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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
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現状

少し短めになったかもしれません

「んー……どっちにも目立った動きはないな。シェイド、本当に敵はエルフの里を囲み終えているのか?」


「私が確認した限りでは周囲を人間の兵が、その外を一定間隔で魔族が囲んでいる様な配置でした」


「にしては、俺達の下には敵の姿がない。もうある程度の距離を詰め始めて、敵もエルフも霧雨の中って事になるな」


境界線の様に降る雨を眺めながら考える。

包囲網を敷いただけで、魔族もリュシオン国の兵も攻めようとはしていない。制空権の概念が無いのか、上空を監視している部隊もあるような感じはない。


リュシオン国は知らんが、魔族はもっと押せ押せなやり方をするものばかりだと思っていたんだが……じわじわと距離を詰めている所を見ると、何か警戒でもしているんだろうか。


「ガレオさん、ガレオさんがエルフ相手に大規模戦闘を行う場合、何を警戒しますか?」


「コチラ側の立ち位置でしょうか……魔法戦を行う場合は森の中で、接近戦ならば森の外で行うかと」


「魔法戦は森の中なんですか?」


「エルフは魔法も長けておりますが、その反面では木々を傷つける事を好ましく思いません。相手の行動を制限する意味でも、森の中での戦闘が基本となります。

しかし、接近戦を得意とするエルフも居ますので、それらを相手にするには、森の中での戦闘に不慣れでは厳しいでしょう」


「とりあえず森を焼き払わない理由はその辺りですか」


「正面衝突を避けるのであれば、それは行いません」


ガレオさんの言葉に頷きながら考えを整えていく。


この戦術は割と常套手段という事は分かった。ただし、先に囲んでいるのがリュシオン国の兵で、その外枠を魔族が囲んでいる。この事をリュシオン国の兵が容認しているのかの確認が必要だな。

それに、上から俯瞰してるにも関わらず敵の数が少なすぎる。相当小さな村なのか、それとも霧雨の中には、ドン引きする程の敵がいるのか……。


「エルフの里の中へと移動する。引きこもりで耐久戦を選んでるなら、方円陣寄りな配置になってるだろう。下手に刺激して火蓋を切りたくはない」


ダンジョンの機能でどこか屋内をピックアップしてみると、やはり避難している者達でどこもかしこも誰かがいる。かといって、警戒中のど真ん中に行くのは面倒な事になるだろう。ともなれば……と最も数が少ない屋内を探す。


少数ならば説明なり何なりで誤解を解けばいいだけだ。大人数相手にして騒ぐよりも、比較的簡単に話は進むだろう……っと、ここの部屋でいいな。周りに人影は無いし、さっきまで誰か居たようだが、今は三人か。


大きな騒ぎになる前に落ち着けるであろう部屋を見つけた俺は、その場所を今いる場所を繋ぐ扉を喚び出してガレオさんとシェイドを連れて移動した。


-


「とりあえず、話を聞いてもらえますか?」


扉を潜り一歩。真っ先に行動しようとしたシェイドを止めて、喉元ドンピシャで止まる剣先を辿り、鋭い視線で俺を見る男に言葉を投げかけてみる。隣でも既に剣を抜いている女性と、修道服っぽい服装の女性。あっちはリュシオン国の人間だろうか。


「名前とお前が安全だという証拠を見せろ」


「常峰 夜継。最近では中立国の王として、眠王と呼ばれています。うちの部下がエルフの里が襲われていると報告してきたので、少し様子見に」


「常峰……魔王を倒した異界の者か。眠王である証明はできるか? 国王自らが援軍とは、考えにくい」


「それは私が保証しよう。リュシオン国聖騎士団団長のガレオだ。眠王の身分は、私とコニュア皇女が保証する」


まぁ、一度ダンジョンに戻ってしまえば証明は可能なんだが、ここはガレオさんに任せるか。その間に俺は、もう少し敵の場所を探るか。


シェイドの話を照らし合わせて考えると、最寄りで囲んでいる隊列がリュシオン国の兵だろうが……やはり数が少ない。背後の魔族であろう反応も、まばらでリュシオン国の兵よりも少ない。

根絶やしにする気ならば、もっと戦力を投下したほうが確実だろう。仮に殲滅が目的でないのであれば、この攻め方は微妙じゃないのか?


一点突破すれば問題なく抜けられる。現にシェイドは戻ってこれている。ガレオさんの話を聞くに、別にエルフの戦闘能力は低くない。エルフの里が劣勢に見えたが、実はエルフ側が敵を釣っている可能性もあるな。


「リュシオン?敵じゃない!」


「あー、ちょっと問題がありまして、現在ここを襲っているリュシオン国の兵は操られている可能性があるんです。ですので、比較的安全に移動できる手段がある俺がこちらに赴いたんですよ」


ガレオさんの言葉を聞いて何やら思案顔だった剣を握る女性は、思い出した様に声を出して身構えを固くする。

内輪で対立が起きている……なんて事は俺の口からは言えないので、適当に言葉を並べて誤解を解いていく。だがまぁ、これで襲ってきている人間はリュシオン国の人間で確定したな。


何かの勘違いの場合も考慮していたが、まず1つは事実確認が済んだ。後は、敵のリュシオン国の兵から、自分達の背後には魔族が控えている事を知っているかどうかの確認だな。


魔族と協力してエルフの里を襲っている。これが今の所は有力だが、可能性の一つとして、現在襲っているリュシオン国の兵は何も知らずにエルフの里を襲撃している可能性だ。


事情を知っている者達の策略で、何も知らないリュシオン国の兵がエルフの里を襲撃させられている場合……それはこっちの味方になる。


「ふぅ……ファイルアンさん、キャロ、その人がさっきの魔力の人です」


「それは本当なの?フリム」


「ということは、さっきに奴の言葉を信じれば、敵ではないか」


一番後ろの方で呼吸を整えていた修道服の女性が、二人の名前らしきものを呼んでから伝えた。


なるほど、男の方がファイルアンで、女性の方がキャロね。んで修道服の女性はフリムと……ん?この名前、どっかで聞いたな。


「どなたから俺の事を聞いたかは知りませんが、良かったら皆さんの事を教えてもらってもいいですかね? 俺としても、間違って敵の前に出てしまった場合は対処をしないといけないので」


「この状況で余裕だな。流石は魔王を倒した異界の者か……。俺はファイルアンだ」


「私は、フリム・ルルリアといいます」


「私はキャロよ。ギルドの依頼で来たのだけど、巻き込まれちゃって、今はエルフと協力しているわ」


そう言って三人が取り出したのは、何やら魔法陣が淡く光る名前入りの手帳……なんだあれ。


「ギルドの者だったか。この度は我が部下達が迷惑を掛けてしまった事を謝罪する」


「事情が事情なら仕方ない事だ」


ガレオさんとファイルアンの会話を聞いて、なんとなく察した。あれで確信できたってことは、あれがギルド登録の証みたいなやつか。身分証明には便利そうだな。


今後、もし自国用の身分証明方法を導入した時の一つの案として記憶しながら、俺は話を先に進める事にした。


「とりあえず、お互いの身分確認は済んだので、今の状況を教えてもらってもいいですか? 被害が出たのであればその被害状況まで」


「死者はまだいないが、奇襲同然だった為に負傷したものが多数いる。数にして十五程だ。今は、里の周りをリュシオン国の兵が囲み、それを越えても魔族の魔法部隊が控えている事は分かっている。

後、精霊魔法を封じられてしまって、エルフの三割は戦闘が行えない」


「この里のエルフの全体数は?」


「百五十八だ」


なるほど。百を超えるか……。なんか、俺のイメージでは、エルフってそこまで大人数での集団生活をしている感じは無かったんだが、思っていたより数が多いな。


「現状で戦えるエルフの数は分かりますか?」


「精々四十程度だろう」


「敵の全体数の把握は?」


「不明だ。大まかな数であれば、魔族を含めて三百そこそこだと思われる」


「シェイド」


「その人間の言う通りかと」


シェイドもファイルアンさんと同じ意見か……。しかし、俺の反応では二百程度しかいない。ダンジョンの範囲はフリムさんの魔法範囲と同等ぐらいで、その外に敵の数は百も居なかった。精々、偵察がてらの十程度だ。


これはどういう事だ?


「他のお二人も同じ意見ですか?」


「私とフリムは、この部屋から出ていないから詳しい事は分からないわ。外の魔法の維持と護衛で動けないのよ。でも、ゴレアとファイルアンの目は確かよ、信じていいと思うわ」


「なるほど」


ゴレアって誰だ?って思ったが、その名前を聞いて思い出した。この人達が'消えない篝火'か。安藤とか岸からちょこちょこ名前を聞いていたのに、すっかり忘れてたわ。


岸達は異界の者ってのを隠して行動していたし、俺が知っているような素振りを見せるのは怪しいな。


「ファイルアンさんは分かるんですが、ゴレアとは?」


「あぁ、そう言えばそうよね。私達、ギルドでチームを組んでいて'消えない篝火'っていうの。ゴレアは消えない篝火のリーダーよ」


「そうでしたか。後で挨拶をするとして、それが確かなら少々厳しい状況ですね」


これで俺がゴレアさんや消えない篝火の事を口に出しても問題はないだろう。少し口を滑らしたとしても、噂できいた程度で流せる。


さてと……後は、ここからどうするかだが、ひとまずはエルフとの接触を図りたいところだな。実はエルフ側が敵を釣っていたなんて事は無かったし、数の誤差の理由が気になる。


消えるスキルか、はたまたそういう魔法か。どちらにしろ、一見しておきたい。そして敵のリュシオン国の兵に事実確認をするタイミングを作ってとなると、俺とシェイドとガレオさんの三人になる状況を作るか。


「まずはエルフの方に挨拶をしたいのですが、どちらに行けばいいでしょうか」


「それなら部屋を出て右にまっすぐ行けばリビングがある。そこでゴレアも里長も居るはずだ」


「分かりました。ではそちらに伺おうと思うのですが……」


「いきなりだと怪しまれるか。キャロ、少し任せていいか?」


「いいわよ」


「お二人ともありがとうございます」


ファイルアンさんが案内してくれる流れに合わせて礼を言い、先導するファイルアンさんの後を三人でついていきながらシェイドにダンジョン機能で喋りかける。


《シェイド、さっき精霊魔法を封じられていると言っていたが、シェイドは大丈夫なのか?》


《私自身には問題ありません。ただ、幾つか魔法を制限されている感覚はあります》


《帰ってこようとした時からか?》


《はい。この周辺は既に精霊魔法を封じられているようで……申し訳ありません、封じられていたとは言え、我が王にご足労を願う形になってしまいました》


《気にするな。そして無理もしすぎるな。長期に渡って俺の頼みの為に動いてくれてんだ、それぐらいはわけないよ。それに、別に失敗したなんて思わんし、責めもしないさ。

それでも気が済まないなら、後で外を見て回るときにリュシオン国の兵を一人捕縛する。その時、守ってくれ。それで不問だ》


《寛大な処置、心より感謝します》


少しだけシェイドの声が明るくなった。一応はこれで大丈夫だろう。今のシェイドの役目は、俺の護衛で、それを成せばいい。


「今更だが、眠王相手に無礼な立ち振舞、申し訳ありませんでした」


「ははは、別に敬語じゃなくてもいいですよ。俺のコレも、話を円滑に進める為に使っているだけなので、あまり気にしていません」


「そうか。それは助かる。ついでと言っては少し違うんだが、さっき眠王達の事を知っていた事を気にしていたな」


「あぁ、そういえば、俺達のことを事前に聞いていたみたいですね」


「あぁ、シューヌという人物から聞いた」


「!?」


その言葉に強く反応を示したのは、もちろんガレオさん。俺も、本当にシューヌさんが居る事にも驚いたが、それよりも嬉しい気持ちの方が大きい。

まだ居るのであれば探せば会える可能性が出てきた。これで、上手く行けば聞きたいことも聞き出せる。


「シューヌさんは他に何か言っていましたか?」


「私はエルフの味方だ。と、眠王達の事を俺達に教えた程度だな。あぁ、それと、シューヌに会ったことを眠王達にも伝えろと言っていた」


「そうでしたか。ファイルアンさん達とこうして早く打ち解けられたのも、シューヌさんの協力があっての事みたいですし……後で、お礼を言っておきましょうかねぇ……」


エルフの味方と言ったのなら、この一件がある程度落ち着くまでは居るだろう。それに、わざわざ俺達に伝えろと告げたのであれば、向こうも俺達と会う事を望んでいるか、想定はしているようだな。


この、一気に色々な事が進展し始める感じは嫌いじゃない。ただ焦らず、見落とさない様にしなければ、大きなミスをしかねない。


「ゴレア!客人だ」


「ん?客人だと?」


一つ一つしっかりとやっていこう。まずはゴレアさんとエルフとの話だな。


ファイルアンさんの声で振り返ったのは、ガタイのいい男と……髪がねじりあげられ、花が咲いている事以外は、美人、美形なんて言葉がぴったりな女性。


「援軍だ。中立国の王と、その部下の……「シェイドだ」と、リュシオン国聖騎士団団長だ」


そう言えば間で名乗らせてなかったな。と少しだけ謝罪を心の中でするものの、頭の中はインパクトを押し付けられるヘアスタイルでいっぱいになり始めている。


「中立国?もしかして異界の者か! これは心強い援軍だ。俺はゴレア・モーリン、ファイルアン達のリーダーをしている。こちらは――」


「はじめまして、ネルラス・ティリオンと申します。この里の代表をさせて頂いております」


「常峰 夜継です。中立国の王として、眠王と呼ばれています。どうぞ好きに呼んでください」


などと自己紹介を交わしながらも、礼をしてくる際にコンパスの様な軌道を描いて移動するヘアスタイルが意識から外せない。

結構危険な状況なはずなのに、どうしてそのヘアスタイルなのだろうか。意外と余裕なのか? いや、落ち着け俺。誰もあのヘアスタイルにツッコミを見せない所を見ると、それが普通なのかもしれん。

話を進めるんだ俺。


「今の状況はファイルアンさんからある程度聞きました。少し自分達でも外を確認しようと思うのですが、こちらで手薄になってしまっている場所はありますか?

それと、外に出たときに味方である事を知らせる方法などがあれば教えて頂きたいのですが」


「丁度その話をしていた所だ」


そう言うゴレアさんは、テーブルに広げられていた周辺地図の一箇所を指差す。


「ここが少し手薄ではある。向こうはまだ気付いていないが、時間が経てば向こうも気付くだろう。その前に何か対策をしようと里長と相談していた」


「なるほど。少しそちらへ顔を出そうと思います。もしかしたら、何かいい案が浮かぶかもしれません。……しかし、迎え撃つ気ですか?」


「一点突破をしようにも、負傷者が出てしまっている以上は見捨てるしか無くなってしまう。だから敵が攻めるタイミングに合わせて、最も敵側の手薄な場所を俺達が崩す予定だ」


それが出来るのは森の中だろう。森から出てしまうと、そこは向こうの土俵になるだろう。だからこそ、この周辺の配置図を見る限り、敵が手薄なのは平地方面だ。

こちら側もそっちが手薄なようだが……それでも森の中という事と、フリムさんの魔法で視界制限があるおかげで攻めてこられていないだけ。


手薄だからと下手にそこから攻めようとせずに、向こうも慎重に攻めている。


つまり、向こうも攻めあぐねているのか。完全に把握できていないのはお互い様で、タイムリミットは敵が攻めてくるまで。


扉を使えば、今すぐにでも避難できるが……大勢の前でダンジョンの扉を使っていいものか悩むな。既にファイルアンさん達の前で使ってしまっているんだけど、そこを言い出さない所を見ると、どうやって俺達が来たかの事は忘れているっぽいし、もう少し様子見するかな。


「その時は俺も協力しましょう。そのために、やはり少しこの手薄な場所を見てきます。足元の確認などもしておきたいので」


「分かった。一応そちらを手薄にすることで、少しでも敵側の戦力を集められればと思っている」


「目立たない様にするので安心してください」


さてさて、それなら先に、バレないように一人二人敵を捕縛しなきゃならんなぁ。


どうしても意識から外せないネルラスさんのヘアスタイルに引っ張られながら、次にやる事を頭の中でまとめていく。

綺麗なエルフと可愛いエルフって、どちらが人気なのでしょうね。




ブクマありがとうございます!

どうぞ、今後もお付き合いください!

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