密会
少し長くなってしまったかもしれません。
予定していた部屋で、セバリアス達の見様見真似で紅茶を用意していると、出入り口用とは別に喚び出していた扉がゆっくりと開かれる。
すると、その扉を越えてコニュア皇女と東郷先生が部屋へと入ってきた。
「わざわざお時間と場所をありがとうございます。眠王様」
「いえいえ。東郷先生の頼みを無碍にもしたくありませんから……とりあえず、ソファにでも座ってください。味の保証はできませんが、紅茶を淹れている所なので」
深々と頭を下げるコニュア皇女に言うと、東郷先生も一緒に頭を下げた後に二人共ソファに腰を降ろした。それを確認して、一応コニュア皇女の部屋とココを繋げた扉を消してから、紅茶の用意を再開しつつ聖騎士団の居場所も確認しておく。
数人はガイド付きで天空街の散策。
残りは宿で休憩しているのと、コニュア皇女の部屋の前に護衛として二人か。
ガレオさんは……まだ自室に居るな。一応セバリアスには、何か動きがあったらダンジョン機能使って連絡する様には頼んであるから問題はない。
「そういえば、ギナビア国のヒューシ補佐官もいらして居たのですね」
「あぁ、彼は少し前からココに滞在しているんですよ。色々とギナビア国にも協力して貰っていまして、ダンジョンの一部を貸す代わりに知恵を借りています」
「ダンジョンの一部を?」
「詳細を話すとなると、ヒューシさんと相談をしないといけないので詮索は遠慮願います。俺個人としては、ログストア国のハルベリア王とコニュア皇女には追々詳細を連絡する予定ですので、それまではお楽しみという事で」
「そういう事でしたか……分かりました。大体の予想は付きましたが、答え合わせは後日を楽しみにしておきます」
一応明言はしない様に返したが、これぐらいの情報を与えればコニュア皇女なら薄々気付くだろう。
わざわざダンジョンという単語を使って答えたんだ。ギナビアがダンジョンを容認し、相応の対応を取り始めた事ぐらいなら分かるはず。
そしてギナビアが容認するのならば、一番早いのが武力かそれに値する物資または資源が上がるだろう。
コニュア皇女の頭の中で何処まで答えが出ているかは知らんが、ダンジョンを表に押し出していく手筈は整い始めたという事だけ伝わればいい。
元々どこかのタイミングで伝えるつもりだったから、別にヒューシさんと出会うのを阻止しようとも思っていなかった。
既に自由に国内を動き回っているヒューシさんと会う可能性も視野にいれていたし、リュシオン国の人間が来る事をヒューシさんにも伝えていた。ヒューシさんからしても、これぐらいならコレと言って問題は無いはずだ。
ん……ガレオさんが移動を始めたな。方向的には……一応こっち方面か。
「さてと、セバリアス達が淹れるのに比べたら数段劣るでしょうが、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきますね常峰君」
うん、なんか味が違う。淹れ方一つでココまで違うものなのか。なんて思いながらガレオさんの動向を伺いつつ、少しだけ時間稼ぎの話題を持ち上げる。
「そういえば、東郷先生とコニュア皇女の相談を聞く前にコチラから聞いておきたい事が幾つか」
「先日、ケノンさんが持ってきた手紙の件ですね?」
確かにその話題を出そうかと思っていたのだが、まさか向こうの口から出てくるとは。それにケノンの名前まで覚えてくれていたか。
「ケノンから一応返答は聞きましたが、具体的な事が決まっているのであれば今の内にお聞きしておこうかと」
「そうですね……。眠王様を前にして言うべき事かは悩みますが、既にご存知かと思われます……リュシオン国では魔族は悪です。今回こちらへ来る事ができたのも、聖女様の信頼があってこそ。
眠王様のご提案には賛同いたしますが、お応えするのが難しい状況です」
そりゃそうだろうな。初めての会談の時、メニアルに対して真っ先に動いたのがリュシオン国――コニュア皇女だ。
それにリュシオン国の信頼は'東郷先生'ではなく'聖女'という肩書に対するモノ。'聖女東郷'が許可する国だからという理由では、あまりにも俺側が信頼に欠ける。
相手からしても、俺からしてもだ。
別に今すぐに答えが出てくるだろうと思っていなかった俺は、適当に納得した様に言葉を続けようとするが、それよりも先にコニュア皇女が言葉を続けた。
「なので、少し遅くはなるでしょうが……私がコチラへ伺おうと思っております」
「そうで――ん?」
今、なんて言った?
「お恥ずかしい話し、私は私以上に信頼を置ける者はいません。私が心を許せる者は、リュシオン国には誰一人として。ですので、眠王様の提示なされた条件に合う人物は私を置いて他には居ないのです。
しかし、私は立場上……いえ、私個人の理由も含めてリュシオン国を長期間離れる訳には行きません。すぐに眠王様のご希望にお応えはできませんが、必ず私が伺いますので、今後もリュシオン国をご贔屓ください」
座りながらも深々と頭を下げるコニュア皇女に対し、俺は思考がピタリと止まり、言葉が発せずに視線を送る事しかできない。
わざわざ大々的に依頼せず、敢えて内密な雰囲気を維持して派遣の話を持ちかけた。
理由なんて簡単なもので……これから先、それこそ魔王やら魔神やらの件が片付いた後を考えて、国のトップ連中の他に彼等が信頼する人物とのパイプを作るためだ。
俺一人の意見じゃ無理でも、信頼する相手からの提案ならば通る事だってある。そのために、できれば腹心。最低でも、当人が信頼を置けている相手を引きずり出したかった。
国に対しての発言力が低くても構わない。国に対して影響力と発言力がある個人に対しての信頼さえあれば良かったのだが……。
「こう聞くのも失礼かもしれませんが……正気ですか?」
「至って私は正気です」
実は狂気です。なんて言ってくれたほうがまだ笑える。
リュシオン国を思っての発言なのか、自分の欲が出てきてるのかすら分からねぇ。それに俺個人としては、それは阻止したい。
当然だ。んな事をすれば、リュシオン国との関わりが深くなる。深くなりすぎる。
ツートップの片割れが他国に長期お泊りなんて、リュシオン国側からしても問題だろうし、他の国からすれば大スクープにもなりかねん。
いらん噂が立つかもしれんし、より一層親密にとログストア国やギナビア国が動き始めたら、それに応える事が今のこの国にはできない。
何処かに対して過度な関与はできないんだ。中立である事が、今のこの国にとっての安全圏。どこかに踏み出す時は、他にも踏み出さなければ保てない領域。
「なるほど。少し驚きましたが、それには時間が掛かりそうですね」
「はい。残念ながら、私個人の問題が一番大きいかと」
しかし焦らなくてもいいだろう。
時間が掛かると本人も言っているんだし、その間に俺側が信頼を置ける人物をリュシオン国内で探してしまえばいい。
そしてその人物をコニュア皇女に提案する。順序が変わってしまうが、その人物をコニュア皇女の腹心にまで仕立て上げればいいだけの事。
大丈夫だ。焦ってもしゃーない。今は帰還方法の目処が立ち始めている以上、一層時間は掛かる。というか、掛ける。
やりようは幾らでも作り上げられる程度の時間が。
「ですので眠王様――いえ、常峰様、どうか私のご相談をお聞きください」
あー、この流れはもしかして……。
「私に掛けられている延命魔法について、常峰様ならば何か案が出せるかと」
ですよね。流れ的にそうだと思いました。後回しにすらさせてもらえないとは。
今回二人が俺を訪ねてきた本命。東郷先生とコニュア皇女の相談か……これを解決しようとする、もしくは解決してしまうと、コニュア皇女が自分を派遣する手筈を取り始める。
問題の解決に協力したい反面、その先の結果を俺としては回避したい。
どうするべきか葛藤が生まれ始めた俺は、視線とコニュア皇女から東郷先生へと移して問いかける。
「東郷先生、再度聞きますが、どうしてコニュア皇女にソコまで入れ込むのでしょうか」
敢えての聞き方。コニュア皇女本人からすれば、ちょっと嫌な会話だろうが……それで少し冷静になってくれるならそれでいい。
もう、最悪スキルのせいだったら嬉しいし、コニュア皇女の機嫌を損ねて人材派遣の話が流れてくれたほうが楽。
俺から提案を下げてしまうと、自分の対応に不備があったかもとかで自棄になる可能性があるからこそ、コニュア皇女の方から何かしらの案を出して欲しい。
「私の意思です!きっとスキルのせいじゃありません!私の我儘の為です!」
ふんふん!と力強い目と声で帰ってきた答えに、俺は嬉しいような残念なような気持ちに襲われる。
さっきのパーティーの時に、少しだけセバリアスに協力をしてもらってアクセサリーの調整を行った。
完全にスキルを無効化してしまうとアクセサリーの方が耐えきれないが、もう少しだけなら抑える事ができるとセバリアスは言っていた。
今の東郷先生は、最大限に自分のスキルを抑制している状態で、そこまで真剣で本気な目をできるなら嘘ではないのだろう。
東郷先生の判断にスキルの影響は無い。
ゼロだと考えるのは早計かもしれんが、これ以上疑っても仕方ない。そうなれば、東郷先生の気持ちは汲み取りたいのだが……。
「なるほど、スキル暴走の可能性を考慮していたのですね。確かにその可能性はありました。私も、本当はそうでないのかと不安だったのですが……百菜ちゃんの気持ちが聞けて良かったです」
どうやら俺がした事は逆効果だったようだ。
ふふふっと初めて笑顔を見せるコニュア皇女に、俺の気持ちは諦め方向へと針が振れていく。
東郷先生が百菜ちゃんなんて呼ばれてる所、初めて見た。
話を流す事は諦めつつガレオさんの場所を探れば、既に部屋の前辺りまで来ている様で、そろそろ盗み聞きの準備を終えられるだろう。
ここまで来てしまったのであれば、派遣の件は阻止するとしても、相談内容ぐらいは聞かんとな。
「東郷先生の気持ちも十分伝わりました。俺も出来る限りの協力をさせてください」
「ありがとうございます!!」
「感謝します。常峰様」
改めて頭を下げて礼をする二人に応え、自分のカップに紅茶のおかわりを注ぎながら、気持ちと思考をリセットしていく。
後のことは後で考える。今は、爺がコニュア皇女にやらかしている事を聞いて、それの解決策を捻り出すのが優先だ。
「では話を進めましょう。一応東郷先生から過去の聖女――福神 幸子さんの日記には目を通しました。それでいて聞きますが、コニュア皇女のご両親は福神 幸子さんと、ギナビア国と名乗る前の連合国創始者アルベルト・ギナビアさんとの子であるという事は本当ですか?」
「本当です。父は勇者の生まれ変わりと呼ばれていましたが、その実は初代勇者の血縁です」
「という事は、レゴリア王もそうなるんですかね?」
「既に何千年と経っているので、血の濃さを考えると入れ違っているかもしれませんが、レゴリア王は直系ではありません。どちらかと言えば、ログストア国のリーファ・ログストア王女が直系になるでしょう」
おう?これは拗れてきたな。
「それを証明する事は可能ですか?」
正直に言えば、証明する必要はない。コニュア皇女が言ったように、もう勇者の血なんかは薄まったカルピス以上に薄まっているだろう。
だが、その結論にまで至る理由が気になる。
「常峰様達がコチラへと来るきっかけとなった召喚魔法は、リーファ王女でなければ発動する事ができません。その条件が勇者の血筋である事です。その様に光貴様達が手を加えられました。
連続使用も不可能にするために、擬似的に一代一回限りの制限まで掛けております。現在の継承者がソレを知っているかは分かりませんが……」
継承者という事は、引き継がなければ知る事も利用する事もできない魔法なのか。
爺が手を加えられたのが、血に反応して発動する様にと、一定期間を空けないと再使用ができない様にする事だった。
元々継承型だったのかは知らんが、血は薄まり広がっていく。一子のみしか産まない縛りでもなければ、世代が進むに連れて何処かに勇者の血持ちは増えていくだろう。
召喚魔法を無闇矢鱈に使われない為に、色々と爺も仕込んだみたいだな。
「もう一つ、どうしてギナビア国に召喚魔法が引き継がれていかなかったのか知っていますか?」
「元々はログストア家とギナビア家は同一家系でした……というのは少し違うかもしれません。ログストアというのは、光貴様が名乗り始めた家系なのです。
こちらの世界では'セノリア・ログストア'という名を主に名乗っていまして、既に亡くなっていますが、私の兄に当たる者がログストア家へ養子として迎え入れられた事があるのです」
んーっと、リュシオン国とギナビア国を創設したのがコニュア皇女のご両親。んで、ログストア家は元々爺が適当に名乗った家名。
そんでもって、コニュア皇女のお兄さんがログストア家へ養子として行ったと。
「ギナビア国を引き継いだのは」
「私の弟になります」
「なるほど」
現三大国は、実は遠い親戚同士でした。ってぐらいの認識で間違ってないか?
まぁ、うん、多分これでいいよな。そしてソレを知っているのは、おそらくコニュア皇女だけ。当時から家系を見てきたコニュア皇女ぐらいしか把握しきれんだろう。
ログストア国は王位が途中で変わっていた気がするが、確かに今はログストア家がログストア国王だ。その辺りの事情は……まぁ、当時色々あったんだろうなぁぐらいで止めて置かないと、話が進まなくなってしまうな。
「よく分かりました。事実確認が難しい以上、コニュア皇女の言葉を信用しましょう。もしそうであれば、すぐに異界の者が増える事も無いようですし、俺も安心できます」
「常峰様のご信用を買えたのであれば嬉しい限りです」
今のが嘘ではない確証はないが、嘘を付く理由もない筈だ。仮に嘘だったとしても、先に進んだほうが嘘だと分かる瞬間も出てくる。
っても、多分本当なんだろうし、あんまり深くは気にしていない。なら次だ次。
「それでは次は確認です。コニュア皇女は、現在行っている延命を止めたい。その認識で間違いないですね?」
「はい。母様の気持ちを考えると、きっと間違いなのかもしれません。ですが、今更ですが、多くの犠牲の上に立つのに疲れてしまいました。
永く生きてきて、百菜ちゃんに母を感じて……童心を思い出してしまったのかもしれません。異常である事に、国の為の私である事に疲れてしまったのです」
福神幸子さんの願いは日記にも書いてあった。それは'生きて欲しい'という願い。そして、それに協力したのが、自分の事に協力をしてもらっていた爺達。
結果として、コニュア皇女は死んでいない。生き続けている。きっと福神幸子さんの願いに反して今も。
「失礼を承知でお聞きします。福神幸子さんは、何時頃亡くなられましたか?」
「私が四つの時に、居なくなりました。生死の有無は確認していませんが、もう亡くなっているでしょう」
死んだのでは無く、居なくなったか。当時の事情が全く見えん。実際、日記も途中で止まっていて、コニュア皇女が二歳ぐらいの時までしか書かれていない。
詳しく目を通せばコニュア皇女の兄弟の事ぐらいは書いてあるのかもしれないが、俺の知りたい事は書いてない可能性が高いな。
「なるほど。仮に……仮にの話です東郷先生」
「はい?」
俺は東郷先生に、仮だという事をしっかりと言ってからコニュア皇女に視線を移し問う。
「仮に、今ここで俺がコニュア皇女を殺した場合、コニュア皇女は死にますか?」
「常峰君!?」
「しませんよ。そのつもりは一切ないですが、コニュア皇女の頼みに対する一つの可能性としてです」
やっぱり東郷先生は反応すると思っていたからこそ、前もって仮にを強調していて正解だった。
今まで静かに俺とのやり取りと聞いていたが、俺がコニュア皇女を殺すとなれば、間違いなく東郷先生は反対するだろう。
仮の話でも、いい顔をしないことぐらいは分かっている。
「百菜ちゃん、私は大丈夫です。ありがとう」
「コニュアちゃん……」
まぁ、コニュア皇女が冷静だからこそ聞ける問いかけだ。
「常峰様のご提案ですが、それでは不可能です。仮にこの場で私を殺しても、それは肉体が使用不可能となるだけで、リュシオン国にある新たな肉体に私は移るだけになります」
「予備?といって良いのか分かりませんが、その移動先の肉体を破壊なり消滅なりさせてからは」
「それも意味を持ちません。今、こうしている時に移動先の肉体は無く、この肉体から私の意識が離れ初めて、新しい肉体が構築されます」
「……肉体の構築原料は」
「世界に漂う魔力、国民の魔力、死した者達の血肉、魔物の血肉など……多種多様に様々です」
どれか一つなのか、全部から少しずつなのかは聞かなくてもいいか。おそらくはどれか一つで可能だが、幾つかを利用して一つに大きな負担が無い様にしてあるとか、そんな所だろう。
どうであれ、殺し続けるのは途方もないな。
まぁ、何度も言う様にこの方法を取る気はない。この方法を東郷先生は許さないだろうし、犠牲の上にと言う言葉を使ったコニュア皇女が取ろうともしないだろう。
その方法を取れなかったから、今まで生きているわけだし……延命を始めた時点で、自身が長生きする事が最も犠牲が少ない方法。
死なない生物兵器を模索した副産物にしては、なかなかにエグいものを残したもんだ。
「一つ疑問なのですが、コニュア皇女が生き続けている事がバレた事はないのですか?」
「肉体自体が永久に活動はできないのです。老い……とは少し違うかも知れませんが、一定期間で肉体は急激に腐ちてしまいます。ですので、時期を見計らい、私は地下に籠もります。
私の部屋は基本的に入室が不可能であり、籠もる際には神の加護を授かる為と公布して、その噂が消えるまで身を隠しています。
皇帝を引き継ぐ者達は、私を神の子と認識して繁栄を願い、部屋を出た私を養子にする仕来りができています。表向きは自身の子として公表するので、国民で知る者は居ないでしょう」
薄々疑問に思った者が居ても、既に仕来りと化して追求はされなくなった。昔はしたかもしれんが、その正体を知り得る前に魔王の問題やらで有耶無耶になってしまった可能性もある。
かなり無理があるように感じるが、習わしや仕来りの先入観は根強いものだ。アホらしくても公言したり、多数意見を集めるのは難しい。
リュシオン国内から一時的に国民全員をどうにか……と無謀な事を考えてもみたが、こりゃ本当に無謀だな。となれば、やはり別の方からアプローチしていくしかない。
ガレオさん、しっかりと聞き耳を立てておいてくれよ。
「そういう事であれば、もっと根本的な……シューヌさん側をどうにかするしかありませんか」
「そこまで目を通されたのですね」
「詳しくはまだ。ただ、コニュア皇女の延命にシューヌさんが関わっている事は知っています」
「そうですね。シューヌと私は、ほぼ一心同体。彼女が死んでも私が居ますし、私が死んでも彼女が居ます。延命魔法に唯一の欠点があるとすれば、それは魔力は自分で補給しなければならなくなる事でしょうか。
私の肉体は先程言ったように生成されますが、シューヌの肉体は何かを吸収しなければ保てず、保てなければ理性が無くなり暴走して周囲を喰らいつくしてしまう。私も、魔力が無ければ肉体がもっと脆くなってしまいます」
そう。コニュア皇女と森の怪物のシューヌさんは、魔力を共有している。
どういう経緯でそうなったのか。その事は日記に書かれていなかったが、おそらく爺達の資料の方を漁れば分かるだろう。
「肉体維持には、多少なり魔力が関わっているという事ですね。コニュア皇女の肉体も、シューヌさんの肉体も」
「それで間違いありません。肉体劣化を鈍らせる為に魔力が関わっています。魔力が無ければ、私は肉体移動が多くなり、シューヌもすぐに暴走をしていたでしょう」
基本的にシューヌさんが何かを吸収する事で魔力を維持し、それを二人で共有している。魔力の枯渇は互いに望む事ではない。
肉体維持のみに使うとしても、二人分の魔力がどの程度必要なのか……俺には分からない。
コニュア皇女の場合、肉体供給はオート。魔力供給は半マニュアル。アプローチをかけるなら、そのマニュアル側から崩していきたい所だが、下手をすればシューヌさんは暴走して、コニュア皇女は新たな肉体へと移動する事になる。
そしてここからは俺の予想になるが……シューヌさんは好き好んでガレオさんの師匠を殺してはいない。
「大体の確認はできました。こちらでも情報を集めてみましょう」
「白玉が保管していたモノですね?」
「知っていたのですか」
「孤島が消失した事はギルドを通して確認しています。あそこは、光貴様達の拠点でもありました。私はリュシオン国での立場もありましたし、白玉が許可を出してくれなかったので資料には目を通せませんでしたが、光貴様達であれば何かしらの形で常峰様へ向けて遺してたモノがあると予想はしています」
ご明答。爺は俺に色々と遺している。コニュア皇女の事をよろしくと書いていたという事は、それなりにコニュア皇女が使用している延命についても遺しているはずだ。
ただ……いや、これは調べれば分かる事だ。先に今できる確認を済ましてしまおう。
「俺が手助けできるか分かりませんが、先程言った通り、できるだけの事はしてみましょう。最後に、完全に俺が聞きたいだけなのですが……シューヌさんは好き好んで誰かを殺したりしますか?」
「いいえ。シューヌは優しい方です。自分の境遇を受け入れながらも、その罪を背負い続けています。元々彼女は生殺与奪を嫌う方……トーセン様を手にかけた時も、彼女は酷く苦しみ、誰よりもその死を悔やんだでしょう。
なのでガレオ、シューヌを許せとはいいませんが、恨むのであれば、あんな境遇に追いやり巻き込んでいる私を恨んでくれませんか?」
途中でトーセンさんの名前が出てきた時にまさかと思ったが、コニュア皇女も気付いていたのか。
俺が遠隔で扉を開ければ、ガレオさんが歯を食いしばりながら、怒りを出しきれない表情で立っていた。
もしかしたら、次の更新が少し遅れるかもしれません。すみません……できるだけ遅れないように時間を作るよう頑張ります。
ブクマありがとうございます!
是非、これからもお付き合いください!!