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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
130/236

寝て飛べません

すみません。短めです。

サブタイ変更しました。

《だからねー、やつぐはちーあに、あいにこないとだめなの!》


《うーん。それは大変だなぁ》


《おじょーさまのごめいれいですよ!》


時は昼前。

今日の予定の再確認をしている俺の脳内には、それは元気な元気な声が響いていた。


二度寝から起床して、まだ眠気を訴える頭と奮闘していると、久々に安藤からの念話があった。何事かと思えば、何やらチーアがどうしても俺と話しをしたいとの事。

今は時間があるし、安藤も少し困り気味だったからチーアと話す事にしたのだが……。


《お嬢様の命令かぁ……参ったなぁ》


《えへへ~》


何やらチーアは、'お嬢様'と'ごめいれい'がお気に入りにワードになっているっぽい。

誰かに、何かに感化されたのかは知らないが、随分と凶悪な言葉を覚えたもんだ。これには安藤君もタジタジでしょうなぁ。


王族であり、モクナさんが仕えている所の娘さん。命令って言葉にも、それなりの意味合いが出てくるものだ。

まぁ、子供の言葉として適当に流せばいいとも思うけど、安藤は苦手だろうな。


チーアに生返事をしながらそんな事を考えていた俺は、この先'おじょーさまのごめいれい'が活発になってくると、それはそれで大変だろうと思い、チーアに念話を返す。


《でも俺は、チーアの事をお姫様だと思ってたなぁ》


《おひめさま? おじょーさまとちがうの?》


《そりゃあ違うさ。お嬢様でもお姫様のご命令には従わなきゃいけないんだ。お姫様の方が偉いんだぞ―》


《え! じゃあ、ちーあおひめさまー!》


素直で大変よろしい。なんて言葉は口にせず、予想通りに弾む声のチーアに俺は言葉を続ける。


《お姫様のご命令とあらば、俺も断れないな》


《じゃあじゃあ、やつぐくるの?》


《そうだな。でもすぐには行けない、行く約束をしようか》


《すぐきてくれないの? おひめさまのごめいれいなのに?》


《お姫様は偉いけど、偉いからこそちょっとだけ我慢もしなきゃいけないんだ。実はお嬢様は、もっと我慢をしなきゃいけないんだけど、チーアはお姫様だからな》


《ちょっとだけでいいの?》


《あぁ。だから、近い内に会いに行くよ》


《ぅ~……。わかった、ちーあ、ちょっとだけがまんする》


《ありがとうな。会いに行く時は、何かお土産でも持っていくよ》


《うん!!》


あぁ、無垢で明るい嬉しそうな返事が沁みる。騙している訳ではないんだけど、純粋さと懐いてくれている事にかまけて、それっぽい言いくるめをしているのは事実。


本当に……無意味な罪悪感を感じてしまうから、子供は苦手だ。


《それじゃあ、安藤と交代してくれるか?》


《わかった!またね、やつぐ! がまんするから、はやくきてね!》


《あぁ》


これは、あれだな。約束もしちまってるし……罪悪感を払拭するために、チーアに会いに行く名目でログストア国に行くのも時間の問題だな。


《おう、おつかれ。チーアちゃん嬉しそうだったぞ》


《そうかい。そいつァ何よりで》


《近い内に来んのか? すんげぇ嬉しそうにチーアちゃんが言ってたけど》


《その内にな》


実際の所、睡眠時間を差っ引いて考えると……チーアに会いに行くだけという目的で、割ける時間はハッキリ言ってない。


コア君に任せながらとは言え、今日明日はダンジョン改装をしながらフラウエースのフラセオさんと奴隷の面々との話し合いもある。

アラクネの店の事もあるし、もしかしたらギルドの話しが進むかもしれない。


セバリアスが居るとは言え岸達の件もあれば、最近の報告で鴻ノ森が東郷先生の事を気にしていた事も気になる。

コニュア皇女と東郷先生の二人で居ることがかなり多いのはジーズィから聞いているが、気になる程の雰囲気があるんだろう。


後は、ルアールが言っていた精霊の件。ログストア付近で安藤達を襲った男達の調査をしているシェイドからも、未だに連絡が無い。そしてまぁ……彩の件。

他にも色々と気にしなきゃいけない事もある。


はぁ……ログストア国に行ったら行ったでチーアと遊ぶだろうし、短時間で満足はしてくれないだろう。一日か二日ぐらいは時間を取っておきたい所だ。できれば、ログストア国に行く用事があれば良いんだけどな。


《安藤、俺は眠いよ》


《お前が眠くない時とかあるのか?》


《ねぇわ》


《解決だな》


《解答欄に記入どころか、問いを見ようともしてねぇじゃねぇか》


《許せ常峰……俺には難解過ぎた》


このしょうもないやり取りが落ち着く。最近、ちょっと真面目にやりすぎてて、こういう時間が少なすぎたな。


他愛ない話しの続きとして、安藤とモクナさんの惚気でも少し聞こうか――と思った所で、部屋の扉がノックされた。


「ラフィでございます。お目覚めですか?」


「起きてるよ」


俺が返事をすると、ラフィが扉を開けて一礼をした後に口を開く。


「おはようございます我が王よ。昼食のご用意が出来ていますが、いかがなさいますか?」


「あぁ、食べようかな」


「かしこまりました。それと、先日人間と戦闘したゴブリンの治療が終わっております。シーキー曰く、後一日程は安静にした方がいいそうですが、後遺症はないようです」


「そうか……それはよかった。少ししたら食堂に行くから、先に行っててくれ」


「お待ちしております」


そうして部屋を出ていくラフィを見送り、流石に安藤の惚気を聞く時間は無さそうだなと思い念話を切る事にする。


《安藤、わりぃ今から飯だ》


《ん?あぁ、こっちも飯だわ》


《丁度いいな。ちなみに、昼飯何?》


《さぁ?モクナが作ってくれてるから、聞いてくるわ》


《いや、いいよ。もう美味しく頂いちゃってください》


まさか切り返し一つだけで惚気てきやがるとは。呼び捨てに、手料理ですか。俺の記憶が正しければ、厨房担当を兼任している事は無かったと思うんだがな。


《なんだ常峰、もしかして羨ましいのか?》


俺の声に何を察したのかは知らんが、今、安藤がニヤついているのはハッキリと分かる。


《別に羨ましいってのはねぇよ。こちとら、シーキーやら畑やらの手料理を毎日食ってんだからありがたい限りだわ》


《そりゃそうか。シーキーさんとか、お前特製で作ってそうだもんな》


《おかげで俺の舌は肥えちまってるよ。まぁ、ちゃんとモクナさんと進展してるようで何より》


《良いもんだぞ。彼女》


《俺の分も堪能しててくれ》


随分と楽しそうに話す安藤に別れを告げて念話を切ると、俺は食堂へと向かうことにした。


昼時ともなれば、休憩中だったり今日は休みの者達が食事をしている姿が多い。俺が食堂に入ると、気付いた者から手を止めて席を立とうとするから、手で必要ない事を伝えて全員に向けて一言。


「おはよう皆」


「「「おはようございます、我が王よ」」」


一人一人だと俺も面倒だからな。申し訳ないが、まとめて挨拶をさせてもらった。

そうこうしながら食堂を見渡すと、所々包帯に巻かれた姿のゴブ君を見つけ、その隣に腰を下ろした。


「怪我は大丈夫か?」


「ゴブッ!」


俺の言葉に頷くゴブ君の隣では、今日は昨日見て覚えたであろうグレイの姿のマープルが俺を見ている。


「~」


何やらマープルはご機嫌の様で、両掌に人形サイズのゴブ君とグレイ達を作ると、昨日あった戦闘を再現し始めてくれた。


レーヴィが言うには、ゴブ君はまだまだ甘いらしいが、こうしてマープルの再現を見ていると善戦したように見えるな。

正直不意打ちから始めれば、グレイは難しいかもしれんけどアンシェ辺りから突き崩す事もできただろうに。


「ゴブ君は強くなりたいのか?」


そう問えば、ゴブ君は力強く頷いて見せる。

なんというか……最初に喚び出したって事もあってか、ゴブ君に愛着が湧いてしまっていて、あまり怪我などをして欲しくない気持ちがあるのは確かだ。


今回、ゴブ君から戦いたいって希望が出た時は悩んだ。ゴブ君はゴブ君で、魔族達にも受け入れられていて、俺の手伝いもしてくれている。……だがまぁ、戦う事が必要だとゴブ君が思ったんだろう。

そうでなければ、自主的にメニアルに訓練をお願いするなんて事もしないだろうしな。


「そうか。あんまり無理しない程度に頑張れ。ゴブ君が強くなるのは、俺も嬉しい」


俺がしてやれるのは、こうした応援ぐらいだしな。

ボーダーラインを見極めるのが難しいが、相当な無茶をゴブ君だけでしない様にだけはしておこう。


ゴブ君だけを褒めてしまっていると、自分も褒められたかったのか、マープルがプリプリと怒っていますよアピールしてくる。

そんなマープルも褒めつつ、ラフィが用意してくれた食事を食べ終えれば、時間はフラセオさん達との面会の時間になっていた。


「ラフィ、フラセオさんの隷属魔法は」


「昨晩の内に解除しております。現在は、私が八人でリピアが七人を受け持っています」


「ありがとう。あぁ、それと半魔という種族の者も居たようだけど、どっちが隷属権限を預かった?」


「私が」


「なるほど」


寝起きの俺にも優しい食事を食べ終え、ラフィと共に移動しながら前もって情報を聞いておく。と言っても半魔については全く知らんままだな。


「ラフィは半魔について知ってるか?」


「存じております。半魔とは、所謂魔族の混血の事を指しており、他種族ではダークエルフ、ドラウドラフなど別の呼び方をする場合もあります。

今回の半魔は、おそらく人間との混血かと」


「かなり怯えていたみたいだが、大丈夫そうだったか?」


「幼少から奴隷だったようで、かなり劣悪な環境に居たようです。そのせいもあってか、あまり多くの人目に付くのを嫌う傾向はあるようですね」


「違法奴隷だったってことか?」


「いいえ。一応一般的な犯罪奴隷ではありました。ですが、数百年前と変わっていなければ、半魔という存在を人間は良く思いません。劣悪でぞんざいな扱いをした所で、それを咎める者がどれだけいるか」


まぁ、魔族と人間の溝は深い。そこに半分半分の血を持って生まれれば、迫害もあるか。


「魔族側もそうなのか」


「人間程ではありませんが、人間の血を嫌う者も少なからずは存在しています。ですがそうですね……魔族の場合であれば、戦闘能力さえ高ければ受け入れられる事もあったでしょう」


魔族の方が寛容的な面があるのは、皮肉とでも思っておくべきかな。

好き嫌いなんて、個人個人である領域だが……どうしたもんかね。魔族に加えて、半魔か……レゴリア王も分かってて送ってきただろなぁ。


全面的に受け入れると、あまり良く思わない'人間'が多すぎる。だが、ぞんざいに扱うなんてのは、俺個人としても、国としての面でも良くはない。

きっと、そんな扱いをしたと東郷先生辺りなんかに知られれば、それはそれは長いお説教がついてくるだろう。


何よりも、魔族を受け入れた俺の国で、半魔を迫害するなんてことはできない。そんな事をすれば、人間が住む事のできない国になる。

互いを知れば恋心が生まれ、半魔が生まれる事もあるかもしれないのに、その事を国が否定してはいけない。


「まぁ、少し話してみてから決めるかな」


俺だけで考えてもしゃーない。独りよがりにならずに当人の意見も聞いけばいいし、プラスに考えるとすれば、人間と魔族の架け橋になる可能性もある。

要は俺の対応次第でどうとでも転ばせられる。それが俺の立場だ。


「そういや、今日の昼飯はラフィが作ったのか?」


「えっ…? は、はい! お口に、合いませんでしたか?」


「んにゃ、胃に優しくて美味かった。ありがとう」


「ンッ…勿体無きお言葉ッ」


シーキーが作るにしては、シンプルな感じでもしかしてと思ったが、やっぱりラフィだったか。セバリアスが料理の腕を鍛えさせているとか言っていたが、本当にもう十分何じゃねぇかな?ってぐらいに美味かった。


礼を聞いたラフィは少しは喜んでくれているみたいだし、俺も気合入れて話をしていきますかね。


リピアさんとフラセオさん達が待つ部屋の前に着いた俺は、小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから扉をノックして中へと入った。


-


「詳しい事については後日に改めて話の場を用意します。環境が変わって混乱もしているでしょうから、まずはラフィやリピアの指導のもとで学び、生活に慣れてください。

分からない事や、質問があれば二人か俺にかに遠慮なく聞いてくださいね」


俺は自己紹介を含めて二時間程度の話し合いの締めに入る。

それぞれ反応は疎らなものの、とりあえずは問題無さそうだな。


「では、改めて、ようこそ我が国へ」


そう言うと、全員が深々と頭を下げた。俺はリピアさんとラフィに合図を出して、全員を天空街に用意してある宿舎へと案内させる。


「あ、フラセオとラデアは残るように」


二人だけを残す様に指示をして。

ラフィとリピアさんは察していたようだが、残りの人達は不思議そうな表情を見せながら部屋を出ていく。残された二人も……フラセオさんは無表情で見てくるし、ラデアは両手で身を抱いて俺を睨んでと、反応を見せてくれている。


この二人、さっきの話し合いの最中でも一言も喋らなかったし、やっぱ警戒させてしまっているのかね。


「さて、まずはフラセオさんの方からにしようかな。ルアール達から話は聞いていると思いますが、俺が貴女を保護することになりました。

ご希望通り、一応寒い場所は用意していますが、気に入らなければ遠慮なく言ってくださいね」


「本当に……不思議な魔力の方」


俺の説明を聞いていたフラセオさんは、スッと俺の頬に手を伸ばそうとしてくる。だがテーブルがあるから触れる事はできない。


流石に頬を差し出す気はしないので、とりあえず伸びてきた手に握手をすると、ピリピリと体に電気が走ったような感覚がした。


「……? 魔力がない?」


吸収でもしようとしたのかね。

何をしたかったのかは分からないが、とりあえず俺から魔力をフラセオさんの手に纏わせてみると、フラセオさんは目を驚いた様にパチパチとさせて、数秒後ゆっくりと手を離す。


「眠くなりました……」


「ハハハ、では話は後回しにして、今はゆっくりと休んでください」


無表情でコクリコクリと船を漕ぎ始めたフラセオさん。このまま話をしても、きっと覚えていないだろうと思い、俺は極寒の階層へ続く扉を喚び出した。


「この先の空間は、フラセオさんが好きにしてくれて構いません」


扉を開ければ、アホみたいに寒い風が部屋の中へ入り込んでくるわけで……。

俺は覚悟をして開けたから良いものの、ラデアはガッタガタと震え、俺に変な生物でも見るかの様な視線を送ってきている。


そんな中、フラセオさんは嬉しそうな声を小さく漏らして、フラフラ~と扉を抜けてすぐ先に見える一軒家に吸い込まれるように消えていった。


「さてと…」


しっかりと見送るだけ見送った俺は扉を閉め、一気に温度が下がりぬるくなってしまった紅茶で喉を少しだけ温めつつラデアに視線を返す。


「ラデアは翼のある魔族なんですね。この国にも居ますけど、中には基本出さずに生活している方も居ます。ラデアはどっち派ですか?」


「わ、私は半魔なので、収納はできません」


会話の切り出しとして良いラインかなぁと思ったが、そんなキッ!と睨んで半魔だからと言われるとは。

実際、魔族で翼が珍しいとは思わない。この国にもチラホラといるし、収納可能で出していない魔族も居る。


どういう原理かは全くわからず、正直皮膚がダルンダルンなんじゃねーかな?とか思ったけど、そんな事もないらしい。

なんて事をジョーク混じりで打ち解けていこうと思ったが、どうやらラデア本人が半魔というのをかなり気にしているみたいだな。


「半魔だからですか……そういう事もあるんですね。ちなみに、飛びながら寝たりとかできるんですか?」


「自分で飛んでいるのに、寝て飛べると思うんですか?……そもそも、私はもう飛べません」


「ハハハ、ごもっとも」


んーこれは、手強そうだなぁ。

要望を聞くにしろ、こっちの要望を伝えるにしろ、節々にネガティブ打ち込んできそうだ。


俺じゃあラデアの境遇を想像する事ぐらいしか出来ないし、だからと言って俺の尺度で計っていいモノでもないだろう。上っ面の同情の言葉が出てきそうにもなるが、軽率な言葉は逆効果にもなるだろう。


まずはその敵対心から、少し解いて貰わんと進めそうにないな。

ちょっと時間が上手く作れず、ギリギリで、かなり端折って短くなってしまいました。

そろそろ次の展開にいかねば。



ブクマ、評価、ありがとうございます。

どうぞこれからも、よろしくおねがいします。

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