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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
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古河と佐藤の場合

明けましておめでとうございます。

多分かなり短めです。

右へ左へ歩いて抜けた先にはまた迷路で、前を歩く佐藤君もため息を漏らしてる。


「時間だけが掛かるな」


「まー、敵ばっかよりは楽かな~。アタシ、妃沙ちゃんが居ないとあんまり戦えないし」


「遠距離面は任せっぱなしだかんな。俺もあんま攻撃魔法は練習してねぇや……ってか、敵ばっかじゃなくて敵が居ねぇってのはどうなの」


「さぁ?結局、皆ともバラバラになっちゃってるし。アタシ達のルートは敵なしルートとかかなぁ~」


「だったらいいんだけどな」


佐藤君は右手を壁につけて迷路を歩きながらもキョロキョロ。アタシもアタシで、周りを見ながら佐藤君の後を着いていく。


でもあれだなぁ~。ここ、すっごい不思議な感じ。

別に佐藤君は魔法を使ってないのに、私のスキルが魔法あるよーって反応してる感じがする。けど、なんの魔法なのかまーったくわからない不思議。


これでも妃沙ちゃんに合わせられる様に魔法はソコソコ覚えたんだけどなぁ。今感じてるのは何か分からないし、どうすればいいかなぁ。何か分からないけど拡散させてみる?でも、なんか問題起きたら嫌だしなぁ~。


「おい、古河」


「はいはーい。どしたの~」


「少し下がっててくれ」


「あーい」


やる事も無くて、暇つぶしにスキルでどうにか出来ないかなぁって考えてると、佐藤君が何かをするみたいでアタシを下がらせた。


佐藤君がアタシが距離を取ったのを確認して数秒後……。


「わぁ~!やるぅ」


かるーく拳で壁を叩いたかと思うと、その叩いた壁はスゴい音を立てて崩れ落ちた。


「……。なるほどな」


崩れた壁の残骸を眺めながら何かに納得している佐藤君に近付いたアタシは、瓦礫を覗き込み佐藤君に聞く。


「何がなるほど?」


「多分だが、どうあがいても俺達はダンジョン攻略できねぇって思ってな」


「ふーん。どーして?っていうか、よく壊せたね~」


佐藤君と同じ様にアタシも近場の壁を叩いてみるけど、壊れる気配なし。至って普通の壁で、かるく小突いた程度で崩れるようにも思えない。


「前に話した俺のスキルだ」


「あぁ~、こっちに来る途中でやっと教えてくれてたねぇ~。確かにそれなら納得だぁ」


「どうせ俺が教える以外で知られる事はねぇーなって思ってな。当初の予定は頓挫してるし、行動する連中ぐらいは知ってていいだろって永禮がな」


「当初の予定は知らないけど、教えてくれてありがとねぇ。それで?どうして攻略できないの?皆と合流すれば、アタシ達ってそれなりに戦えるっぽくない?」


アタシのスキルも対魔法に関してはソコソコだし、味方の魔法を強くするサポートとしては優秀じゃん?何やかんやで桜ちゃんはスキル使って上手く戦ってるし、妃沙ちゃんはアタシとの相性抜群。

岸君やら長野君も物量にも強いし、佐藤君の'フラジール'っていうのも聞いた分ではかなりヤバめって感じだったし。


うん、やっぱりそれなりに戦えるとは思うなぁ。

それでも無理なら逃げちゃえばいいだけじゃん?


なんて考えてると、佐藤君は迷路の壁を崩して直線で進みながら答えた。


「あくまで今は憶測だ。だから本当にそうかはまだハッキリしねぇけど、おそらくここは既に攻略済みか……そもそもダンジョンじゃない」


「ん?んん?えーっと、どういうことかな?」


次々と壁を壊して進む佐藤君の口から出た言葉に、アタシの頭はハテナでいっぱいになる。


だってアタシ達は'孤島のダンジョン'を攻略しに来たはずだよね?でもダンジョンじゃないって、千影さんが違う場所に案内した?

でも、白玉さんが渡してきた鍵はここのっぽかったから……んー、白玉さんが嘘でもついてたのかな?


「俺達、実戦訓練時ゼスさんが監視役として一緒に入ったんだ」


「そういえばそうだったね~」


「そん時、ダンジョン攻略の時に地面を無理矢理掘ったりして攻略できるか聞いたんだが、本来は無理だと話された。

壊そうとすれば、その端から修復されていくんだと……まぁ、あの時も俺達ならできるかも。という話も上がっちゃいたんだけどな。それでも、連続的に破壊をし続けないといけないだろうってのが俺達の見解。

だがどうだ、俺が壊したにも関わらず」


「戻る気配が無くて、壊れたまんまっていうのがおかしいんだね~」


「そういうこった。まぁ、俺の'フラジール'でそういう部分までぶっ壊せてるのかもしれないけどな」


「その辺も進めば分かるんだろうねぇ~。戻れば白玉さんにでも聞けば分かりそうだし」


「……まぁ、その前に生き残らなきゃならねぇけどな」


ピタリと足を止めた佐藤君に驚いてアタシも足を止め、佐藤君の肩越しに先の方を覗いてみると――


「……」


広場の中央に、海外系美人が目を閉じて甲冑を着込み、剣を地面に突き立て静かに立っていた。

その人を見て佐藤君だけじゃなくてアタシも思わず身構えてしまう。


攻撃をしてくる様なことはないけど、空気がピリピリってする。肌がチリチリするし、少しだけ息苦しい。話し合いで初めてレゴリアさんを見た時の様な感覚っぽい。


「妖狐が久方ぶりに客人を通し寄越したかと思えば……あいつめ、私の所には二人だけか」


喋り始めた海外系美人さんは、閉じていた目をゆっくりと開けてアタシ達を捉える。

それだけで、もっと息苦しくなって声が出し辛い。


「まぁいい。構えよ客人。

これより先に通すに値するか、審査といこう」


「話し合いで通すって選択はなさそうだな」


「生前の私であれば、その選択肢もあっただろう。だが今の私は、嘗てズルをした代償を払う亡霊だ。その選択肢を選びたかったのなら、ざっと四、五千年は遅い」


「体感間違えてんだろ!」


投擲用のナイフを投げた佐藤君は、小さめの刀身の双剣を抜いて美人さんへ駆けていく。展開についていけて無いアタシも、少し遅れながら魔法の詠唱を始めた。


妃沙ちゃんみたいにポンポン打てないし、大規模なのは無理。オリジナルなんてのも無いから…えーっと、短めで連鎖をさせていこうかな~。


「'雷よ ―雷球―'」


唱えた魔法名に合わせて現れた雷球に、アタシはスキルを使用する。

分裂 加速 誘導 とりあえず三つの効果を付与してから雷球を美人さんに向けて投げると、アタシが付与した通りの効果が現れ始めた。


そして分裂した雷球から幾つかを指定して更に改造。

無理矢理属性を変える。


雷 炎 水 土 と四種類の球は、不規則に動きながらも美人さんへ襲いかかった。


「大魔導……いや、少し違うようだ。それで、君はどんな肉弾戦が得意なのかな?」


美人さんは佐藤君が投げたナイフを指で挟み止め、そのナイフを投げ返して近場に来た魔法を相殺。そして、ナイフが足りなかった分は切り伏せてから佐藤君の攻撃を受け止めている。


流れる様な一連の動作の内に、その場から動くことはなかった。何よりアタシの目じゃ剣の動きが全く追えてない。


「わりぃが先を急いでんだ。手早く終わらせるぜ」


「生きが良いな。若人よ」


肉体強化をした佐藤君の猛攻を、美人さんは涼しい顔で捌いていく。


なんとなくそんな空気はあったけど、あの美人さんスゴい強い。佐藤君が強化したぐらいじゃ埋められなさそうだから、アタシが佐藤君の魔法を改造する。


なんて言っても効果の倍増ぐらいしか肉体強化には出来ないし、あまり強くすると逆に佐藤君に負荷が掛かりすぎるからなぁ。妃沙ちゃんみたいに、幾つかを合わせてくれればそこら辺も帳消しにできるんだけど仕方ないよね。


「おや?」


「かってぇ剣使ってんなおい」


アタシの隣まで移動してきた佐藤君の言葉を耳にしながら、美人さんの様子を伺う。

自分の握る剣が少し欠けている事に驚いてるっぽいけど、アタシは別の事が目に止まった。


多分佐藤君のスキルで脆くされて欠けた剣に幾つもの魔法陣が浮かび上がり、欠けた部分はひとりでに修復されていく。


「ありゃどういう仕組だ?いくら脆くしても壊れねぇぞアレ」


「アタシじゃ分からないのばかりだけど、武器自体に魔法が付与されてるみたいだねぇ~」


「なるほど。見た感じ自己再生機能は間違いねぇってのだけは分かった」


佐藤君も修復された剣に気付いたみたいで、視線は美人さんから剣へと移っている。


「早々簡単に刃こぼれをするような剣では無いのだが。もちろん君程度の技量で…という意味合いも含めて。ともなれば、君達どちらかのスキルか。

剣折りのスキルなんてのは聞いたことが無いが、どうだろう。私の予想は」


「手の内を教えてやれる程の余裕はねぇよ!知りたきゃ、自分の目で確かめな!」


「確かに。そっちの方が、もう少し君達と戯れる意味もできよう」


加速して迫る佐藤君に反応する美人さんは、こっそり残していた雷球にもう一度改造を施して前後左右から打ち込んでも対応してくる。

当然、その間に接近した佐藤君にも。


「佐藤君!ちょっと無理させるね~!」


「あぁ?好きにしろ!」


美人さんに攻撃する事に忙しそうな佐藤君の了承を得てから、佐藤君の強化魔法ももう一度改造する。

全体に掛かっている強化魔法の部位を指定して、足と腕の効果を更に倍増。そうすると、美人さんも少し驚きの表情を見せてくれた。


「ほぉ…どこまで上げられる」


「さぁな!」


加速した佐藤君の猛攻の中、美人さんはチラッとアタシの様子を伺う素振りを見せ、一瞬だけ目が合った。


アタシが何かしたって分かったのかな。

まぁ、だからと言って止めないけどね~。佐藤君には悪いけど、明日は筋肉痛コースだ。


アタシもアタシで使う魔法を頭の中で選びながら、美人さんが使う剣から目を離さない。


「古河ぁ!倍プッシュ!」


「そらきた~」


強化に改造を重ねても美人さんが涼しい顔で対応しているのに佐藤君も悔しいようで、筋肉痛覚悟の要請にアタシも応えていく。


一応、あまり強化しすぎるとどうなるかを佐藤君も知っている。限界を試すよりも早く、先に肉体が悲鳴を上げたから最終的にどうなるかは知らないけど、もう筋肉痛確定なのは分かってるはず。


そしてアタシが肉体の限界に合わせた改造上限も理解してる事を知っているから、佐藤君は追加を求めたんだろうねぇ。

おっと、そろそろ私も攻撃面で加勢しなきゃ。


「'研がれ落ちた自然の牙よ

 小さき驚異となりて 敵を穿ち 削り 喰らえ ―アースニードル―'」


アタシの周りの足場が少しだけ砕けて、岩が浮き上がりゆっくりと回転を始める。それに改造を施していく。付与効果は雷球と同じものに加えて、基本属性を書き換えずに様々な属性を上乗せして。


「俺には構うなよ!」


「あいあいさー」


鋭利になった岩を射出した。

美人さんへ向かう最中で岩同士はぶつかって数をどんどん増やしていくから、アタシはその全てに追尾を付与していく。


「その魔法はそういうモノでは無かったはずだけど……あの子は魔法を弄れるのかな?大魔導とはまた違って、また面白そうなスキルのようだ」


そう呟いてから佐藤君を軽く弾き飛ばして振り下ろされた剣で、アタシの魔法は全て砕かれた。全方位の魔法を全て。


アタシには一振りしか分からなかったんだけど、もしかして何振りもしてた感じかな?


ゼスさんと市羽さんが似たようなことしてたなー。とか考えながら、すぐに体勢を立て直した佐藤君の攻撃を受け止める剣を見た。

その時、剣に少しだけ罅が入ってすぐに修復していく。剣の面に浮かんだ魔法陣は二つ。それも一瞬だけで消えていく。


もう少し見せてくれたら、多分書き換えられると思うんだけど……発動が一瞬過ぎて難しい。これは佐藤君と合わせないと無理だねぇ。


「佐藤君、かむばーっく」


「くっそマジでかてぇ。脆くしてるってのによ」


「木の枝で真剣と戦えるタイプなんじゃない?」


「筆選ばねぇのにも程ってもんを知ってほしいねこりゃ。んで、呼び戻した理由は」


「あの剣を攻略していこうかなって」


アタシがこしょばなで佐藤君にやってほしい事を伝えている間、美人さんはただ様子を見てくるばかりで攻撃をしようとしてこない。というより、相変わらず一歩も動いてないっぽい。


「ん?あぁ、こちらからは手を出しはしない。帰るならば帰って構わないよ。

ただ――」


自分が見られている事に気付いた美人さんは、そんな事を言いながら剣を地面に向けて軽く一振り。


「私を避けて奥に行けるとは思わないでほしい」


口にはしないけど、言われなくてもその考えはすぐに消えました―。


轟音と共に、明らかに剣の届かない壁際まで斬撃の痕を見たアタシと佐藤君は、もう一度しっかりと作戦にもならない作戦を組み立てていく。

年始年末も、やっぱり何かと忙しさはあるもので……新年早々ギリギリですみません。

改めて、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。



ブクマ・評価ありがとうございます!

どうぞ今年もよろしくおねがいします!

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