表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる王  作者: 慧瑠
水面下の波
132/236

やー坊へ

すみません。短めです。

「アラクネの店の方は?」


「まだ在庫の確保を行っている最中ですが、修繕商売は開始しました。住民にも顔を覚えられ、現物での取引を中心として活動できています」


「ラデアは?」


「一応利用者に顔見せを済ませてはいますね。ですが、やはり接客は敬遠しがちな傾向が見られます。奥の作業場の方に引きこもる事が多いですが、アラクネからの評価は好評で、当人同士の仲も良好かと思われます」


「それは良かった。そういう事なら、現状は流れに任せていい。今後もシーキーに任せるが、不満があるようなら遠慮せずに報告してくれ」


「かしこまりました。我が王よ」


深々と頭を下げるシーキーから視線を隣にずらす。


「では次だ、ルアール」


俺がそう言えば、次はシーキーと交代でルアールが一歩前に出て、手に持っている書類を読み上げていく。


「はい。食料に関してから報告を――」


一通り内容を読み上げたルアールは、次にこれからの予想を告げてから俺の返答を待つ。


「一応成長の早いモノから収穫は出来ているようで良かった。流石に肉類に関しては家畜は時間がかかるだろうし、周囲の魔物を狩るにしても数は大分減っているみたいだな」


「そのようです。半日程足を運んだ先でも、収穫が無かったなどの声も出てき始めています」


「逃げたか」


「おそらくは。群れが狩られ、残っていた魔物もココより離れてしまっているのが大半かと」


「その半日程度の範囲内なら狩り尽くしても構わない。枯れてしまったら、ダンジョンから召喚して群れを形成させて放逐して野生化させる。世代が変われば普通の野良と変わらなくはなるだろう。

半日の範囲に魔物の反応が無くなった場合、整地後分かりやすい様に壁か何かで国全体を囲う。メニアルを通してでも構わないから、魔族達にも伝えておいてくれ」


「そのように」


「他の詳細については書面を用意する。次、ラフィ頼む」


「はい」


メモを取りながら一歩下がるルアールに変わって、次はラフィが前に出て報告を始める。


「奴隷達も一週間で生活には慣れた様子を見せています。しかし、流石に我が王の給仕の担当などはさせられませんね」


俺の担当にそこまでの高水準を求めちゃいないんだが……これを口にすると、ラフィ達に失礼か。ありがたい限りだ。

さて、俺の担当にはできないって事だったが、一応それなりの教育は出来ている様子だな。


「どの程度なら問題無さそうだ?」


「そうですね。地図を片手にですが、天空街の案内なら問題は無いと思います」


「第一から第三まで全部か?」


「現在可動している施設も少なく、覚える事もそれほど無かったので問題はありません。王城の案内以外であれば可能かと考えています」


王城は仕方ない。基本的にダンジョンの者かクラスメイト以外は立入禁止だ。しかしそうか……それだけ対応ができるなら、今日の事は任せてもいいか。


「三人とも今日の予定は覚えているか?」


「リュシオン国からの視察の件ですね?」


俺の質問に、三人を代表してラフィが答えた。


そう、今日は東郷先生との約束の日だ。当然コニュア皇女も一緒に。

名目上は国内視察。

ギナビア国がペニュサ将軍を送ってきたように、聖女が案内をするという事でコニュア皇女と複数名の護衛、そして鴻ノ森達も一緒に帰ってくる。

現在はジーズィが空路で向かってきている最中だ。


「そのリュシオン国の視察は天空街を主にする。宿泊施設はギナビア国軍の方々に利用してもらった所を、食事は畑とルアールで用意してくれ。

確認だが、二日滞在予定。初日は王城のフロアでパーティーをして、二日目は個々で食事をしてもらう。

娯楽として大浴槽と遊戯施設は解放したままでいい。ただ、天空街を居住区としている魔族達には、その二日間は両方の施設を利用しないように再度通達しておいてくれ」


まさか手を出してくる事はないだろうが、できるだけ接触の場は制限しておいた方がいいだろう。会談の翌日の夜には帰ったギナビア国軍も、魔族達にはあまり良い顔をしていなかったしな。

リュシオンの者達がどういう認識を持っているか分からない今、下手に接触の場を増やして、マイナスな印象を与えてしまう必要はない。


「かしこまりました。案内の際は、新人達を利用しますか?」


「せっかくだ。多少の無礼があるかもしれないが、試してみてくれ。一応いつでもフォロー出来るように、ラフィ、リピアさん、そしてシーキーも数人面倒を見て欲しい。

とりあえずは以上だ。これから当人同士で打ち合わせを行い、時間が来たら予定通りに頼む。何か問題が起こったら即報告。解決できそうなら任せるが、それでも報告だけは上げてくれ」


「「「かしこまりました」」」


「期待している。解散」


軽く手を叩けば三人は深々と一礼をして部屋を出ていく。俺はそれを見送り、小さく息を漏らした。

到着時刻としては夜頃だが、ゆっくりしている暇は……残念ながら無い。なにせ今からセバリアスが戻ってくる。


岸達はギルドへの報告でログストア国に明後日ぐらいまで拘束されるらしいのだが、孤島で回収した物は先んじでセバリアスが俺の元へ送ってくるらしい。

報告の時に、あれこれと難癖つけて回収されても嫌だからな。それに、俺も早く資料には目を通しておきたい。


ギルトといえば、大地の爪痕が戻ってから進展は今の所ないな。できれば早い内に話を進めたい所なのだが……急かしても仕方ないか。

正直、大国を通す以外で何処を急かせば良いのかも分からん。


「メニアルがそれとなく金銭のやり取りを魔族に教えてくれているし、商業ギルドの話が進んでから本格導入を視野に入れる方が良いかな。

商売に興味がある魔族達の為にセミナーみたいな機会を用意するとして、アラクネには……ラデアにセミナー参加してもらって教えるように頼んでみるか」


流石に魔物をセミナーに参加させるのは、魔族達はもう問題ないだろうが、壇上側が焦るだろう。もし魔族にも偏見があるようなら、一度俺達が聞いて教えればいい。


「セバリアス、只今戻りました」


「入ってくれ」


少し考えがまとまり始めた辺りで扉がノックされ、セバリアスが一つの袋を担ぎながら部屋に入ってきた。


「色々と面倒があったみたいだな。任せっきりですまなかった」


「大した問題ではありませんでした。ギルド消失の問題で少し時間を取られましたが、後の事は岸様達でも大丈夫かと。

問題が起きれば、エマスが対応できるでしょう」


「なるほど。白玉さんや岸達の現状も気になるから、飯の時にでも少し教えてくれ」


「喜んでご一緒させて頂きます。では、食事の前にこちらを」


そう言って、持っていた袋の中身を次々と取り出していく。

数冊の本、少し装飾されている木箱、縦長の木箱、何か用途の分からないモノなどなど……そして最後に一つの巻物を机の上に置いた。


「予想していたより少ないな」


俺が呟くと、セバリアスは巻物を広げ、そこからズルッと数冊の本を取り出して見せる。


「どうやら収納機能を追加した巻物のようでして、この中に資料などを全て収納していると岸様から聞いております」


あぁ、そういう感じ。


俺も巻物に描かれている魔法陣に触れてみると、ピリピリとした感覚が体を駆け抜けていく。何かしらの干渉を受けているのか。

とりあえずセバリアスが取り出した所を見れば、その行動自体に問題は無いみたいだし、干渉の許可をしてもう一度。


すると、脳裏に巻物の中に収納されている物のイメージが流れ込んできた。

大量の書物に、かなりの数の薬品。そして研究資料の数々。

その中から、一つの本を取り出してみた。


「セバリアス、時間はあまりないが、今のうちに少しだけ帰還方法について情報を集める」


「お手伝いさせて頂きます。それとこちらを」


「ん?……あぁ、うん、ありがとう」


取り出した本を開こうとする俺にセバリアスは一枚の紙――写真を手渡してきた。

そこに写る人物。数人目を疑う人物が写っているが、疑いようの無い人物が目に入る。


爺……。

見間違いはしない。生前のままの風貌で、相も変わらず楽しそうに笑ってやがるその顔を。


そうか。爺、あんたはこっちでも楽しそうで何よりだ。ただ爺、何故そこにチーアとウィニさん……そしてコニュア皇女が一緒に居る。

あんたは何を知って、何をして、何を残した。


ふと視線を上げれば、机の上に置かれた箱が置いてある。岸が言うには、俺に渡すように白玉さんが言っていた長箱があったな。


取り出した本を一旦置いて、箱をよく見てみれば、数字を入れるパズルと小さな鍵穴。隣に並ぶ長箱の中には、随分と特殊な形状の煙管。


「これ見よがしだな、オイ」


数字の候補は色々あるが、とりあえず爺の誕生日を入れ、変な形状の煙管がすっぽりとハマる鍵穴に挿して捻れば……軽い音と共に蓋が軽くなったように開いていく。

厳重なのかガバガバなセキュリティなのかよく分からん箱の中身は、何か模様が描かれた紙の切れ端と俺宛への手紙。


ご丁寧に'やー坊へ'と書かれた手紙を開けば、爺の字で、俺の予想通りに俺を見透かした内容が書かれていた。


--------

やー坊へ


さて、何を書くべきか悩みに悩む所だ。悩みながらやー坊には「よくやったな」と言葉を先に送っておこう。


どこまでやー坊が分かっているか俺は分からねぇ。だから俺の予想で書くが、俺がやー坊をこの世界に導いた可能性……とか考えていそうだから、先に言っておく。


半分正解だ。


召喚魔法自体は俺が考案したものじゃねぇ。元々この世界に存在した魔法だ。

おそらく知識としては得ているであろう初代勇者が召喚されたモノがそれになる。これが半分間違っている部分だ。


そして正解の部分だが……色んな奴らに協力してもらい、俺はその召喚魔法に小細工をした。

書くにはちーっと長いからな。コレを読んでるって事は、適当に資料も掻っ攫ったんだろ? 詳しくはそっちに目を通せ。

ただ、この召喚魔法の小細工は、俺が想定した帰還方法にも一枚噛んでくる。


ごちゃごちゃと言った所で分からねぇと思うから簡単にまとめるが、この箱に入っていた紙切れが元の世界への座標だ。

そして「スキルフォルダ」ってのは、初代勇者が残した神の記録ってのらしい。俺の予想では、大きな世界改変には神が絡んでくるんだろうと思う。


これぐらいが俺のこっちでの人生を掛けた成果だ。有効活用してくれよ。


まぁ、逆に言えばそれしか俺の成果はない。

帰還方法を確立する事はできなかったし、そもそも確立出来ていたらやー坊がこっちに来る事はなかった。


だが俺は召喚魔法でやー坊が来る事を知っていた。それを止めようとはしたんだがなぁ……如何せんできんかったのは謝る。すまん。


やー坊が来るのを阻止できないと悟った俺は、帰還方法の模索に踏み出した。協力者として、初代勇者の後に召喚された聖女「福神(ふくがみ) 幸子(さちこ)」や神の使いの「ウィニ・チャーチル」、福神と同じ召喚者である「エリヴィラ」や「チェスター」、「袋津」達も最後には協力してくれていた。


そしてやー坊、俺等の願いを聞いてくれ。

召喚犠牲者が生まれない様にして欲しい。


俺は、死んで魂が拾われたが……召喚された連中は違う。本来なら俺が成し遂げたかったんだが、悲しいかな老いの方が早くてな。

こうして未来に託す事しかできなかった。


何時頃にやー坊が来るのかは分からねぇ。もしかしたら、ずっと先の事かも知れねぇが、必ずやー坊はこの世界に喚ばれ、ココまでたどり着く。

それは俺のスキルの'予知夢'で分かっていた。


使い辛れぇスキルで、好き勝手なタイミングでしか発動しねぇけど……やー坊が来る未来が見えて良かったと思っている。

やー坊になら託せる。俺等の願いを。


もちろん、やー坊の目的のついででいい。帰還方法の確立のついででいい。

帰りたいなんて思っていなくても、やー坊ならそうするだろう? 俺に似て、気になったら調べたくなる性分だろうしな。

まぁ、頼んだぜ。


あぁそれと……チーアとコニュアが生きていたら、少し気にかけてやってくれ。


追伸

やー坊、予知夢で見たとは言え僅かな時間で分からなかったが、随分と知り合いが増えたみたいだな。

色々と苦労してるみたいだが……楽しそうで何よりだ。


--------


なるほどな。

爺のスキルで、俺が来る事を分かっていたと。最初はそれを阻止しようとしたが、それは無理だと悟った……っつーよりは、時間が足りなかったか。


そして帰還方法の確立は爺だけの目的ではなくなっていた。大方、同じ目的の元に集ったのが聖女達って所かな。


爺は悔しかったんだろうな。頼むという文字が潰れかけている所がちらほらある。

自分で成し遂げられないと分かった時、一体どんな気持ちだったのか。

俺が来ると分かった時、一体何を思ったのか。

俺に頼ると決めるまでに、どれほど考え込んだのか。


良く知る爺の事だからこそ、想像がつかない。

まぁ爺の方も、俺がクラスメイト達と来る可能性なんて考えもしなかっただろうな。


……さて、クラスメイトの為に帰還方法をと思っていたが、俺個人の目的にもなってしまった。

爺の言い方では、帰還方法を確立する事はできそうではある。その為のキーとして、一緒に入っていた変な模様が書かれた紙切れ――座標とか言っていたな。


んでもう一つ。神の使いと爺が書いている'ウィニ・チャーチル'は、おそらくウィニさんの事で間違いはないだろう。

更にはチーアとコニュア皇女……ここら辺が俺のキーマンになる可能性が高い。

爺は、この二人が生きている可能性があると考えられる程には、何かしらの秘密があるんだろう。


聖女とコニュア皇女の組み合わせ。

はたして偶然か、それとも……。


「セバリアス、何か分かりそうか?」


「申し訳ありません。如何せん情報が多く、有益そうなモノはまだ」


読めているのか?と思う速度で一冊一冊目を通していくセバリアスは、俺の問いに答えながらも次、また次と本を取り出しては読み終えていく。


ふぅ……。

コニュア皇女の事は、後で当人にでも聞く事にしよう。今は、少しでも爺達が残してくれた帰還方法の情報を集めていこうか。


「追加で悪いが、チーアとコニュアの名前があった場合は除けててくれ。少し気になることがある」


「チーアとコニュアですね。かしこまりました、目を通した中に少し見かけたので、先に除けておきます」


「悪いな。ありがとう」


一旦読み進めるのを止めて振り分けをしていくセバリアスに礼を言うと、俺も先程取り出した本を開いてく。

どうやらコレは袋津という人が書いた日記の様だな。


その日記を読みながら、さっき魔法陣に触れた瞬間に浮かんだイメージを思い出し、その量から長期戦を予想した俺は、気合を入れ直す様に小さく息を吐いた。

本当にすみません。ちょっと時間がなくて短めになってしまいました。




ブクマありがとうございます!

これからもお付き合い頂ければ、幸いです!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ