表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる王  作者: 慧瑠
冒頭
10/236

ぽかぽか。

拭いきれぬデジャヴ感。違いと言えば、隣に安藤が居らず、目の前を歩くメイドさんも一人ということだろうか…。


もちろんと言って良いのか分からないが、俺とメイドさんの間に会話はない。


どうしてこうなったか…。安藤曰く


俺が寝てから食事をしていると、メイドさんが数人部屋に入ってきて、代表で今後の流れを決めたいと申し出があった。

王が直々にしたいとの事で、時間が夜になると思うと告げられ。

新道、市羽、安藤の推薦により俺が王と話す事になった。


事になった。と安藤は言ったが、その事を告げる時の顔を思い出すと…意図的に俺にぶん投げた気がしてならん。

東郷先生も俺と一緒に出る意思を示したそうだが…俺が出ると決まった後で、何故かメイドさん伝いで東郷先生の参席は王側から拒否されたと言う。


目立った行動をした覚えはない。少しでも心当たりを探すとすれば、この眼の前のメイドさんに何かされて無効化してしまったぐらいなんだが…。

聞いてみるか。


「なぁ、メイドさん」


「何か不備が御座いましたか?」


俺が呼びかけると、メイドさんはピタリと足を止めて振り返り、俺の目をしっかりと見てくる。


こうしてしっかり見ると…澄んだ青い髪に、大きめの目。メイド服も違和感なく着こなし、日本人ではあまり見ないタイプの可愛い感じの女性だ。

そういえば、安藤の世話役のメイドさんも綺麗タイプで造形が整っていた様な気がする。


城に仕えているメイドだからなのか…それとも、この世界の住人の造形が基本的に高いのかは知らんが、元の世界に居ればスカウトで日々騒がしい日常を送りそうなぐらいではある…と思う。


「いや、不備とかじゃないんだが…。さっき初めて会った時、俺に何かしたか?」


まじまじと見てしまったが、それでも表情一つ変える事無く俺の言葉を待っていたメイドさんに対し、単刀直入で聞いてみる。

俺の言葉にメイドさんは、ピクリと反応し変わらなかった表情から、あの時の様に少しだけ目を見開いた。


「……お気づきでしたか。あの時は、ご説明も無しに失礼しました。

私は少し特別なスキルを所有しておりまして、対象のスキルを見ることができる'鑑定'を常峰様に使用しました。

'鑑定'は珍しいスキルではあるのですが、探せば居る程度で対策も存在はしております。


異界の勇者様一行と言うことで、興味本位で使用したのですが…常峰様は鑑定を阻害するスキルをお持ちのようで。

私の鑑定も、長年使っている為にレベルが低い訳ではないのですが阻害されてしまい、あの時は少し戸惑いを隠せなくなっておりました。


その事を不愉快に感じられたのでしたら、罰は何なりとお受けします」


深く頭を下げて謝罪をするメイドさんを見ながら、俺は今の言葉の真偽を考えていた。


おそらく、'特別スキル'を持っているというのと'鑑定'と言うスキルが存在しているのは信じても大丈夫だろう。

このメイドさんの特別なスキルが鑑定かは別として、特別なスキルのレベルが高く、俺がそれを無効化して驚いたのも事実か。


「いえいえ、不愉快とかではなく何かされた程度しか分からなくて、ちょっと気になっていただけですから。

あんまり堅苦しく構えないでください」


「ご恩情感謝致します。

お話の途中で申し訳ありませんが、王がお待ちですのでご案内を続けさせて頂きます」


もう一度頭を下げ、メイドさんは案内を開始した。


しかし'鑑定'か。岸もそんなスキルがありそうな事を言っていたな。

並木のスキルが鑑定と似ているのだろうが、ユニークの鑑眼が同等と考えるのは…おかしいと思ったほうが良いか。

となれば、鑑眼の真価はそこじゃ無さそうだな。俺のを例外として、阻害系のスキルを無効化できるのか…それとも、そのスキルの成長先まで見えていたりするのか。モノの綻びがどうのとかも言っていたが…もしかしたら、そっちが本命に近いかもしれんな。


「こちらで王がお待ちです。無礼の無いようお願い致します」


気がつけば目的の場所に着いたようで、メイドさんは注意を俺にした後に扉をゆっくりと開けた。


その先は絢爛豪華な装飾が…なんて事はなく。広いっちゃ広いが、シャンデリアが下がっているぐらいで、後は大きめのテーブルと椅子が数脚。カーテンは開かれ、外からは月が顔を見せている。


「お待たせいたしました。常峰様をお連れしました」


「ご苦労。下がってよいぞ。呼び出しがあるまで待機しておけ」


「はい」


メイドさんに退室を命じたのは、見覚えのある威圧感たっぷりのおっさん。おそらく、ログストア王。

その隣には、これまた見覚えのある同年代ぐらいの女の子…安藤からの情報では、王の娘で…リーファ・ログストアだったかな?

そして、座っている二人から二つ席を開けて座り俺を見ている筋骨隆々なおっさんが一人。


「お待たせしてしまったようですみません」


筋骨隆々なおっさんの名前は知らないが、この場に居るぐらいだしお偉いさんなのだろうと決めつけて俺は頭を下げた。


「良い。こちらの都合に合わせて貰っているのだから気にするな。

今後の事を話すとは聞いているのだろう?立ったままではあれだ…座りなさい」


「ありがとうございます」


王の言葉に礼を述べて、一番近い場所に座ろうと頭を上げた瞬間思う…。


威圧感満載のおっさん。王族の肩書に恥じぬ絵画の様な美しさを持つ同年代少女、そして筋骨隆々のおっさんの視線が俺の動きを捉えて離さない。


圧迫面接。


そんな言葉が脳裏を過るが、臆していても始まらないと気をしっかり持ち席に座り、背もたれに腰を預けて一息。

同時に、とりあえず会話の流れは相手に任せて進めようと考える。


「それで早速だが、話はどれ程聞いてるかな?」


「自分が聞いた分では、模擬戦を行い、訓練の後に慣れ始めたら実戦訓練を行うぐらいですかね」


「ふむ。確かに、それは君達の今後一月(ひとつき)の予定だな。

これは私の聞き方が悪かった。


君達を呼んだ理由については聞いているかな?」


おや?早速雲行きが怪しいな。


「魔王と魔神の討伐。それと、隣国とのいざこざの解消とは聞いていますが」


「隣国との件は、本来であれば君達には関係の無いことだが…魔王、魔神を討伐するにあたって彼等とは協力関係でもある。

国家間での問題は出てくるだろう。私達だけで、なんとかするつもりでは居るが…及ばぬ所も出てきてしまうだろう。

本来であれば君にこんな事を伝えるべきではないのだが、我が国も一枚岩ではない。君達まで巻き込んでしまい、すまないと思っている」


ログストア王は、頭は下げないが、心底申し訳なさそうに目を伏せ謝罪を言ってきた。

今の言い方からすると、いざこざは俺達がどうこうしなくていい。と王は考えているようだ。だが、それを許さないのが大臣共か。

俺達が大臣共の策略に巻き込まれるのは前提で、先んじて王は保身に走ったな。


信頼を得るために内状を晒したんだろうが、俺にとっては厄介事が露見した様にしか感じないな。

聞いていた話だけで一枚岩ではないのは分かっていたし、派閥が多少なりともあるとは考えていた。そして、今の王の口ぶりでそれが確定してしまった。


いや、この国に残る組にも、それなりに警戒はする様に言うつもりだったけど…それなりじゃなく警戒は高めるようにするべきと分かっただけでも儲けものと考えたほうがいいか。


「そう…ですね。

それに関しては自分一人の問題ではないので、簡単にそうですか。とは言えませんが、分かりました。

皆と相談して、どう立ち回るかは決めていこうと思います」


「本当にすまない」


一応深刻そうに返しておく。

深い意味は無いが、軽く返して軽視しているという印象を与えても良い方には動かないだろう。


「それで、自分にその事を話した理由は?」


「おそらくだが、魔王討伐中に隣国と戦争になる可能性がある」


「……戦争ですか」


あぁ…本当に厄介だ。

近隣国家遠征組は、これは中止かもしれないな。ログストア王が、今それを言うということは…その可能性がかなり高いはず。


…俺達が来る前にあった軍事国家がちょっかいを出してきたのが、実は結構大事だったのではなかろうか。


「軍事国家であるギナビア国が、ここ数日怪しい動きを見せている。

最悪の場合、すぐにでも戦争になりかねんのだ」


戦争がどうのより、そこまでの情報を早々に俺に教えてくる事が問題だ。


この王…俺を取り込む気か。


東郷先生がこの場に居ないのは、これが理由か…。俺達と東郷先生との関係は分かっているはず。東郷先生にこの話しをすれば、間違いなく'戦争'という言葉に反応して拒否の意思を示してくるだろう。

ならば、生徒の方から囲んでいく。


俺でもそうする。取り込みやすい所から取り込んで、後戻りができない所まで進める。そうすれば、東郷先生でも協力せざる負えない状況になってしまうだろう。


だが、そう考えて気になるのは…その相手を俺に絞った理由だ。あのメイドさんが俺以外の全員のスキルを確認して報告していたとして、何故詳細の分からない俺から取り込もうとしたか。


……。寝落ちしかしてないからなぁ。アホの子そうだわ。


「それを教えて頂けるのは、きっとありがたいのでしょうが…ちょっと自分だけでは、どう判断していいやら」


「そうだろうな。

ただ、その可能性があると言うことだけは覚えておいてくれ。


それで、次の話だが--」


ん?随分とあっさり話を終えたな。

取り込むにしても、子供相手ならもうちょっと小難しく情報を晒していたほうが、考える隙を植えられると思うんだが。

俺が王の目的を読み違えたか?


「どうした?」


「あ、いえ。戦争という言葉に少しビビってしまっているだけです」


「ハハハハ、可能性があるというだけだ。

私達もただ戦争する様な事態にはせんよ。できるだけ回避はするし、仮にそうでも君達を無理に使おうなどとも思っていない。

私としては、君達には魔王の方に力を入れて欲しいからな」


「戦うのは同じですけどね」


「それを言われてしまうとな…」


「ちょっとした嫌味です。失礼をしました」


「それぐらいは構わんよ。むしろ、それぐらいでいいのか?」


「無礼を働いて、あまり立場を悪くはしたくないので」


王は、初めて笑みを俺に見せた。

威圧感は抜け切らないものの、どこか柔らかく優しい笑みだ。


それなりに戦争を意識して、引き気味なのを伝えたものの追加で言ってくる事もない。

本当に何をしたかったんだ。


「立場か…。それは、私が保証しよう。余程の問題を起こさぬ限りは、そちらの要望も聞き入れるつもりでおるよ」


気前がいいな。

立場の確立は、王の言質が取れたにしても、向こうの要望が分からん。さてはて、どうしたものか。疑いすぎるのも良くないが、思考停止は論外だしなぁ。


「では、話を続けようか。

ゼス、あれを」


「ハッ!」


王にゼスと呼ばれた筋骨隆々のおっさんは、足元に置いていた袋をドスンと鈍い音を響かせながらテーブルの上に置いた。

その中から、紙束が数枚。バレーボールぐらいのサイズの水晶玉を五つ取り出して並べていく。


そりゃ、そんなデカイのが五つも入ってたら重たい音がするわけだ。ってか、持ち運ぶものなのか?その水晶玉。


「この魔具は、我がログストア国の機密技術の一つでな。

過去の映像を保存できるのだ」


つまりは録画か。


「さっきから思っていたのですが、良いんですか?そんなにほいほい大事な事を教えて」


「君を信用しての事だ。立場を悪くはしたくないのだろう?」


「そう…ですね」


機密と分かっていて、言えば立場が悪くなるどころか最悪拘束されたりするのだろう。


それを俺が察すると分かっていて…やっぱり威圧感だけの見てくれ愚王と言うわけでも無さそうだ。

残り二人の様子も見るに…機密技術と言っても、その製造過程は分からないし、見せる程度ぐらいなら問題のない物なんだろうな。


「まぁ、内緒にはしておいてくれ。

それでは続けるぞ。これはある映像を既に保存してある。先に、その映像を見てもらいたい」


目配せで王がリーファ・ログストアに合図を送ると、娘は一度だけ頷いて一つの水晶玉に触れた。


どうやら、娘が水晶玉を起動させる鍵の様で、娘が触ると水晶玉は淡く光りだし、空中に映像が流れ始めた。

無駄に近未来だなぁ…。と思いながら見ていると、映し出されたのはどこかの森林。


無数の兵隊が画面内に映っているが、数の把握は難しい程に多い。そしてこの録画アイテムは、音声まで録音してくれるらしく聞き取れる会話からして魔王討伐の遠征部隊っぽいな。


ただ、音声に関してはノイズがかなり多い。ブツブツと切れる会話から聞き取れたのが

'魔王' '二週間の道のり' '強敵' '視察' などの単語。

つまり、この水晶玉の数からして、五体の魔王の姿は確認されていて、それを見せられると考えていいのだろう。


視線をまだ見ていない水晶玉から、映し出されている映像へ移動させると…。


「なるほど…魔王」


木々が根こそぎ無くなり、拓けた中央に空を見上げ立ち尽くす女性が一人。

その女性が、兵達の方を向き直った事で正面を見れた。


出るとこ出て、引っ込む所引っ込んでる身体を包む服は、肌の露出が多めの服だが、デザインされた様にボロボロで、腰元から広がる様に下へ伸びる黒いドレス。

風に靡く銀髪は、所々がおそらく乾いた返り血で変色している。目の本来白い部分の強膜は黒く、少し縦長の瞳孔。その瞳孔と強膜の間にある虹彩は妖しく赤く光っている。


そして…つまらなそうな表情のまま放たれる威圧感。

映像越しからでも、一瞬身体が強張ってしまう程。


あれが魔王じゃないと言われると、正直反応に困るが、映像から漏れる声から察するに魔王で間違いは無さそうだ。


『……!…魔王!……だ!!』


『またか。我は興味がない。貴様等にも、魔神にも』


不思議と魔王の声はハッキリと聞こえた。

いや、どうにかして映像の中の魔王は、ハッキリと聞こえる様にしたのかもしれない。


映る兵達ではなく、画面越しに居る俺達を見据える様に告げられた言葉と共に、武器を構えた兵と無数の魔法が魔王を襲った。

瞬間…赤黒い剣の空間から取り出した魔王が一振り。それだけで魔法はかき消され、剣の軌道上に居た兵士達は断ち切られていた。


リーチが届いていたとは思えないが、水晶玉の映像は地面から見上げる形になり、映し出されている周囲は真っ二つになった兵が転がっている。

射程外に居た兵士達は、戦意喪失して後退している様子も見えた。


『人形や雑兵を寄越すぐらいなら構うな。我とて無駄に殺す気は持たん』


魔王の言葉と共に映像は消えた。


「これが、第一の魔王'メニアル・グラディアロード'です」


仕事を終えた水晶玉をゼスに向け転がしながら娘の方が言った。

第一の魔王か…はっきり言って、剣を何気なく振った以外に全く分からなかったんだが。コレが後四人。


「一つ聞きたいんですが、この映像に映っていたのは雑兵なんですか?」


「数人はギナビア国が用意した捨て駒で、残りはあの場より遠くから遠隔操作されているゴーレムだ。

他の映像に出てくるのも似たようなものでな。この映像を取るだけために部隊を組んだのだよ」


「だから人形ですか…」


それにしても、簡単に捨て駒と言ってくれる。

郷に入っては郷に従えと言うが…人の命が随分と軽い世界だ。

何より…あの惨状を目にして、自分の反応が考えてた以上に薄い。捨て駒と言われても…そうか、捨て駒か。と納得してしまった。


「あぁ、すみません。質問は最後にするので、進めてください」


「分かった。リーファ」


「はい」


それから二個目、三個目…最初のも合わせて計五個の映像を見た。

どれもこれも映像を取りに行った部隊はほぼ壊滅。善戦した部隊などはなく、一方的に魔王が蹂躙するだけの映像。


最初の女型から始まり、順に男型、鬼のような二メートルは越えている巨漢、ヘドロの様な形が曖昧な奴、んでアホみたいにデカイ何か。


一閃、一撃の巨大な魔法、千切っては投げ千切っては投げ、その不確定な形状に飲み込まれ、ただの一歩。様々な結果で映像は終わっている。


「以上が五体の魔王です。

魔神に関しては姿が確認されては居ませんが、長年の争いの中で、魔族や魔王の発言から彼等の長として居ることだけは確認されています」


あれ以上の化物が存在していると…。

ユニークスキルは強力だとは思うが、あれをどうにかできるとか思えん。会った瞬間殺されるイメージしか湧かないな。


娘の説明に頭を抱えていると、背後で扉が開いた音がした。

振り返れば、可愛らしい水玉のパジャマに身を包んだ小さな女の子が立っていた。


「おねぇちゃん……」


小さな女の子は目をこすりながら、部屋の中を見渡し、眠そうな声で呟いた。その姿と言葉に反応したのは、王の娘だ。


「チーア、起きたのですか?」


「んー…おきゃくさん?」


チーアと呼ばれた小さい女の子は、視線を俺で止めて聞いてくる。


「あ、あぁ…常峰とこね 夜継やつぐだ」


「ちーあです!」


咄嗟に自己紹介をしてしまったが…そのなんだ…子供の扱いが分からない。


突然現れた幼女に困惑しながヘルプを求めて王や娘に視線を流すが…


「おぉ!自己紹介ができたな!偉いぞ!」


「いい子ですねチーア」


見たことねぇ笑顔でニッコニッコなんだが。この親ばか共。

今は、大事な話の途中だろうに…。


二人は使えないと考え、残るゼスを見るが…コイツもダメだ。いかっつい顔を綻ばせて頷いているばかり。


口には出せないが、口が悪くなりそうなのを押さえ込んでいると、服が引っ張られる感覚がした。釣られて見れば、幼女が俺を見上げている。


「ちーあ、じゃま?」


瞬間背中に刺さる視線。

これはあれだ。回答ミスったら、完全に殺されそうな凄まじいプレッシャー。


「い、いや?邪魔ではないよ。話は終わった所だしねハハハ」


終わってない。何一つ終わってない。が…この背中に襲いかかっていたプレッシャーが軽くなったことから考えれば、きっと俺は正解を引いて話は終わった。


幼女は俺の答えを聞いて、にへらっと無邪気に笑って言う。


「おひざ、すわっていい?」


再度、背中に掛かるプレッシャー。


これは…どう答えるのが正解なんだ。許可するのが正解なのか?いや、しかし…いきなり他人の娘を膝に座らせて良いものなのか?警戒心をだな…


「だめ?」


幼女からの追撃。

……拒否したら、泣かれそう。


「大丈夫……なんじゃないかなぁ……?」


「やった!」


曖昧な回答を肯定と捉えた幼女は、よじよじと俺の膝へ登る。俺は、そんな幼女を落ちないように最低限支えてることしかできない。


いやそうだろ?抱きかかえていいものかすら分からねぇって。


よじよじと登り終えた幼女は、そのまま向きを直してすっぽりと俺の膝の上に収まった。

俺は両手を上げ、そのまま椅子を回転させて王達へ向き直る。


「ハハハハ!良かったなぁチーア」


「羨ましいですねぇ」


「えへへ~」


仲睦まじい親子と姉妹の会話。それに同意する様に頷く筋骨隆々のおっさん。

頼むから、俺を助けてくれ。

小さい子は…見る分には良いんだが、扱うのは苦手なんだ。


そんな俺の願い虚しく、膝に座る幼女と談話を楽しむ二人。それを見て楽しむおっさん。


俺は、諦めた。

両手を上げたまま、そっと目を閉じる。


しかしあれだな。この幼女、膝の上に座ったから何かするのかと思ったが、非常に大人しい。

楽しそうに王や娘と話してはいるが…完全に俺に身体を預けて動かない。そして何というか…子供ってあったけぇ。


真面目だった空気から、急にほんわかアットホームな空気に変わり、この温かさが膝上に来るとか。

まぁ、目を閉じた時点で俺は気付くべきだった。


抗う暇もなく、暖かいぽかぽかな心地よさから…俺は寝てしまった。

やっとチラッとだけど魔王が出せました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ