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眠れる王  作者: 慧瑠
見えてくる意思
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そこそこ

すみません。短めです。

「'召雷'」「'フレイムウェーブ'」


イメージをしやすいように。スキルの操作を失敗しないように。眼前に魔物の群れを見据える田中と佐々木は自身のスキルに声を掛けた。


すると、それに呼応するかのように蒼く白い人影からは空へ、紅蓮に燃え揺れる人影からは紅い雫が大地に落ちた。途端、空から白い光りが魔物の群れを喰らわんと空気を割り、雷鳴を轟かせ降り注ぎ、大地の表面が波打ったかと思えば、薄皮が剥がれる様に捲り上がる業火が群れを飲み込む。


空を飛べば雷が、大地を進めば業火が。両方を抜けた者が居れば――。


「逃がすかよ」


「意外と抜けてくるなぁ」


二つの人影が屍へと変えていく。


田中と佐々木がスキルを駆使して魔物の群れの対応をしていると、そこに魔族達が混ざり始め、様々な魔法が二人に向けて放たれ始める。


それでも二人の猛攻を抜ける事はできていない。


「僚太、余力は」


「まだまだ行けるよ」


魔力にもまだ余裕がある田中と佐々木は笑みを見せた……が、二人の猛攻は業火を絶ち、雷を片手で吹き飛ばす影が現れる。

その影の姿が見え始めると、佐々木と田中は顔を顰めた。


「やっぱりテメェ等か。こういう芸当もできたんだなぁオイ」


額に伸びる一本角。鍛え抜かれた肉体を持つ巨漢に、二人は見覚えがる。


「おいおいマジか」


「これは最悪じゃない?」


「弱音吐いてる暇ねぇぞ!」


顔を引き攣らせる田中の前に、炎を厚く熱く固めた腕を盾代わりにした佐々木が現れた――瞬間、佐々木と田中の眼の前に、ガゴウとはカラカラのゾンビの様な男が現れ刃の無い柄を振り抜いた。


レンジが足りていないのを確認し、仮に見えない刃であろうとも防げると確信した佐々木だが、その予想は外れる。


ヒヤリと高温の中に紛れた冷たい空気。悪寒が走った佐々木は、身構えていた田中を突き飛ばす様に自分ごと後ろへと転がり避ける。攻撃を受けた感覚は無く、冷気を感じた腕にも違和感はない。

防ごうと実体化しても、炎となっていた首元にも悪寒はあったにも関わらず。


「俺は今何をされた?」


「分からないけど、多分あの振りは食らっちゃ「ぼーっとすんなよ」っ!?」


起き上がり言葉を交わす間を縫って、眼前にまで移動してきたガゴウが腕を振り上げていた。防ぐにはあまりにも重い事を知っている二人は、実体化を解き拳を避ける選択を選んだ。


ガゴウの拳の直撃は避けた。しかし、振り下ろされた拳の勢いは加速し、そのまま地を砕き生まれた衝撃波によって田中と佐々木は散り散りに吹き飛ばされた。すぐに立て直すため、散らばった炎と雷は一箇所へと集まり人形へ形成していく。


だが、畳み掛ける様な攻撃の手は止まない。


実体化をし始めた田中の眼の前に、干からびた男が既に構えていた。


「くそっ…」


既に攻撃のモーションへと移行している事に気付いた田中は、悪態を付きながら実体化する事を途中で辞め、雷速で後方へと移動する。


「僚太!」


「うわ、ミスった」


干からびた男の攻撃を避け、再度実体化をし始めた所に佐々木が自分を呼ぶ声が聞こえる。同時に、その叫びが意味する事を理解した。


自分の背後には腕を振り上げるガゴウの姿。


もう一度実体化をする事を辞める選択肢も存在はしているが、それを選択しきれない理由を佐々木も理解し、田中もその選択を選ぶ事に躊躇いをみせてしまう。それはガゴウにとって隙でしかなく、田中にとっては致命的な判断ミスである。


躊躇いを見せた田中の思考は選択を迫るものの、それに体は着いてこず。ガゴウの拳は完全に実体化が不完全状態の田中の顔を捕らえ振り抜かれた。対する田中は歯を食いしばり、できるだけダメージを軽減出来るように半端なまま一部を雷へと戻してガゴウと自分の顔の間に滑り込ませる。


取捨選択を終え、受け耐える道を選んだ田中は、割り込ませた雷にガゴウの拳が触れた瞬間に雷が弾け飛ぶ音と感覚を捕らえながら、雷を抜けた拳を眼前に捕らえた。


後コンマ何秒か。


長く感じる時間の中、しっかりとガゴウの拳を見据えて当てる場所を調整するために顔を少し反らす。その行動中に、田中の視界を高速で何かが横切った。


「おぉ?」


「っぇ!?」


一瞬何が起きたのか分からなかった田中だが、ガゴウの楽しそうな声が聞こえ、同時に自分の顔の横に三角錐のランスが突き刺さった事で変な声が漏れた。


「佐々木君!田中君!隅!」


呼吸や思考に割り込む様に聞こえた声に、田中の体は考えるよりも早く動く。


優先的に指先から実体化を終え、ランスにより弾かれたガゴウの手首を掴み。そして、移動を終えた佐々木がガゴウの背後を取り、田中が掴んだ方と逆の肩口を押す。合わせる様に田中がガゴウの腕を外回りで引っ張りながら背後へと押し出す。


「取った」


体勢が崩れ、倒れ込み掛けたガゴウの下に、肉体強化を施し高速で移動してきた艮が滑り込み、首に手を回し顎おしっかりと抑え、そのまま背負投げた。


巨体が宙を舞い、鈍い音と共に叩きつけられたガゴウ。だが安心する事はできない。


投げ終えた瞬間を狙い、干からびた男が艮の首を狙い既に柄を振っている。


「やらせねぇ」


干からびた男の行動に真っ先に反応したのは佐々木は、田中に視線で合図を出すと干からびた男の内側へ身を滑り込ませた。陥没した瞳で捕らえているのか……干からびた男は顔を佐々木の方へ向けたが故に田中の行動を見落とす。


振り切る前の肘に手を当て押し出し、足は内側へ滑らせ引っ掛ける。ぐらっと揺れた所に力を少し加え更に押すと、干からびた男の体勢は崩れて空を仰いだ。


「'召雷'」


干からびた男の視界は、空から落ちる雷撃で白に染まった。


「艮、助かった」


「まだです。一旦下がりましょう」


佐々木が礼を述べたが、艮はすぐに次の行動へと移り、後方へと速度を上げながら下がっていく。それを追いかける様に田中と佐々木も着いていくと、隊列から外れて並ぶ者達。横一列縦三列に並ぶ修道服に身を包んだ者達と白い馬に乗ったガレオが待っていた。


「二人とも連れてきました。もう大丈夫です」


「よし。聖魔隊、波状攻撃開始!ギルドの者は各々の判断で任せる!」


ガレオが合図を出すと、待っていたかの様に修道服の者達が魔法を発動し、途切れる事無く次々と魔法が佐々木達の頭上を越えていく。


その魔法を視線で追えば、ガゴウとの戦闘に集中をしすぎて突破されかかっていた炎の壁の向こうへと続き、炎の壁の向こうからも魔法が飛んでき始めたのが見えた。


「これは…」


「佐々木君と田中君が時間を稼いでくれていたおかげで、ガレオさん達が間に合いました。向こうでは安賀多さん達のおかげもあって、パニックは起きていないそうです。

むしろ、避難誘導のために東郷先生が出てきたので……」


「大賑わいってか」


「はい」


アハハ。と苦笑いをする艮の隣で少し息が上がっている田中は、ふと気になったことを口にした。


「そういえば、艮ってジーズィちゃんと一緒じゃなかったっけ?ってかドラゴンは」


艮に問いかけている途中で田中の言葉は止まる。

夜にも関わらず、視界に光りが差し、そちらへと視線が引っ張られた。


向く先は空。巨鳥が天へと高く飛び、ドラゴンがソレを追いかけている。そしてそれよりも更に上……巨大な魔法陣が空で煌々と輝いていた。


----

--


「鴻ノ森、大丈夫かい?」


「えぇまぁ……今はドラゴンだけですから…」


短い曲で自分達に意識を向かせ、スキルを開放した東郷の言葉で落ち着かせたまま避難誘導を終えた安賀多達は、鴻ノ森が待機している部屋へと来ていた。


気怠そうにしながらもドラゴンから視線を外さない鴻ノ森は、口で言うほどの余裕は見られない。


ドラゴンだけ。と言うが、範囲に入ったからと言って眠らせ夢を見せている訳ではなく、被害が出ない様に幻を見せ続け空を飛ばせ続けている。

苛立ちを見せ始めたドラゴンは、無差別に広範囲にブレスを吐こうとする挙動が多く、それを空へ向けたり、無理矢理意識に介入して急接近するジーズィの幻惑を見せたりして牽制をしていた。


扱いきれていないスキルで長時間行うそれは、鴻ノ森が思っていた以上に魔力を使い、疲労が溜まっていた。


「もう少しで先生とジーズィさんの準備が終わりそうなので、持つと思います」


自分に言い聞かせる様に安賀多に返し、幻のジーズィを追いかけ空へと登るドラゴンから、東郷が居るであろう場所へと少しだけ視線を向けた。



その頃、先程まで安賀多達が演奏していたステージの上では、東郷が祈る様な姿勢で座り、その背中にジーズィが手を当てている。


「自分の使う魔法のイメージが浅い。魔力が乱れてる。もっとスキルを信用していい。

オジジの道具が無いんだから、それに頼ろうとしない」


「はい」


「次、失敗したら私がやる。これ以上は、我が王の意思に反する」


背中に触れ、魔力の乱れを調整してくれているジーズィの言葉に焦りを覚えながらも、東郷は小さく深呼吸をして意識を集中する。


ジーズィがやれば終わる事は分かっている。安全を最優先に考慮すればそれが良いのだろうとも分かっている。だが、東郷は自分で倒したいと一足先に戻ってきたジーズィに申し出た。


田中と佐々木が攻めてきている軍を抑え、安賀多や中野、九嶋のおかげで全員に語りかける事ができた。そして今も鴻ノ森がドラゴンを誘導してくれている。自分だけが何もせずに、ただ皆を信じて任せるだけで終わりたくはなかったのだ。


力を過信している訳ではない。慢心している訳ではない。ただの驕りで、自己満足。きっとジーズィには迷惑を掛けてしまっている事も分かっている。


それでも、生徒達が頑張っているのに自分だけが何もしないのは我慢できなかった。


「' 望みを口に 願いを胸に


   聞き届けしは神の耳 


染まることなき純白の光は神の意志 '」


以前に見たイメージを浮かべ、固め、自分のスキルと魔力に語りかけ、魔法を構築していく。


「'振るう事を願うは己の意思'」


コニュアが持っていた本に乗っていた詠唱を口に、更にイメージを固めていく。


一点を貫く様に。

濁りのない白。

あの時に見たのは大きな剣。

空を染める様な白い白い大剣。


「'汝に救いを 罪に裁きを'」


目を閉じていても分かる。暗い空に浮かぶ魔法陣から切っ先が顔を出し、空は白く染まっている。比例する様に魔力が減っていく感覚があるが、東郷は臆する事無く魔力を込め続け祈る。


魔法の完成を本能が告げ、東郷は魔法名を口にした。


「'―神の審判―'」


「……。そこそこ」


涼しい空気がスーっと流れ、音が消えた様な錯覚の中でジーズィの声が聞こえた。そして、そっと自分の首にネックレスが付けられる感覚がする。


目を開け空を見上げれば、白い大剣の切っ先が眼前でピタリと停止しており、おそらくその大剣に両断されたのであろうドラゴンは、大剣を覆い揺らめく透明な炎に飲まれ消えていく。


「我が王にご連絡をしてほしい。現状では及第点だったと」


「は、はい!――あれ」


「幻術師と演奏家の所までは連れて行く」


急いで立ち上がろうとしたが、立ちくらみで思うように立ち上がれなかった東郷を無数の羽根がそっと受け止め、そのままふわりと浮いて、先を歩くジーズィの後ろを追い始めた。慣れない不思議な疲労感に戸惑う東郷は、とりあえずジーズィに言われた通りに常峰へと念話を繋げる事にした。


--

---


「向こうは終わったようだな。

皆も見ただろう!聖女様の加護は我らにあり!恐れることなかれ!」


ドラゴンを消滅させた白い大剣が消える事を確認したガレオの言葉に、ギルド員を含めた全員が声を上げて更に攻撃は激化見せる。その状況にあまりついて行けていない田中と佐々木だったが、そんな思考を塗りつぶす程の圧迫感が襲いかかってきた。


当然、それを感じたのは佐々木や田中だけではない。


声を上げて士気が上がっていた聖魔隊もギルド員も、艮やガレオもその圧に息を呑む。


「いいねぇ。そう来なくっちゃ面白みがねぇ。

ほら、続きをやろうぜ。まだまだやれんだろ?」


波状攻撃により巻き上がっていた砂煙を片手で振り払い歩き出てきたガゴウは、愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべ艮達を見据えた。


「魔王ガゴウか…ん?」


その姿を見たガレオは呟き、その隣を着いて出てきた者に意識を向ける。


「あれはまさか、ナールズ殿か?」


干からび、生前の様な気迫は無いものの、生前の面影は見える男にガレオは見覚えがあり名を口にした。


「とりあえずコレは返すぜ!」


わざわざコチラに聞こえる様に声を上げたガゴウは、先程自分の腕を弾いたランスをガレオに向けて投げ飛ばす。凄まじい速度で向かってくるランスを見据え、腰に下げていた剣でランスを弾き落とすと、ランスと共に追従してきていたナールズがガレオの首を狙い腕を振ろうとしていた。


「やはり貴殿か……」


振るわれる柄だけでガレオはその攻撃を察し――。


「生前の貴殿であれば、危うかったかもしれんな」


警戒をしつつも悲しそうに呟いたガレオは、手首を返してナールズの腕が振るい終える前に切り捨てる。


肘から先が切り捨てられたナールズは、声を上げる事無く狼狽える様な反応だけを見せて大きくガゴウの元まで飛び退く。そして数秒程すると、切り口が泡立ち、切り捨てたはずの腕が生えていた。


「死者をも使うか…ガゴウ!」


「勘違いすんなよ。コレは俺の趣味じゃねぇ。んな事よりも、また腕を上げたなぁガレオ」


「ッ…!」


睨むガレオに、更にガゴウからの圧が掛かり、ガレオは苦しそうに顔を歪める。その様子を見て、カラカラを笑うガゴウ。


「手筈はこれで。佐々木君と田中君は持ちそうですか?」


「ったりめぇだ」


「俺もいけるよ」


ガゴウとガレオがやり取りとしている間に、その隣では艮が田中と佐々木に作戦を伝えていた。そして、三人は息を整えてガレオの前に立つ。


もちろん、艮達が何か話し合っていた事にガゴウが気付いている。だが、それを止めるような事はしなかった。初めて対峙した時よりも、彼等の意思は強くなり、何よりも戦いに対しての迷いが消えている。

戦うか、戦わないか。ではなく、どうやって戦い続けるかの思考をしている事が読み取れている。


それは、ガゴウにとって嬉しいものであり、凄まじい勢いで成長としていく彼等に興味を惹かれている。どこまで強く、果てには自分を本気にさせてくれるかも知れない可能性に。


だからこそ。


「話し合いは終わったかぁ?」


コチラから手は出さない。仮に今、ナールズが突貫しようものなら自分がナールズを潰す。


その空気が伝わっているのか、ナールズも飛びかかろうとはしてこない。


「ガレオさん、魔王は私達がやります。なので、あっちの男性の方を頼んでいいですか?」


「できるのか?相手は魔王だぞ」


「やります」


「……そうか。であれば、ナールズは任せろ。

皆は魔物と魔族を一匹たりとも漏らすなよ!聖騎士隊は、聖魔隊を守れ!魔王は我らで相手をする」


「「「「「ハッ!」」」」


ガレオの声に返事を返した聖魔隊は、乱れかけていた波状攻撃を立て直し、後ろから隊列を組んでいた聖騎士部隊が前に出てて構えた。

ギルド員の者達も、各自の役割を確認し直して聖騎士や聖魔の者たちと並ぶ。


「準備はできたか?先手はくれてやろう。どこからでも来るがいい」


自分の威圧を振り払い立て直した者達の様子に、ガゴウは嬉しそうに両手を広げて構えようともしない。


隙だらけ。


それだけ余裕がある事を分かっている艮達は、気を抜かず、息を整え、敵を見据え。


「いきます」


駆け出した。

遅れてしまいました。

すみません。

田中くん達の戦闘……なんかすごい難しい。全然浮かびませんでした。



100話到達です!ブクマありがとうございます!

ここまでお付き合いありがとうございます!!完結されられるよう、これからもがんばります。

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