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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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手薄な理由

短めかもしれません

ゴレアさんが言っていた手薄な場所へは、徒歩で二十分もしない内に辿り着いた。どうやら俺が扉をつなげた場所は里長のネルラスさんの家だったらしく、一歩外に出てみれば、治療後や武装していたりするエルフが多く居た。


初めは何やら警戒されていたようだが、家を出る前にネルラスさんがヘアスタイルの一部から千切り取った花を見ると、仲間だと認識してくれたらしくて騒ぎにはなっていない。

ガレオさん曰く、俺の胸ポケットから顔を出しているその花は、ネルラスさんの魔力が込められているので、同族の魔力には特に敏感なエルフ達はそれを判別しているんだとか。


「ガレオさんって、やっぱりエルフに詳しいんですね」


「既に里を出た身ではありますが、その昔はエルフの里に身を置いていた時期もありますから」


「この里にですか?」


「どうでしょうか……昔はエルフの里といえば二つほどしかなかったのですが、時が経つにつれてそれぞれの道を歩むようになりました。小さき集落がポツポツとあった時期もあり、その多くは魔族や人間に狩られた時期もあり。

ここが故郷かと問われれば、そうであったのかもしれませんが、違う里なのかもしれません」


「人間にも魔族にもですか」


「種族間戦争の名残りで人間と敵対している者達もいましたから。エルフという種で見れば、どちらの敵でもあり、味方でもあります」


大きな対立でみれば、多種族連合と魔族の構図に見えるが、その実はどちらも混合軍か。ただ……おそらく絶対数は向こうの方が上だな。

どこかでこちら側が負けた過去もありそうなもんだ。


「そういえば、ネルラスさんのあの髪型は……」


「ハハハ、あれは少々目立ちますな。あの髪型はエルフの代表へと受け継がれるモノでして、'昇天ペガサスみっくす盛り'と言います。ひと目で代表として分かる様に、目立ち、敵から民達を守るための的に、天へ昇るペガサスの道を描いたと言われております」


少々?ま、まぁ……随分と大層な名前がついているこって。しかも、それなりの理由があってのヘアスタイルなんだなアレ。


「異界の者からすれば、中々に奇抜な見た目をしているかもしれませんな」


「こっちでは奇抜ではないんですね」


「関わりが少ないとは言え、エルフと関わる機会があれば知る知識ですね。実の所は、あの髪型も異界の者が伝えたと言われています」


「へ、へぇ…」


誰だよ。あんなヘアスタイルを伝承したやつ。


スッキリしたような、そうでないような。微妙な感覚に苛まれている時、その感覚に割り込む様に、身体にピリピリとした感覚が入り込んでくる。

これは俺のスキルが何かを無効化している時の感覚なのだが、いつもとは違い、その原因が漠然としか分からない。


いつもならば、何かしらの干渉の発生源まで分かるのだが……今回は俺を包み込む様にその感覚があって特定ができない。


「我が王よ」


移動中は先頭に立って周囲を警戒していたシェイドが、俺とガレオさんに止まるように合図をだした。そして小声で俺を呼び、シェイドが向けている視線の方に合わせると、薄っすらと二人組の人影が見える。


「おそらくは前線部隊かと」


「ふむ。ざっと十五人と言った所か……如何なさる?眠王」


シェイドとガレオさんの言葉を聞いて、ヘアスタイルの一件でクリアになり始めた頭で少しだけ考える。


俺から見れば人影は二人なのだが、ガレオさんと否定をしないシェイドの様子を見るに、本当に二人には十五人程が居る様に見えているようだ。

加えて俺は何かを無効化している。敵の数に対しての認識の違いは、ネルラスさんやゴレアさん達ともあった。


経験不足な俺では捉えられない感覚があるのだろうと思っていたが……これはもしかして。


「シェイド、ガレオさん、実は俺には敵の数は二人にしか見えません。俺の視力が悪いとか、そういう隠れるスキルや魔法を使っているとかですか?」


「いや、特に魔法やスキルを使っている気配はない。普通に周囲を警戒している様に見えるが……」


「……! 我が王よ、少々お時間をください」


そう言い残したシェイドは、物陰に溶け込む様に消えたと思うと、すぐに何かを持って戻ってきた。その手に握られていた光る毛玉は、シェイドの手を離れて俺の周りをフワフワと漂い始める。


「我が王、大変申し訳ありませんが、ソイツに魔力を与えてはもらえませんか?」


「ん?別に構わんが」


構わんと言ったのはいいけど、魔力の与え方をイマイチ理解していない俺は、適当に光る毛玉を手で包み、手の内を魔力で埋めてみた。

すると、放出した魔力は、何かを無効化しながらも光る毛玉に吸収されていく。


「'願いは叶えてやった。真実を見せろ'」


魔力を吸収するに連れてデカくなっていく光る毛玉を見ていると、シェイドは光る毛玉を見下しながら言葉を告げた。


「なるほど……巧妙な幻惑魔法の使い手が居るようですな」


俺には変化が見れられないが、ガレオさんとシェイドには変化が現れたらしい。その口ぶりから、俺の予想通りではあったか。

手の内側でモソモソと動き始めた光る毛玉を開放しつつ、俺も改めて二つの人影に視線を戻す。


「やっぱりですか」


「今では私にも二人分しか見当たりません。ネルラスやゴレア殿の言葉から察するに、おそらくは里全域に幻惑魔法が掛けられているでしょう……まさか、私が気付かないとは。鴻ノ森殿の時といい、幻惑魔法に鈍くなってしまっているのかもしれませんな」


「こんな簡単な魔法にも気付けなかったとは、大変申し訳ありません我が王よ」


「いや、シェイドは弱体化されているし、ガレオさんも鈍くなったとかではないでしょう。ただただ相手が用意周到に攻めてきているだけで」


二人に言葉を返しつつ、改めて周囲の様子を探る。

敵の影は二つ。周囲からは未だにピリピリとした感覚を覚える。ダンジョンの機能で確認しても、この周辺には、少し後ろの方ではエルフが居るが、本当に目の前の二人しかいない。


ダンジョン機能と併用しても、幻惑魔法の発生源が特定できないな。


「あの二人を静かに捕縛したい。できるか?シェイド」


「我が王のご命令とあらば」


「私も協力をしよう。シェイド殿」


暫し離れることをお許しください……と頭を下げてから物陰へと溶け込むように消えていくシェイド。その様子を一瞥したガレオさんも、小さく息を吐きながら腰に下げている剣に手をかけている。


そして次の瞬間――二つの人影に被る様に、別の二つの影が襲いかかった。


一人目は突然背後から現れたシェイドによって無力化され、二人目はシェイドの攻撃に反応はしたもののソレを読んでいたガレオさんが鞘に収めたままの剣で意識を刈り取る形で二人を拘束して戻ってくる。


「ぬぅ……」


「どうしたんですか?」


気を失っている二人を抱えて戻ってきたガレオさんは、その片方を見て唸り声を上げている。何か問題があったのか?と思い聞けば、思案顔のまま答えてくれた。


「こちらの男はロバーソンと言って、もう一人はその部下なのです。どちらもリュシオン聖騎士団の一員には変わりないのですが……」


「ですが?」


「このロバーソンという男、中々に愚直と言いますか、芯を持っている頑固者でして。敵対する魔族と共闘を良しとするとは思えず……何より、共闘には理由があり納得したとしても、コニュア皇女の反逆に納得するような男ではないのです」


ガレオさんを持ってして頑固者と言わせるとは……この人も中々に癖が強そうだな。と気絶しているロバーソンさんと部下の人を見比べながら思い、一応ガレオさんに起こしても平気かを聞く。


「起こして話し合いは可能な相手ですか?」


「私が居るので可能かと思います」


「そうですか。シェイド、ロバーソンさんの方を起こしてくれ」


「かしこまりました」


俺の言葉に一礼をしたシェイドは、拘束に使っている影みたいなモノを操りロバーソンさんを立たせた。そして、軽く頬を数回叩くと、呻き声を上げながらロバーソンさんは目を覚ます。


「っう……一体何が……!? だ、団長!!!な「シェイド、口を塞いでくれ」んぐっ!!?!?」


まさかのボリュームを誇る声音に、俺は慌ててシェイドに口を塞がせる。そして、影で口を塞がれて驚いているロバーソンさんに話しかけた。


「突然すみません。ちょっと緊急事態でコッソリとお二人に接触をしたので、静かに、俺の話を聞いてもらえますか?」


「ロバーソン、これは命令だ」


俺の後に続いて告げられたガレオさんの言葉に、ロバーソンさんは必死に頷きながら、拘束をされて動かせない身体で敬礼をしようとしている。


「シェイド、拘束を解いてくれ。それと、さっきの幻惑魔法を解くのは、里の全員にできそうか?」


「それは難しいと思われます。先程は近場に居た光の精霊を捕まえ、干渉を受けていない我が王の魔力をお借りしましたが、現在この周辺の精霊は休眠している状態です。我が王の魔力をお借りしたとしても、幻惑魔法を解除する前に敵に気付かれるでしょう。

先程の光の精霊も幾許かすればまた休眠してしまい、そろそろ私とその男は、また幻惑魔法下に入ってしまいます」


「対処は」


「私はもう見分けをつけられるので問題はありません。ですが、一度かかってしまった相手を取り逃す程であれば、そもそも掛けられる前に私が気付いています」


つまりは、発動者を見つけてどうにかする他ないか。かと言ってそれっぽいのも見当たらんしなぁ……。まぁ、俺が行動を起こして相手に知られる前に、情報収集を優先するかな。


俺は拘束が解かれ、直立で敬礼をしているロバーソンさんへと視線を戻す。


「改めて、はじめまして常峰 夜継です。中立国の王で眠王なんて呼ばれています。ロバーソンさんの事はガレオさんから少し聞いているので、失礼ですが自己紹介は飛ばして質問をさせてください」


「ハッ!!あ、はっ」


一瞬大きな声を出そうとして、ガレオさんに睨まれてしまったロバーソンさんは、慌てて小さな声で再度返事をしてくれた。

まぁ、今は周囲に反応は無いから大丈夫っちゃあ大丈夫なんだが、念のためにこのままガレオさんにはロバーソンさんを睨んでいてもらおう。


「まず、ロバーソンさんは何故エルフの里を襲撃しているんですか?」


「本国より'エルフが中立国へ向かうコニュア皇女と聖女様を襲撃した'という通達があり、事情聴取をするためにエルフを捕縛しに」


「それを信じたのか!ロバーソン!そもそも事情聴取であれば、襲撃はおかしいと考えなかったのか!」


「ポ、ポルセレル皇帝が'条約違反であるため、全エルフは真実が分かるまで罪人だ'と。私もおかしいと思い、前線にて第一にエルフに接触し、話をしようかと」


この様子だと、ロバーソンさんもポルセレル皇帝の発言に違和感を覚えてはいるみたいだな。ただ、直接進言するよりは、自分で確認したほうが早いと考えたか。


「であったとしても、他にやり方が「ガレオさん、その辺で。お説教は後でにしましょう」……そうだな、割って入ってしまって申し訳ない」


「いえいえ。とりあえず今は確認しておきたいことが他にもあるので」


ヒートアップしはじめそうなガレオさんを止めて、俺はロバーソンさんに次の質問をする。


「先に中で少し話をして来たのですが、こちら側がやたら手薄ですね。それにも理由が?」


「森からエルフを押し出し、平地に仕掛けてある罠でエルフを捕まえる手筈になっております!」


妥当だな。やはり敵もわざと平地側を手薄にしているか……となれば、平地側に戦力を集める事はないだろう。薄い場所を一点突破する予定のゴレアさん達は、罠へ一直線だな。

予想通りといえば予想通りだ。さて、それじゃあ次の質問だ。


「次の問いです。前線にはリュシオン聖騎士団が、後方に魔族が居るようですが、魔族が仕掛けた罠というのを教えてくれませんか? と、一応伝えておきますが、エルフは無罪です。それは俺が眠王の名を持って保証しましょう」


なんて問いかけているが、実際知りたいのはロバーソンさん達は魔族が居る事を知っているかだ。


「ま、魔族? 眠王殿、その、一体なんの事を仰っているのですか?」


なるほど。ある程度理解した。


「失礼、勘違いをしていたら問題なので、先にこっちから答えてください。後方部隊の方々も聖騎士団ですか?」


「少数ですが、聖騎士団で間違いはありません」


「ガレオさん、ロバーソンさんに状況の説明をお願いします。コニュア皇女に反逆の疑いが掛かっている所からで構いません。後、お二人をゴレアさんの所まで連れて行ってください。幻惑魔法の件は、彼等の耳にも入れておいたほうがいいでしょう。

俺は少し確認をしたい事ができました」


「今は眠王にお任せします。ロバーソン、部下を担いでついてこい」


「は、ハッ!」


話についてこれていないロバーソンさんを他所に、ガレオさんとの話を終わらせ、俺は扉を里の上空に繋いでシェイドと共に移動をする。


-


シェイドの感覚を頼りに幻惑魔法の範囲外の高さまで移動した俺は、上空から里を見下ろした。


「おそらくだが、ポルセレル皇帝は聖騎士団ごとエルフを潰す気だ」


「あの幻惑魔法は、襲撃している人間共にも掛けられていたという事でしょうか」


「多分な。内側からエルフ、聖騎士団、魔族の配置……エルフか聖騎士団が衝突して、互いの戦力が減った所で魔族が第三勢力として介入し、両方とも狩る気だろう」


そして、エルフには反撃に意思あり。聖騎士団は半壊か全滅か……。そこにコニュア皇女の意思があったと付け加え、完全に晒し上げるってのがシナリオか?

国の騎士団が壊滅しかかったとなれば、国民も疑いより危機感を覚えて、濡れ衣が晴れるのはいつになるか。大罪人として名が刻まれて語られるかだな。


「我が王のお望みは」


「とりあえず、コニュア皇女が反逆者ではなかったという証拠として、エルフにも聖騎士団にも生きてもらわなきゃならん。そうなると、魔族をどうにかするのが妥当だが、相手の出方が分からん。

ガレオさんやシェイド、なんならネルラスさんを含めたエルフ達ですら幻惑魔法に気付かなかった。それほどの使い手なのだろう?」


「お恥ずかしい話です」


「気に病むことはない」


しかし、それが複数人居た場合、俺だけで対処するのは……できない事もないな。近接戦闘は起床時間的に無理だが、法を使ったりすればどうとでもなる。

だがなぁ、手の内を魔族にここで晒すのは、後々響く気がするんだよなぁ。


色々と策を出しては却下を繰り返し、渋る思考を納得させようとしていると、後ろから声を掛けられた。


「ごほっ……自分の感覚を疑う程の魔力が、ゴホッゴホッ。里から離れたから来てみれば、ごほっ……思ったより小物のようですね」


「風邪なら、帰って暖かくして、適度な栄養を取ったあとで、ぐっすりと寝る事を勧めるよ」


咳き込みながら現れたのは、中性的な顔つきの魔族。

ダンジョン機能で一応存在には気付いていたし、シェイドもわざわざ魔族との間に移動して警戒をしてくれていた。


しかしまぁ、初対面で小物と言われるとは。参ったね。


「いつものゴホッ、事なので気にせずに。それより、ごほっごほっ、その漏れ溢れる魔力は飾りですか?」


両腕を広げて、挑発と隙をアピールしてくる魔族に対して、シェイドも俺も動きはしない。

たとえ小物と言われても、飾りと言われても、それは俺に対してなんの挑発にもならん。シェイドは一瞬飛び掛かりそうになったが、俺が動かなければ動かない。


「……ごほっ。つまらないですね」


「幻惑魔法は貴女が?」


「冷静な人間ですね。ごほっ……アーコミアが言っていた、眠王とは貴方の事ですね?」


どういう流れがあったら俺が眠王に行き着くのか問いたい所だが……そうか、俺の情報はそこまで漏れているか。

今回の判断基準は、冷静と魔力って所かねぇ。


「そういう貴女は、どこのどちら様か聞いても?」


「ごほっごほっ。三魔公のニルニーア・ミューチと呼ばれています」


あぁ、なるほど三魔公。彩達が相手したってのが、この魔族か。


「三魔公も思ったより話ができるんですね。ニルニーアといえば、ギナビア側に居ると聞いていたんですが、どうしてエルフの里を襲撃したんですか?」


「予想が付いている事にごほっごほっ、答える気はしないです」


「つまり俺がどういう予想をしているのか分からないのに、それが答えだと言っていいんですか?」


「ごほっごほっ、そこまで頭が緩いわけではないでしょう?」


ふふふっ。と笑うニルニーアは、いきなり自分の腹に腕を突き立てる。そして、期待するような視線を俺に向けて言った。


「続きの質問は戦いの中で。ゴホッ。どうぞ、貴方が小物でないと見せてくださいな」


その言葉と同時に、勢いよく腕を引き抜かれた腹部から溢れ出した血が、意思を持っているかのように俺達へと襲いかかった。

愛用しているPCが壊れ、バタバタとして少し遅れてしまいました。すみません。




ブクマありがとうございます。

これからもどうぞお付き合いください!

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