悪役令嬢ですって
赤い物が飛び散る、突然の激しい頭痛に耐えられず私は座り込んだ。
目の前に立ち、私を睨み付ける男性。
男性に腕にはマスコットの様にピンク色の女の子がくっついている。
男性が叫んでいる。どうも私を攻めているらしいんだけど…
「あんた誰?…」と口にした後、私の視界は真っ黒になった。
目が覚めると、視界に広がる豪華な布、天蓋付きベッドだ。
あれ?天蓋付き?
私、昨日駅を歩いていたらナイフを持った人が…あれ?駅?
昨日は私は初めての舞踏会に出て、白いデビュッタントの衣装を着ていた。
突然ワインを持った女の子がぶつかってきて衣装を汚された。
混乱していると扉を叩く音がして、返事をすると、綺麗な男の人が入って来た。
お兄さまだ…あれ?
私の兄って家ではTシャツに柄ステテコ、こんな綺麗な恰好はしないはず…
「アン!大丈夫か」
叫び声が遠くで聞こえ、私の視界はまたブラックアウトした。
二度目に目覚めた時は日が高く上がっていた。ゆっくり起き上がる。
視界に映る細くて白い手、リネンのネグリジェにこぼれる金色の巻き髪。
鏡に映る顔は、子供の頃から親しんだ顔。
あれ?私は真っ黒のストレートロングヘア―が自慢だったはず。
壁に立てかけられたリュートを手に取り何気に弾き始める。
柔らかくも芯のある音色が広がる。
弾いているうちにストンと納得した。
日本の会社員だった前世、貴族の娘に産まれた今世。
幼い頃に決められた婚約者、婚約者を支える淑女になる為の厳しい教育、
デビュッタントとなる舞踏会に婚約者はエスコートしてくれなかった。
婚約者には知らない令嬢がくっついていた。
がっかりする気持ちを隠して、知人の令嬢と王子とのダンスを待っていた。
婚約者にくっついていた令嬢がぶつかってきてワインをかけられた。
なぜかそれを私のせいにされた。
思い出したら軽くイラッとする。
リュートが険悪な音色を立てる。
婚約者の事を思い出そうとしたがうまく思い出せない。
名前はなんだっけ?どんな顔だっけ。
二次元の派手な水色の髪に水色の目、張り付いた笑顔、
ヒロインを口説くときの甘いセリフ…
「あ、もしかしてこれ、乙女ゲームの世界」
リュートを弾く手が止まる。
これ、前世やった乙女ゲームの世界だ。