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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
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違和感のダンジョン

すみません。ちょっと色々とやりながらで時間がなく……短めになってしまいました。

「'癒やしの光を ―ヒール―'」


「あー……楽になってきた。悪いなぁアンシェ」


「いいえ。気休めにしかならないとは言え、私も二日酔い相手に回復魔法を使うのは慣れていますから問題ありませんよ」


「嫌味だなぁ」


「明日にダンジョン攻略が控えていると言うのに、酒樽を三つも空にする様なマスターを持つと大変なんですよ」


「攻略じゃなくて視察な。完全攻略はレゴリアから止められている」


「はい、終わりましたよ」


ペチッと軽く背中を叩かれたグレイは、う”っ…と声を漏らしながら腰を上げた。


昨晩、グレイは食事処に来ていた魔族達と打ち解け、それはもう遅くまで飲み明かしていた。

最初から同伴していたクロースは途中で酔い潰れ、後から合流したアンシェは、自分の分の食事を済ませると、潰れたクロースを引き連れて先に戻ったのだが……。


「アンシェ……次、俺」


「はぁ……」


翌朝になれば当然の様に男二人は、唸りながら頭を抱えて起きてくるではないか。

アンシェは色々と察し、諦め、二日酔いに対してなどには頭痛を抑える程度の効果しか発揮しない回復魔法を、朝から今まで通算で両手足では足りない数を使用している。


「しかし、パッとしないダンジョンだ。

出てくる魔物は、初心者向けが多い。階層毎で棲み分けしているせいてイレギュラーな連携をする事もない。

エリアも十三階層まで岩壁。気温も多少肌寒く感じる時があるだけで、目立った障害もない。五層毎に大型ボスが居るが、それもランナーボアやスケルトンナイトの変異種というだけで特殊な行動も起こさなかった」


「罠らしい罠も簡単なモノが多かったですね。

なんと言えばいいのか……初心者の為のダンジョン。攻略を前提とされているような薄気味悪さを感じます」


グレイは、現在居る十三階層までのマッピングした地図を眺めながら分析していく。その呟きに、クロースに回復魔法を使っているアンシェが言葉を繋ぎ、グレイは頷き返す。


「あ”ぁ……なんつーか、グレイさんをわざわざ指名する必要は無いっすよね。俺だけでも十分だし、アンシェだけでも問題ないだろ?」


「正直に言って、この調子で変わらないのであれば、私だけでも問題はありませんね」


クロースとアンシェの会話を聞きながら、脳裏には今朝、御者としてダンジョンまで案内をしてくれたレーヴィともう一人、森で出会った常峰 夜継の姿が浮かぶ。


魔族達と遅くまで飲んでいた時、魔王メニアルと中立国の王の話が出てきた。

王と魔王メニアルは大変仲がいいらしい。……そう、ココには魔王メニアルという存在が居る。更には、レーヴィも居り、魔王メニアルを負かした王――常峰 夜継が居る。


森で出会い、名前を聞いた時には気付かなかったが、ギルドの通知でグレイはその名は聞いていた事を思い出していた。


三十一人の異界の者の一人であり、ログストア国が公表した四人の名の内の一つ。その男は、異界の者達をもまとめる程の実力を兼ね備えている。


ギルドの上層部には知られている名であり、クランマスターであるグレイにも注目と注意を意味して知らされている名だ。


「この程度のダンジョンでレゴリアが俺を指名するとは思えない。視察という依頼の仕方といい、昨日見た空軍連中といい……既に攻略済みで、ギナビア国がこのダンジョンを買った。って辺りが濃厚だなぁ」


それでも……何故、わざわざギルドを通したのか。


グレイはそれがずっと引っ掛かっている。

ギナビア国の事であれば、今来ている空軍でも攻略できる程度のダンジョン視察に、わざわざ、クラン:大地の爪痕のマスターである自分を派遣したのか。


「まぁ、行けば分かるか」


頭痛は収まっている様だが、未だに気怠そうに立ち上がったクロースを横目に、グレイは考える事を止めて体を軽く解し、アンシェも移動の準備を終えた事を確認して次の階層へと足を進めた。


--


「十四階層も特に問題はありませんね」


「ウォーカーウルフだけだったな」


「奇襲を得意とするウォーカーウルフですが、こうも隠れる場所が少ない洞窟では……」


「ランナーボアの方が厄介なもんだわ」


行き止まりの確認なども含めて、三十分程度で十四階層を攻略し終えた三人は、下へと続く階段を進み、先にある扉の前でマッピングに詳細を記載していく。


クロースとアンシェは、あまりにも呆気ないダンジョンに愚痴すら出てきそうになるが、グレイだけは目の前にある扉を見据えて集中をしている。


「マスター?」


「グレイさん?」


雰囲気が変わり、面白いモノを見つけた様に笑みを見せるグレイに、二人は思わず声をかけた。それに対してグレイは、自分の得物である大剣を二、三、試し振りをして肩に担ぐ。


「気を抜くな。次は、ちょっと手こずるかもしれないぞ」


そう告げられた二人は、少し困惑したようにアンシェは杖を、クロースは三節に折り畳める槍を一本に戻し構える。


二人の困惑をグレイは理解できている。

確かにココまでは手応えも無く、呆気ないダンジョンであった事には違いない……のだが、グレイだけは扉の向こうに居る気配を感じ取れていた。


扉越しから感じ取れる気配は、ハッキリとした闘争心を滾らせて自分たちを待っている。

力量差は自分達の方に分があるものの、それは確かに自分達を殺そうとする殺意。


これは楽しめそうだ…。と笑みを浮かべながらグレイは扉に触れた。

すると、扉は自らゆっくりと開き、五階層と十階層でも見た闘技場の様なフロア。その中心に、気配の正体は腕を組み、仁王立ちでグレイ達を見据えていた。


「ゴブリン?」


「パッと見はゴブリンだが、ありゃただのゴブリンじゃねぇな」


アンシェとクロースの言う通り、仁王立ちをしているのは一見普通のゴブリン。だがクロースも気付く。

明らかに纏う雰囲気がゴブリンにソレではない事に……。


「この部屋のボスか?」


グレイの言葉に、ゴブリンは一度だけ頷き、腰に下げていた短剣を抜いた。


その短剣は、鞘にも合わない程の異常に短い黒い剣身。それを見たグレイは、自分の握り拳の方が大きいのでないか?と錯覚するほど。


しかし、気は抜かない。

ゴブリンは至って真剣にグレイ達を見据え、あまつさえグレイ達が準備を終えるのを待っているのだ。


「クロース、アンシェ、行くぞ」


グレイ達が構えると、ゆっくり閉まっていく扉が完全に閉じた瞬間――ゴブリンは明らかに届かない距離で短剣を横に振った。


ゴブリンの動きに真っ先に反応したのはアンシェ。

魔法を警戒していたアンシェは、反射的に防御魔法を発動する。同時に、一瞬だけ何かが防御魔法にぶつかる音が聞こえ、それを合図にクロースが距離を詰めようとする。


対するゴブリンは、冷静に逆袈裟斬りの動作で短剣を振る。


「クロース!防げ!」


「ッ!!」


グレイの言葉が聞こえ、クロースが咄嗟に防御の構えへと移ると、何かが柄の部分に当たり、滑り削る様な感覚がクロースを襲う。


本来なら自分が特攻するつもりだったが、クロースが先に出たために見ていたグレイには、ソレが見えていた。

異常に短い剣身が撓り、半透明な何かがゴブリンの側面の地面を少しだけ削った瞬間を。


「魔剣の類か、それとも……」


鉄が擦れ合う音を響かせ防いでいるクロースの横を駆け抜けたグレイは、ゴブリンの腕の軌道に注意を払いながら大剣を振り下ろす。

すると、擦れ合う音は止み、ゴブリンが持っていた短剣の剣身は、グレイが持っている様な大剣の剣身へと姿を変えてグレイの大剣を受け止めてみせた。


「んだそりゃ」


「'光の刃よ 怒れる炎よ 遮るモノを滅せ ―光炎刃衝―'」


剣身が変わった事に驚くクロースを他所に、ゴブリン……と言うよりは、その短剣に危険性を感じたアンシェはゴブリンに向けて魔法を発動する。


グレイと競り合いをしていたゴブリンの周囲に現れた白く揺らめく球体。

その魔法が何かを知っているグレイは、瞬発的に力を込めて押しゴブリンの体勢を崩すと、大きく飛び下がりゴブリンを見た。


グレイの動きを予想できずに体勢を崩してしまったゴブリンは、自分の周りに浮かぶ四つの球体に本能が危険を感じ、腕を振るおうとするが痺れて動けない事に気付く。


よく見れば、いつの間にかゴブリンの手の甲には細い針が一本刺さっている。


「耐性持って無くて安心したぜ」


ゴブリンが声のした方を見れば、チラチラと光に反射をさせて針を見せつけてくるクロースの姿。


カッとなり、無理矢理動こうとするも、麻痺毒が回っている体は上手く動かず、ゴブリンは悔しそうにグレイ達を見つめるばかり。

そして、ゴブリンの周りに浮いていた球体が爆発し、衝撃は全て刃となってゴブリンを襲った。


爆発の轟音と地面などを無差別に削る様な音が落ち着く頃には、ゴブリンの姿は舞い上がる砂煙に埋もれ確認はできない。

だが、あの状態からゴブリンが生き残れるとも思わないアンシェとクロースは、構えを解いてしまった。


「見事!!」


言葉と共に一閃をグレイが振るうと、砂煙から飛んできた小さい何かが弾かれる音が響き、数秒後には足元に半分に折られた針が落ちてくる。


「これは……俺の?」


「私達を狙って?」


落ちた針をよく見れば、それは間違いなくクロースの針だ。

構えを解いて完全に油断していた二人は、グレイが防いでくれなければ……と、もしもを想像する。そして晴れ始めた砂煙の方を見れば――。


「ー…ー…」


未だに途絶えぬ闘争心の籠もった瞳でグレイ達を睨み、声にならない息を漏らし、ボロボロの体で剣を杖代わりに立つゴブリンの姿があった。


「実に見事だゴブリン」


ゴブリンの姿に敬意を払い、グレイは大剣を構えて一撃で終わらせる為に力を込める。対するゴブリンは、剣を構える体力も無く、近付いてきたグレイを見据える事しかできない。


そして、間合いに入った瞬間、グレイは一閃を振るった――が、それはゴブリンとグレイの間に現れたレーヴィによって止められた。


「これが人間の強者。少しは参考になりました?」


突然現れたレーヴィの言葉に、ゴブリンは小さく頷くと、意識を失い倒れる。


「……これは、どういう事か説明をしてもらえるかな」


ゴブリンを仕留めきれなかった事よりも、目の前に現れるまで存在に気付かず、あまつさえ自分の一撃を軽々と素手で止めたレーヴィの方に驚きを隠せない。


「このダンジョンは現在ココで終わりになります。詳しい話は、我等が王からご説明があると思うので、そちらまでご案内させていただきます」


「そのゴブリンはどうするんだ」


「ご心配には及びません。

マープル、今はシーキーの手が空いている。任せます」


グレイの問いに答えたレーヴィの言葉に反応を示したのは、今までゴブリンが握っていた短剣だ。


短剣は一度液状に戻ると、そのままレーヴィの姿を模した形になり、ゴブリンを抱きかかえ、レーヴィとグレイ達にペコッと頭を下げると奥に現れた扉を抜けていく。


「では、皆様も」


置いてけぼりで進むやり取りに、グレイ達は渋々従う事を選んだ。

マープルが開けた扉を一度閉めてから開け直したレーヴィの後を追うと、そこには食事が並ぶテーブルがあり、壁際にはギナビア国の兵と数名の使用人。


席にはヒューシとペニュサ。そして、常峰 夜継が座っていた。


--

-


「つまり、中立国の王はダンジョンマスターでもあると……」


「はい。今回は騙すような形になってしまった事をお詫びします。先入観無くダンジョンを進んで貰った場合の評価が欲しくて、今回の様な形を取らせてもらいました」


「なるほど。そういう事ならば、それで構わない。ダンジョンが初心者向けというか、あまりにも手応えがない理由にも納得だ」


「あー……やっぱり、微妙でしたか」


「ギナビア国が提示しているモノを見る限り、今の倍以上は難易度を上げていい。最後のゴブリンを抜かしてだが、あまりにも簡単すぎる。

ダンジョンマスターなら、もう少し魔物の特徴とかを知っておいた方がいい」


「参考になります」


食事をしながら、今回の事を聞いたグレイ達の手には、昨日の話をある程度まとめた資料が握られている。

対する常峰は、グレイ達がマッピングした紙があり、自分が用意したダンジョン構造の内容と照らし合わせて見ていた。


グレイ達のマッピングは完璧であり、一応用意してみた隠し部屋までもしっかりと記載されている事に、常峰は普通に感心するばかり。


「これから話を詰めていくんだろうが、ペニュサ将軍に少し聞きたい事がある」


「なんだ。クランマスター」


「ダンジョンに入るのは軍なのか?それとも、ギルドに依頼をする気か?」


グレイの言葉に、ペニュサは少しだけ沈黙で間を作り、静かに口を開く。


「ギナビア国の訓練兵が主になるだろう。訓練兵に付き添いで訪れた軍の者数名で、資源回収を行う予定だ」


「そうか。なら、それに合いそうに案を出そうかねぇ。レーヴィさん、なんか書くものくれ」


「こちらをお使いください」


レーヴィからペンを借りたグレイは、未だに食事中のアンシェやクロースと相談しつつ、常峰が用意したダンジョン構造図に案を記入をしていく。


食事が終わればデザートが用意され、アンシェが嬉しそうに食べ。酒の用意はクロースが遠慮しなど、話し合いを進めながら時間は経つ。

ギクシャクする事も無く進み、ある程度の形となったダンジョンに関する資料に、常峰が最終確認の為に目を通して確認をし始めた。


ダンジョンの階層を倍にし、魔物の配置案はグレイとヒューシが擦り合わせた内容。階層を無視して複合で配置させた方がいいという案も、しっかりと書かれている。


罠に関しては、致死性の毒は使用しない方向だが、危険性を覚えさせる為に麻痺毒をクロースが、設置型で有効な魔法をアンシェが提案、推奨をしてくれていた。


ダンジョンとしての質を上げ、階層ボスの感覚を少し短くして、短時間での訓練も視野に入れた案に、常峰はただただ納得と関心をするばかり。


「ギナビア国からの意見を見る限り、かなり希少な鉱石を利用した武具の提案がある。それに関しては、下層の方の隠し部屋がダンジョンらしい形の理想だろう」


グレイの言葉通り、下層の方に隠し部屋の用意や、入る手順の案などの奥に宝箱のマークが書かれていたりしている。


「色々と改善案をありがとうございます。これを元に二日程掛けて手を加えようと思うので、大地の爪痕の皆様には、改良後のダンジョンにも入っていただきたいのですが……大丈夫でしょうか」


「こちらは構わないぞ」


「ありがとうございます。次の時は、こちらから付き添いも出しますので、ある程度確認を終えたら次の階層へすぐに移動できるようにします」


「まぁ、完全攻略をしても構わないが……その場合は確かに準備が足りないな。その時は頼む」


「はい」


一通り目を通し終えた紙を、次はヒューシが目を通し、最後にペニュサが確認をしている間に、常峰は次の予定をグレイと相談して決めていく。


そうこうしながら話し合いも終わりを告げ、親睦目的に軽い雑談まで終えると、空気は解散の流れになり始める。


「では、私はレゴリア王にお届けする書類をまとめに戻らせて頂きます」


「私もヒューシと共に報告書をまとめに戻る」


「分かりました。ヒューシさんには滞在中の居住を天空街の方にご用意しているので、使用人に案内させましょう。

他の空軍の皆様は、昨日と同じ部屋を利用してもらう事になりますが、何か不満とかはありませんでしたか?」


常峰の言葉に、武装兵達は軽く首を横に振り、ペニュサも軽く手を上げて問題ない事を示す。それを見て、常峰は白々しく少しだけ声を大きくして言葉を続けた。


「あぁ!そういえば、天空街の方にお試しとして大浴槽を用意してみました。案内は使用人ができるので、もし興味があればご利用ください」


そう告げて常峰が手を軽く上げると、控えていた使用人達が素早く動き始める。


「では、俺達も戻ろうか。今日もあの家に泊まっていいんだろう?」


流れを見て会話に入ってきたグレイに、常峰は小さく笑みを浮かべ答えた。


「もちろん構いません。他の場所が良ければ、すぐにご用意しますが……大地の爪痕の皆様は、もう少しだけお付き合いください」


不敵にも見える笑みを見せる常峰が放つ雰囲気に飲まれかけながらも、グレイは上げかけた腰をゆっくりと下ろした。

ゴブ君も戦わせてみたかったんです。

ダンジョン攻略を細かく書いても良かったんですが、ちんたらと長くなりそうだったのでバッサリまとめました。



ブクマ・評価 ありがとうございます!

何卒、これからもお付き合いくださいっ…。

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