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情報

その部屋は、彰の執務室の半分ぐらいの大きさの、こじんまりとした部屋だった。

その部屋の正面にある大きな机の前で、じっと画面を見つめて黙っている男が居た。博正がクリスと呼んでいたが、どう見てもこの男はアジア人だった。

だが、もしかしてアジア系のアメリカ人かもしれないので、要は黙っていた。

博正と要が入って来ると、クリスは画面から目を上げた。

「…博正。それが要とかいう子か?」

あまり友好的ではない。

博正は、頷いた。

「そんな目で見るなよ、ジョンがこいつに知らせてお前に知らせなかったからって。」と、要を振り返った。「要、これがクリスだ。ま、見て分かるだろうが、日本人だ。」

この人も偽名か。

要は思ったが、軽く会釈した。

「立原要です。」

クリスは、しかし博正に言った。

「別に誰に知らせないだのそんなことを気にしてなどいない。私はここに居るのだから、何かあったらすぐに知れるだろうが。部外者に分かることではないからな。」と、側の椅子を示した。「座れ。」

感じが、彰に似ている。

要は思った。相手は、憮然としたまま言った。

「…一応、ジョンが知らせたのだから情報は共有しよう。あれはヨーロッパの某組織の戦闘部隊だ。だが、ここの組織とは懇意でな。以前にも一度こんなことがあったんだが、あの時は戦闘員の一人の暴走だったのであちらは感知しておらず、被害者も生存していたので事を荒立てなかった。だが、今回もだ。あちらも呆れていて、今回はさすがに処分してくれていいと言って来た。なので、見つけ次第処分しようと思っているが、場所が特定出来次第突入許可を与えてある。捜索隊のGPSが真っ直ぐに山奥へと向かっているので、真司の鼻がそこへ誘導してるんだと思う。」

要は、身を乗り出した。

「その受信機のシグナルを教えてもらっていいですか?」

クリスは、眉を寄せた。

「何をするつもりだ?行っても我々など役に立つまい。頭ではどうにもならないこともある。戦闘は専門家に任せるんだ。」

要がそれを聞いてためらっていると、博正が横から言った。

「いいじゃないか教えてやれよ。オレも行く。真司がむちゃしないか心配でな。いくら人狼でも、一匹じゃ難しいこともある。」

クリスは顔をしかめて気が進まないようだったが、側の紙にさらさらとメモると、それを博正に渡した。

「…邪魔をするなよ。一刻も早くジョンを連れ戻らないといけないんだ。」

博正は、それを受け取りながら、頷いた。

「わかってるよ。あいつの薬のことは、お前聞いてるか?」

クリスは、首を振った。

「ジョンは自分の細胞に合わせて組み替えて作っていたからな。実験的なことをしているから、今度襲撃されたら試してみたいとか、冗談で言っていたのに。まさか、こんなに早くその時が来るとは。」

「実験って…何をしようとしてたんだろう。」

要が、不安げに言う。クリスは、そこで初めて要を見て、また首を振った。

「わからない。あの人は、我々には理解出来ない考え方をして行動する。自分を検体にするなんて日常茶飯事だ。それで初期のいろいろなデータは取ったが、もっとデータが欲しいと人を使うようになって…また変な薬を使っていたらと、気が気でない。早ければ対応のしようがあるかもしれないし、とにかくここへ早く戻して欲しいのだ。」

クリスは、心配なのだ。

要は、自分と同じ気持ちで彰を心配しているクリスに共感を持った。なので、歩み寄るとその手をぐっと握った。

「きっと、ここへ連れて帰ります。まだ、今の研究の方向を正しいと言ってもらってないし。」

クリスは、驚いたようだったが、要の目に何かを感じたらしい。やっとフッと笑うと、言った。

「大きな口を。偵察部隊の邪魔にならないようにな。」

要は頷いて、自分の時計を見た。カウントダウンが9時間46分になっている。急がなければ…。

そして、博正と共に、偵察部隊のGPSを辿って研究所を出て行った。


その道は、予想以上に険しかった。

それでも、急いで来たのが幸いして要は愛用のランニング用スニーカーに伸びるジャージ素材のズボンを履いていたので、少々の無理な動きは平気だった。

ボストンの寒さを考えて上は重装備だったが、それも脱げば問題ない。博正と要は、研究所の浮き上がるスクーターに乗って、その道を進んでいた。

このスクーターにしても、市場に出ればそれなりに需要がありそうな代物だったが、それでもこの研究所で開発されたものは、滅多のことでは公には出ない。

データを系列の会社や病院などへ、完璧な状態になったら送ることもあるが、ここでは試作の段階では基本、外へは出さないと聞いていた。

だが、要は山道のデコボコも物ともせず浮いて進むこのスクーターだけでも、出せばいいのにと思っていた。

先を行く、博正の背が遠くなる。

要は、考え事をしていてスロットルの手が甘くなっていたことに気付き、急いで力を込めようとした。

その時、何かが自分の耳元を掠めて行った。

「?」

要は、首筋に触れた。何かが…。

要は、そう思ったところで、一気に自分が暗闇へと突き落とされるのを感じた。スクーターはまだ走り続けていたが、後ろに何かが飛び乗って、代わりに運転しているのが分かる。

…博正…?

要は、そう思ったのを最後に、何も分からなくなった。


しばらく博正はGPSを確かめながら前を見て進んでいた。

このスクーターの、低いモーター音だけが聴こえて来る。だが、このモーター音が曲者で、博正たち人狼の耳には、かなりの騒音になって聴こえる。

そのせいで、回りの状況が音で聞き分けづらかった。

後ろからついて来ている要が、遅れているようですぐ後ろに感じないのに気付いた博正は、スピードを緩めて振り返った。

「おい、早くしないと…、」

言いかけて、博正はそこで止まった。要の、姿がない。

ついさっき振り返った時には、確かに後ろに居たのに。どこかでトラブってるのか。

博正は、舌打ちした。このスクーターは便利なのだが、時々なんたら波とかいうものの異常で止まるとか、ジョンが言っていたのを思い出したのだ。

そのなんたら波が何なのか、博正は理解するどころか聞くことすら放棄していた。ここにあって、こうして動いているのが事実なんだから、それ以上に何が要るってんだ。

博正は、来た道を戻りながら、そう心の中で毒づいていた。

来た道は下りになるので、いくら浮いているとはいえ慎重に進んでいたが、要の姿はなかった。

「要!どこだ!」

博正は、声を上げる。

だが、その声は静寂の中で消えて行くだけで、いくら待っても答えはなかった。何があったのか分からないまま、博正は尚も道を戻り続けていると、途中、グレーのジャンパーが落ちているのに気付いた。

博正が急いでスクーターを地上へと下ろし、それを拾い上げると、それは間違いなくさっきまで要が着たいたもので、日本では暑いからと脱いで荷台に押し込んでいたのを博正は思い出した。

まさか…。

博正は、息を詰めた。まさか、要は連れ去られた?スクーターで走っている状態で、どうやって?!

スクーターに搭載されているGPS読み取り装置は、まだ捜索隊の居場所を指している。

博正は、どちらにしても敵に連れ去られたというのなら、捜索隊に合流するしかないと思い、急いでスクーターに跨ると、捜索隊を追って真っ暗な山道を疾走して行った。

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