魔法でしたわ
兄と2人で午後のお茶を頂く。
「それにしてもおかしいよねえ。アイツらも決してバカじゃない。
頭は良かったはずなのになんであんなのにコロコロ騙されるんだ」と兄が言う。
「惚れた弱みですかねぇ。そんなに魅力的な子ですか?」
「わからん。女から見てどうなんだ?」
「あのピンク頭は変だな~とか。魅了の魔法でも使ってるんじゃ?とか」
「魅了の魔法はやっかいだが…普通は封じの魔道具を持ち歩いているはずだぞ」
「魔道具?」
「お前や俺の耳飾りとか、そういえば」兄がいきなり走って出ていった。
数日後、国を騒がせていた騒ぎは落ち着いた。
リリアンヌは禁忌の魅了の魔法を使った罪で捕まった。
結局、例の誘拐騒ぎも自演だったらしい。
言葉巧みに魔道具を外され、操られていた王子達はたっぷりお説教をされた。
学園ももう少しで落ち着くだろう。
庭でリュートを弾く。
しばらくすると、最初はおずおずと、だんだん力強く笛の音が響いてきた。
いつものデュエットの時間だ。笛の奔放で力強い音色が庭の中に響く。
リュートの音色が笛の音色を優しく包み込む。
周囲が暗くなってきたのでリュートを弾く手を休めると、隣にフルートを持った男性が座った。
金髪にトビ色の瞳、逃げようとしたら腕をつかまれた。
「まだ、僕の事思い出せないの」
「あなた、誰?」
「リュート…君の婚約者だ」
「婚約は解消したはずよ。それに私、貴方の事、何も覚えてない」
強引にリュートに抱きしめられた。
「絶対に婚約解消なんてさせない。覚えてないならこれから覚えれば良い」
抵抗できなかった。だってリュートが、私を抱きしめるリュートが震えてたんだもの。
「思い出だって、これから一生かけて、いっぱい作っていけばいいから」
リュートが泣いている。
ああ、男の人でも泣くんだな・・・と思った。