煽りを受けて
すみません。今回も時間が無くて短めです。
賑やかさを見ていると、国、村、街、どう表現すればいいか分からないが、名称は'咎の村'を歩いていて気付いた事がある。
やけに獣人が多い。
おそらく人間の姿もチラホラ見えるけども、圧倒的に獣人の方が目に入る。パッと見の特徴から、兎、熊、猫、犬、狐、牛、などなど種族は様々だ。他種族同士でも仲は良さげで、白玉の存在に気付いた子供の獣人は笑顔で手を振ってきている。
「永禮、この村……なんか、古くね?」
「あぁ。タイムスリップした様な感じだ」
小声で話しかけてくるまこっちゃんの言葉に俺は頷いて、もういちど軽く辺りを見渡す。
獣人が多いのは確かだ。だが、ソレ以外に感じるのは、古い。まさに和服を着ているし、異世界に来たと言うよりは、町並みがタイムスリップした様な風景で、テレビの時代劇のセットを見ている気分になる。
「やはり貴方達には親しみのある風景なのですね」
「え?」
「ふふっ…私は耳が良いのです。内緒話をするのであれば、読唇術を身に着けた方が良いかと」
俺たちの数歩前を歩いていた白玉が会話に入ってきた事に驚いていると、白玉は耳をピョコピョコと動かして見せた。
振り返って後ろの並木達の様子を見てみるが、俺達の会話が聞こえていた様子もないし、別に声が大きかったなんて事は無い。ということは、本当に白玉の耳が今の小声を拾っていたんだろう。
「色々とお聞きしたい事が、お互いにあるでしょう。もう少し歩けば私の住まいなので、そこでお話を致しましょう」
そう言った白玉は、俺達から視線を外してどんどん奥へと進んでいく。
正直に言えば俺はこの村を見て回りたいんだが、ダンジョンの件もあるし、先に白玉との話しを済ませていたほうが時間ができそうだ。
やることの順番を決め、喋りたい欲求を抑えつけながら白玉の後を着いていくと、村の最奥に木々に囲まれた神社が見えてきた。
白玉は、本殿の横にある道を歩き進んで行くのは良いんだが、ちょっと目移りしすぎて俺達は遅れ気味だ。
「おかえりなさいませ白玉様」
「変わりはありませんでしたか?」
「問題はありません」
「何より。後ろの方々は、私のお客人なので丁重におもてなしを。森を抜けてきたので、湯浴みの用意まで頼めますか?」
「承りました。準備が出来次第、お声を掛けさせていただきます」
少し遅れて到着した俺達の目には、鯉でも飼っていそうな巨大な池とかまである一軒家に到着し、玄関前に居た男に白玉が俺達の説明をしているようだ。
あの男は人間っぽいな。
隣に立っている寡黙な女の人も……人間だな。ん?女の人と目が合った。
流石にスルーするのも印象が悪いと思い頭を下げると、むこうも軽くお辞儀を返してくれた。
「千影、お客様達を私の部屋までご案内してもらえますか?私は着替えをしてくるので」
「かしこまりました」
お辞儀を返してくれた女の人は千影と言うらしく、白玉の言葉に頭を下げて答えると、再度視線を向けてくる。
「どうぞコチラへ」
淡白な性格なのか、一言だけ告げた千影はそのまま一軒家の中へを入って行くではありませんか。
これさ、俺の個人的な感覚ってかそんなの何だけど。初めていく他人の家って上がるのに抵抗ない?俺はある。それが女の人の家だと尚更あるわけで。つまり何が言いたいかと言うと……。
「げんじぃお先にどうぞ。まこっちゃんでもいいぞ」
「うんまぁ、分かってた」
「お邪魔しまーす」
なんかひよりました。
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げんじぃを先頭に、まこっちゃん、俺と続き、後ろからは並木達が内装に感想を漏らしながら千影に付いていき、奥の一部屋に到着した。
その部屋は六枚の襖で締め切られていて、襖を開いて中に入ってみるとズラッと畳が敷き詰められ、奥に木製のテーブル。その上座には白玉が肘掛けに寄りかかりながら煙管を吹かしている。
「白玉様、お客様達をお連れしました」
「ありがとう千影。さぁ、軽くつまめる物もご用意しています。どうぞお好きな所にお座りください」
流石のげんじぃも、少し戸惑いながら白玉の元へと近付き、一番離れた所に座った。ずっとここに居ても話は進まないので、俺達も適当に空いている場所に座ると、それを確認した千影は一度頭を下げて部屋を出ていった。
ということは、残るは白玉と俺達だけ。
「色々とお話を聞く前に、お名前を聞いて宜しいですか?」
「あ、うっす。えっと俺は長野 源次郎って言います」
一番最初に答えたのは、視線を向けられていたげんじぃ。その後に続いて、まこっちゃんや俺も紹介を終えて、並木達も各々自己紹介を白玉は目を閉じて聞いていた。
そして少し間が空き、紹介が終わった事を察した白玉は、カン!と音を立てて煙管の灰を落とすとゆっくりと目を開ける。
「長野 源次郎、佐藤 真、岸 永禮、並木 桜、古河 朱麗、橋倉 妃沙。なるほど、今回召喚されたのは六人ですか」
何故か寂しそうな声を漏らした白玉だが、その言葉に俺達は互いに顔を見合わせた。
確かにココには六人しか居ない。しかし、召喚された俺達は六人じゃない。何かを知っていそうな相手にどこまで話すか悩む所だが、これは伝えておいた方が良いのでは?
とかなんとか考えて顔を見合わせていると、どうやら並木も同じ考えだったようで。
「あ、いや、今回の召喚されたのは三十一人です」
「…はい?」
「召喚された。という括りでまとめるなら、私達六人に加えて後二十五人居ます」
「なんと…。もし、よろしければ全員のお名前をお聞かせ願えますか?スキルなどは不要ですので。お名前だけで構いません」
うーん。白玉が、残り二十五人居ると聞いて目の色を変えたのは良いんだけどさ。全員分の名前を教えていいもんか悩む。
教えてしまえば、名前を聞いただけで召喚された人物である事が分かるようになる訳で、確かスリーピングキングはそこら辺を隠していたはずだ。
《へい、スリーピングキング》
俺は悩んだ結果、本人に聞いてみる事にした。反応が無かった時は適当に誤魔化してみるだけで、今はスリーピングキングの判断を仰いだほうが良いだろう。
そんな考えて念話を繋いでみると、すぐスリーピングキングからの反応が返ってくる。
《岸か。どうした?孤島のダンジョンに着いたのか?》
《いやまだだ。今、孤島にある'咎の村'って場所に着いたんだけどよ。そこの領主っぽい獣人が、俺等全員の名前を知りたいらしいんだ》
《全員?なんでまた》
《分からん》
《分からんか。なら、拒否できる間は断ってくれ。どうしても納得しなさそうなら、東郷先生と新道、市羽、俺の名前だけなら出しても問題ない。
どうせ顔も知れてるしな》
《どうしてもって場合は?》
《理由を聞いて、その内容を教えてくれ。実際、もう個々での行動が目立ち始めてるから教える分には問題ないんだが、相手がなんで聞きたいかが知りたい》
《おk。とりあえず、教える分には問題ないんだな?》
《口が滑ったからって咎めはしないさ》
《へいへい》
念話を切って視線を上げると、まこっちゃん達は俺がスリーピングキングと念話をしている事を薄々察していたようで俺を見て、白玉も釣られる様に俺の方を見ていた。
「あーっと、全員はちょっと難しい。リーダー的な奴等の名前なら」
「構いません」
なんか変な圧迫感があり、開きづらい口を動かして喋ると、白玉は随分と食い気味に続きを求めてくる。その様子に驚きはしたものの、俺はとりあえず東郷先生達の名前を伝える事にした。
「東郷 百菜っていう俺達の先生と、新道 清次郎と市羽 燈火、んで常峰 夜継ってのが「常峰 夜継?」…え、あ、はい」
「その夜継と言うのは、夜を継ぐと書いて夜継ですか?」
「確かそうだったかと」
しっかりとは覚えてない俺は、曖昧ながらも返事をすると、白玉は何か小さく笑いながらカン!ともう一度煙管を鳴らした。
《スリーピングキング、白玉って九尾の獣人を知ってるか?》
《おぉビックリした。え?いや、知らん》
切ったばかりの念話を繋いでスリーピングキングに聞いてみたが、驚きの後に返ってきたのは知らないと…。しかし何だろね、スリーピングキングが知らなくても、白玉の方は妙に食いついてきている気がする。
《その白玉さんは俺の事を知っていたのか?》
《知っているっぽいんだ。文字まで気にしてるから、おそらくは》
《ちょっと前後の事を詳しく教えてくれ》
俺はスリーピングキングに頼まれ、アラクネに会ったくだりから少し詳細に説明をしていく。その間に、白玉は用意してあった熱めのお茶で喉を潤している。
流石にどう問いかけたものか。と悩む俺達も話題を振れずに、俺は俺でスリーピングキングに説明を続けた。
《というわけなんだが》
《さっぱり分からん。俺の名前ぐらいなら知っていてもおかしくはないが、元の世界でどう書くかなんて知ってるのは結構限られる。
それこそ俺達三十一人と、こっちに召喚される時に会った白い光っぽいのが知っている可能性があるぐらいのはずだ。だが、仮に白玉が白い光の正体だったとして、そこを聞いてくる理由が分からん》
《スリーピングキングなら、この後どうする》
《そうだな……その場に俺が居たら幾つか考えるが、今の所はスルーしておくのが良いだろう。一応、俺に用事があって何かアクションがある可能性もあるから、少し警戒はしておいて欲しい。
どうであれ、元の世界の住人の事は知っているっぽいしな》
《おーけぃ、仰せのままに我が王よ》
《ハハッ頼むよ》
明らかに苦笑いをしているであろうスリーピングキングの声を最後に念話を切ると、それと同時に白玉は、振り袖の中から一つの鍵を取り出してテーブルの上に置く。
「この鍵は、孤島のダンジョンと呼ばれる場所へ入るための鍵になります。ダンジョンへの案内は千影にさせますが、向かうのは明日にしたほうがいいでしょう。
アラクネが連れてきたとは言え、海を越え、森を歩いた身ではお疲れでしょうから」
提案は願ったり叶ったりだ。実際、アラクネに会う前に森を歩いて疲れてはいる。しかし、この鍵を俺はすぐに受け取らない。
その前に白玉に聞かなきゃいけない事ができた。
「これを受け取る前に幾つか質問をしたい」
「よろしいですよ」
白玉から許可を貰い、俺はしっかりと白玉を見据える。
視線の動きで嘘かどうか。なんて分からんけども、ここで引き目を見せる訳にもいかない。
「まず、どうして俺達が孤島のダンジョンに行きたがっていると?」
「孤島のダンジョンは現在ギルドの優先攻略対象にはなっていませんので。逆に言えば、孤島のダンジョン以外でココを訪れる理由は数少ないのです。
そのどれにも貴方方は関係がなさそうでしたので、消去法で孤島のダンジョンにご用事があるのかと」
なるほど。孤島だったり島国と呼ばれたり、幾つか呼び方があるぐらいには交流があるはずと予想していたが、随分と特別な理由でない限りはココに用事は無いっぽいな。
おーけー。次の質問だ。
「だったら、そのギルドの管轄にあるはずのダンジョンの鍵を、どうして白玉さんが持っているのか」
「それは私が'咎の村'の長であり、孤島支部のギルド長も担当しているからです。最も、ギルドなどは名ばかりでして、狩りは個人で行い、依頼などもありません。
困りごとがあれば、隣人同士などで解決をして、どうしようもなければ私に話が来る程度です。故にギルド員も私と千影、そして先程の菊池の三人のみなのですよ」
少なっ!と口を滑らさない様に堪え、俺はギルドから言われていた事を思い出す。
機能を停止させたら現地のギルドに預けるんだよな。でも、その出入り口は鍵付きで管理されていて、ギルド員も三人しかいない。
ダンジョンを攻略する気ゼロじゃね?これ。
「確かに俺達はダンジョンを攻略しに来たんだが、白玉さん達は攻略しようとしなかったのか?」
「これは明日、ダンジョンへ行く前にお話する予定でしたが、お答えとお願いをしておきましょう。
まず岸様の問いにお答えします。
私達はこれまでダンジョンを攻略しようとした事はございません。その必要が無いのです。
そしてこれはお願いですが……。
孤島のダンジョンは攻略できなかった。そうギルドにはお伝え下さい」
「俺達が攻略したとしてもですか?」
「それは不可能ですので」
「どうして不可能だと?」
「行けば分かること。ダンジョンに向かい、その先で何を知り得るかは分かりませんが、あのダンジョンは誰にも攻略する事はできません。どんなに強大な力を有したスキルを所持していようとも」
「白玉様、湯と食事のご用意ができました」
白玉の少し挑発的に焦らす様な言い方が納得できず、更に問いかけようと口を開きかけた瞬間、俺達が入ってきた場所とは別の外廊下に繋がる襖の向こうから男の声が聞こえた。
多分だが、玄関前に居た男の方。確か菊池という人の声だ。
「これより先のお話は長くなるでしょう。それは戻ってからに致しませんか?おそらく、ダンジョンの奥にて私に聞きたい事も増え、聞かずとも得る答えもあるでしょうから」
強引に話を終わらせ、菊池に食事を運ぶように指示をし始めた白玉。
当然納得はいっていない。他にも聞きたい事は幾つかあるし、スリーピングキングの事を知っている様な素振りも気になる。……まぁ、それに関してはスリーピングキングに止められているんだけどさ。
もちろん、俺だけじゃなくまこっちゃんやげんじぃ、黙って話を聞いていた並木達も納得した表情をしていない。だけど、それ以上に、並木達は知らないがまこっちゃんとげんじぃは俺と同じ気持ちのはずだ。
「「永禮」」
名前を呼ばれ、まこっちゃんとげんじぃの方を向けば、何を言いたいか分かる。
そうだよな。やっぱ同じ気持ちだわな。
「あぁ、分かってる」
あんな言われ方でされちゃ、挑戦状を叩きつけられた様なもんだよな。
「「「ぜってぇ孤島のダンジョンを攻略する」」」
攻略不可能な高難易度ダンジョン。燃えるじゃねぇ―か。
何故か止まらぬ鼻血と奮闘していました。
投稿がギリッギリ。
ブクマありがとうございます!
これからもお付き合いください!!
そして、誤字脱字報告ありがとうございます。何か、誤字用の新機能が追加されたようなのですが、許可をしなければいけなかったのですね。対応が遅くすみませんでした。