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復活

カミラは、明るくなって辺りがはっきりと見えて来る空に、覚悟を決めた。もうすぐ、ジョンのタイムリミットだ。まだ数時間残っているが、ここは足元が険しい山の中。ここから研究所まで運んで行くには、かなりの時間が掛かる。それから急いで蘇生に入っても、恐らく間に合わないだろう。

『ジョン…向こうでも、きっとあなたは私を拒絶するでしょうね。』

カミラは、言ってジョンに唇を寄せた。これだけ長い間愛して来たのに、一度もその唇には、口づけたことがなかった。カミラが頬を寄せると、ぐらりとジョンの体がかしいで横に倒れた。あと少しで触れる所だったのに…。

『…あなたは、死んでいてさえ私を拒絶するのね。』

カミラはそう言うと、フッと笑って立ち上がった。そう、このままがいい。自分に似合いの最期だ。

カミラは、銃を抜くと、撃鉄を起こした。そして、自分の頭に当てた。

あなたに認められなかったこの脳細胞ごと、私はあなたと共に逝く。

最後まで瞳にジョン姿を映して置こうとじっと目を見開いたまま、カミラは引き金に掛けた指に力を込めようとした。

その時、脇から何かが転がり込んだ。

『…なに?!』

カミラがそちらへ銃口を向けると、そこには、要がもう泥だらけになった姿で立っていた。ジョンの体の前に、庇うように飛び出して来たのだ。

『カミラさん!どうか、生きることを考えてください!こんな、終わりばかりを考えないで!』

カミラは、驚いた。もう、追いついて来たのか。

そして、要に銃口を向けたまま、フッと笑った。

『あなたに何が分かるの。私はもう、長い間この人に囚われて来たのよ。24歳のあの時から、もう8年間もね。』

要は、驚いた。カミラは、32歳なのか。

『あなたはそんなに綺麗なのに、どうしてジョンだけに固執したんですか?確かに、この人は悪い人かもしれませんけど、本人に自覚はありません!ただ…本当にただ自分に正直で、とんでもなく頭が良いだけなんです!もし、つらいのなら、あなたの記憶を消すことだって出来ます。綺麗さっぱり忘れてしまえば、何もつらいことは無くなる。』

カミラは、悲しげに笑うと、首を振った。

『あなたに私の気持ちは分からない。私は、ジョンのことを忘れたいと思ったことは無いわ。苦しいのに、この人を忘れるぐらいなら死にたいとまで思うの。矛盾しているのに、どうしようもない。一緒に死ねたら、きっと楽になる。』と、銃を構えた。『邪魔をしないで。もう間に合わないわ。ここからジョンを連れて山を下りて、そこからもしヘリで運んだとしても蘇生には間に合わない。この人は死ぬ。私も死ぬわ。あなたが邪魔をするなら、一緒に死んでもらうわよ。』

要は、首を振った。

『死ぬ死ぬって!ジョンはヒトを生かす仕事をしてるって、いつも言ってた!あなただって、そんな仕事をしてたんじゃないんですか!そんなあなたが、ジョンを好きだなんて、認めてもらおうなんて、無理なんじゃないんですか!』

カミラは、ハッと目を見開いた。微かに照準がずれる。要は、その腕に飛びついた。

『!!』

カミラは、勢いで要と共に横へと転がった。銃は撃鉄を起こしたままの状態で、滑って転がって行く。

要は、必死に組み付いて来るカミラを振り払おうとして暴れた。カミラは、その細い体で驚くほど力が強い。要は、反対に一心不乱にカミラの体に抱き着き、その動きを止めようとした。

何度も、鈍い痛みが背中に走る。カミラが拳で殴っているらしい。それでも、要は離さなかった。早くこの人を何とかして、クリスに彰さんがここに居ると知らせないと…!

カミラは、わざと要を押して倒れた。要は、カミラの下敷きになる。急いで体を回転させようとするが、カミラは体を起こして要を上からガッツリ足で挟むと、腕のポケットへと手を滑らせて、そこからナイフを出した。

刺される…!

要は、思わず頭を庇った。その時、ガーンという音が響いた。

何が起こったのか、分からなかった。

要が恐る恐る腕を除けると、そこにはカミラが、愕然とした表情で向こう側を見ていた。胸には、弾痕がある。

『カミラさん…?』

要が、急いでカミラの視線の先を見ると、転がっていた彰が、地を這いずるような形で銃を拾い、撃ち出していた。

「彰さん!」

要は、カミラの下から這い出し、彰の側に駆け寄った。顔はまだ真っ青で、長く体を起こしていられないのか、要がこちらへ走って来たのを見て、銃はその手から転がり落ち、また地面へと突っ伏した。

「彰さん…!どうして?!薬は、仮死状態を維持するだけなんじゃ…!」

背後では、カミラが地面にどうと倒れた音がした。彰は、要に助け起こされながら、真っ青の顔でガクガクと震えながら言った。

「…試作品、でな。私の細胞専用の、ものだ。効くかどうかは、分からなかったが…一時間ほど前から、脳が覚醒し始めたので、効いた、と思った。心拍が、まだ弱い。」

自分で自分の状態は分かっているようだ。要は、急いで自分が着ているカーディガンを脱いで彰に掛けた。

カミラは、口から血を流していたが、それでも地面に転がったまま、まだ意識はあった。焦点が定まらない瞳で、こちらを見て、フッと口元だけを笑うように動かした。

『そう…あなたって本当にすごい人…。自分を生かすってわけね。自分を検体にして。』

彰は、そちらを見て、ふんと言った。

『死んでいても私は君を拒絶する。君との月見もカンベンだ。一度は、君の願いを聞いて記憶を消さなかった。だが、もう、忘れろ。私の記憶は、返してもらう。』

カミラの顔が、急に歪んだ。

『嫌よ!あなた無しで、無理よ!だったら殺して!急所を外さず止めを刺して!今すぐ!』

彰は、横を向いて、苦し気に息をした。

『うるさい。こっちはもう顔も見たくない。忘れろ、記憶など曖昧なもの。どうにでもなるわ。』

その時、どやどやと武装した兵隊たちが追いついて来た。

「要さん!ああ、ジョンも!…ジョン?聞いていたところ、あなたは蘇生しなければならない状態だと聞いていたんだが。」

彰は、そこに座り込んだまま顔をしかめた。

「誰も来てくれんから、自分で生き返った。とにかく研究所まで運んでくれ。歩くのは無理だ。」

カミラは、撃たれてはいたが玉は抜けており危険な状態でもなかったので、そのまま拘束されて担架で山を下ろされた。

彰は、寝た状態で降ろされるのを嫌がって仕方なく隊員の一人が背中に背負って降りた。要は、ボロボロに擦り切れたジャージに今更ながらに気付いて、なぜかズキズキと痛む背中を引きずって、さっきの隠れ家まで戻り、そこからヘリで研究所まで、彰と一緒に運ばれたのだった。

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