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眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
134/236

密会前

「次の曲は、新曲さぁね」


「「「「おおおおおお!!!」」」」


「聞いておくれ、'瞼の裏の理想郷(ユートピア)'」


~小さい頃の たった一度の 指切りが作り出す理想郷

0.6ミリ程度のスクリーンに広がる世界は私の世界


その声も その姿も その言葉も 錆び付いて聞こえづらいけど

一度だけ絡まった小指の感覚だけは ハッキリと今でも変わらないままで

私を未だに強くする~


リュシオン国騎士団たっての希望もあり、いつの間にか安賀多達の演奏会となったパーティーはいい感じに賑わいを見せていた。


警備はコチラでするから楽しんでくれ。と伝えたこともあってか、コニュア皇女を含めたリュシオン国の方々は安賀多達の演奏を楽しみながら、雑談を交わしつつ畑とルアールが用意した食事を堪能している。


《田中と佐々木もそう感じていたか》


《少しはね。なーんか、先生ソワソワしてるなぁぐらいかなぁ。俺にとってはどうでもいいし、別にそんなに先生と仲が良い訳でもないし》


《興味ねぇけど、言われりゃそうだわってぐれぇだ》


その中で俺は、田中と佐々木を視界に捉えられる位置で食事をしながら念話をしていた。


《ちなみにコニュア皇女の事を二人はどう思う》


《えー?俺は別になんとも思わないかなぁ。強いて言えば、多分俺より年下なのに、頑張ってるね―って感じ》


《馬だか反りだかは合わねぇだろうな》


《なるほどね》


東郷先生への不信感やリュシオン国の事を改めて聞いてみたが、二人は割りとどうでもよさげな感じだ。実際の所、リュシオン国の面子は帰還組と言ってもいい。だからその反応が正しいと言えば正しい。


関心を抱き、深く関与しようとして戻れなくなるぐらいなら、無関心で居てくれたほうが良い……のだが、東郷先生の動きに鴻ノ森と艮は不信感を覚えてしまっている。監視役、相談役の東郷先生に。


おそらく最も東郷先生に不信感を抱いているのは鴻ノ森で、次に艮だろう。

今、話を聞いた所では田中と佐々木は興味がなく、パーティー前に少し聞いた限りでは、安賀多達は俺に丸投げをしているからどうでもいい様子だった。


さてはてどうしたのもか……と悩んでいると、スッと俺の前に一人の男が立ち、深々を頭を下げてきた。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この度、コニュア皇女と聖女様の護衛隊管理をさせて頂いているリュシオン聖騎士団団長ガレオと申します」


「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、予定がチグハグになってしまって申し訳ありませんでした。

滞在の間は、こちらで護衛の方も引き受けるので、まだ何もない所ですがゆっくりと寛いでください」


「お気遣い感謝します」


一応パーティー開始時に俺の自己紹介は終えている。その時に、随分と一人だけ俺を警戒していた人物がいたのだが、それがこのガレオさんだ。

常にコニュア皇女の側に立ち、畑やルアール達が作った食事の毒味役などもしていた。


まだ念話の途中だったが、こうして相手から接触してきたのなら無碍にする訳にもいかない。


田中と佐々木は俺とガレオさんに視線を向けていたが、軽く手で合図を出せば、念話を終える意思が伝わったのか、艮と畑の元へと移動していく。


「それにしても、まさか本当に魔族が生活をしているとは思いませんでした」


「褒め言葉として受け取っても?」


「これは失礼。どうにも私は口が上手い方ではないので、誤解をしないでいただきたい。素直に驚いています。

なんと言えばいいか……正直、もっと荒れているのもだとばかり」


「まぁ、この国の魔族は好戦的ではないですから。当人達曰く、禍根を笑う魔族なんて言ってたりしますし」


「禍根を笑う……ですか」


小さく呟くガレオさんは、その言葉に何か思う所でもあるのか、随分と難しい面持ちだ。


「眠王、少しバルコニーの方へ行きませんか?」


「これは意外なお誘いですね。コニュア皇女はいいんですか?」


「過度な護衛はコニュア皇女の望む所ではありません。一通りの毒味は済ませていますし、これ以上は聖女様のご友人や眠王に対して失礼に当たるでしょう」


「慎重でいいと思いますが、まぁ、行きましょうか」


思わぬ誘いに目を丸くしている俺に、ガレオさんは至って真剣な表情で告げてきた。

俺も俺で、聖騎士団団長と仲良くしていたいと思っていたから、その提案は嬉しい限りで断る理由もない。


適当に小皿に二人分の食事を取り、流石に酒は遠慮したガレオさんの分も合わせて数本の飲み物を持ってバルコニーへ移動した。

セバリアス達が俺の動きに気付いて付いてこようとしたが、ガレオさんの口ぶり的に俺と二人が良いだろうと考えて手で制して止めておく。


「良い部下達ですね」


「非常に優秀で、いつも助けられています」


俺とセバリアス達とのやり取りを見ていたガレオさんの言葉は、素直に嬉しいものがある。俺がどうのと褒められるより、こうしてセバリアス達が褒められる方が何倍も嬉しい。


「それで、移動した理由は?」


ちょっと気分が良い俺が聞けば、ガレオさんは懐から一枚の紙を取り出して俺に手渡してきた。


「私はエルフという種族で、その中でも少しばかり特殊な身なのです。元よりエルフは長寿なのですが、ハイエルフである私は通常のエルフよりも長く生きる事ができ、現在生きているエルフの中でとある者を除き私が最年長でしょう」


「エルフにも色々と居るんですね」


ガレオさんの言葉を耳に、種族の情報を集めた時にそんな単語を見たな……と思いながら手渡された紙に視線を落とすと、それは一枚の写真だった。

写っているのは、人型でありながら鱗に覆われた四肢と尾を持つ男性と、ふてくされ気味の小さな子供。


「その写真というモノは古いモノですが、ドラゴニュートが私の師匠で、子供が当時の私です」


ドラゴニュート。

セバリアスやラフィの種である龍族と、何かの混血種の事をそう指すとかなんとか。現在でも数こそ少ないが、一応人間と共存関係を築けている。というのを本で読んだな。


「どうしてこの写真を俺に?」


写真を返しながら問えば、ガレオさんは少し喉を潤して答えてくれる。


「写真は師匠の遺品です。師匠は、その昔に森の怪物に……殺されました。森の怪物と元々接点があったらしく、師匠の話の中でもソイツの名は出てきていました。

そして、森の怪物と師匠の知り合いである'常峰 光貴'と言う名も」


話の始めは、一体そんな話をして俺に何か関係があるのか?と思ったが、その名前を出されれば反応せざるを得ない。


「なるほど……俺と常峰 光貴に関係性があると踏んだわけですか」


「本来であれば、今回の護衛隊長にはロバーソンという男を起用する予定だったのですが、眠王の名を知った時に自ら立候補させていただきました。

師匠は、友との約束の為に長生きせねば!と常に言っておりました」


「その友が常峰 光貴だと」


「はい。あまり自分の事を多く語る方ではなかったのですが、いつか来る友の縁者に渡すモノがあると……。しかし、それは叶わず、師匠からコレを預かりました。

いつか、俺の代わりに夜継という男に渡してほしいと」


そう言って次に手渡されたのは、何かの鳥を模した小さめの木彫り。よくよく見れば、首が外れる仕組みの様で、中には丸められた紙が数枚。

一枚は座標で同じだったが、手紙の方の内容は少し違った。


ガレオさんの言うドラゴニュートの師匠――トーセンさん。もし彼伝いで爺の事を知った場合は、爺の予想では孤島へ辿り着く前だったらしい。

何より、世界を点々とするトーセンさんが一番早く俺に会う可能性が高かったようで、手紙の内容は孤島へ赴く様にと書かれていた。


そしてもう一つ。シューヌという人物についてだ。


「ガレオさんはコレを読んだ事はありますか?」


「いや、そもそも手紙が入っている事さえ今知ったばかりです」


確かにガレオさんは驚いた表情で木彫りを見ている。一見すればただの置物で、もしかしたらカモフラージュ用に木彫りにしたのかもしれない。


……しかしそうか、ガレオさんは手紙を読んだことはないか。


「森の怪物はシューヌという名前でしたっけ? 一応、鴻ノ森達から報告は聞いていたんですが、ちょっと曖昧で」


「おぉ、そうでしたか。シューヌで間違いはありません」


そう言うガレオさんの表情と声には、俺でも分かる程に憎しみが混ざっている。

ガレオさんからすれば師匠を殺した人物。しかし、爺の手紙によれば……シューヌというエルフは、エルフを守る為に自らを売った人物であり、秘密裏に行われていた人体実験の被害者だ。


ガレオさんの中でシューヌさんがどういう認識かを確かめてみたが、これな中々に厄介なことのニオイがし始めた。


もしシューヌさんが生きていた場合、トーセンさんが生きていた場合の事を書かれていた内容だけでも、ガレオさんからすれば気分の良い事は書いて居ない。

そして何よりも問題だったのが、シューヌさんはコニュア皇女の延命に一枚噛んでいる。


「確かにトーセンさんからの贈り物、頂きました。ガレオさんもわざわざありがとうございます」


「いえ、これで少しでも師匠への恩を返せたのならば、私も、いえ師匠もきっと報われるでしょう……」


リュシオン国は一種の宗教国家。聖女か神か、どちらにしろ他国と比べて強い崇拝思考にある。それが俺の認識で、鴻ノ森達の報告を聞く限りではあながち間違いではないだろう。

その中でも聖騎士団は国の軍であり、忠誠が強いはずだと仮定して聞いておきたい。


「そういえば思ったのですが、コニュア皇女は随分とお若いですね。ポルセレル皇帝がいらっしゃると言っても、外交の顔としては基本的にコニュア皇女が表にでるみたいですが……相当頭のキレる方なのですか?」


「申し訳ない。そこを詳しく申し上げる事はできません。ただ、そうですね、あまりコニュア皇女がこの様に表に出てくる事はありませんが、ポルセレル皇帝もコニュア皇女には信頼を置いています。

師匠を知る方とは言え、これ以上は私の口からは……」


「こちらこそ答えづらい質問をして、すみませんでした」


むしろその答えで十分だ。

聖女が絡むからコニュア皇女が行動できている。んで、リュシオン国の現状は聖女信仰でも二つの勢力が存在している。

旧派と新派の事は鴻ノ森から聞いていたが、興味ないから切り捨てていた。だが、コニュア皇女が動けている所を見ると、少し考えが出てきてしまう。


ポルセレル皇帝が福神 幸子という聖女を信仰する旧派で、聖女の肩書を信仰するのがコニュア皇女の意向――新派だとした場合、コニュア皇女が率先して動く理由と、動ける理由にはなる。


二人が派閥を意識していたとして、ポルセレル皇帝はこの機会に粗探しをするはず。護衛の中に旧派が紛れ込んでいてもおかしくはない。

そこら辺を上手く利用すれば、東郷先生の頼み事で動く時に楽になるかもしれんが……その前にもう一つガレオさんに確認しなきゃならんな。


「ガレオさんって、リュシオン国は長いんですか?」


「もう四百はリュシオンに」


やはりか。となれば……。


「さっきも言いましたが、コニュア皇女は若いですね」


「? 確かにお若いかと」


「えぇ、本当に。ログストア国で初めて目にした時には、正直驚かされました。外見のわりには、レゴリア王やハルベリア王に引けを取らず、中々に聡明な決断力をお持ちだと。……まるで、外見と年齢が合わない様な感じでしたよ」


「……確かに、コニュア皇女は聡明な方です。ですが、それを言ってしまえば眠王も大変お若い。自身の主を比較に出すのは不躾ですが、眠王の方が幾分も恐ろしい方です」


驚くような表情はない。焦りも見えない。だが、間があったのは確かで、わざわざコニュア皇女を名指しで比較するのは、ガレオさんの忠誠からして違和感がある。

言ってしまえば、一言多い。


コニュア皇女がどういう方法で誤魔化して来たかは知らんが、ガレオさんは薄々気付いているのかもしれないな。

コニュア皇女がどうにかして延命している事を。だが、そこにシューヌさんが関わっている事までは知らないって所か。


「ガレオさん」


「はい?」


「ガレオさんには伝えておきます。この後、俺と東郷先生、コニュア皇女で少し密会をします」


ここで少し驚いた表情を見せるガレオさんを他所に、俺は言葉を続ける。


「リュシオン国というよりは、東郷先生の頼みを聞く為に少しコニュア皇女の知恵が必要なようで……。ただ、東郷先生の個人の頼みでして、他の方には聞かれたくないのです」


「何故私にその事を?」


「今はコニュア皇女の護衛隊長なのでしょう? もし、密会の最中に居なくなったと騒ぎになったら大変ですから」


「なるほど。そういう事でしたら、護衛として私が同伴を」


「それはできません」


当然だ。元々三人で話す予定だからな。そこに、ガレオさんを招く訳にはいかない……だが、ガレオさんには少し聞いておいて欲しいというのが俺の本音。

リュシオン国での協力者というのが、圧倒的に不足している俺としては、ガレオさんをこちらへ引き込んでおきたい。そのための餌もちゃんとある。


「東郷先生には既に三人だけで話すと言ってあります。それに、少しリュシオン国の方々に聞かれると困る内容と言いますか……」


「と、言いますと?」


「本当にココだけの話しにしてくださいね? ガレオさんを信用してお話しますが、どうやら今回の件に少しだけ森の怪物が関わっているらしくて……それはリュシオン国としては、問題でしょう?」


「!?」


そりゃ露骨に驚いた表情にもなるだろう。

干渉禁止だかなんだか知らんが、半敵対状態の森の怪物が関与する問題。ガレオさんからすれば、師匠の仇。


「確かに……本当に聖女様の願いに森の怪物が関わっているとなると……国が動かねばなりません。ですが、密会という事は、討伐などではないのですね?」


「えぇまぁ、そうなるかを今回決める感じになるかと。俺の持っている情報と東郷先生、コニュア皇女の知る事を合わせての結果次第ですけどね」


「深くは問いません。ですが、もしもの場合であれば、私も協力させていただきたい」


「ガレオさんのお気持ちを察する事は、俺には難しいですが、境遇を聞いた身としてはガレオさんの力にもなりたい。

爺――常峰 光貴もトーセンさんには世話になったようですし、もしその時はお願いします」


「お任せください!」


確固たる信念を持った瞳は、しっかりと俺を捉えている。

その忠誠心と、師への思い。真っ直ぐで実に羨ましい。


「では、パーティーが終わり次第、少しだけコニュア皇女をお借りします。もしもの場合を考えてガレオさんには教えておきますね。

この城から出ると庭があり、左手の方に会議に利用する建物があります。そこの個室を今回は利用しようと思っています」


「密会の場所まで……そこまで信頼して頂きありがとうございます」


「いえいえ。ガレオさんが誠実な方だとお話して分かったので、俺も少し頼らせていただこうかと」


「その様な高評価を頂いたのは初めてかも知れません」


表情が少しだけ柔らかくなるガレオさんに、俺は心の中で謝罪をする。

間違いなく俺の中ではガレオさんは高評価だ。しかし、その忠誠心はセバリアス達には及ばない。たとえ及んでいたとしても、貴方は私情を捨てきれない。


森の怪物が絡むと知れば尚更な。


俺の予想になるが、これでガレオさんは密会を盗み聞きしようとするだろう。まぁ仮に聞いていなくてもいい。

その時は、ガレオさんはそれだけ信用と信頼をするに値すると言うだけだ。


「そろそろ安賀多達の演奏会も締めに入り始めたみたいですし、戻りましょうか」


「眠王、お付き合いいただき感謝します」


「こちらこそ。改めて、光貴の件ありがとうございました。トーセンさんにも感謝の気持ちと、お言葉を。

お返しと言ってはなんですが、どうぞパーティーをお楽しみください」


そう言い残し、俺は先にフロアへと戻る。一応コニュア皇女が密会できる流れの用意はできた。仮に誰かにバレたとしても、大きな問題にはならんだろう。

旧派とやらが知って報告した所で、聖女の頼みに応えただけだ。


例えガレオさんが旧派だったとしても、そういう話でまとめられる。森の怪物が絡んだとすれば、こちらが悪い様に話をしたりもしないだろう。


後はガレオさんが盗み聞きをするかどうかだな。もしするとして、どういう方法か検討は付かんが、ガレオさんが何処に居るかはダンジョンの機能で分かる。

仮に変に魔法を使おうとした場合は……セバリアスに監視させとくか。その傾向があったら報告してもらえばいい。


よしよし。ひとまずの予定は問題無さそうだ。


ある程度考えがまとまった俺は、安賀多達のラスト曲を耳にしながら、眠らない様にルアール達との談話で時間を潰す事にした。

歌詞っぽいのを最初の方にチラッと書いてみましたが……歌詞ってだけでも難しいですね。

ちなみに楽器もてんでダメで、音楽方面の才能はからっきしです。



ブクマありがとうございます。

今後も是非、お付き合いください!よろしくおねがいします!

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