動するらしくて大移動する時がある。その時、ギルドで討伐依頼が出され、討伐した肉は干し肉や王家にも届けられる事があるらしいんだ」


「んー」


「その他でも、ロンドカウは絶対数が普通に多いから食用として狩る者も少なくはない……ちょっと、食べるの止めて聞け」


「んぐっ、はい。それで、そのロンドカウがどうしたんだよ」


「ここに来る前に岸達に聞いて、鴻ノ森達にも一応聞いたんだが、牧場なんかは見てないらしい。畑や、農業用の家畜ばかりだったと聞いた。……ココからは俺の予想になるが、魔族は畜産を知っている。知識がある。対して人間側の食料は狩ったモノが多くて畜産に手を出している所の方が少ないし、大国が援助はしたりしていないと思う」


旨い肉を作れるぐらいだからな。魔族にはそれなりの知識があってしかりだろう。俺もそれを目的としてメニアルと手を組んだ所もある。

だが、それの何が……ん?待てよ。


「中満、メニアルが寄越した人材は、酒が作れたのか?」


「あ、気付いた? そうだよ、前にも言ったけど僕には知識も経験もない。だから魔族の人達が現場監督までしてくれているし、僕がやってることなんて、酒造りをしてくれている魔族の人に手伝ってもらって、スキルで消化されているお酒の補充をしたり、配達をしているぐらい。酒造に関しては、僕が勉強をさせてもらっている状態なんだ」


「作っている酒の種類は」


「こっち原産の芋類を利用した焼酎、ワイン、結構なんでも作れるっぽい。今は焼酎に集中してるかな」


調理酒は適当に用意できるモノだから頭から抜けていた。

別に知っていて不思議じゃないとばかり思っていた。


「知識の出処はどこだと思う」


「人間……それも、異界の」


「どうしてそう思った」


「知識だけが先走りすぎている。奏汰から話を聞いた時、酒の保存温度にまで拘りがあるらしい。だけど、それを長時間に渡る魔法での維持で行っているのは、種族間で戦いが行われている最中に割ける時間か? それに」


「畜産の知識は人間以上だと」


「あぁ」


多分酒造に関しても、魔族の方が何枚も上手(うわて)なのかもしれん。酒を飲まないし、比べることができないから分からないけど、それでもおかしくはない。

人間が戦いに明け暮れている間に、魔族は品質向上に意識を向けていた……そんな時代があったのかもしれんが、魔王が現れる度に魔族と人間は戦ってきた。


「可能性としては普通に魔族が力を入れている可能性もある。よく気付いてくれた」


異界の者が魔族に手を貸した時期がある可能性。

失念をしていた訳ではないが、召喚する人間がそんなヘマをやらかすとは考えにくかった。しかしもし、本当に魔族側に協力をした異界の者が居るのなら、どの程度なのかを知っておかなきゃな。


「俺だけじゃ気付けなかった。奏汰が違和感を覚えたから、俺ももしかしてと思っただけだ」


「もしかしてと思ったのは恭司だけどね。一応、手伝ってくれてる魔族の人達にも聞いてみたけど、教えてくれたのはメニアルさんらしいんだよね」


「俺からすれば二人のおかげだ。メニアルの側近に聞いてもいいんだが、あの二人は二人で魔族達の管理に忙しいからな。メニアルが戻ってから聞くことになる。情報が手に入ったら、二人にも教えるよ」


俺達はあまりにも魔族に関して知らなすぎるな。俺からすれば、知れば知るほど人間と大差なくて、知った気になっていたのかもしれん。

この際だから、とことんメニアルと話してみるか。


「にしても、どっちも美味いのには変わりないな」


「スキルのおかげってのもデカイが……そんなに美味そうに食われると、料理人冥利に尽きる」


「うむ。これからも精進したまえ」


「へいへい。仰せのままに」


「王様がお酒さえ飲めれば、僕もその言葉が貰えたのかな?」


「酒の評価はメニアルや魔族達に任せてる。かなり好評だ」


「まぁ、僕の場合は百パーセントスキルのおかげだから、素直に喜べないけどね!」


その後も魔族達と交流の多い二人は、色々と話してくれた。

魔族が好む食べ物や、職人気質な魔族もいるし、ドワーフと知り合いの魔族もいるんだとかなんとか。


思っていたよりも友好的で驚いている。と二人は言ったが、それはメニアルのおかげでもあるんだろうな。

アーコミアや他の魔族を見た限り、友好的というよりは好戦的だ。それでもこの国では、喧嘩などはあるものの大きな戦闘はない。ちょっとすればケロッとして肩を組み合っているなんて報告もある。


セバリアス達とも、アラクネ達とも普通に話をしたりできているらしい。


「なぁ王様、魔族は敵なのか?」


「敵じゃない魔族も居るが、敵の魔族も居る。それだけだ」


「じゃあ人間や他の種族は味方なのか?」


「さぁな。敵も居れば味方も居るだろう」


コッチに来て魔王やら魔族やらの事を知らされ、蓋を開けてみればそんなに簡単な事じゃなかった。

もっと単純に魔族は敵!ならどれほど楽だったことか……。俺はメニアルと手を組み、人間の中にも魔族に協力をしている奴等がいる。

ましてや大国の連中は、それぞれの思惑を抱いて俺達を利用できる隙を伺っている状態。


荷が重い。さっさと隠居したい。もう、何もしたくない。寝て起きて、二度寝するだけの生活をしたい。後、ちょっと上手い飯があれば最高。


「まぁ、もう少し頑張りますけどね……うまい」


最後の一口を放り込み、その味を堪能し終えた所で、畑と中満も丁度合わせて食べ終えていた。俺が食べ終え、三人で軽く片付けをして食後の紅茶を堪能すれば、時間はそれなりに過ぎていた。


心地よい満腹感で眠気がピークとなった俺は、中満と畑に礼を告げると、二人が部屋を出ていった瞬間……寝た。


それはもう、ぐっすりと寝た……はずだったんだが……。


「やぁ」


「流石に怒るよ?コア君」


「そんなにカリカリしないで、今日は僕しか居ないから。それに、DMルームの権限を渡したのは常峰君じゃないかぁ」


「アレの事を考えると、ある程度使えた方がいいのは確かだろ」


「まぁね。おかげで色々と試せているよ。嫌だったら権限を回収していくかい? コアは常峰君のモノだからねぇー、それぐらい簡単だろう?」


「コア君が裏切ったらな。それまでは、今のままでいいよ」


「ありがたい。回収されたら、二代目と三代目が泣く所だったよ」


アハハ。と笑うコア君の隣に座った俺は、目を閉じて完全に脱力をしていく。試したことは……というより、試す暇が無かったけど、DMルームの中でも寝れそうだな。


「おや、寝るのかい?」


「絶対今は触手とやり合いたくない」


「アハハハ! そんなに僕は意地悪じゃないよ」


どの口が言うんだ。

初めて俺の意思なしでDMルームに引きずり込んだ時も、焼肉定食を食った直後だったじゃないか。残留思念も痴呆になるんだったら前もって言ってくれよ。


「雄と雌どっちがいい?常峰君」


「ごめんて」


今は本当に至福の時間なんだから、できればこのまま睡眠の海へ返してくれ。


「まぁ、今日は勘弁してあげるよ。今回は、常峰君の新しい切り札の準備が終わったよ。って事を伝える為に呼んだからね」


喋るのもダルくなってきた。

勝手に思考読んでくれるから、喋らなくていいか。


「僕が独り言みたいになるから、できれば喋って欲しいなー」


どんまいコア君。

それで、いつでもいいのか? その切り札は、俺のタイミングで切って。


「いいよ。時間が経てば経つだけ、僕も二代目や三代目も追加で準備ができるからさ」


今の所は切り札を使う予定もないから、その間は適当にDMルームを使ってくれよ。その時になったら存分に使わせてもらう。


「僕達も初めての試みだから、あんまり期待してもらっても困るよ?」


セバリアス達が仕えた男なんだ、俺の期待ぐらい軽く超えてくれるって信じてる。それはもう、俺なんて必要なくなるぐらいに。


「まったく君は……今のセバ君達は誰よりも常峰君を信頼しているんだよ? そういう事を言うのはよくないなぁ」


分かってるよ、必要ないって言われても居座る予定だ。そうなれば俺はゆっくりと寝れるからな。


「別に常峰君の願いを否定はしないけど、セバ君達を悲しませたら怒るからね」


そのつもりはない。無いけど、一応聞いておこう。

一体、どう怒られるんでしょうか俺は。


「とりあえず、ローバープラントの群れの中に君を放り込む」


それは困った。触手の群れとか、俺の精神衛生が持たないな……一眠りしたら、また情報整理をしましょうかね。


そう心に決めて、本格的に俺の意識は落ちていく。

頭が全然回らない。


次は、ログストアに行くと思います。



ブクマありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ、嬉しいです!

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