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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
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クラン:大地の爪痕

少し短めかもしれません。

「ログストアギルドからの連絡ですけど、三日前に孤島支部が消滅したそうです」


「消滅?壊滅の間違いだろ。そもそも、孤島支部とかまともに機能してたん?」


「ピエルコに滞在しているギルド員の報告では、孤島ごと消滅した事が確認されています。語弊ではないでしょう。

詳しい事は、避難民を護衛していた孤島支部の白玉含めた数名がログストアへ向かっているそうなので、その時に話を聞くらしいですよ」


「白玉?……あぁ、そういや先祖代々孤島に住み着いてる狐の獣人が担当だったなあそこ。って事らしいっすけど、どうします?グレイさん」


背中に大きな爪痕を模した刺繍のあるローブを纏う女からの報告を聞いた軽装に男は、隣でしゃがみ込み地面と周囲を観察している大柄の男に声を掛けた。

すると、大柄の男は立ち上がり、地面に突き立てていた大剣を引き抜きながら大きな欠伸を漏らす。


「大分新しい足跡と踏み均されてる跡が増えてきたなぁ。このまま行けば、今日明日にでも目的地には着きそうだ」


一人グレイが呟くと、ふと視界に影が差した。何事かと見上げれば、三人の頭上を巨大な生物に加え、その生物を先頭に隊列を組んだドラゴンが数体過ぎていく。


「あの武装ドラゴンは、ギナビアの空軍か。巨体は知らないが、一回りデカいドラゴンには見覚えがあるぞぉ。

将軍直々とは、レゴリアの奴……何か俺等に隠してダンジョン視察を依頼したな」


「レゴリア王はご丁寧にマスターを指名してきましたからね。それで、どうするんですか?ギルドへの返事は」


グレイをマスターと呼ぶローブの女は、自分の握る杖を止まり木代わりにしている鳥類の魔物に目を移す。


「んー、そうだねぇ……アンシェに任せた」


「は?マスター?」


「適当に報告待ちをするって感じで書いてくれればいい。それよりアンシェ、クロースも、そろそろ目的地である中立国だが、元は魔王領地。

仕事でもある。気持ちぐらいは締めてけよ」


「うぃーっす」


「もう!たまには自分で報告ぐらいしてください!」


ローブの女――アンシェが返事を書き終えるのを待ったグレイとクロースは、ギルド連絡用の魔物が飛び立つのを見送り、中立国へ向けて一歩足を進めた。


だが、二歩目を踏み出す前に三人の視線は引っ張られる。


進行方向より少し外れた先。そこから広がる魔力の波。

今まで何故気付かなかったのか分からない程の圧倒的な魔力量に、三人は気付き目を向けた。


「人……か?」


「みたいっすね。大型のランナーボアもいるみたいっすよ」


グレイとクロースの言う通り、そこには棒立ちの若い男と、牙が異常に発達した大きな猪型の魔物が対峙している。


「助けに…「まぁ待てクロース」…っす」


グレイ達にとってランナーボアの一体程度、大した敵ではない。だが、新人冒険者からすればランナーボアの攻撃力、機動力は厄介なものであり、初めの内は罠などを使う事も多い。


棒立ちの男を見る限り、戦闘慣れをしている様には感じない。隙だらけに見え、もしその男と敵対したとしても相手ではないだろう。


「アンシェ、どう見る」


「間違いないと思います。この魔力は、あの男の人のモノかと……でも、人間かは怪しいですよ?

私、こんな魔力の波は初めて感じましたから」


「ただの虚仮威しか、それとも強者の余裕か……見ものだなぁ。一応危険になったら割って入るから、準備はしておけ」


「はい」「うっす」


グレイ達は、何時でも割って入れる様に準備だけはして、息も気配も殺す。間もなく、ランナーボアが動いた。


巨体に似合わぬ速度で、ランナーボアは男へと一直線に疾走っていく。男とランナーボアの距離はそれほど離れてはいない。

しかしランナーボアの特徴は、初速で最速付近に達する事が一つとして上げられる。


つまり、五秒と経たない内にランナーボアは男へと接触する……と、思われた。


「確かに速いが、触手の方が厄介だな」


尚も構える事なく男が呟くと、ランナーボアは男に触れる前に何かに阻まれ凄まじい衝突音を響かせる。そして次の瞬間――ランナーボアは頭部だけを何かに押し潰された。


「今のは魔法か?」


「いえ、魔力です。魔力だけで壁を作り、魔力だけで頭を潰したみたいです」


「アンシェはできるか?」


「無理ですよ。普通に考えて、あんな使い方をしていたら魔力枯渇は免れません。ランナーボアの突進を止めて、更には押しつぶすなんて……密度も量も非効率なぐらい必要になりますよ?

私も自分の目を疑っています」


「ほぉ~」


アンシェの説明を聞いたグレイは、面白そうに目を細めて男を観察する。その隣で説明を聞いていたクロースも同じ様に男を見ていたが、ふとアンシェの説明を聞いて思った。


「それって魔法じゃねーの?」


「は?本気で言っているんですか?貴方も魔法を使う身なのに、本気で言っているんですか?」


「え、あぁ、なんかわりぃ」


「はぁ~……いいですか?魔力は魔法を発動する源ではありますが、魔力に性質を付与し、効率よく現象を生むように構築された結果が魔法なんです。

一の魔力で十の結果を生めるように神が与え給うた奇跡こそが魔法であって、魔力だけで同じ結果を再現するとなると……もうそれはそれはとんでもない程の魔力を使用するか不可能であるか……更にですね――「あぁ、もう分かった分かった」


コイツに聞いたのが馬鹿だった。と熱くなり始めたアンシェに思ったクロースは、無理矢理に話を遮り男の方へと視線を戻した。すると、ぼーっと上の空だった男は、何の前触れも無くグレイ達の方へと向いた。


「やば。人が居た。確認せずに適当に繋いだのは、失敗だったな……あー、そこの人達、怪我とかありませんでしたか?

ちょっと戦闘訓練をしていたんですけど、寝起きで注意力散漫でして安全確認を怠っていました」


そう言いながら近付いてきた男は、確かに意識を向ければ寝癖だらけであり、何よりも相当眠そうな表情を浮かべている。


「こちらに怪我は無い。それにしても、寝起きと言う割には見事な戦闘だった」


「ハハハ、ただ魔力にモノを言わせてるだけですよ。自分、魔法が使えないもので」


そのグレイに返した言葉に真っ先に反応したのは、アンシェだった。


「え!?嘘ですよね?あれだけ繊細な魔力操作をしておいて魔法が使えないなんて!!」


「え、いや、本当に使えないんですけど…」


アンシェが男に詰め寄り、それに困惑している様子を見ていたクロースは、流石に男が気の毒になって助け舟を出すことに。


「その辺で止めとけってアンシェ。悪いね、身内が迷惑掛けちまって。んで、迷惑ついでに聞きたい事あんだけど……いいか?」


「聞きたいことですか?答えられるか分かりませんが、どうぞ」


「あぁ、俺はクロース。質問攻めにしてたのがアンシェで、この人がグレイさんってんだけど、最近この付近に新しく国が出来たらしくて、俺等ちょっとそこに用事があるんだけど知らない?」


「それなら知ってますよ。と言ってもココからあっちに真っ直ぐ行ったら、半日もしない内に着くと思います」


男が指を指す方向は、今から進もうとしていた方向だ。


「らしいっすよグレイさん」


「予想通りだったが、確信出来たのは嬉しいな。助かったよ……あーっと」


「あ、すみません。常峰 夜継って言います。ん?……あ、俺はもう少し用事があるのでこの辺で。また会いましょう」


「そうだな。君とはまた会う気がする」


軽くグレイと握手を交わした常峰は、そのまま森の奥へと消えていく。

残ったグレイ達は常峰が指で示した方向へと歩き始めた。


そうして適度に休みを取りながら半日程度進むと、魔族が行き交う街が見えてくる。そして街の入り口には、一人の小さなメイドが立っていた。


「お待ちしておりました。クラン'大地の爪痕'の皆様ですね?

王の遣いで参りました'レーヴィ・ルティーア'と申します。レーヴィとお呼びください」


「クロースとアンシェ、俺がグレイだ」


「かしこまりました。しかし、大変申し訳無いのですが、本日我等が王は別の要件に忙しく皆様方との面会は明日になります。

明日の朝、ダンジョンへご案内させて頂き、視察後に我等が王との面会となっておりますが問題はありませんか?」


「大丈夫だ」


「我等が王に代わり、こちらの都合に合わせてもらい感謝のお言葉を送ります。つきましては、今晩は宿の手配などもこちらでご用意しております。

街の案内も兼ねて先導させて頂きますので、着いてきていただけますか?」


「それは構わないが、ここに来る前、男が一人で森に居たが問題はないのか?」


「……ご心配なく。お客様方のお手を煩わせるなど、私共が命に変えてもさせないので」


そう告げるレーヴィの目は、邪魔をすれば獲物として狩る。と暗に告げていた。


小さな体から発せられた濃密で純粋な殺気に、アンシェとクロースは息を呑み、思わず身構えてしまう。

そんな中、唯一関心したように声を漏らし頷いたグレイは、機嫌良さそうに笑いだした。


「ハッハッハッ!!それは失礼した!

では、案内を頼めるかな?レーヴィさん」


「いえ、こちらも不躾な事をしてしまいました。どうぞこちらへ」


-


「レーヴィさん、あの工場の様な建物は」


「つい先日出来たばかりの糸の生産工場ですね。この先に、新しく服屋ができる予定でなので、そこ用ですね」


「ほぉ~……その服屋に寄ってもいいか?」


「構いませんが、まだ本格的な営業はしておりませんよ?」


「いやいや、魔族がやろうとしている店ってのを見ておきたくてね」


「かしこまりました。ですが、一つ勘違いを訂正させて頂きますと……その店を営むのは魔族ではなく、魔物ですので」


グレイの問いに答えたレーヴィの言葉に驚く三人が進むと、本当にそこには開店予定の看板が掲げられている店が一軒。

店の外には、店内に飾られている服を見ようと男女問わず魔族が集まっている。


「あら可愛い服!」「これは際どいな」「いやいやコレはコレで」「これどうやって着るんだ?」「ってか、なんか汚すの持ったいねぇな」「芋何個で一着なんだ?」「機能性に欠けるだろ」「袖が邪魔だな」「雄は黙っててよ」「これ、お前似合うんじゃね?」「ほんと?なら、お店始まったら買っちゃおうかな」


店の前でワイワイガヤガヤとしていると、やたら大きめの扉が開き、中から店主である'アラクネ'が出てきた。


「はいはーい。皆さん、こうした方がいいって意見あったら教えてくれるかしらー」


登場したアラクネの言葉を聞いた魔族達は、思い思いの意見を言い合い、それをアラクネは一つずつメモを取っていく。

遅れて、店の中から混み合う間を抜けて一人のメイドがレーヴィの元へ近付いてくる。


「珍しいですね。レーヴィがこちらに居るなんて……なるほど、ダンジョンの視察に来た方々をご案内中でしたか」


「兄様やラフィは別件で忙しいですから。シーキーも大変ですね」


「そうでもないですよ。我等が王のお役に立てるのは、至福の時間ですからね。

ただ、労いはありがとう。我等が王のご厚意もあって、食堂にレパパで作ったデザートがあるので食べて」


「仕事が終わったらいただく」


「では、私はこの辺で失礼いたします」


深々とグレイ達に一礼をしたシーキーは、また混み合う中を抜けて店内へと戻っていく。どうやらレーヴィが近くに来ている事が分かったから出てきただけのようだ。


「今のは」


「私の同僚です。さて、もう少し先に皆様がお泊りになる家があります。ご案内と少し説明を終えた後は、皆様はご自由にしていただいて構いません。

服屋が気になるようでしたら、その時にでも再度お立ち寄りください」


そう告げて歩き始めたレーヴィの後を着いていくこと十分。店から離れれば、行き交う魔族が物珍しげにグレイ達を見たりしていたが、敵意は含まれていない。


そして更に五分程歩くと、レーヴィが足を止めた。


「こちらが皆様のお泊りになる宿でございます。

寝具などの家具は一式揃っておりますが、食材などのご用意をしておりません。お手数ですが、お食事などは向かいにある食事処をご利用ください。

料金は、全てこちらで持ちますのでご遠慮無く」


レーヴィの説明を耳にしながら三人が視線を向ける先には、周囲より少し大きな一軒家が建っていた。

完全に貸し切り……と言うよりは、専用に用意されたような宿にグレイも目を丸くしている。


「ここは、誰も住んでいないのか?」


「皆様用にご用意したので、今後は誰かが住むかもしれません」


「それは……何やら申し訳ないな」


「いえ、ご遠慮無くご利用ください。私は一度我が王の元へ戻りますが、急用の際は向かいの食事処の店員に声を掛けていただければ迅速に対応させていただきます。

それと注意事項として、魔族には手を出さぬように願います。状況と程度によりますが、殺傷などが起きた場合は、相応の対処をいたしますので……一通りの説明は以上です。何かご質問は」


「注意事項の件だが、仮に向こうから手を出してきた場合はどう対処するのがいい」


「その様な愚か者が居るとは思いませんが、その場合には殺しを控えていただければ問題ありません」


「無力化として手足を切り落とす可能性はあるぞ?」


「どうぞご自由に。我が王を煩わせ、切り落とさなければならない状況を引き起こした愚か者には、その程度良い罰でしょう。……他にございますか?」


「いや、良くわかった」


「では明日の朝、お迎えにあがります。失礼いたします」


シーキーの様に深々と一礼をしたレーヴィは、奥へと足を進め魔族達の中へと消えていく。それを見送ったグレイ達も、このまま立っていても仕方ないと家の扉を開けて入っていった。


宿として用意された家は、レーヴィの言う通り家具一式が用意されており、寝室も人数分個室で用意されていた。

適当に部屋の確認と、荷物の整理を終わらせた三人はリビングに集まり直したのだが……クロースとアンシェの表情が浮かない。


「どうした」


「グレイさん、さっきのちっちゃいメイドの殺気、平気だったんっすか?」


「私、鳥肌が立ちっぱなしだったんですけど…」


そう言えば、案内されている最中の口数がやたら少ないな。と思っていたグレイは、二人の言葉を聞いてやっと納得した。


「二人にはまだキツかったか。まぁ、アレは人ではないだろうな」


「なんとなく雰囲気でそれは分かってたっす」


「それだけ分かれば十分。敵対する存在でないのなら、友好的であればいい。変に警戒をし続けて反感を買っても仕方ないだろう」


「だから平気だったと?」


「勝てるかは怪しいが、お前らを逃がす程度はできると踏んだからな。焦りもしないさ。

それに、初めに王の遣いだと言っていただろ?忠誠心が無いなら問題だったが、あれほどの殺気を振りまく程だ。自身の王に迷惑を掛けることはしないだろう」


「なるほど……。マスターは、それを見越していたから平気だったんですね」


「さすがっす」


別にそういう訳では無いのだが……と言いたい所だったが、あまりにもキラキラとした眼差しを向けてくる二人に、どうせ言った所で謙遜をと話が長引くだけだと考えたグレイは苦笑いだけを返した。


「それじゃあ自由時間だ。俺は早速食事処に行ってみようと思うが、二人はどうする」


「俺はグレイさんに付き合うっす」


「私は、先程の服屋の方にもう一度足を運んでみようかと…」


「そうか。まぁ、明日に響かない程度にしておけよ」


「はい」


「ではクロース!飯だ飯!」


「うっす!お供させていただきやす!」


表情と雰囲気が何時も通りに戻った事を察したグレイは、元気になった二人を引き連れて家を後にした。

すみません。また少し遅めになってしまって……。

今更ですが、3月いっぱいは遅れる可能性があります。どうかご理解のほどをお願い申し上げます。



ブクマありがとうございます!!

どうぞこれからもお付き合いいただければ、幸いです。

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