並木と長野の場合
今回も、ちょっと短めかもしれません。
「長野君、そっちはどう?」
「んあー……もうちょいで三枚目が終わる」
「私の方ももう少しかな」
長野君へ答えながら、私は手元にあるパネルのボタンを押していく。そして、点灯を確認して計算で導き出した答えに沿って次のボタンを押す。
「マジ?それ七枚目だろ?早くね?」
「一回全部消せれば、連立方程式の応用で解けなくはないからねぇ」
「俺、数学、苦手」
「あれ?長野君って理科の成績は良くなかった?」
「理系だからって数学できると思うなよ」
「アハハ、ごめんごめん」
なんて話していると、私が終わるタイミンで丁度長野君も今やっていたライツアウトを終えたようだ。
「しっかし点灯パズルとか、脱出ゲームぐらいでしかやったこと無かったわ」
「次はなんだろうね」
「ナンプレ、スライドパズル、点灯パズルと来て、クロスワードとかか?」
「それ出されたら、ちょっと厳しいね」
最後のボタンを長野君が押すと、ガコンと響く音と共に巨石が沈んで道が現れる。
流石に三回目ともなれば驚く事もなく。長野君と一緒に現れた道を進み奥へ奥へと。次のフロアへと着く間、私は'鑑眼'で罠が無いかを確認をしているけど、まぁ多分無い事を薄々感じていた。
実際、岸君や朱麗、妃沙とはぐれてからココまで一つも罠を見ていない。付け加えてしまえば戦闘もない。
あったのは、さっき長野君が言ったように数独が五問、三十のスライドパズルが三つ、そしてさっきやっていたライツアウトが十問だけ。
まぁ、普通に時間が掛かるけど進めない訳も無く。
「そういやさ、並木って意外と喋るんだな」
「また唐突だね」
「寡黙ってか、本ばっか読んでるイメージだったから、一緒に行動するようになって意外と話す奴なんだなぁと知った」
「本ばっかりのイメージは間違ってないと思うよ?実際、元の世界の方では本の虫状態だったし」
「新道、市羽、ハカセと並んで並木も成績上位だったもんな」
「ハカセ…?あぁ、江口君のあだ名だっけ?久々に聞いた。
んー…確かに成績は上の方だったけど、学年じゃギリギリ十位内ぐらいだったけどね。一と二はいつもの二人が独占してたし、常にトップ五位内にいる江口君と比べられちゃうとなぁ」
なんて雑談で時間を潰すのが恒例化しそうな勢い。
その間にもちゃんと壁や床を集中して確認するけど、やっぱり罠はなさそう。あれば罠としてではなく、矢の情報やら何やら見えてくるはずなんだけどなぁ。
仮に私が見つけきれない落とし穴なんかの罠があったとしても、一歩先を歩く小さな牛さんが見逃したりしない。
「わりぃな、もーきち」
長野君の言葉に、んもっ。と短く返すもーきち君は、チラチラと私の様子を伺いながらどんどん先を歩いていく。
実はもーきち君だけで事足りる罠探索に、手持ち無沙汰な私はこっそりもーきち君を視たりしている。長野君曰くシャイなもーきち君は、きっと私の視線に気づいて居るんでしょうね。
そんな事をしていると、もーきち君の足が止まり、同時に私の視界にも変化が起き始めた。
「長野君、ちょっと待って」
「ん?……もーきちも何か感じてるっぽいな」
やっぱりもーきち君が足を止めた理由もコレが原因みたい。
視界では色々な情報が横に縦にと流れていく。何かの罠かな?とも思ったけど、流れるのは武器関連の情報の他に、魔法を視た時に見える綻びが壁の中を移動している。
下手に動くのは得策ではないと考えて様子を見ていると、徐々に足元から揺れを感じ、その揺れも大きくなっていく。
「おいおい並木、これ大丈夫か?」
「今の所は……かな」
長野君の質問に答えながらも集中していると、スキルを使わなくても分かる変化が現れ始める。
ゆっくりと離れていく壁と、高くなっていく天井。数分もすれば、私達が立っていた場所が中央になるように大きなフロアへと変貌していく。
そして、私達の対面に地面を突き破って大きなカプセルが現れた。
「随分とメカチックなもんが出てきたな」
「どうやら、その中身もSF寄りみたいだよ」
そのカプセルの壁が薄いのか、私の目にはしっかりと中の情報までも見えていた。
まさか、こんなファンタジーな世界で目にするとは思わなかった単語だけど、何度見直しても結果は変わらない。
「どういう意味だ?」
「それは、僕が魔法と科学で作られ学習型AIが積み込まれたアンドロイドだからではないかな?お嬢さん」
私が答えるよりも早く長野君の問いに答えたのは、冷気が漏れ出るカプセルの中から現れた白衣の男。
スキルの情報も無く、風貌や声が男というだけで正確には性別までも不明。分かる事と言えば、本人が言うように魔法科学アンドロイドという事と、創造主と同じ名を持つ彼――'チェスター・アルバーン'にも綻びが存在しているという事。
「概ね正解よ。チェスターさん」
「おや?創造主、もとい僕の名前まで知っているという事は……鑑定持ちかな?はて、鑑定阻害は組み込んでいるはずなのだが、僕の知らない間に鑑定のレベル上限が変わったりしたのだろうか。
それとも、元々創造主の知り合いだったりするのかい?その場合だったら申し訳ない……創造主の知識は受け継いで居るのだけど、重要人物以外の人間関係の詳細までは教えてもらえて居ないんだ。だから改めて親睦でも――」
「お話中わりぃが、要は敵なんだろ?獅子座!!」
「そうね。どうであれ敵には変わりないかな」
チェスターの会話に割り込んだ長野君は、背負っていた矢筒を私に投げ渡しながらスキルでレオ君を喚んだ。当然私も受け取った矢筒を肩に掛けて、元々自分が腰に下げていた矢筒に付いている留め具を外して弓を握り構える。
狙いはチェスターの身体に見える綻び。そこに細く長い一本の筒を意識して魔力で道を創り上げる。そして矢筈を弓の弦に番え、鏃を道の上に添えて準備完了。
「やる気な所すまない。別に僕は君達と戦うつもりがない。なにせ、創造主考案の謎解きをしっかりと解いてから来ているからね!次へ進む為の条件はクリアしている。道中にトラップなんて無かっただろう?それが何よりの証拠さ。僕も見ていたしね。
何より、僕は戦闘用に作られていない!戦闘用の装備も持ってきていない!多少の抵抗は出来ても、そこのお嬢さんが的確に狙っているコアを抜かれてしまっては話しもできない。
もちろん、その精霊にも僕はすぐに焼かれてしまう。些細な抵抗など無意味なほどに簡単に」
身振り手振りに饒舌に。止まらず喋り続けようとするチェスターに、私も長野君も少し呆れた表情を浮かべてしまう。喚び出されたレオ君やもーきち君ですら、少し困惑している様子。
「んじゃ何で出てきた」
ご尤もな質問ね。
止めに来た訳じゃないのであれば、何故わざわざ出てきたのか。ココに来るまでに掛かった時間を考えると、皆との合流も考えて早々に先へ進みたい。
ただなんとなく出てきたと言うのなら、私が見えている綻び、チェスター曰くコアを射抜いてしまおうかしら。
そんな思考と共に狙いを付け直していると、チェスターは指を立てて笑みを浮かべ答え始めた。
「まず一つ、創造主のお遊びに付き合った者達をしっかりと見てみたくてなんとなく」
私は更に強く引いて狙いを定める。私の隣ではレオ君も前脚を軽く上げたのが見えた。
「まってまって!言ったじゃないか!僕は君達と戦う気はない。それに、ちゃんと出てきた理由もまだある」
「なら早く欲しいな。レオの足が地につく前に」
長野君も少しイライラした様子でチェスターを急かすと、急かされた本人はやれやれ…と呆れた様子で言葉を続けた。
……呆れたいのは私達の方なんだけどね。
「最近の異世界人はお喋りも楽しめない程余裕が無いのかい?全く……まぁ、いいか。次、二つ目は、ご褒美さ」
「褒美だと?」
「そう。しっかりと謎解きをした君達へ、創造主の名を持つ僕からのご褒美。この先に進めばそれなりの情報はあるけれど、もちろん全ての情報を逐一記している訳ではない。
そこで!僕が君達の疑問質問に答えてあげよう!というご褒美だ。当然、答えられない事もあるが、君達よりはこの世界についての知識もある」
浮かべていた笑みは挑発的なモノに変わっていく。こうやって話していても思うし、その様子を見て更に思っちゃう。
本当に目の前のチェスター・アルバーンという人物が、人工物なのかを。
「そして三つ目。これがご褒美を与えようと答えを出した理由でもある」
三本目の指を立てたチェスターは、コロコロと変わる表情を優しいモノに変え続けた。
「ここの主の試練を受けていた者達は疲れて休んでいるようだし、何よりも……創造主の大切な人。'エリヴィラ・ザヴェリューハ'が随分と楽しそうに君達の仲間と話している。少々問題が起きたようだが、そこはちゃんと抑制が働いたようで大事にはならなかった。
まぁ!つまるところ、君達の仲間も少し休憩をしている最中だ!その間、僕も時間潰しに付き合ってあげようというのさ!
もちろん、僕の言葉を信用せずに無視をして先に進んでくれても構わない。どうせ、君達が待ちぼうけに勤しむだけの話しだ」
最後の方ではヘラヘラとした笑いに変わったチェスターが軽く指を鳴らすと、チェスターの後ろの壁に扉が現れ、開いた扉からは見覚えのある大きなネズミが私達の元へと掛けてくる。
念のためにとスキルを使い確認したけど、やっぱりこのネズミは岸君が使役しているビッグラットだ。
「並木、そのネズミは」
「岸君の所のネズミさん」
「どうかな?僕の提案は」
まるでこれで私達が信用する事を分かっていての言葉だ。
確かに私達はココに情報収集に来ている。その提案は、私達にとっても得するものなのは違いない。でも、どうしたら良いかなぁ……。正直、チェスターを信用しきれない自分が居るんだけど。
チラッと視線を長野君へ向けてみると、警戒は残しつつも戦意は削がれたみたいで、レオ君の足がゆっくりと降ろされている。
「お坊ちゃんの方は理解してくれたようで助かる。それで?お嬢さんの方は…どうかな?」
空気は完全に戦うモノではない。戦わなくていいのなら、それに越したことはないけど、やっぱり信用には値しない。んー、でも、私一人だけ先走っても長野君に迷惑も掛かるし……。
「お嬢さんの方も実に利口!理解してくれたようで何よりだ!」
渋々武器を降ろした私を見てチェスターはそんな言葉を私に言った。
「それはどうも」
武器を降ろしただけで、いつでも構えられる用意のまま、私はチェスターと話をすることに。一応、長野君もそのつもりみたいだし……私は私で気になっていた事もあるから聞いてみる事にしよう。
「さて、お茶を出すなんて事はできないが、何でも聞いてくれたまえ!答えられるモノは答えるとしよう!」
「長野君からでいいよ」
「んじゃ遠慮なく。何で俺達が異世界の人間だと分かった」
警戒心を残したまま始まった質問の一つ目は長野君から。これは私も気になっていた事の一つで、次に私が聞こうとも思っていた内容だったから丁度よかった。
次の私の番では、もう一つ聞きたい事が聞ける。
「あぁ、それは至って簡単さ。僕の知る限り、この世界にナンバープレースは存在しない。だから解く際に迷いなく解き始めた君達は、異世界の人間だと予想しただけだ。
もっとも、この世界にもそういう娯楽が生まれている可能性もあるし、逆に存在しない異世界から来た可能性も否定は出来ないけどね。
ただ君達は気付いていないかも知れないが、あの場に謎解きに関する説明なんてものは無かった。でも君達は、ナンバープレースに関わらず三つとも即座に問題を解きに掛かった。それはあのタイプの謎解きを事前に知っている事になる。
回答時間から見ても、君達が異世界の人間達である可能性は高かったのさ。現に当たっていただろう?」
言われてみれば、確かに説明がなかった事を思い出す。
漠然と記入用の道具と問題が置かれていただけだった。もし知らなければ……うん、パズルは察する事が出来ても、数独はただ数字が書いてあるだけだね。
私も、初めてお父さんがやっているのを見た時は、何をすれば正解なのか分からなくてお父さんに聞いたっけ。
「そういう確認の為に、あの謎解きがあったのか」
「そういう事。まぁ、力づくで突破してくる様ならトラップが作動して、その戦い方とかで予想する様にもなっているよ」
「分かった。次は、並木行くか?」
「ん?うん、そうだね。私も聞きたい事があるの」
「いいよ!時間はもう少しあるから、なんでも来てくれたまえ!」
両手を広げて、白衣を靡かせるチェスターへ向けて、私は呼吸を少しだけ整え聞いた。
チェスターをスキルで見て、本人からの説明を聞いて気になった事。それは――
「'魔製造'を知っている?」
魔製造についてだ。
魔王ショトルの残骸を視た時に得た単語。人工的に作られた生物に割り振られる種族名。チェスターを視た瞬間から過っていた単語で、なんとなくだけど関わりがあるんじゃないかと私は予想した。
そして、その予想は当たっていたようで…。
「わぉ!まさか、その言葉を今になって聞くとは思わなかったけど、もちろん知っているとも!それは、創造主やココの主の研究成果の一つだからね」
良かったわね王様。少なからず、有益な情報は持って帰れそうだよ。
何やかんやで、この作品も書き始めて一年を迎えました。
皆様のおかげです。
ブクマ・評価ありがとうございます!!
まだまだ未熟者ですが、今度とも見守ってください。