スキルの暴走について
今回と次は、少し常峰君側です。
「ガァァァァアァア!!!!!!」
「クソがッ!」
雄叫びを上げ、放電を繰り返す雷の獣と、腕から不規則に燃え上がる炎に悪態を付く佐々木。
「東郷先生、まだダメそうかい!?」
「もう少しだけ待ってください!ジーズィちゃん、常峰君は?」
「今、レーヴィ姉ちゃんが様子を見に行っている」
その二人を囲んでに、安賀多、九嶋、中野が演奏をしており、少し離れた所では東郷が念話の子機を握りしめている。
魔軍もガゴウもアーコミアも帰り戦闘は終わった。しかし、その後になっても佐々木達はリュシオン城へ戻れず、むしろ艮が東郷達を呼ぶ事態になってしまっていた。
原因は今も人の形に戻れていない田中と佐々木。
艮の言葉で攻撃を止めはしたものの、一向に人型に戻ろうとせず、終いには周囲を無差別に攻撃し始めた。既にギルドの者や聖騎士団はガレオの指示に従い戻っており、その場には佐々木達のみだったのが幸いか……。
「お願い。常峰君……」
祈るように念話の子機を両手で握りしめていた東郷は、さっきの報告も兼ねて念話を飛ばしているのだが、一向に常峰からの返事は来ない。
何度目か。声を送り続けていた東郷の頭の中に、少し寝ぼけた声が響いた。
《……おはざます》
《常峰君!!》
-----
--
《なるほど、つまり今は俺の法のクラスメイト同士が干渉できないのを利用して、安賀多達が音の壁で囲んでると》
《はい。でも、安賀多さん達も今日は魔力を結構使っていまして……あまり長くは》
《ちょっと待ってください。対処法を考えます》
気が付けば食堂で寝てしまっていた俺はレーヴィに起こされ、東郷先生から現状報告を受けていた。
ドラゴン退治の許可をジーズィに出してから、そんなに時間は経っていないにも関わらず……いつの間に寝てしまったんかねぇ俺。
まぁ、それはいいや。意識が切れて寝ていたなんて良くあることだし。とりあえず、今は佐々木達の事だな。雷になっている状態を解かないと、確かに安賀多達の音の壁は越えられないだろうけど、それも安賀多達が持つ間はだ。
「レーヴィ、ジーズィからの報告を聞いていると思って聞くが、佐々木の状態に心当たりはあるか?」
「おそらくはスキルの暴走かと思います」
スキルの暴走?んな事があるのか。
それについては後で聞くとして、レーヴィは今の状態について知っていそうだし先に聞くことは……。
「暴走した場合の対応はどうすればいい」
「暴走者を捻じ伏せるのが一番手っ取り早いかと。ですが、今回の暴走者の相手は少々愚妹では厳しいかもしれません」
「他には?」
「申し訳ありません我が王。あの場を考慮した場合の有効な手立ては浮かびません。
セバ爺にお聞きしたほうが早いかと思います」
「謝らなくていい。この事態を予想できなかった俺の問題だ」
俺の言葉を聞いてもレーヴィは申し訳なさそうな顔で深々と頭を下げるばかり。慰める言葉も浮かばんし、軽く肩を叩いて終わらせて……セバリアスか。
時間も遅いし、今日は休むように言ってあるからあまり頼りたくはないけど、仕方ない。
「セバリアス」
「ここに」
……。休むように言っていたんだが、本当に休んでたんだろうな?呼んでから現れるまで一瞬だったぞ。んんっ、いや、セバリアスはそういう者だとしてツッコムのは止めておこう。いつか、長期休暇を渡すとして。
「ユニークスキルの暴走が起きた。捻じ伏せる以外の対処法があれば教えてほしい」
「スキルの暴走ですか。気絶させるのが有効ではありますが、それ以外となりますと……我が王よ、よろしければ暴走者のスキルがどういったモノかお教え願えますか?できれば、暴走する前の前後の状況も含めて」
俺はセバリアスに言われた通り、佐々木と田中のユニークスキルについて軽く説明して、東郷先生が艮から聞いたと言う前後の事も伝えた。
気絶という事を聞いて、鴻ノ森に頼むのも手か?と思ったが、東郷先生の話しの中に、鴻ノ森もかなり魔力を使い動けず、艮は自分の代わりに付き添うようにと東郷先生から言われ、二人はその場に居ないならしい。
鴻ノ森の回復を待つにしても安賀多達の限界が先だろうし、すぐにできることがあれば……。と思いセバリアスの様子を見ると、俺の分の紅茶を用意しながら納得したように頷いている。
「状況は理解できました。おそらくは魔力過多による暴走でしょう。そうであれば、私が東郷様にお渡ししたネックレスで抑制できると思われます。
一人ずつしかできませんが、ネックレスで抑制をしている間にジーズィに魔力の流れを調整させれば落ち着くはずですので、終わり次第もう片方にも同じ様にすればよろしいかと。着ける必要はございません、東郷様が握り押し当てるだけで大丈夫なので試してみてはいかがでしょうか」
暴走しているってのにそれは…とも思うが、攻撃的である以上東郷先生に被害はでない。その前に俺の法の方が先に働くはず。
《東郷先生、一応有効そうな手として――》
セバリアスの説明をそのままに、危険性がある事も含めて伝えると、東郷先生は迷うこと無く嬉しそうに声を弾ませて実行に移ったようだ。
さて、佐々木と田中も心配だが、今は任せるしかできん。その間に俺は聞いておくかねぇ。
「今試している。その間に聞いておきたいんだが、スキルの暴走はよく起きるのか?」
これだ。
もし、暴走というのが良く起きるのであれば注意……いや、一回全員呼び戻す必要がある。俺達は戦闘に関して、他の事にも間違いなくユニークスキルに頼っている所が多い。今回の様な暴走が良くあるのならば、ユニークスキルの扱いに関しての訓練をしなければならない。
安全性を考えるなら、セバリアスやラフィ。レーヴィや数日中に戻ってくるルアールがいて、俺がすぐに法を敷ける環境がいいだろう。
「稀でございます。私もニ度程しか立ち会ったことがございません」
セバリアスの返答に俺は少しだけホッとした。
滅多には起こらない。となれば、次、なぜ今回起きたのか…だ。
「なら佐々木と田中は何故暴走したと思う」
「個人的な見解になりますがよろしいですか?」
「頼む」
「元来スキルとは、学び、鍛え、磨き成長してくものです。先天性のスキルでも長い時間を掛けて慣れ、その力を存分に発揮していくものでございます。
先天性でいうならば例として、鑑定も初めは対象のスキルまで見抜く事はできません。ですが、我が王やご友人の方々は少々事情か変わります。
今まで使う事のなかった力を最大限のまま使える様になってしまっている。それは強力な事ではございますが、扱えるわけでは無い。ということでしょう。
既にスキルは馴染み、理解をしておられるようですが、それはスキルだけであり使用した際の魔力調整は別ものなのでは?と考えます」
なるほどな。そういえば、俺もメニアルとの戦闘の時に眠王のスキルが漏れていたらしいしな。それで、流れ流れてルコさんのおでこが大変な事になりかけたわ。
佐々木と田中の場合、その状態が続いているのか。
「今後、それが起こらない様にするにはどうしたらいい?」
「スキルは扱わなければ慣れません。使うのがよろしいでしょう。元より、感覚の問題に近いので訓練をしようにも本人達が理解しなければなりません。
こればかりは、教えられて覚えるのではなく、自然と覚えていくものなのです」
単純に経験が足りないか。
ある程度慣れるまで、一度戻ってきてもらう方がいいか。だが、佐々木と田中だけを呼び戻す訳にはいかない。連れてきてもらうにはジーズィが一番早いだろうし、そうなれば東郷先生達の護衛が手薄になる。
だけどなぁ……コニュア皇女との約束がある以上、すぐに呼び戻すにも何かしらの理由が必要になってしまってるな。
俺が幾つかの手を考えていると、セバリアスが言葉を続けた。
「ですが、ご友人の様子や我が王を見る限りでは、暴走の可能性はかなり低いでしょう。今回のお二人は'雷帝'と'炎帝'だったから……ではないでしょうか」
「雷帝と炎帝だったら暴走の可能性が高いのか?」
「これも個人的な見解になりますが、私が知る限りでスキルの暴走は本当に稀な事。過去にも二度しか記憶はしていません。そして、その二度とも'氷帝'というユニークスキルが暴走しております」
氷帝?ログストアで見た一覧の中に、確かあったような気もする。名前だけで詳しい事は書いていなかったし、田中や佐々木のと近いのだろうとは思ったが、暴走の過去なんて一つも記されてなかったぞ。
現在ユニークスキル持ちは居ない。ということは、その'氷帝'を持つ人物も今は居ないのだろう。しかしなぁ、暴走癖があるスキルなら、使わないようにした方がいいか?
「氷帝について詳しく聞いていいか?」
「勿論でございます。
二度暴走した氷帝は、過去に一体しかおりません。一度目は私達が止めましたが、二度目の際はそのまま命を落としております」
「止めなかったのか?」
「止められなかった。と言ったほうがよろしいでしょう。
氷帝のスキル効果は、身を冷気に変える事や氷を操るといったものでした。暴走はその冷気になった際に起こっており、本人曰く戻れなくなるそうです。元の形を意識する事がしにくくなり、そのまま意識を引っ張られそうになると語っておりました」
まんま田中の状況だな。佐々木も腕が戻せないってところか。
それを知っていたからレーヴィはすぐに暴走と気付いたと……しかも、二度目はセバリアス達ですら止められずに死んでるか。危険すぎるな。
「ちなみに、レーヴィとセバリアスの言い方的に一度目は気絶させたんだろうが、冷気相手にどうやったんだ?
そして、なんで二度目はできなかった」
この返答次第では、打つ手を考えないといけない。戻ってきてもらうにしても、そのまま東郷先生達と一緒に居るにしてもだ。
「方法としては、周囲の空間を隔離して冷気状態の彼女ごと叩き潰しました」
サラッと意味の分からない事を言うセバリアスに、俺の表情は一体どうなっているだろうか。
えっと、つまり、どういうことだ?
氷帝がスキルを使って冷気なるじゃん?――うん、まだわかる。
周囲にふわ~って漂うわけじゃん。――オーケー、ここも大丈夫だ。
んで、え?その漂ってる空気を空間ごと隔離して叩き潰す?……だめだ、ここがわからん。冷気を叩き潰すっていうイメージがわかねぇ。
「我が王?」
「あぁ、うん続けて」
おそらく間抜けな顔をしていたであろう俺を、心配そうな目で見てくるセバリアスに大丈夫だ。と手でしながら話の続きを聞く事にした。
もうね、寝起きの頭じゃ分かりません。きっと寝起きのじゃなくても、すぐすぐには理解できないので後回しです。
「かしこまりました。では続けさせていただきます。
二度目を止めきれなかった理由は、間に合わなかったと言うのが一つです。そして、何より本人がそれを望まなかったので、我々も手の出しようがなかったのです」
「本人が望んでいたら助かったと?」
「問題はありませんでした。いえ、二度目を暴走と言うのはおかしいのかも知れません。彼女は故意にスキルを暴走させたので」
事情有りって感じだな。
正直氷帝の事情に興味はない。止められるか、止められないかが重要で、本人が望めば止められたとセバリアスは言う。
「レーヴィも同じ意見か?」
「はい」
暴走を言い当てたと言うことはレーヴィも当時を知っている。そしてレーヴィもそう言うのならば、助けられたのだろう。
《常峰君、ありがとうございました!二人とも落ち着きました!》
《おぉ、それは良かったです》
今後の佐々木と田中の事を考えていると、頭の中に東郷先生の声が響いた。声のトーンを聞く限りでも、二人とも無事だったようだな。
一段落ではある。だけど次の事を考えなきゃならん。次、暴走した時……手遅れでは洒落にならん。
《すみません東郷先生、田中か佐々木に替われますか?》
《田中君はちょっと辛そうなので、佐々木君に替わりますね》
《お願いします》
俺が指示をするのも簡単だが、本人しか分からないスキルの感覚は、本人に聞くのが早いだろう。
《んだよ。こっちは疲れてんだ、手短にしてくれ》
聞くことを軽くまとめていると、それはもう不機嫌そうな佐々木の声が脳内に響いてきた。
まぁ、元々佐々木は俺の事を嫌っている。疲れている今のタイミングなら、尚更嫌だろうな。でも聞いておかなきゃならんのよ。
《んじゃ早速本題だ。今回、佐々木と田中はスキルが暴走した。それは分かってるか?》
《わーってる》
《次、暴走する可能性はあるか?》
《……なんとも言えねぇ。正直、今回のは無理しすぎたってのは分かってる。制御が効かなくなってた。でも暴走中にも、もう少しで掴めそうな感じはしてんだ》
本人にしか分からない感覚か。それを完全に信用するには、事が事だけになぁ。
《佐々木。田中と一緒に、こっちに戻ってくるか?スキルを完全に扱える様になるまでの環境は用意するぞ》
《ふざけんな。これしか対抗手段がねぇから使ってるだけだ。俺は帰りてぇ……それは田中も同じだ。
今、そっちに戻ったら帰れなくなりそうだ。てめぇ、それを分かってて聞いてんだろ》
勘が良い。スキルの扱いに慣れすぎると、多分戻った時にかなり苦労すると思う。こっちでの当たり前は、向こうじゃ当たり前じゃない事が多々ある。スキルもその一つだ。
特に、佐々木や田中のは自分がスキルに寄る傾向がある。その事に慣れると言うのは……感覚がズレるだろうな。
しかしだ佐々木。それは、こっちに来なくても同じ事なのを理解できない訳じゃないだろう。
《だが次があるのは困る。東郷先生達にも迷惑が掛かるだろ?だけど、こっちに居る限りは使わざるを得ない状況が出てくるだろう。どうするんだ》
《ぜってぇ掴んで見せる。それに、俺を僚太が離れたらこっちは手薄だぞ。ここ最近、魔王の奴が来やがる……まだ勝てねぇけど、それでも――》
折れそうにはないな。佐々木も田中も負けず嫌いだしなぁ。多分、魔王ガゴウに負けた事も引っかかってるようだし……無理して戻ってきてもらうのは逆効果かもしれんな。
そういう事なら、そっちで訓練をしてもらうしかない。
《佐々木、田中と一緒に暴走だけはしないようになってくれ。んで、スキルの訓練の時には必ず鴻ノ森の目が届く範囲でやってくれ》
《あ?鴻ノ森?》
《暴走した場合の対処として、今回の手順ともう一つ、気絶させるのが早いらしい。だから訓練の際は鴻ノ森のスキルを受け入れておけ。
暴走しそうなら鴻ノ森に意識を飛ばさせてもらえば未然に防げる。正直、暴走の度に東郷先生のネックレスを使うのはな……。ネックレスを用意してもいいが、外した時に暴走してもらっても困るだろ?》
《わーったよ。それで戻る必要なねぇんだな》
《あぁ。それと訓練するにあたって、こんな感じが良さそうってのがあるかセバリアスに聞いておく。あれば東郷先生に伝えておくから》
《……》
佐々木からの返事がない。こいつ、本当に俺の事嫌いだな。
まぁ、だけど自分で言った事は、意地でもやる男だ。問題はないだろう。
《んじゃ、今後の事を少し話すから、東郷先生に替わってもらえるか?》
《おう……常峰》
《どうした?》
《今回はすまねぇ。助かった》
その声を聞いて、俺はふと思う。
これは……俺の勘違いかもしれんな。俺が思っている程、嫌われてはいなさそうだ。
《いや、お前達が頑張ってくれてるから、俺も助かってるよ。生き残ってくれてありがとう》
あまり生死に触れる気はないが、これは本心だ。
こうして声を聞き、報告を聞けているだけで安心しているんだよ。ホッとしているからか、体に力も入らんしな。
《先生に替わる》
《あいよ》
さて、そろそろ眠気が限界に近い。少し東郷先生と離したら、二度寝するとしよう。
----
---
--
場所は変わり、名もなき島。そこには通常よりも高く大きな長屋が並び、灯籠が道を照らす場所がある。古びた長屋からは、嬌声や悲鳴、高笑いする声など様々な音が漏れ、道を歩く'鬼'はそれらを気にする様子はない。
それよりも、鬼達の興味は別のモノに惹かれていた。
ボロボロのドレスと銀の長い髪を靡かせ、灯籠並ぶ通りの真ん中を堂々を歩く女。メニアル・グラディアロードに。
鬼は力で上下関係が決まる。雄だろうが雌だろうが強ければ慕われる。だが、それは鬼の中の話であり、他の種族には当てはめられない。
魔族と一括りにされていようと、鬼は自分達を強者の種族だと理解している。
故に、他種族を飼う事もある。雄を飼う者、雌を飼う者、その種族が欲しくて飼う者。様々ではあるが、強者が歩く道の真ん中に他種の雌が一人で歩いているというのは、興味を惹いた。
当然メニアルを知っている鬼も居る。だが、知らない鬼も居る。
知っている鬼は、何故ここに居るのかと驚きの表情を見せるが、知らない鬼は蔑むような目をしていたり、舌なめずりをしていたり。
そんな鬼の反応に気付いているメニアルは、一切迷う事無く、堂々と真ん中を歩き道の最奥へと足を進めていた。だが――。
「おいおい、雌がひとりか?」
「あぶねぇぜ。俺等が面倒見てやろうかぁ?」
歩くメニアルの肩を掴み、前に立つ鬼が居た。
「肩を掴むでない。我は童に用は無い」
「強気だねぇ!」「いいねぇ!」
メニアルの事を知らない赤と青の鬼は、そのメニアルの反応に高笑いを上げ、鋭い視線を向けた。
インフレしないようにするのって、難しいですね。
ブクマありがとうございます!
やはりスローペース感が抜けませんが、今後ともお付き合いいただければ嬉しく思います!