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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
143/236

一方その頃:桜と鴻ノ森

少し短めかもしれません。最近多くてすみません。


一応、並木視点です。

春風が揺らす木漏れ日、照りつける光は棘の様、山粧う色と香りが風に乗り、光は柔く薄化粧を輝かせ 風は肌を刺す……なんてね。


「四季の風情なんてありゃしない」


「並木さん、声に出てますよ」


「別に私に付き合わなくていいんだよ?鴻ノ森さん」


私の口から漏れた独り言に、隣を歩く鴻ノ森さんは反応して言葉を返してくる。


常峰君のダンジョンへと戻ってきたのはいいけど、東郷先生やコニュア皇女さん達はピリピリしてたし、常峰君はどっかいってるし。

岸君達は、エルフだー!とか騒いでどっかいっちゃって、桜は岸君と、朱麗は安賀多さん達に連れられて曲の感想を求められ、艮さんと田中君と佐々木君は訓練とかで居なくなってた。

白玉さんもセバリアスさんの手伝いを始めちゃって、新道君達は少し遅れて来るとかで。


私も私でさっきまでは、柿島さんからギナビアでの話を聞いて時間を潰してたんだけど、ギナビアから来てるヒューシって人とラフィさんが立会をして欲しいと連れて行ってしまったわけで……今は、鴻ノ森さんとダンジョンもとい中立国内をウロウロ探索中。


「にしても、広いなぁ」


「階層で広さも違うようですし、一日で全ては無理そうですね」


こんな感じで大した会話もなく二人で散歩気分。

扉を使って階層を適当に歩き回り、飽きたら次へを繰り返し、さっき艮さん達の訓練している場所も見つけている。


寒かったり暑かったり、ベタベタしってたりカラッとしていたりと、気温も気候もバラバラで、あんまりうろちょろしすぎると、身体が変化に追いつかなくてしんどくなりそう。


「おや?アレは何でしょう」


今は、地上にある魔族達が住むエリアをぽてぽてと二人で歩いていた。少し特徴的な見た目と、建築物の雰囲気が違うだけで、その生活に驚く様な違いは今の所見当たらないなぁ。


そんな事を考えていたら、鴻ノ森さんが何かを見つけたらしい。


鴻ノ森さんの視線を追う様に目を向ければ、ゆったり歩く蜘蛛と、その背中で寛ぐでぶ黒猫の姿が……。


「あっ」


腰下ぐらいまである大きな蜘蛛は'アラクネの子'という説明が書かれていて、ぶにゃっと太っている黒猫には'マープル'という名前が付いている事が視えた。


「お知り合いでしたか?」


「まぁ、うん。黒猫の方も知り合いかなぁ」


その蜘蛛と黒猫がどういう存在なのか気になり、ユニークスキルである鑑眼を発動して詳細を見ると、大きい蜘蛛の方も黒猫の方も私は知っていた。


あの孤島以来、アラクネさんとは会ってなかったし、白玉さんに聞いても大丈夫です。としか教えてはくれなかったから気になってたけど……そっか、常峰君が保護してくれてたんだねー。


「大きな蜘蛛の方は、孤島で知り合った人?の子供みたい。黒猫の方は、私達のペットのマープルだよ」


「私達?」


「そそ。クラスで買ってるペットみたいな感じかなぁ。王様から聞いてない?」


「聞いていませんね」


常峰君が教えていないって事は、実はマープルはショトルです。って言うのも教えないほうがいいかな。何を隠していたいのか、私にはさっぱりだからねー。余計な事はしないしない。


「いちいち念話で報告することでもないっか」


「そうですね。伝えられても、そうですか。としか思いませんし」


誤魔化す為に自分で言ってて、本当にそれだけな理由な気がしてきた。確かに伝えられても、反応に困りそう。

九嶋さん辺りは、すごく反応しそうだけど……。


「あ、向こうも気付いたみたいだね」


すれ違う魔族達もマープルの事を知っているんだろう。

手を上げたり、声を掛けたりで挨拶して、マープルも手を振り返す事で応えていた。その様子を、少し離れた所から鴻ノ森さんと見ていると、マープルも蜘蛛も私に気付いたみたいで、こちらへと近寄ってくる。


「マープルは久しぶり、蜘蛛さんはそうでもないね。アラクネさんは元気?」


私の言葉に、蜘蛛は前足二本で丸を作ろうと苦戦して、見かねたマープルが黒猫から少女の姿へと変わって私と鴻ノ森さんの手を引き始めた。


「え?」


「あー、マープルは姿を変えられるらしいよ」


「私達のクラスは、一体何を飼わされているんでしょう」


「まぁまぁ、可愛いからいいじゃん」


「あまり得体の知れないモノを可愛いと思えないのですが……」


怪訝そうな眼で私達の手を引くマープルを見ながらも、鴻ノ森さんは逆らう事なくマープルに連れられていく。もちろん私も。

大きな蜘蛛はマープルの前を先導してくれている。


マープルに発声機能までは無いんだろう。さっきどこに向かっているのか聞いてみたけど、返答は無く、サムズアップだけで返された。

鴻ノ森さんも問いかけるだけ無駄だと察したのか、私と鴻ノ森さんの手を繋ぐマープルに引かれるまま数十分。すると、ちょこちょこと魔族が出入りしている建物の前に着く。


ちょっと見上げると入り口には看板があり、そこには'仕立て屋本舗アラクネ'と書かれてる。


「アラクネさん、お店を持ったんだ」


「服屋……ですか」


お店に着くと大きな蜘蛛は裏手へと移動していくが、マープルは繋いだ手を離さずに店の中へと入っていく。当然私と鴻ノ森さんも店内へと足を進める事になるんだけど……店内に入って驚いた。


明るい内装に、無数に並ぶ木材の人形は色々な服を着飾り、壁際にはエプロンとか帽子とか、小物類とかが棚に並んでいる。そして端の方には、試着室と書かれた個室がある。


「いらっしゃいませー。あら! 桜じゃない!」


「アラクネさん! お元気そうで!」


「眠王さんが色々とね。お手伝いさんまで手配してくれたのよ」


嬉しそうに笑うアラクネさんの後ろでは、シーキーさんが翼の生えた人に何かを教えている姿が視えた。


多分、あの人がお手伝いさんなんだろうけど……机に積まれている布の山と本の山は一体何なのだろうか。それと、良く良くみれば、お手伝いさんとアラクネさんは似ている服には、私達の学校の校章が描かれたバッジを付けている。


「マープルもいつもありがとうね。桜、そっちの人間は?」


私達の手を離して黒猫に戻ったマープルを撫でながら、アラクネさんの視線は鴻ノ森さんへと向けられた。


「同郷の鴻ノ森さん」


「はじめまして。鴻ノ森 清華です」


「清香ね。私の事は……アラクネって呼んで」


一瞬だけ悩む様子を見せたアラクネさんは、結局私達にしたように種族名を口にした。それに対して鴻ノ森さんも少しだけ首を傾げたが、そうですか。と答えて握手を交わす。


「ねぇ清華、貴女はどんな服が好き!」


「え、えぇっと……あまり派手でなければそれで」


「それならこんなのはどうかしら!」


「あぁ、良いんじゃないでしょうかアァッ」


鴻ノ森さんの言葉など、アラクネさんは最初から聞いていない。意見を聞いた時点で手はワキワキしていたし、答えた時点で既にアラクネさんの手は鴻ノ森さんの肩を掴んでいた。

そして、アラクネさんは鴻ノ森さんを試着室へ引きずり込んでいくわけで。


「初めて鴻ノ森さんのあんな声聞いたかも」


残された私はそんな言葉を呟くしかできない。ごめんなさい、鴻ノ森さん。

暇になった私は、店内に飾られている服を見ながらお客さんの様子を伺う事にした。


スキルを使いながら覗きつつ、シーキーさんの接客を見ていると、店内に居たお客さんをある程度捌いた所でお手伝いさんが代わりにカウンターに立ってシーキーさんはこっちに来る。


「気付いてはいたのですが、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。おかえりなさいませ、並木様」


「あ、はい」


あまり慣れていない丁寧な挨拶に戸惑いながらも返事をすると、こちらへと手を掲げてカウンターまで案内された。


「ラデア、我が王のご友人です。ご挨拶を」


「は、はい! はじめまして常峰 夜継様にご購入頂いた'ラデア'と言います!」


「こう、にゅう?」


「ギナビア国との交渉でこちらが受け取る事となっていた奴隷なので、表現的には間違いではないかと思います。我が王は、ラデアをこの店の従業員にと」


「あ、あぁー! そういう事ですかぁアハハ」


頭を下げて眼を合わせようとしてくれないラデアさんの言葉に、私は驚いて隣に立っているシーキーさんに眼を向けてしまう。すると、シーキーさんは、私が誤解しかけていた所をしっかりと理解していて、誤解のないように説明してくれた。


そういえば、漆さん達が何かしてるって岸君が話してたっけ。

常峰君から指名がなければ、私から念話をする事はあんまりなかったし、そこら辺の事をすっかり忘れちゃってたなぁ。


えっと、つまりは漆さん達の頑張りの戦利品?戦利人?がラデアさんって事だよね。なるほど、半魔って種族も居るんだ。


「遅れてごめんなさい。私は並木 桜って言います。私達の王様の事、よろしくおねがいします」


「い、いいえ、お世話になっているのは私なので。はぃ。とても、いい環境で……その」


すごく常峰君の事を褒めちぎろうと頑張っているのが伝わる。でも、常峰君って、服とかには無頓着そうだし、シーキーさんに任せっきりな気がするから、褒められる所が無いんだろうなぁ。


無理して褒めなくていいよ。と声をかければ、怯えた瞳でやっと私を見てくれた。


「無理とかでは――「ラデア、我が頼んでいたのはできたか? っと、なんじゃ異界のではないか。確か、桜であったか」メ、メニアル様!」


「あ、お久しぶりです。メニアルさん」


ラデアさんが一生懸命に無理ではない事を伝えようとしていると、言葉を掻き消す様に少し乱暴に扉を開けて入ってきたのは魔王のメニアルさんだ。


常峰君との模擬戦の後で少し話したけど、戦っていた時とのギャップを感じるほどにメニアルさんはフランク。こうして今も、私に気付いては軽く肩を叩いて挨拶をしてくれる。


「メニアル様、申し訳ありません。まだ、頼まれていたマフラーはできていません。すみません」


「そう謝るでない。初仕事をくれてやれ、と夜継に頼まれたからマフラーというモノにしただけじゃ。我は時間もまだある。お主の自信作を我に献上すると良い」


「と、途中ですが、見られますか? 半分はできているんです」


「いや、完成品を心待ちにするとしよう。では、我は帰るとしよう……ん?」


私にも、また。と声を掛けてメニアルさんが店を出ていこうとすると、空気が揺れた様な感じがした。

私の気のせいかな?と思ったけど、店の扉を開けたメニアルさんは、鋭い視線で空を見上げている。


「桜、シーキーでもよい。我は少し出掛ける故、夜継が戻ったらそう伝えよ」


「え? あ、はい」


「かしこまりました」


それだけ言い残して、メニアルさんは切り裂いた空間に消えていく。


今の空気が揺れた感じが何か問題だったのかな。空気に向かってスキルを使っても、何が何だか分からない。少しでも形があれば、多分私でもわかったかも知れないけど、なんだったんだろう。


「シーキーさん、メニアルさんはどうしたんですか?」


私が分からなくても、シーキーさんなら分かるかな?って事で聞いてみる。


「今、微量ですが魔力の揺れを感じました」


「魔力の揺れ?」


「はい。並木様の反応を見る限り、並木様も魔力の揺れにはお気づきになられたと思います。魔力の揺れは様々な理由で発生し、珍しいかと問われますと、それほど珍しいものではありません。

ですが、先程の揺れは、少々不可解な魔力が含まれていました。加えて、近場ではなく遠くからの余波の様なモノでしょう」


「ちょっと難しいんですけど、それが問題なんですか?」


「どこに狙いを済ませているのかも曖昧であり、ここまで余波が届くほどの魔力です。原因の早期発見をしておく事には越したことありません。それにですが、おそらくメニアル様は大方の予想ができており、確認をしに行ったのでしょう」


「シーキーさんも予想できてたりするんですか?」


「大規模な戦闘の様子は近場にございません。セバリアスさんも、周囲警戒のみで反応を見せない所を考慮しますと……オズミアルの可能性が予想されます」


オズミアルって、魔王オズミアルの事だよね?

前に動画で見せられた時、そのサイズとかまったく分かんないぐらい大きかったヤツ。それの可能性って、オズミアルの魔力がココまで届いたってこと? それって、かなり危ない状況なんじゃない?


「大丈夫なんですか? その、王様にすぐに知らせたりした方が良かったりしません?」


「我等が王の元には、現在シェイドがおります。精霊である彼は、魔力に敏感ですので、既に我等が王にはご報告済みでしょう。それに、オズミアルは大陸より離れており、時たまにですが、こういう事も起こっておりました」


つまりは大丈夫だと。それならいいんだけど、私達ってそのオズミアルの討伐も依頼されてたよね。常峰君は、どうやって相手にする気なんだろう。


「ただここ最近は頻度が多く感じます。その事を懸念し、メニアル様もご確認に行かれたかと」


「じゃあ、メニアルさんの報告待ちな所があるんですね」


「我が王に、我等が王に危害を加えようとするのであれば、我々が処理をいたしますので、ご安心ください」


「すっごい心強いです」


でも、きっとそういう時は私達もだよねぇー。メニアルさんは仕方無かったとは言え、二体目も一人でどうにかするって事はしないだろうなぁ。

私達は私達で調べてる事はあるけど、それは私達の用事。最初に立ち位置を考えた常峰君が、一人でなんて判断をするとは思えない。安全と安定と、外部からの評価を考えるなら、必ず私達にも何かやらせる。


何より、面倒くさがりそう。


「シーキーさんはオズミアルの事を知っているんですか?」


「私は初代に仕えてからダンジョンから出ていないので、詳しい事は存じ上げません。詳細を知りたければ、セバリアスさんかルーアルに聞いたほうが良いかと」


「二人なら分かるんですね」


「えぇ、まぁ。私もまったく知らないわけではないのですが、今のオズミアルには関係ないでしょうから」


含みのある言い方だなぁ。もし、聞いてるのが常峰君なら話したんだろうけど、私にはその気はなさそう。

無理して聞いて印象悪くしても面倒だし、突っ込んでも仕方ないね。


「わかりましたー。そういう事なら、あとでセバリアスさんにでも聞いてみます」


「それがよろしいかと。では、私は作業に戻らせていただきます」


シーキーさんがペコッと頭を下げてからラデアさんと一緒に奥に戻っていくと、入れ替わる様に満足げなアラクネさんと死んだような眼をしている鴻ノ森さんが戻ってきた。


「んふふ、清華に似合いそうなのが決まったわ! できたら眠王さんに渡しておくわね!」


「はい」


おぉ、いつも以上に淡白な鴻ノ森さんだ。もう声に覇気もなにもない。


「桜もどう?」


「んー、私は少し用事ができちゃったからパスで」


「そうなの。せっかくシースルーの試作品ができた所なのに」


「また後で見に来るよ。その時でも平気?」


「全然平気よ!」


後で戻ってくる約束をして、シーキーさんとラデアさん、そしてマープルにも別れを告げてから、疲れ切っている鴻ノ森さんと一緒に店を後にする。


「服の着脱がこんなにも疲れるものだとは思いませんでした」


「アハハ、お疲れ様」


「初めて労いの言葉が憎たらしいと感じたかもしれません」


「あ、あはは」


ジトッとした視線を受けながら、とりあえず自分の部屋がある王城まで戻る事にした。


なんか出かけてるらしいけど、そろそろ常峰君も戻ってくるかな? そしたら、少し先の予定を聞いて、他の魔王の事も聞いてみようかな。

遅れました。すみません。


次の展開を考えねば。



ブクマありがとうございます。

これからも、よろしくおねがいします。

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