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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
115/236

過去の三人

複数の足音だけが響く通路。

誰一人として口を開こうとしない。

理由は分かっている。斯く言う俺も喋る気が全くしない。


「ひっ!」


「大丈夫?妃沙」


「さ、桜ちゃん…」


時たまに聞こえる声は、橋倉が怯える声と、それをなだめる並木の声ぐらいだ。古河は険しい顔で歩き、げんじぃとまこっちゃんは警戒心爆上がり。


それも仕方のないことだ。だってよ……。


周りを見渡した俺の視界に入るのは、入った瞬間から未だに奥まで伸びているボロボロで機能しないであろう鉄格子の数々。

その鉄格子を挟んだ奥には、使い古され、変色していたりもする拘束具と……既に腐敗を終えて白骨化済みの何か。


当然保存状態の良いものなんてのは少なく。欠けたり、砕けていたり、折れていたり。様々な状態で檻の中で散らばっている。中には、覆いかぶさる様に朽ちていったであろう様子が伺えるものまで、多くの骨が。


そう、ここは、牢獄だ。


見るだけで想像できる扱いの酷さに、こんな世界だから想像はしていたが、気分のいいもんじゃねぇわ。


「また扉か…」


単なる独り言。しかし、げんじぃ達も同じ気持ちらしく後ろから溜め息が聞こえる。


最初の扉を抜けて、これで三つ目の扉。抜けても抜けても立ち並ぶ牢獄で、奥に行けば行くほど牢屋内の環境が酷くなってきているわけで……。

今までの傾向を踏まえれば、この奥は更に悲惨な状態で放置されているだろう。


ま、仮にそうであっても戻る選択肢は無い。

まだ口数が多かった時に交換した情報では、この先に何かがあることは確定している。


ちょっと戻りたいって思ってしまっている自分に言い聞かせ、俺は目の前にある扉を開けた。


「ハハッ…」


眼の前に入ってきた光景に、思わず乾いた笑いが漏れる。


想像していた通りだからじゃない……その斜め上を外角アウトゾーンから抉るようなスライダーをぶち込まれたからだ。


「おいおい、どうなってんだこりゃ」


「あまりにも不釣り合いすぎんだろ」


扉の先は今までよりも広い部屋であり、ぐぉ~んぐぉ~んと音を立てて可動している機械の存在感ったらありゃしない。

ついでに、その機械は天井まで伸びていて、ガラス張りの部分には満たされた液体の中で真っ赤な玉が怪しい輝きを放っている。


「並木、あれは?」


「んーと、ちょっとまってね。

'生命魔結晶'

魔法で作った生きている魔力石?複数の魔法媒介になっていて、今でも魔法の要になっているみたいだね」


魔力石か。あのでっかい玉がねぇ。

ギルドとかでも小さいのが売っていたけど、あんな綺麗な球体じゃなかった。未加工なら、球体ですらない。


用途と言えば、杖とかに埋め込んで、魔法使用時の魔力の循環の補助。後は、外部から魔力を効率的に補充する性質があったりとかで、街灯の一部に使われていたりしてたっけか。

ただ、武器に加工するならそれなりに技術が必要で、かなり高価な部類だったはず。


あのデカさともなれば、相当な金額になりそうだな。


「永禮、この部屋ってよ」


「あぁ、研究室っぽいよな」


まこっちゃんは、俺に問いかけながら部屋の中を見渡している。


俺も同じことを思った。

確かに一番最初に目に入ってきたのは中央のデカい機械だが、床を這う無数の配線。壁際に並ぶ古びた本棚に乱雑に入っている本の数々。同じ様に適当に置かれている机の上にも、投げ捨てられる様に積まれている紙束達。


他にも多種多彩なフラスコの中にあるポーション。空っぽのガラス張りカプセル……たしか、培養槽だったか。それが並んでいたりもする。


「世界観が合わないねぇ~」


「そうだな。下手すりゃ俺達の元の世界より科学的だわな。

つっても他に道は無かったし、ここらで収集できそうな情報を見つけ始めますか!各自適当に見回って、それっぽいのあったら呼ぶって事で」


各自返事をして散っていくのを横目に、俺も俺で近くの机に置いてあった本を手に取る。


それは日記だった。

書き手は、'袋津(ふくろづ) (ひろし)'って人か。日本語で書かれてるな……。


「永禮!これってよ」


「銃……か?この形状、ゲームで見た気がするけどなんだっけかな」


本を読もうとしたら、げんじぃが随分と古びた銃を見つけたようで、目をキラキラさせながら俺の元へ持ってきた。


「並木ぃ!これの名称、何か分かるか!」


「えー?あーんと、フェドロフM1916だってー」


「あざ」


ポーション棚を見ていた並木に視てもらって思い出した。

確かに、こんな形状だったわ。


「名前聞いても分かんねぇな」


「第一次世界大戦時の遺物だ。保存状態は……あんまり良くないし、弾薬の在庫があっても撃てない可能性が高い。エアガンとかガスガンなら物によっちゃオーバーホールできるけど、俺はこりゃ無理だぞ」


「まじかー。新しい遠距離武器を入手したと思ったんだけどなぁ」


トボトボと戻っていくげんじぃに、どんまい。と心の中で呟きながら改めて本に目を落とす。


--------

信じがたい事に、私は別の世界に来てしまったらしい。

こうして筆を執った今でも、にわかには信じがたく。夢ではないか?とすら思っている。


いや、そうであって欲しいと願っている。

しかしこれは現実なのだろう。

私と共に、この世界に来た二人も困惑している様子が伺えた。それも当然だ。


異界より召喚をする魔法で我々を召喚した。などという説明を真に受ける訳がない。理解できる訳がない。それで納得をしろという方がおかしいな話だろう。

加えて、私達に隷属魔法を使い、彼等は自分たちに命令権があると主張をしてきた。


笑い話だ。それで済めば良かったと今では思う。


彼等の話が嘘だと考えていた。最初に敵意を向けた女性が、言葉一つで平伏す様を見るまでは。


女性は私と同じ様に召喚された一人。後に名を聞くと、彼女は'エリヴィラ・ザヴェリューハ'と名乗った。

その女性が、握っていた銃を彼等の内の一人へ向けた時、向けられた者が「ひれ伏せ」と呟いたのだ。すると、エリヴィラは言葉のままに両膝を付き、身を丸める様に頭を垂れた。


エリヴィラの顔は驚きの表情から、怒りを顕にしたが身体はそのまま。その姿を見て、彼等は私達を蔑む様な視線を向けていた。


私達はただの一言で反論することを封じられ、彼等からの説明をただただ受ける他なく……。


この日、私達

袋津(ふくろづ) (ひろし)

エリヴィラ・ザヴェリューハ

そしてもう一人、'チェスター・アルバーン'の三名は彼等の奴隷となった。


これは夢ではなく、現実なのだ。

--------


一ページ目から重いわ!!

しかし……もしかしたら自分達も、この人達と同じ可能性があったんだ。


最悪な状況が脳裏を過ったが、ちょっと気持ちを落ち着かせてから俺はページを読み進めていく。


……。

読み進めれば読み進める程、内容が重くなっていく。

ここはダンジョンなどではなく、本当に牢獄。捕虜や島流しに使用されていた島で、この島自体がそうなんだと書かれていた。


そしてやはり最初のアクションのせいか、エリヴィラという女性は、かなり目を付けられていたらしい。

性処理に連れ出されそうになった事もあったようだが、一般兵の独断で命令権の無い者が相手だった為、ブツを噛みちぎってやった!と笑いながら戻ってきた。なんて事が、少し震えた字で書かいてある。


まぁ、うん。俺も読んでいて、少し息子が縮んだ。


気を取り直して読み進めると、チェスターとは気が合うようで、色々と状況打破に向けて行動していたみたいだな。

んでどうやら、さっきげんじぃが見つけた銃はエリヴィラの物のようだ。


エリヴィラは、第一次世界大戦に出兵していた女性兵らしく、戦闘中にいきなり光に包まれたと言う。

チェスターは科学者であり、俺達よりも少し先の西暦を口にしたみたいだ。実験中に、気がつけばこの世界に。

そして袋津は、俺達よりも少し前の時代。第二次大戦終戦前の人物。


生きた年代も国もバラバラでありながら、同じ境遇になったことで親睦は深まっていき、共に現状打破に向けて色々としていたらしい。


だが、自分達を喚んだ理由が「知識の採取」であった為、その行動一つ一つに気を使っていたみたいで、思ったように進まず時間もかなり掛かっていた。

そう、彼等は俺達の様に魔王が存在しない時代に喚ばれていた。ただ異界の知識を欲した者達によって。


――この孤島は、牢獄であると同時に実験場――


袋津はそう書いていた。


エリヴィラは'剣聖'と'不老'のスキルを持っていて、戦場へ駆り出される事が多く。チェスターも'賢者'と'覚醒者'いうスキルで戦場へ。

袋津も'魔導帝'を持っていたが、当時の召喚者達も知らないスキルだったようで、袋津は上手いこと誤魔化していたっぽい。


それでもココは一種の地獄だと書かれている。


数多くの捕虜を使用した実験を強要され、実験体となった様々な種族の悲鳴の幻聴が離れない日々が続き、精神が蝕まれていく。と言葉数が少なくなりながらも記されている。


「途中も気にはなるが……」


一人呟き、このままだと読み耽ってしまいそうだと俺はページを流し読みしていく。


んで見つけた。

袋津達の転機であり、俺の目が止まったページに書かれていた名前。


実に召喚されてから七年目の事。


--------

やっと協力者が私達の元へ来れる様になったらしい。

境遇改善など尽力してくれていた彼を、本日エリヴィラが連れてくる。まずは何を言うべきだろうか……。


礼は言うべきだろう。彼のおかげで、私達は必要以上の強制を強いられていない。後は、研究についての意見を貰おう。きっと彼ならば、私やチェスターとは違う視点での意見を出してくれるはずだ。


彼が言うには、ここはもうすぐ牢獄では無くなるらしい。その協力者として私達を上げていると言う。

チェスターもエリヴィラも、もちろん私も彼には感謝をしている。だが彼は私達に何をさせる気なのだろうか……。協力者であり、恩を受けた身としては応えたいが、やはり警戒をしてしまう。


'常峰 光貴(みつたか)'


どの様な人物か、しっかりと見極めねば

--------


これか!白玉が常峰の名前に引っかかった理由。


確認のために念話を飛ばすが、スリーピングキングからの返事はない。寝てやがるのか?

いや、まぁいい。後で確認は取れる。


ただの同姓ならそれまでだが、俺の直感がそうじゃないと告げている。この光貴さんって人は常峰の親族なはずだ。つまりは、俺達と同じ世界の人間である事が絶対。

偶然か必然か……二回は俺達の世界から人間が来ている!


俺は拾う文字を少し多くして流し読みを進めていく。


きっとあるはずだ。げんじぃと並木はチェスターから言われているんだ。

帰還方法の可能性について……。


……だが、俺が見ていた本にそれらしい事は書かれていなかった。むしろ、それ以降'常峰 光貴'の名前すら出てきていない。

流石におかしいと思って少し戻り読み返してみれば、どうやら光貴さんの事を記す事を禁止されている様な節がある。


ギリギリ、'あの御仁'って表現を時たま使い書いているっぽいが、やっぱり深くは書かれていない。


日記も中途半端な所で終わっている。


「何かがあったか?」


元々この三人は知識欲しさに喚ばれていた。この日記だって、日本語で書かれているものの当時読んだヤツが居たはずだ。

何かマズイ出来事があったのか?……いや、言い方は悪いがこの人達はココに監禁されていた。だったら、何かを残すならココのはず。光貴さんが外に出したとしても、それまでの事があるはず。


思考を張り巡らせて、部屋を注意深く観察していると、部屋の中央で橋倉がぼーっとデカい機械を見上げていた。というより、アレは中の生命魔結晶を見ている?


「どうかしたか?橋倉」


「えっ?、あ、えっと、ぅん……その、これ…」


俺の声でハッとした橋倉は、俺に一度向けた視線を生命魔結晶へ戻して何かを目で追いながら話した。


「ぅ…ん。やっぱり、これ、ちょっとだけ、えっと…おかしい?」


「おかしい?」


こくり。と頷いた橋倉は、そのおかしい部分を説明してくれた。


この生命魔結晶は今でも魔法を幾つか発動し続けているらしい。橋倉の見解では、俺達が戦っていたあの目ん玉野郎の元凶もコレが発動している魔法なんだと。

それを認識した橋倉に使えるのか?と聞いてみたが、目ん玉野郎の媒体が必要で無理とかなんとか。


なるほど。と納得して話に割って入った事を謝り続きを聞けば、複数の魔法の中で、起動していない魔法に魔力が流れている事が気になっていると話してくれた。


「発動してないのか」


「きょ、供給先の、魔法陣が……ズレてる?の、かな?」


魔法陣がズレているという感覚が分からない。


「そのズレを橋倉は治せるのか?」


「ぅ、ぅーん……ちょ、ちょっと、やってみる、ね?」


トコトコと走り出した橋倉を目で追っていると、橋倉は机の位置や椅子などを移動させ始める。


……あ、ズレてるって物理的にずれてんの?


やっとその事を理解した俺は、橋倉に手伝う旨を伝えて机やらを移動させていく。途中からまこっちゃんやげんじぃの力を借りて本棚なども橋倉の指示に従い移動させ続け数十分。ズレていた魔法陣が形になったらしい。


「ま、まってね…」


俺達が部屋を行ったり来たりしながら作業している事に、並木や古河も気になったようで、移動を終えた今では全員が橋倉の次の行動に注目していた。


その事に気付いた橋倉は身を小さくしながらも中央の機械に触れて目を閉じ、何か詠唱を呟き始める。そして数秒後、生命魔結晶に変化が起きた。


真っ赤だった生命魔結晶は赤から青に色を変え、同時にガコン!と大きな音が響く。


「た、たぶ、ん……これ、で」


音にビクッと身を震わせた橋倉がおどおどしながら部屋を見渡し始める。俺達も変化を探す為に探索をすると、古河が何か見つけたようだ。


「見てみて~」


俺達を呼び集めた古河が壁の一箇所に触れると、その指先が壁の中に沈んでいく。


「隠し通路ってやつか?」


「ん~、どうだろ」


俺の言葉に返しながら古河は壁に頭を突っ込んだ。

何のためらいも無くその行動をした事に驚いていると、ぬぽっと顔を壁から引っこ抜いた古河は、壁の先に螺旋階段があると説明をする。


「今の音は、階段の音ってことか?」


「げ、幻惑の魔法も、発動したみたい…」


「なるほど」


さっきまでは普通に壁だったけど、橋倉が何かした事で幻惑と階段が出てきたと。


「んじゃどうするよ。下に行ってから上探索すっか?それとも逆か」


「分かれて探索するのもありじゃない?」


分かれた場合の危険性なども考えたが、結構時間が経ってしまっている事もあって、俺達は分かれて探索する事に。


「んじゃ上には、げんじぃと並木、橋倉。下には、俺とまこっちゃんと古河でおk?」


「「「「おk」」」」「お、ぉけ…」


「さっき話したように三十分したら戻ってくる。戻ってこなかったら、げんじぃ頼むわ」


話し合いの結果、予定としては三十分で一度戻る。

戻ってこない場合は、げんじぃが突入して、げんじぃまで戻ってこなかったら緊急事態ということで橋倉と並木はココから脱出。という事を決めて、俺達は壁をすり抜け地下へと降りていった。


この先に何があるのか、胸が高ぶるねぇ。

サイドストーリーをぼやっと考えたりしますが、先に進まねば。

語彙力が欲しい。などと悩む日々です。



ブクマありがとうございます。

今後もよろしくおねがいします!

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