崩落 - 1
寒風が吹き抜ける。
木枯らしの名を持つ割に、風の大部分は厚い樹木の層に受け止められて防がれ、懐に届くのはごく僅か。これでは到底枯らすとまではいかず、だが日増しに厳しくなる寒さを跳ね除けるとまでもいかない。
山に冬がやって来た。
明白な区切りはいつだって曖昧で、一旦意識した時から先は恐ろしく早い。昨日より冷えたなと思う日が、昨日と同じくらい寒いなに変われば、もうあっという間。
秋の日が落ちるのは、早いどころの話じゃない。ぶるっと身震いする大気が、それこそ刃の鋭さを備えるのに、さして時間は要らなかった。身を呈して木枯らしを受け止めていた頼もしい葉も、やがて一枚、また一枚と力尽きて散っていく。
捲れた樹皮の隙間に隠れ、守ってもらおうとする者。
幹に開いた穴に、あるいは岩肌の洞穴に身を潜める者。一旦その体を捨て、春に目覚める新たな命を待つ者。凍える刃に切り裂かれるのが嫌な連中は、とっくに安全圏へと姿を眩ませている。
山に生じゆく変化を、オレはほとんど初めてと言っていいほど真面目に、細部まで視認していく事ができた。例年通りに、半分眠りながら惰性で受け流す訳にはいかない。そうする理由があったからだ。
やたらと忙しく顔を隠してしまうようになった太陽を、今日もまた見送る。あいつ自身はあんなに暑苦しいってのに、よっぽど外の寒さが嫌なのか。矛盾した奴だよと思う。
そして夜。
真っ暗な闇の中だと、寒さはより増す。もはや厳しいを通り越し、激しいの域だ。一応は妖の身、たかがこのくらいで命を脅かされはしないが、寒いもんは寒いな。
あいつも、今頃眠っている頃か。
オレの全身を覆う、白い鱗が目に入る。霊性など弱くとも、それは自ら淡く光を放っているかの如く、暗闇にぼうっと浮かび上がって見えた。
姉のものに似ていると、ふと意識した。




