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眠れる王  作者: 慧瑠
冒頭
14/236

模擬戦

ちょっと、本当にちんたら長くなりそうだったので、結構強引に、だいぶはしょりました。

「おい、常峰…おーい、起きろ常峰」


「んぁ?安藤?」


「おう、俺だ」


あれ?なんでここに安藤が…。


「よく寝れたか。もう夜だぞ」


「は?」


安藤が指をさす先には時計があり、その針はバッチリ八時。

あっれぇ?


「殆どが風呂入って、飯まで食ったぞ。

いつまでも来ねぇから常峰の専属メイドに聞いてみりゃ…ここに引きこもってるって言うから見に来たんだが」


「寝てたと」


「そりゃもうぐっすりと」


まぁ、ですよね。

眠くて仕方なかったのに、一人で黙々と本を読むなんて俺が出来るわけねぇわな。


さて…一応、寝るまで読んでいた本の内容はギリギリ思い出せるが、今からまだ本を読むとなると…うん、寝るな。


「安藤、安賀多達も戻ったか?」


「安賀多?あー、そうだそうだ。そういや、起きたら言うように言われてたわ。

通しで一回やりたいから、起きたら教えろってさ」


「そうか。わりぃ、安賀多と中野、九嶋と皆傘に起きたように声を掛けてて貰っていいか?

ちょっと顔洗ってくる」


「この人使いの荒さよ」


「わりぃな」


使っていた机を見れば、積んでいたはずの本は既に無くなっている。

きっと誰かが片付けてくれたんだろう。


助かった…持ってきてもらってたから、元の場所を俺は知らないんだ。


「おはようございます常峰様。

お食事を先に済ませますか?お風呂のご用意もすぐにできますが…」


安藤と一緒に書物室を出ると、扉の前でリピアが立って待っていた。

そうか。飯も食ってなかったな俺。だけど、それから済ますと待たせてしまうからな…。


「もう少ししてからで大丈夫です。

あ、今から訓練場使っても平気ですか?」


「今からですか?あの訓練場は、現在貸し切りなので問題はないかと」


「ありがとうございます。食事とかは、後でまたお願いできますかね?」


「かしこまりました」


見慣れ始めた綺麗な一礼をして、リピアは廊下を歩いて去っていく。


「まぁ、そういう事だ。俺は先に訓練場に行っとくから、頼むわ」


「へいへい」


軽い返事と共にリピアさんと同じ方向へ歩く安藤を見送り、俺は逆方向にある訓練場へと足を運ぶ。


-


そして日は飛び模擬戦当日。


「まぁ、練習時間はあんま無かったけども、打ち合わせ通り頼むわ」


現在俺は、予定していた屋外訓練場でクラスメイト達の前に立ち話している。


書物室で寝落ちした後、訓練場で待っていると、安藤伝いで呼ばれた四人は来てくれた。


安賀多には文句を言われたが、もうそこは平謝りで許しを得て、安賀多達三人の演奏を皆傘と聞き、次から皆傘の演出を合わせつつ形にしていく流れを繰り返した。


んで翌日、武器を使った模擬戦を身内同士でやり、休憩の合間で今日の模擬戦への作戦を伝え、それに合わせた動きでリハーサルを繰り返す。

プロットは完成している。負けるまでの流れが。


全員には負ける事を説明してある。本気でやっても負ける可能性の方が高いが、勝つ可能性が見えても勝たない事を。


「意気込みは十分だな」


いきなり後ろから声をかけられ、ちょっとビックリした。

振り返ると、何時ぞや見た筋骨隆々のおっさんことゼス騎士団長が腕を組んで立っていた。


「今日はよろしくお願いします。

我儘も聞いていただいて」


「構わんよ。胸を借りるつもりで存分にやるといい」


「はい」


「では、良き試合をしよう」


「こちらこそ、頑張ります」


軽い握手を交わし、ゼスは自陣の方へ戻っていく。


昨日の夜、リピア伝いで模擬戦の内容を告げられた。

全員の実力が見たいからと、個人戦の予定だったようだが、俺は団体戦の練習をしてしまったからできれば団体戦でしたい。とゼスへ伝えるようにお願いしていたのだ。


完全に団体戦でする予定を組んでいたから、内容を教えられた時は焦った…本当、ゼスが了承をしてくれて助かったわ。


今回の勝敗は、大将を決め、その大将が討ち取られる事。もしくは降参。


討ち取ると言っても、命の取り合いは無く、大将が身につけているダメージ測定用の石が砕けたら終わり。

なんでもこれ、本人が受けたダメージを肩代わりして砕ける仕組みらしく、全員に配られた。

これもログストア国の技術の結晶の一つで、ログストア国ではよく模擬戦などで使われるそうな。


ただ、これを身に着けた瞬間ピリッとした事から、ダメージ吸収も俺への干渉と捉えられたようで、この石を受けいれる必要があった。


「さぁ、結果は決まっているが、その過程は存分に楽しんでいこう。

んー…せっかくだな円陣でも組むか?」


「まさかお前からそんな言葉を聞くとは…明日は槍が降るかもな」


「たまにはな」


俺の隣で驚いている安藤と肩を組むと、他の皆も驚きながら肩を組み、一つの円陣が出来上がる。


…。


一時の沈黙。皆の視線は俺を見ている。

あ、そうか。円陣って音頭を取らんといかんのか。


「えー…あー…」


「おい、まさか言い出して音頭を考えてなかったとか言わないよな王様」


「そんな事無いわよね?王様」


「ほら、向こう待ってるぜスリーピングキング」


安藤、市羽、岸の追撃で俺の言葉がもっと詰まる。それを見て、他の連中が笑い、とても今から戦う様な空気ではない。


意図した訳ではないが、程よく緊張も解けたようで。


まったく、俺の事を王だのキングだのと…。よかろう?ここは俺も演じようじゃないか。


「では諸君、俺の望む試合を、俺の望む勝利を持って帰ってきてくれ。

期待しているぞ!」


「「「「「仰せのままに」」」」」


皆、ノリいいなおい。

予め決めてたんじゃないかってぐらいピッタリ息があってらっしゃる。


解けた円陣から、各自が自分の立ち位置に着いていく。

俺は一番後ろへ。隣には、安藤が立つ。


「なんか、テンション高めだな」


俺のテンションを不思議に思った安藤が聞いてきた。


「安藤…俺も今日は仕上げてきたんだよ」


そう、俺もただここで敗北を待つわけじゃない。

俺だってスキルを使っては見たい欲求はあるんだ。


「仕上げてきた?」


「俺、今日、五時起きなんだよ」


「はぁ!?呼びに行ったときに起きてたから驚きはしたが…お前が…五時起きだと…」


「そして今は正午に差し掛かろうとしている…。そう、俺は仕上がってんだわ。現在進行系で」


「眠すぎて頭逝ったか」


「……否定はしねぇ」


実際くっそ眠い。

だが、不思議と意識はしっかりとしている。


用意された大将用の椅子に座り、前に予定通りに並ぶクラスメイト、その奥に並ぶ騎士団とゼス団長までしっかりと見えている。


俺も、今回で自分のスキルを試すことにした。


眠王のスキル効果の一つ。

・起床から三時間以降、次の睡眠までの間、毎分戦闘能力向上。


この効果がどれ程のものか…体感していこうじゃないか。


《安賀多さん、中野さん、九嶋さん、皆傘さん…始めてくれ》


「さぁ!行くよ!'アンプリファイア'」「'ブレーメン'」「'ベメルクバールスポット'!」「うふふっ'花の楽園(フラワーエデン)'咲き誇りましょう」


俺の念話を合図に、四人はそれぞれスキルを発動した。


大地から巨大な蔦が伸び、安賀多達を高く持ち上げていく。その蔦は、股を増やし安賀多達を囲う様に伸び花が咲き誇って一つのステージとなる。


その過程の中で、安賀多の音楽隊の固有スキル'アンプリファイア'で呼び出された増幅器が設置され、中野の固有スキル'ブレーメン'で召喚された動物達が蔦を滑りながら音楽隊の三人が呼び出した楽器を手にしていく。


そして演奏が始まり…音に合わせて九嶋の固有スキル'ベメルクバールスポット'のライト演出が始まった。


その様子は、映画のCG演出の様で…見ているだけで圧巻され、心が躍る。


安賀多達三人は、音楽隊という同じユニークスキルではあったが、俺の'眠王の法'の様な付属している固有スキルが違った。


アンプリファイア…その効果は、増幅させる音に任意の効果を乗せ響かす。効果の内容は、高揚や精神の安定。その他にも、響かせる音次第では眠気なども誘えるそうだ。


ブレーメンは、その名から想像できるように楽器を演奏する動物を呼び出すスキル。ただ本当に呼び出せる動物は様々なようで、兎やカモノハシまでもが二足歩行で楽器を器用に弾いている様は…ある意味ファンタジーだ。


そしてベメルクバールスポット。ライト演出をする効果らしく、少しの間、強制的に意識を自分達に向かせ、スポットライトを浴びている者は音楽の加護を受け、音の膜と光の膜が攻撃をある程度防ぐとかなんとか。


後ろからでも分かる。スキルの効果は存分に発揮され、耳から入ってくる音楽についつい指がリズムを刻み、血が温度を上げ気持ちが高まっていく。


最初の曲は、俺でも知っている。クラシックの『ワルキューレの騎行』。

曲に合わせ花々も色を変え、まるで紅蓮と晴天を演出し…音が大きくなり盛り上がりが見えるようだ。


ただ、俺達は動かない。

俺達は聴き心を高ぶらせ、聴かせるんだ。この音楽を。


二分程だろうか…。俺達も動かず、相手側も魅入り動かない。その間にも曲は最後の盛り上がりを迎え、音は小さく静かに…。


《さぁ、諸君。始まりだ》


音が消えかけるのと同時に俺は全員に念話を飛ばし、文学少女の中野が勢い良く銅鑼の音を響かせる。


空気が震え、音に浸り、高まっていた気持ちを爆発させた。


「行くぞおらぁ!」


誰が叫んだか。

その声に合わせ、クラスメイト達は敵に向け走り出し、安賀多達の二曲目…アップテンポなJAZZの演奏が始まった。


ライト演出は眩く、聞きなれないであろう音楽は気を引くだろう。

統率が鈍った騎士たち相手に、クラスメイト達は珍しさと突発的な行動で錯乱をしてく。


だが相手は経験が違う。

すぐに態勢は立て直され、まだ石が砕けたクラスメイトは居ないが、劣勢へと追い込まれ始めそして、安賀多達に向け無数の魔法が撃たれた。


「待ってた。魔法を覚える時間が無かったんでな…助かるよ」


俺の呟きは、隣に居る安藤以外には聞こえないだろう。


魔法が迫る中、安賀多のギターソロが始まり、飛んでくる魔法は音の衝撃に掻き消されていく。

それでも尚、追加の魔法は安賀多達を狙い、入れ替わるように中野のドラムソロ。

降り注ぐ魔法を掻き消し続け、中野のソロが終われば、九嶋のベースソロが役目を引き継ぐ。


音の壁を抜けた魔法は、蔦が伸び、花が咲き防いで…そんな中。


《お、おぼえましたっ!》


「上出来だ」


待っていた念話が俺へ届いた。


確かに、今回は安賀多達のスキルの印象を叩きつけて残したい。だが…元々知られているスキルも存在している。


《橋倉さん、遠慮なくかましたれ!岸!佐藤!長野!橋倉さんにヘイト向いた時は任せたぞ!》


《は、はい!》


《OK!任せな!》《肉壁ぐらいにはなれるぜ!》《どんとこい!》


返事と共に上空に展開される巨大な魔法陣。


'魔導帝'―こと魔法に関しては、トップクラスの適応性を発揮するスキル。

正直、橋倉から説明を聞いた時は、その凄まじさを侮っていた…。まさか、魔法を見ただけで解析と理解、そのまま習得ができる程だとは…。


だがこれじゃ終わらせない。

魔導帝というスキルを隠れ蓑にして…古河のスキルが発動する。


《古河さん》


《ばっちおまかせ!》


上空に鎮座する巨大な魔法陣から放たれた火の玉が、強く発光し…分裂していく。


これが古河のスキル'魔術改造(リモデリングエンチャンター)'の効果だ。

発動した魔法、発動してる魔法に干渉して、追加効果を付与する。

増幅・分散・自動誘導・属性変化、敵の魔法に干渉して力を拡散させる事もできるらしい。他にも色々できるよー!とは言われたが…それだけでも十分な力だ。


この結果…魔法戦は俺達が優勢を取っている。


橋倉が片っ端から魔法をパクリ、古河がそれをスキルで強化する。

防御面は、安賀多達と皆傘…それと皆傘親衛隊がしきっている。


男子生徒四名で構成された皆傘親衛隊。

あの時、皆傘を見て頬を染めていた男子生徒の内の四人だ…。バカにしているわけではなく、この親衛隊は皆傘から加護を受けているんだよ。


皆傘の'花の楽園フラワーエデン'に付属されていた固有スキル'園芸師'の効果を。


あの時、俺がピリピリと感じていたのは鞭の音だけが理由じゃなく、皆傘がスキルを乗せて鞭を振っていたから園芸師を無効化したピリピリだったらしい。


もちろん、本来なら俺が敷いた法で影響は無いのだが…あの時の彼等は皆傘のスキル確認に自主参加して、親衛隊の奴等はその後もあの時の感覚が忘れられずに親衛隊をしているとのこと。

安賀多達との打ち合わせの時に、あらあらうふふと聞かされ…まぁ驚きましたよ。はい。


まぁ、そんなんで皆傘へ向けられている攻撃は親衛隊が防ぎ、迫る騎士達も神鎗のユニーク持ちが抑えている。

皆傘も安賀多達を守りつつ、攻撃へと転じたりスキルを上手く使いこなしていた。


《わりぃ!砕けた!》《ごめん、私も》


だが、こちらも脱落者が出始めている。

念話を通じて砕けた場合は報告するようにしているが、やっぱり接近戦をしていたクラスメイト達から脱落者し始めた。


砕けた者は、指定された範囲から外れ、念のために回復役として回復魔法を必死に覚えて貰った今回不参加の東郷先生の元へ移動している。


《東郷先生、頼みます》


《任せてください!》


東郷先生には、本当に無理を言ったと思う。

適性があるとは言え、本だけで回復魔法を覚えてもらった。でも東郷先生は一番簡単なモノとは言え一日で覚えてきてくれた。

ありがたい限りだ。


さて…戦場を見れば善戦しているのは…勇者、神鎗などの接近戦向き…やはりそういうユニーク持ち。


《常峰君!掌握して所定の場所に着いた!》


江口からの念話。


《よし…大詰めと行こうか》


江口のスキルは、前線向きではない。だが…非常に使い勝手のいいスキルだ。


「安藤、行くか」


「道中は任せな」


椅子から立ち上がり、前を、一番遠くに居るゼス騎士団長を見据え…駆ける。


江口への返答は、全員に繋いでいる。

皆も察したように、無理矢理にでも俺の道を作ってくれた。


だから俺もその道を駆ける。直線に狂いなく。


《江口》


《行けるよ》


俺の合図で江口はスキルを使い、先の道がどんどんせり上がっていく。


江口のスキル'地形掌握'は俺好みのスキルだった。

珍しくユニークスキルなのにレベルが存在している。

このスキル…完全に発動するまで時間が掛かり、現在の江口のレベルでは狭い範囲しか無理だが、範囲内の地形を完全に掌握して魔法の干渉も受けず、意のままに操り、意のままに移動できるスキルだ。


解除方法があるとすれば、本人の意思か、本人が気絶することぐらい。だが、江口は現在地の中。

誰も干渉が出来ない地中だ。


《後は手筈通り頼むわ》


《あぁ、僕も頑張るさ》


「安藤!」


「ここは任せて、行って来い大将」


ゼスの周りには二人。

片方は江口が地面を捲り閉じ込め、もう片方が反応してそれを回避する。


俺は、せり上がった地面を駆け上り、安藤から剣を一本受け取ると、そのままゼスへと向け飛び降りた。

当然回避した方の騎士が俺とゼスの間に割り込むが、それを俺の後に続いていた安藤が加速して肉薄し道を開ける。


「来たか」


ゼスは嬉しそうに笑みを見せるが、俺にそれを答える余裕はない。

スキルの効果で戦闘能力が向上しているおかげか、相手の動きも見えるし自分の理想通りに動ける。どう打ち込めばいいかも瞬時に判断できている。にも関わらず、打ち込める場所が針の穴の様に狭い。


「鋭いな」


一撃目。

剣を握る腕を目掛けた切り下げ。ゼスはそれを半身をズラし避ける。

そこからゼスは剣先を俺と同じように脇下に向け、突きを放った。


見える。


手を返し、ゼスの突きを下から切り上げて防ぎ、上がって体勢が崩れた所にゼスの胸を狙って突きを放つ。

二撃目。


追える。


ゼスは俺の突きを回転して避けると同時に遠心力も利用した一閃が横から迫ってきた。それを避けようとした瞬間、腕の振りが加速して更に鋭利な一閃へと変貌する。


間に合う。


いつもの俺なら反応はできなかっただろう。だが、今は反応できる。剣の柄頭で受け止め、そのままゼスの懐へ滑り込み、鳩尾目掛けて拳で三撃目。

だが、それすらもゼスは空いていた手で受け止め、そのまま凄まじい衝撃が俺の身体を抜けた。


その衝撃に身がよろけ、体勢が崩れた所をゼスの剣が振り下ろされる。


俺はゼスの剣に自分の剣を添わせ、軌道だけを変え、そのまま身体を捻り再度懐へ飛び込んでゼスの胸に手を添えた。

見よう見真似だが、できると俺が確信している。


「ワンインチ」


「ぐっ…」


鈍い音に合わせ、ゼスが少しだけよろめいた。


やっと一発ぶち込めた。


---


「あいつはいつまでやってんだか」


「でも常峰君は楽しそうよ」


演奏は既に終わり、剣戟の音だけが響く中で常峰とゼス以外は二人の戦いを見ていた。そんな中で安藤と市羽が呟く。


結果としては、クラスメイトは全員石を砕かれた。

騎士達もゼスと側近として立っていた二人以外は砕かれ、互いに賞賛を送り合っていたのだが…いつまで経っても常峰とゼスの一騎討ちが終わらないのだ。


「つか、江口も負けたのか」


「ある程度したら戦ってみるといいって常峰君がな。

あまり積ませたくないけど、それでも少しぐらいは戦う経験を積んでいたほうがいいって」


「正直、あのままだと俺が負けていたかも知れねぇけどな」


安藤と江口の会話に入ってきたのは、江口が相手していた側近一人。


「お世辞でも嬉しいですね」


「世辞じゃねぇ。俺は'ジグリ・バニアンツ'」


「僕は江口(えぐち) 正輝(まさき)です」


「マサキ、もっと自信持て。鍛えりゃお前は強くなる」


「は、はい!」


何やら親睦が深まりつつある二人から、安藤は視線を常峰の方へ戻す。

もう何十回目の打ち合いか…。高速で音が重なり、時間が経つごとに加速してく。


何時の間にか、二人の周りを囲う様に蔦が伸び、戦いを終えたクラスメイトや騎士達が椅子代わりに座って観戦し始める有様。


「そういえば、マーニャさんの石はまだ大丈夫みたいっすけど、行かなくていいんすか?」


「そんなことをすれば、後で団長に何言われるか分かったもんじゃない」


安藤が横に座った女性に聞けば、本気で嫌な顔をして言う。

この人物、安藤が肉薄したもう一人の側近で、安藤に剣を叩き折られながらも安藤の石を砕いた女騎士の'マーニャ・バニアンツ'。ジグリ・バニアンツの姉である。


「にしても、安藤君の所の大将君は…よくまぁゼス団長とあそこまでやれるね。下手すりゃ私よりも強いんじゃない?」


「どうでしょう?もう、俺には追えてないんで分からねぇっすね」


「ハハハ。その内慣れるよ。君達皆してセンスはいいし、手加減しろって言われてたけど必要性があるのか分からないぐらいだったよ」


「軒並みお二人にやられたっすけどねぇ」


「皆、手加減下手でやられちゃったからねぇ」


そんな会話の中でも響く剣戟の音と打撃音。

皆が見守る中、ついに決着の時を迎えた。


加速していた二人の動きは、ピタリと止まる。


ゼスが剣を振り上げた姿で止まり、常峰が剣を突きつける様な体勢で…だが、常峰の手に剣は握られておらず、静寂から遅れて二人より少し離れた場所に一本の剣が落ち刺さった。


「見事だった」


「ハァ…ハァ…ありがとうございました」


少量の汗が流れているゼスと、肩で息をしている常峰。

二人が身につけている石は、罅が入り今にも壊れそうだった。


ゼスは、そのまま腕をゆっくりと下ろし、常峰が腕につけている石を柄で割る。


「「「「「おおおおおお!!!!」」」」」


模擬戦は、騎士団側の勝利で幕を下ろした。


歓声が響く中、常峰は疲労からかその場に座り込み、ゼスは観戦していた者達の方へ歩みを進め、クラスメイト達が常峰へ近付こうとした…瞬間、甲高い音が響く。


「は?」


「なっ!」


音に反応してゼスが振り向くと、常峰の足元が光り魔法陣が浮かび上がってくる。

全員が、いきなり光り始めた足場と常峰に唖然としている中、ゼスだけが常峰に触れようと手を伸ばした。


だが、ゼスの手は空を切り、その場に居たはずの常峰の姿は消えていた。

やっとこさ、常峰君を飛ばせた。



ブクマ、ありがとうございます。感謝です。

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