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向こう側 - 1
この山には、天狗が棲むと噂されている。
無論、ここの獣に口がきける筈もなく、従ってそんな噂をしてるのは、山のすぐ隣に広がる里の人間どもだ。
その山を、頻繁に訪れるガキがいる。どうかすると数日おきに、時にはすっかり暗くなってからの事もある。訪問の大半は、オレの姉であり、この山の主でもあるロクデナシから聞かされて知ったが、たまにオレ自身が、寝静まった山の中に、微かに混ざる気配を感じ取る日もあった。
夜の山に無防備なガキが踏み入るなんざ、自殺行為だ。ガキでなくても自殺行為だ。まして天狗がいると噂の山だぞ。噂だけじゃなくて事実いるんだぞ。しかもガキはその天狗に会ってやがるんだぞ。これでどうやったら山に行こうなんて気が起こるのか、オレにはさっぱり判らない。
蛇であるオレに人間の思考なんざ元々判る訳もねえが、こいつはそういう問題じゃないだろうよ。
ガキは山道を歩いて、毎回決まった場所で屈んで手を合わせては、また里へ帰っていく。そいつは、少しばかり前にそのガキが勝手に作っていきやがった、お粗末な祠もどきの前だった。




