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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
113/236

長野と並木の場合

並木の質問で驚いたチェスター・アルバーンって男は、懐かしい…と何度か呟いた後に'魔製造'について説明を始めた。


「魔製造とは、研究成果ではあるけども言ってしまえば僕のプロトタイプ。

研究過程の副産物であり、魔法で作られた人工生物の成れの果て。僕的には失敗作だと言っても過言ではないね。

しかし、どうして魔製造の事を君達が知っているんだい?アレは創造主達が全て処理したはず。君達は別に創造主の友人という訳でもなさそうだし……不思議だ。これは僕からの質問になってしまうけど、教えてはくれないかな?魔製造をどこで知ったのかを」


今度はチェスターからの質問に並木が答え始める。その間に、俺はさっきのチェスターの言葉の意味を考えていた。


魔製造については前に並木から聞いていた。

魔王ショトルの残骸を視た時に知った言葉だとかなんだとか。モノホンを視た訳ではないし、俺も会ったことはないが……まぁ、魔王ショトルがその種族だってのは間違いないだろう。


んでもってキングの話では、戦闘した相手の魔力を覚えて吸収。変換。そのまま自分の魔力として利用できて、魔力を使っての超高速型自己再生プラス分裂性能持ち。

ゲームのラスボスか……はたまた、特別イベントの先に居るラスボスより強いイベントボス系モンスターらしいステータスだ。


討伐するにしても、戦い方次第で倒せない。それをキングは察し、新道達は体感している。……だが、今、チェスターは言った。

'アレは創造主達が全て処理したはず。'だと。


これはイベントが進んでいる予感がするぜ。負けイベントからの攻略法を知る者からのアドバイス。テンプレじゃねぇかよ。


「君達は魔王を討伐する為に喚ばれたのか……そして、その魔王が魔製造だと」


「その通りよ」


ん?今のチェスターの言葉、なんか違和感なかったか?

いや、並木は気にしている様子は無いし……俺の気のせいか?


俺が、テキストを読み飛ばしてしまってドギマギしながらログ表示を探し始める感覚に襲われているのを他所に、並木とチェスターの話は続けられ、まぁ当然の様にテキストログなど存在しないので、自然と俺の耳も二人の会話を拾い直しはじめた。


「お嬢さんの話を聞く限りでは、おそらく僕の知る魔製造で間違いはない。だけど、僕の知るままでもなさそうだ」


「どういう事か聞いても?」


「もちろんさ!質問には答えると約束したからね。

結論から言うと、ベースとなっているのは創造主達が創り上げた魔製造構築生成理論そのままだろう。形状を定めず、対象の魔力に合わせる。その辺りは僕の知る魔製造そのままだ」


「合わせる?吸収じゃないの?」


「記憶と吸収という形で処理されているだけで、その本質は同調だろうね。ただ複数の魔力と同調している所を鑑みると……その魔製造――君達で言うショトルは固有の魔力を持っているのだろう。同調するだけで利用はできるが、利用するプロセスの中に自分の魔力へと書き換える処理をしていると僕は予想する。


分かるかな?Aがショトル固有の魔力だとして、複数の窓口から回収したその他xの魔力を必ずAへと変換するプロセスが存在しているだろうと言う話だ。

創造主達が製造した時には、そのプロセスは組み込んでいない。後付されたものだろうね。


加えて僕の予想の話をするのなら、そのショトルを倒すのは困難だが不可能ではない。まず魔力の変換だけど、意外とその処理を行うのは魔法が存在するこの世界でも中々に難しいことでね。同時に処理をする数が多くなれば尚更難しい。同調魔法なんてのも存在しているけど、あれは個人個人で合わせるという処理を行えているからできるんだ。


その反面ショトルは個体のみで行っている。おそらく母体となるショトルの破壊だけで分体となる全てのショトルは変換ができなくなり生存困難になって勝手に消滅する。ん?なぜかって?

簡単さ。魔製造は、外部からの魔力供給方法が同調しか存在しないんだ。そして魔製造の動力源は魔力のみ。血肉の一切を必要としない代わりに、魔力が枯れれば消失をする」


「その話が本当だったとして、分体が残った理由は?」


「マープルと名付けた個体のことかな?

幾つか予想されるので最もそれらしいのは、突然変異が一番だろう。人工物であるが生物で進化をし始めている以上、突然変異の可能性は拭いきれない。

不変である進化があるのならば、不変でない進化も存在して然り。発展先が違っただけの話だろう。


その突然変異の引き金となったのは……そうだねぇ、変換しきれなかった魔力を、その個体に集めてショトルが放棄したから起こった。辺りかもしれないね。

どうであれ、数日もすれば生命維持が困難になって消滅したであろうけど、君達が名付けという形で縛ってどこからか魔力供給をされているんだろう」


本当に楽しそうに話すチェスターが口にした内容は、俺にとっても興味深いものだった。

キングが言っていた魔力枯渇を利用した討伐ってのは、本当に有効だったんだな。そして、最悪の場合隔離さえしてしまえば、自然消滅が狙える可能性がある。これは嬉しい情報だ。


んでマープルが生存している理由。十中八九ダンジョンの効果なんじゃねーかって俺は見てる。持ち込みの許可、名付けからの滞在許可。この辺りが要因かねぇ。

キングが言うに、ダンジョンの機能を使った召喚以外にも外部のモノをダンジョンの魔物にする方法があるらしいしな。


「魔製造について最後に。本体と分体を見分ける方法は?」


「分体が同じ性質を持ち共有しているという事は全てが本体と言ってもいいだろうけど、お嬢さんが聞きたいのは母体の事だろう?

んー……実に答えに困る質問だ。僕はショトルを見たことも解析したこともない。ベースを知っていても、もはや別物。生きる為の行動も覚えている様だし…簡単には見つからないだろうね」


「ということは、やっぱり無理?」


「ハハハハ!無理ではない!簡単に見つからないだけで、見つける方法ぐらいは幾らでも用意できる!ただ、その為には大掛かりな準備や、事前に本体への接触が必要なモノも多々あるだろう。もしかしたら、お嬢さんの鑑定なら母体の選別はできるんじゃないかな?


しかし、それでは意味がないのだろう?僕が予想するに、君ではショトルの相手として不足な面が多い。戦う事があるとすれば複数人での戦闘になるはず。でもそれでは母体のショトルに紛れられ、逃げられ、堂々巡りになるだろうね。

そこで僕が少しだけ後輩という存在に手を貸してあげるのが良いだろう。と結論が出た」


これはアレか?

何やかんや御託を並べているけど要は――


「手を貸してくれんのか?」


「Exactly!!

僕の中にある創造主とココの主の知識を使って、僕が君達に一つ知恵の結晶を用意してあげよう!

ただ、少々準備が居るからね。この先での用事が終わり帰る時にでも戻ってくるといいよ。


さぁ!僕としてはもう少しだけ時間を稼ぎたい。質問タイム続行と行こうか」


なんか知らんけど、チェスターは俺等に協力をしてくれるらしい。んで次の質問の空気だが……俺はココで一つ追撃をしてみよう。


「随分と気前が良いな。何か裏でもあるんじゃねーの?」


流石に怪しさがある。

ここでハイハイと貰う選択肢は、なんか違う。時間があるならこの質問に答えてからでも遅くはないだろう?


「疑い深いなぁ。ここで僕に嘘を付くメリットは無いと分からないのかい?

僕は君達に協力をしたい。お嬢さんの話を聞いて素直にそう思っただけさ」


「そんなお涙頂戴な語り部したのか?」


「してないよ?普通にショトルの事を話しただけなんだけど…」


「まぁ、ちょっとした贖罪さ。創造主達もきっと心残りだったはずだから、少しでも気が楽になれば良いと考えての事だよ。

残された物は、こういう方法しか取れないのだろう?そう心配しなくても良いさ、どうせ君達はこの先で色々と知る。そこに僕がこういう思考をした理由も書かれている。僕が話してもいいけど、それより知りたいことを聞いた方が良いんじゃないかな?

この先に知りたいことがあるとは限らないだろう?」


一理ある。ってか、下手に話しをするだけ無駄な感じがしてきた。

それに、確かにまだ聞きたいことがある。


ここに来た本題をそろそろ聞くとしよう。


「'スキルフォルダ'について何か知っているか?」


「君達は力づくで行動する様なタイプでは無い事は、これまでの行動を見てから知っている。だからこそ君達が何故ココに来たのか、白玉の家系が何故通したのか気にはなっていたけれど……そうかい、君達はあの手記を見てココを訪れたんだね?」


「そうだが」


何故スキルフォルダの事を聞いたら、手記の話が出てくるんだ?

アレにはスキルフォルダについて一言も書かれていなかったよな?ただ、ココへ迎えとしか書かれていなかったはず。


マジで謎。

その事を聞こうとしたら、先にチェスターが言葉を続けた。


「口頭で伝えるには、少し情報が多くて処理が難しいだろう。だから、その質問への答えは、この先にある。とだけ答えておこうかな。

そう神妙にしなくても良いよ。どこまで君達が必要な情報なのか、僕が分からないからね。必要な情報だけを知るには、自分で見たほうが早いと考えた。だから次の質問に移ろう……と言っても、そろそろ時間のようだから次が最後だ」


いやらしい所で切ってくるなぁコノヤロ。イベント進行素材の足り無さがココで出てくるか……まぁ、先に次のイベントがあるってのが分かっただけマシっちゃマシか。

なら最後の質問だな。


一応俺の中では決まっているが、多分チェスターは答えない。いや答えられない様な質問だ。だから並木が聞きたいとこがあるなら――。


そう思い、さっきから黙っている並木の方をチラッと見ると目が合って、アイコンタクトでどうぞと譲られた。

そういうことなら遠慮なく聞いておこうか。


「なら最後の質問だ。

帰還方法について知っているか?」


キングが提示した現段階の目標。

正直、戻る気のない俺等にとっては最重要ではないんだが、残念ながらこのクエストを終わらせないと三人で行動する許可がキングから降りそうにないのがなぁ。


今の所、キングとも敵対する気はないし、そもそもある程度目処が付いたらキングもソコまで干渉してくる気はないだろう。何より、キングはキングで忙しそうだしな!


だからこそ俺等の為に、知りたいのだが。


「残念ながら僕は帰還方法を知らない。僕達も帰還方法まではたどり着けなかった」


やっぱりか。


予想通りの答えに少し残念に思っていると、チェスターは「ただ…」と言葉を続ける。


「創造主は可能性は見出していたよ」


「それは本当か!」「本当に!?」


思わぬ言葉に俺も並木も驚きの声を漏らす。

その様子を見て、チェスターは今までの様な胡散臭い笑みではなく、柔らかい笑みを浮かべてゆっくり頷いた。


「あぁ。創造主達もそれを願っていたからね。

ただ運が悪かった……そう、創造主は僕に教えた。だが得れるモノもあったようで、こうして僕は今君達と話している。

だから君達には少しばかりの期待という重荷を背負わそうと考える。嘗て、創造主達が願い、叶わなかった事を成し遂げられるように……と」


その言葉には、不思議な重みがあった。

笑い飛ばしたり、無責任に任せろと軽口を返せずに俺も並木も黙ってしまう程に。


その事を察したかの様に、チェスターは軽く手を鳴らして、さっきまでと同じ様な声で俺達に二つの問いをした。


「これも僕の予想だけど、君達は六人が全員ではないね?そこで聞きたい……君達の中に'夜継'という名を持つ者がいるかい?」


黙りこくってた俺達は、チェスターの言葉を聞いて同じことが頭を過っただろう。


どうしてココでキングの名前が出てくるんだ。


白玉の時もそうだったが、流石におかしいよな?

永禮が聞いた限りではキングにも心当たりがなさそうだけども、本当に心当たりが無いのか、それともキングも知らない何かがあるのか。

最も有り得そうなのは、たまたま名前が同じだけだったオチだ。


まぁ、これを考えても仕方ねぇ。ここは頷いておくか。


「居る」


「質問の傾向と会話から、複数人の存在がある可能性を見出して居たけど、そうか……居るんだね。では、もう一つ。

これは君達の行動を見ても答えが出なかったから是非教えて欲しいのだけど」


チェスターは自分の背後にある進む道へ俺達を誘導する様に指し示し、問いかけを続ける。


「君達が落ちた時、一人のお坊ちゃんが'プランB'と言うのを口にしていたが、そのプランの内容を教えて貰っても良いかな?

幾ら考えても、分断を予想した場合の動きというのを予定していたようにはならないんだ」


俺は、先へ歩きながらチェスターの質問に笑いが出そうになる。


「そういえば、そんな事を岸君が言っていたねー」


どうやら並木も分からないらしいな。

まぁ、仕方ないさ。プランBだからな。


「プランB……」


背後になったチェスターへ顔を向けて俺は答える。


「んなもんねぇーよ」


「「は?」」


俺は二人の間抜けな顔に笑いを堪えながら先を歩いた。

少し遅れて並木も付いてきて、離れていく背後からはチェスターの楽しそうな笑い声が聞こえる。


笑い声に釣られて俺もニヤついてしまっていると、レオを還す事を忘れていた事を思い出して戻っていい事をレオに伝えた。その時、レオが最後に聞いた言葉を伝えてくる。


―チェスター・アルバーン……やはり僕は創造主の代わりの人間にはなれそうにない。何千年先に夢を託す事も、無意味な言葉で笑みをあげる事もできない欠陥品のままだ―


人間になろうとしているアンドロイドの言葉は、使い古されている様な言葉だった。

ただ、嘘の言葉ではないから使い古される言葉なんだろうと俺は思う。そうとしか言葉にできないんだろう。


まぁ、俺には分から無いままの言葉だ。だって、人間よりも人間らしいなんて言葉を投げかけた所で、本人がそうだと思わなきゃ結局は同じなままなんだろうしな。

アンドロイド系を攻略する時は、その辺の選択肢が難しい。納得させんのが、もう大変で……俺の知ってる限り、結局恋だの愛だのでしか解決しないからな!野郎型アンドロイドなんて、攻略した事がないので知りませんよ!ハハハハハ!!


「お、やっぱ俺等が最後になんのな」


「時間稼ぎだって言っていたからね」


真っ直ぐな一本道を進み終えた先では、既に永禮もまこっちゃんも揃って俺達を待っていたようだ。向こうも俺達に気付いて軽く手を振っている。

ってか、なんかまこっちゃんがかなり疲れてんな。


「よぉ、これで全員揃ったな」


「永禮も疲れてんな」


「俺よりもげんじぃがヤバかったみたいだけどな」


手を振り返しながら永禮に近付くと、苦笑いを浮かべる永禮の視線はまこっちゃんへ。俺もまこっちゃんの様子を見ると、やっぱ疲れ切ってるな。珍しい。

若干窶れてるようにも見えるし、何があった。


「古河、まこっちゃんどしたの?」


「佐藤君、すごく頑張ってくれてね~……ちょっと死にかけちゃった」


「マジかよ!」


「マジだよ…」


ふらふらっと立ち上がったまこっちゃんは、俺に肩組をしてニヒルな笑みを浮かべる。そして一言。


「後で、俺のカッチョイイ武勇伝語ってやるから期待してろぃ」


まぁ、なんかあったようだけど元気みたいだな。


「あ、おい!コラ!今回、俺、マジで頑張ったんだって!」


「あいあい。後で死ぬほど聞いてやっから先に進もうぜ」


隣でギャーギャーと叫ぶまこっちゃん。

そう叫ばなくても分かってるって。上着は新しいのだが、ズボンとかそのままで、かなり裂けてる部分もある。

何より、もーきちが濃い血の匂いがすると教えてくれている。


「全く仕方ねぇなぁ。今は、げんじぃの言う通り、先に進むか」


「そうだな。全員揃ったし、次は見るからに重要そうな部屋みたいだしなぁ」


「情報をふんだんに持って帰ってやろうぜ」


そう言って俺達は、石の壁に不釣合いな金属製の巨大な扉を見上げ、開けていく。

個人の書き分けって難しい……。

多分、次は一方その頃を挟むと思います。



ブクマありがとうございます!

今後もよろしくお願いします!

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