おもっ…
市羽と別れ、安藤が自室に戻った部屋で俺は寝た。
やはりこのベッドは素晴らしい。包み込むのは当然、まるで空を飛んでいる様な心地よさがある。
暖かい。軽い。優しい。うーん、どの言葉を使えば適切か…。
「二度寝は許さねぇぞ」
「安藤…昨日は遅くまで話し込んでいて疲れたんだ。今は休ませてくれ」
「いつまでだ?」
「そうだな。帰還の魔法が分かるぐらいまででいい」
「はい没収」
「……鬼め」
日は既に登り、近くの時計に目を向ければ…まだ八時じゃないか。
掛け布団を剥ぎ取られたが、ベッドの上で丸まり肌寒さを少しでも逃れるように体勢を変えて…
「よく寝るねー」「まぁスリーピングナイトいや、スリーピングキングだからな」「眠王だしな」
「さすがキングだな」「王様だもんねぇ」「う、うん…スリーピングキングだもん…ね」
……。
「くくっ…ほらッ、起きたッ方が良いんじゃないかぁ?スリー「おはよう。安藤、覚悟はしとけ」俺だけかよ」
渋々起き上がり部屋を見渡せば、部屋の中には世界巡り組が勢揃い。
安藤に至っては、漏れそうな笑いを必死に我慢している。
「はぁ…」
もう一眠りしたかった鬱憤をため息で消化していると、視界にスルリと紙束が入ってきた。
「これ、朝っぱらに常峰の専属メイドが持ってきたぞ」
「朝っぱらから俺の部屋に居たのかお前…」
「そりゃ起こさねぇと起きねぇからな」
「彼女かよ」
献身的な安藤に感謝と軽く引きつつ、紙束を受け取り内容を見てみると、昨晩話し合いの場で用意されていたものだった。
俺は一枚しか見ていないが、その一枚は魔王の事について書かれていて、今、手元にある紙も同じやつと残りも魔王と軍事国家ギナビア国、神聖国家リュシオン国について書かれている。
昨日の話しで出てこなかったが、神聖国家リュシオン国は、安藤の言っていた宗教集団の国の事だろう。
連合王国ログストア国
軍事国家ギナビア国
神聖国家リュシオン国
三大国の名前がやっと分かったな。
なるほど…ログストア国は、元々は中小国家の集まりか。ギナビア国とリュシオン国が勢力を大きくしていくのに対抗して、集まった中小国家が危機を感じ自身等を一つの大国として名を上げた。
言ってしまえば、ログストア国は他国に比べて歴史が浅い。現在のハルベリア王の家系になってから、まだ世代が4つか。
ログストア国は王政は変わらないが、王の家系が変わる事が何度かあったようだ。
国民からの支持ではなく、何かしらの事故や陰謀で。
ギナビア国は、その名の通り軍事国家。王は存在しているがただのお飾り、実権は軍部上層が握り、実に好戦的な判断が下ることが多い。
魔王相手にも、最も多く戦闘を仕掛けた実績があるようだ。…魔王の事を調べるなら、ギナビア国に行ってみるのが一番かもしれないな。
そして神聖国家。教皇を頭に据え、形上は王政と変わらない様子。
だが、厄介なのは信仰する神が実在し、その信仰する者はログストア国内にも居るし、ギナビア国にも居るようだ。
この世界の神様事情は知らんが、おそらくリュシオン国は他国事情に最も精通していると考えていいかもしれん。
軍でも情報でも他国に劣るログストア国が吸収されずに大国で居られる理由。それは、機密の多さ。
俺達を喚んだ召喚技術も、あの録画機に関しても、その他にも他国が手を出しづらいと思わせる技術をログストアが所有している。
多少漏れても尚、他国を渋らせる機密。
リュシオン国ならば、召喚技術か。勇者という存在がどういう意味を有するか分からんが、あの光が神であると仮定して、下手をすれば俺達は神の使い辺りの認識を持っているのかもしれない。
ならギナビア国は?あの録画機?んなわけないだろう。
侵略して吸収しきれば、その技術も自国のものにできる。軍事国家だ…何か戦力として警戒する様なもの。
俺等?いや、違う。確かに強力ではあるだろうが、むしろ喚んでくれたほうが結果によっては国力として組み込める。
それにそんな召喚をポンポン使えるなら、もっとユニークスキルに世界は溢れているだろう。そうすれば、既にギナビア国にもリュシオン国にも戦力として信仰対象として君臨している者も出てくるはず。
だったら…リュシオン国も無理に干渉しようとしてこない。ギナビア国も警戒をしてちょっかいを出すのに留まっている何か。
ログストア国が大国として生存できている何か…。思考を飛躍させて、俺なら何を警戒する。
「絶対的な一撃」
「どうした?」
「いや、少し考え事だ」
近くに居た安藤に呟きが聞こえてしまったが、まだ俺の憶測でしかない情報を晒す訳にはいかない。
今は、そこまで考える必要はない。
無いが…ログストア国には攻撃手段が少ない。軍事国家と言うぐらいだ、それに力を入れているだろうし、俺等を省いて考えて、ログストア国がそれに耐えきるのは…国家を一撃で仕留められる程の何かがあればどうだ?
警戒はする。それが一度使えば一時使えないとしても、使わずに保持しているだけで脅しにはなる。
過去に使った実績があって、それを知られているとなれば、きっと威力も知っていて警戒をするはずだ。
うん、今のところありえそうな可能性だ。
だが…だとしたら厄介だぞ。その兵器が本当にあるとして、ただでさえ事故やらでコロコロ変わる危険性があるログストアの王が好戦的な王にでもなってみろ。
誤射でも済まされんぞ。
完全統治されきっていないログストア国…王の座が狙いやすいログストア国…この国、かなり脆いんじゃないか?
……いや、考えすぎだ。
陰謀やら何やらは、他の国でもあるだろう。だが、もしその必殺兵器が存在してるなら、確認だけはしておきたいものだな。
「はぁ…とりあえず、先の模擬戦の打ち合わせから済ませていくか」
「お?決まったのか日程」
「三日後だ。それまでに自分の力ぐらいは把握していくぞ。
安藤達はクラスの連中を集めてくれ。訓練場を使っていい許可は多分出ているから、誰かメイドさんひっ捕まえれば場所も分かるだろう」
「常峰はどうするんだ?」
「先に訓練場に行って、ちょっと作戦でも考えておくよ」
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案の定メイドさんに聞けば訓練場まで案内してくれた。
「こちらが訓練場でございます。
こちらは現在貸し切りとなっていますので、ご遠慮無くお使いください」
「ありがたいんですが、騎士の方達は…」
「少し離れに屋外訓練場があり、常峰様方が模擬戦をするのもそちらになります。
騎士の方々は、そちらの屋外闘技場をお使いになっていますね。
では、何か御座いましたらご遠慮無くお呼びください」
「あぁありがとうございます。メイドさん」
「…!そうでした。
ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。
改めて、常峰様の専属としてお仕えさせて頂く'リピア・モニョアル'と申します。
どうぞリピアとお呼びください」
「あ、はい。常峰 夜継です。よろしくお願いしますリピアさん」
俺に頭を下げて訓練場から出ていく鑑定スキル持ちのメイドさん…もといリピア。
そう言えば名前を聞いていなかったことを言われて思い出した。まぁ、今後少しの間はお世話になるわけだしな。
俺も自己紹介をしてなかったのも悪い。
リピアが出ていった扉を見つつ、少し反省をしてから服のポケットから安藤達作のスキル表を見始める。
軽くスキル詳細まで書かれているから、それを元に模擬戦の流れを組み立てていく。
想像の中でだが、スキルをイメージしてある程度組み立て終わり、後は実物を見てから調整してくか。
結局本人たちが来なければ、しっかりと決められない内容を保留して訓練場を見渡してみた。
体育館よりちょっと広いな。端の方には剣やら槍やらが、まとめてごちゃっと箱の中に立てかけてある。何気なく近づいて剣を一本持ってみるが…。
「おもっ」
ちょっとその重さに驚きつつ、昨晩見た魔王の様に横に一閃。見よう見真似で振ってみたが、映像の中の魔王の様な速度は無く、むしろ腕が軽く引っ張られる様な感覚に襲われる。
これは…俺は剣は使えないかもしれんな。
なんとなく刃の部分を触ってみると、若干丸みを帯びている気がする。きっと、刃引きしているのだろう。
まぁ、訓練で斬られる心配は無さそうだとはいえ、鉄の塊だ。当たれば痛いんだろうなぁ…痛いで済むもんなんかなぁ…。
なんて考えていると、メイドさんが開けた扉からゾロゾロと見知った顔が訓練場へ入ってくる。
「おはよう常峰」
「おはようさん。新道、ちょっとこれ持ってみてくれ」
「ん?いいけど」
先頭を歩いていた新道は、いつもの様に爽やかな挨拶をして俺の方へ歩いてくる。
そこで少し気になった俺は、持っていた剣を新道に渡してみた。
「思っていたより軽いな」
俺は目の前で軽々と剣を振る新道を見て納得した。
スキル補正か、はたまたこっちに来た際に身体能力補正が入ったか。入ったとすれば、適正武器でも存在しているのかもしれないな。
おそらく、適正でなくても剣を訓練すれば適正スキルを手に入れられるのだろう。
「それで、これをどうしたらいいんだ?」
「いや、俺には重くてな」
「ハハハハ、常峰は貧弱だな」
「インドア派だからな」
軽く振っている新道を見てか、他のクラスメイトも好き好きに並べてある武器を手に取っている。
様子を見ていると、剣で落ち着く者も居るが、槍、短槍、双剣、短剣、大剣、大鎌、トンファー、挙句には鞭なども…他多数。武器、豊富ですね。
ちなみに、俺はどの武器も合わなかった。杖程度なら問題なかったが、正直邪魔に感じる。
近接格闘を極めるか?いや、無理だな。
「常峰は武器なしか?」
「どれも扱える気がしねぇんだ。そういう安藤は…なんか多くね?」
腰に剣を三本、背中に槍を二本、盾を一枚。これで甲冑でも着りゃ、立派な騎士だ。武装多めの。
「いや、どれも結構しっくり来るから使って確かめて行こうかと」
「適正武器の多さが羨ましいわ」
大方、筋肉騎士の適正武器がその辺りなんだろう。
剣は…あぁ双剣が一セットか。んで普通の一本で三本。
「お、これも案外いけそうだな」
安藤は、片手で簡単に振り回しながら新たに大剣を身に着けた。
筋肉騎士…武器幅広すぎだろ。上腕二頭筋が一回り二回りぐらい膨れ上がってるが…それは、あ、筋肉の調整ってそういう感じ?
大剣を壁に立てかけたときに、安藤の上腕二頭筋はいつものサイズに戻っている。
俺も何か武器をと思っているんだが、どれも合いそうにないな。まぁ、なんとかなるだろ。
さてと…。俺は俺で出来る事をやっていくかな。手始めに…
中野 理沙
安賀多 縁
九嶋 紗耶香
この三人からだな。この三人、俺の印象ではバラバラだ。
中野は無口な文学少女。安賀多は一昔前の硬派ヤンキー系。九嶋は…なんかキャピキャピしてる。だが、この三人をたまに一緒に見る事もあった。そして、こっちに来てからは常に一緒に行動しているようだ。
その要因となっている一つは…彼女達のユニーク'音楽隊'だと予想している。スキル詳細も、並木に聞いて確認はした。
俺は、彼女達のスキルともう一人、皆傘 園の'花の楽園'を模擬戦の時に使いたいと考えている。
召喚したのが三十一人。
東郷先生抜いて三十人
男子が今、七人出して…女子が今回で八人出て…十五人、残り十五人。名前ぇ…。
スキルもいい感じの考えなきゃ。
あ、江口君のスキルどうしよう。イメージはあるけど、スキル名が…。
おぉふ…クラス転移って大変だ。
模擬戦で全員は活躍させられませんが、物語が進めば全員出す予定ではあります。
ブクマありがとうございます。増えるの、やっぱりうれしいです。