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執着

空港に降り立った要は、そこからすぐに案内されて同じ空港内からヘリコプターに乗せられた。何を聞かれるわけでもなく、何もかもが用意周到に進められていて、要は逆に不安になった。もし、彰を捕らえた組織に連れ去られていたならどうしたらいい?

だが、不安に窓の外を眺めること数十分、眼下に山々が連なる場所がいきなり現れて、その奥深くに、病院のような、学校のような建物が見えて来た。

幾つかの棟に分かれており、木々の間に見えたり見えなかったりする。地形をうまく利用して、上空から見ても目立たないように作られているらしかった。

そのうちの一つの棟の屋上にヘリポートがあり、そこへとヘリは降りて行った。

もしかして、ここが彰さんの働いている施設?

要は、じっと造りを頭に入れようとしていた。彰は、決して自分の居場所を教えてはくれなかった。あくまで、ここへは時期が来たら自分が呼ぶと言っていたのに。

ヘリが到着してドアが開けられ、要が降り立つと、後ろから一緒に乗っていた人が荷物を手に持ってこちらへ渡してくれた。それを手に、屋上から階下へ降りる階段がある方へと歩いて行くと、そこから、博正が出て来た。

「よう要。久しぶりだな。お前にも緊急連絡が行ったんだって?アドラーから連絡があったって。」

要は、頷いた。

「彰さんは?」

博正は、苦笑した。

「お前は口を開けばそればっかだな。ああ、ジョンなら連れ去られた。」

要は、顔色を青くした。

「連れ去られたって…どこへ?!」

博正は、階段を降りながら言った。

「それを調べてる。ここの組織の奴らは優秀だし、オレと真司は人狼だ。鼻が利く。真司は変化して警備隊と一緒に調査に出てる。オレはお前が来るからここへ残って説明してやれと真司が言うからお前を待ってたんだよ。」

要は、頷いて時計を見た。ボストンからそのままの時計は宛てにならない。なので、通り過ぎた部屋の掛け時計を見た。22:48か。

「薬を投与してから、もう13時間55分経ってる。」

博正が、顔をしかめた。

「ああ?ボストンからここまで13時間なのに?」

要は、首を振った。

「これでも空港で待ち構えてた職員に入国審査滑走路上でしてもらって、そのままヘリで来たんだよ。」と、腕時計でタイマーをセットした。「あと、10時間5分しかない。それまでに彰さんをここへ連れて帰らないと、蘇生が難しくなる。それが今の、あの薬の限界だから…。」

要は、考え込んだ。彰も、ここからは研究が遅々として進まないとイライラしていた。24時間経っても蘇生出来るだけでもすごいことだが、彰はまだその上を目指していたのだ。この薬品さえあれば、事故でいきなり死ぬことも少なくなると言って…。

博正について歩いて行くと、博正は明らかにこれまでは、IDカードで出入りを管理していただろう棟へと足を踏み入れた。

というのも、今は入口が吹き飛ばされていて、見る影もないが、微かに感知装置などが天井に残っているのが見えたからだ。

爆破した手段は何だから分からないが、それでもかなりの勢いだったのは見て取れる。

博正は、要の視線を感じて言った。

「まあ好き勝手しやがったんだよ、今度の襲撃者は。」博正は、歩きながら説明した。「外からハッキングしてセキュリティーを破ろうとしたみたいだが、ここのセキュリティープログラミングは外から破れるほどやわな造りじゃねぇからな。ジョンが構築に一枚噛んでたし、普通じゃないんだ。結局警報機の鳴動を止めることしか出来なかったみたいだが、強硬手段で正面から爆破しまくって奥へ進んできやがった。」

要は、奥へと侵入犯が通った道筋を博正と一緒に歩きながら、その凄まじい様子に相手の彰に対する執念を見たような気がした。ここまでして、ごり押しで彰を目指したのか。

「犯人の目星はついてるの?」

博正は、頷いた。

「あいつらは不運だったんだよ。オレ達が居たからな。」と、博正はクッと笑った。「どんな武器を持ってても、扱うのはヒトだ。そのヒトが動揺しちまったら、まともに機能しないんだ。あいつらがジョンを連れてここを離れようとした時、オレ達は目の前で人狼に変化した。そんなものを見たことがなかったあいつらの動揺ったらなかったね。照準は合ってないしあれじゃあオレ達を仕留めることは出来ないな。何人か噛み殺したが、数人は急所を避けて噛んだから生きてる。だが、その隙に数人はジョンを連れて逃げちまってな。」

要は、歯ぎしりした。

「でも、警備員はどうしたんだ?」

博正は、息をついた。

「そこはあんまりここでは充実してないからな。民間から雇ってて、皆殺しにされてたよ。事が起こって本部から派遣された奴らが、真司と一緒に追ってった。」

要は、息をついた。確かに、普通はこんな山奥の研究所を襲うようなヤツは居ないのだ。しかも、ここは日本。銃刀法があり、持ち歩ける武器も限られている。それなのに、こんなことが起こるなんて誰が考えられただろう。

そうして居るうちに、大きな執務室へと到着した。大きな両開きのドアは、物の見事に吹き飛ばされている。中を見ると、奥に大きな机があり、回りの椅子などが倒れていた。

「ここが、ジョンの執務室だ。」

要は、そこへ足を踏み入れた。

彰らしい。

そう思ったのは、作り付けの本棚には本が一冊も無かったからだ。

彰は、本は手元に置くものではなく、頭に入れるものだと言っていた。つまりは、無駄なスペースを取る本を、彰はここに置かなかった。

机の上には、一つのパソコンから三つのディスプレイが繋いで置いてあり、レーザー式のマウスが一個置いてあった。

回り込むと、机の下にはスマートフォンが落ちていて、踏まれたのか画面が割れていた。要はそれを拾い上げた…恐らく、これから送って来たのだ。

博正が、言った。

「時計が無残な姿でその辺に放り出されてあったが、そこにいつも仕込んであるあの薬品は綺麗に無くなっていた。だから、ジョンは今俗に言う仮死状態ってヤツで、あいつ自身が何かして向こうから逃れて来るのは無理だ。」

要は、博正を見た。

「いつも薬を持ち歩いてるの?」

博正は、頷いて自分の腕を見せた。

「オレ達もそう。命を落としそうになったら、これを押す。」と、時計の横のネジを指した。「そうしたら、手首にガッツリ針が刺さって中に仕込んである薬が一気に血流に乗る。あとで体さえ回収してもらえたらそれで復活出来る。ただ、ジョンはこの薬を自分のいいように変えてたからな。どんな風にしてたのかオレ達にも分からないが、普通なら体に入ったらすぐ回って一瞬で気を失うんだが、遅効にしたりしてらしいしな。あいつは自分の体の細胞のことは、一番よく知っていたし、好き勝手してたらしいし。」

それでも、24時間は動かない。

要は、ため息をついた。このままじゃ、時間が無くなって彰は死ぬ。

「情報が欲しいね。」

要が言うと、博正は頷いた。

「ああ、もう終わってる頃だ。クリスの所へ行こう。」

博正は、さっさと廊下へと出て行く。要は、それを追いかけながら言った。

「クリスって誰だ?」

博正は、歩きながら答えた。

「ジョンの部下だよ。ボストンに居た時の知り合いらしいけど、お前と同じジョン崇拝者の一人。どんなに邪険に扱われても、ジョン命なんだよ。そんなのがここには数人居るんだ。頭いい奴ってのはどっかおかしい奴が多いんだよなー。」

要は、顔をしかめた。

「どこかおかしいってなんだよ。知らないことを教えてくれる人なんてそんなにたくさん居ないんだ。貴重な人だよ、彰さんは。」

博正は、はあと大袈裟にため息を付いてみせた。

「あのなあ、普通は親兄弟でも知らないことは教えてもらえるもんなんだよ。お前達の頭の中が高度だからそうなるの。で、ジョンの崇拝者が捕まえたボスの仇にどんな仕打ちをするかもわかるよな?」

要は、ハッとした。そうだ、ここは世界でも稀に見る高度な研究施設なのに。

「薬品を使うんだよな?」

博正は、頷いた。

「分かってるじゃないか。」と、暗い笑みを浮かべた。「殺してやった方が良かったぞぉ。あいつらの恐怖に引きつった顔は見ものだった。クリスはその薬品の効能をとっくりと、だが迅速に聞かせてから、顔色も変えずにぶっすりやった。それからすぐお前が着くと聞いたから、オレは上に上がって来たし内容は聞いてない。」

要は、黙って頷いた。

情報が欲しい。クリスが何かを聞き出したなら、そこから居場所を突き止めよう。

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