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紡がれる物語

作者: *雅*

冬の童話祭2017のために書かせていただきました。

お暇があれば見てみてください。

 ガヤガヤ ガヤガヤ

 

街の皆が騒ぎはじめた。

街の中央に、国王からの通達が貼ってあった。

 

【冬の女王を春の女王と交換させた者には好きな褒美を取らせよう。

 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を廻らせることを妨げてはならない】

 

この国は、春の女王、夏の女王、秋の女王、冬の女王の4人が塔に入ることで、季節を廻らせている。

 

だが、今年は何故だか冬の女王が春の女王と変わらないらしい。

 

そのせいで、昼夜問わず国は薄暗い雪雲に覆われていて、ランプが手放せない環境になってしまったと聞いた。

 

まぁ、旅をして数時間前にこの国に戻ってきた俺達には、検討もつかない。 

 

皆、自分の予想を口にしているが、行動に移す者はいないらしい。

 

「寒い…確かになんとかしなきゃ、凍ってしまう」

 

俺はフードを目深に被り、両手に握った子ども達の手を引き、塔に向かった。

 

 

  -塔の前-

 

 

塔は高くそびえ立っていた。

周りに数人の兵士がいて、塔を守っている。


「塔に入ることは可能ですか?」

 

兵士達はフードを目深に被った子連れの俺達を品定めするかのように見ていた。

  

「ダメだ。扉に触ると、電気が走るみたいにバチッと弾かれちまうんだよ」

 

「入れてるなら、冬の女王に直接俺達が原因を聞きに行ってるよ」

 

「……電気が走るみたいに弾かれる……」

 

結界の一種なのだろう。

冬の女王がやったのか、それとも別の…?

 

「ちょっと失礼。お前達は下がっていろ」

 

俺は子ども達に後ろに下がるように言った。

こくりと頷くと、子ども達は手を繋ぎ、俺の背後に歩き出した。 

 

「あ、ちょっ……」

 

「い、痛いぞ!?」

 

俺は扉に手をかけた。

 

 カチャン…ギィ……

 

「あれ?」

 

「な、なんでバチッと来ないんだ?!」

 

「俺は魔道士。かなり協力な結界だったけど、俺には効かない」

 

兵士達は目を丸くしていた。

国王へ報告に走る者もいた。

 

「魔道士……で、でも、もう何人かの魔道士が扉を開けようとしてたが今まで触ることすら叶わなかったんだぞ?!」

 

「お前…何者だ…?」


俺は目深に被っていたフードを広げ、兵士達に顔を見せる。 

  

「俺は大魔道士アレクの息子のナラ。アレクから教わった俺には、これくらいの結界は効かない」

 

「お前…その紅い目、漆黒の髪、目の下の紋章…」             

 

「あの伝説の大魔道士アレクの息子?!ほ、本当に存在していたのか…?!」

 

大魔道士アレク。

俺の師であり父親である。

国に仕える大魔道士だったが、いくら強力な力があっても長く生きはしたが、病には勝てなかった。

 

「あぁ、この目、髪、紋章に力が証明だ」

 

兵士達はどよめき、国王へ報告に向かう兵士がまた走っていった。

 

「塔の結界は解除した。入らせてもらうぞ」

 

 

俺は塔に足を踏み入れた。

数人の兵士が後をついてきた。

 

「と、塔の中も寒いな」

 

「初めて入るが、中はこんな造りなんだな!あ、ちゃんとキッチンもある!」

 

塔の中は豪華な造りで、生活には困らないように風呂やトイレ、恐らく使用人用なのか部屋がいくつもある。

まるで縦に伸びた館だな。     

 

「…使用人がいない?」

 

「え?」

 

「人の気配がなさすぎる。感じるのは1人だけ…冬の女王だけだ」

 

上か?

階段を上ると、大きな扉が1つ。

…ここにも結界が?

 


 カチャン……ギィ……

 

「冬の女王ですね」

 

俺の声に振り向く女性。

肌は白く、蒼い瞳。

白く長い髪を結っていて、白いドレスの美しい女性だ。

 

「…あなたは、結界が解けたのですか…何者ですか?」

 

「俺は魔道士ナラです」

 

兵士達が部屋のランプに火を灯すと、冬の女王は目を見開いた。

 

「あなた、その目、髪に紋章……大魔道士アレクの血筋ですか?」

 

「えぇ、息子です」

 

冬の女王は目を背けると呟いた。                 

「……本当に存在していたのですね。アレクの力を継ぐ者……あなたがいるのならば……」

 

俺がいるなら?

なんだ……?

 

「と、とりあえず冬の女王様、塔から出ていただけませんか?」

 

「これで長い冬が終わる!」

 

兵士達は喜びに満ちた表情だ。

しかし冬の女王は兵士達の期待を裏切った。

 

「この塔からは出られません」

 

「「「え?!」」」

 

「…冬の女王、何を考えているか教えていただけますか?」

 

冬の女王は、一瞬悲しい目をした。

 

「春の女王が来ない間に私がこの塔から出てしまえば、この国の季節はなくなり、草原は荒れ果て、水は朽ち、民達は死にゆくことになります」

 

「そんな!」

 

「じゃあ、どうすれば……あ、そうだ!春を飛ばして夏の女王に交代すれば!」

 

「なりません。季節は定められた順番でなければ、私達の力は失われ私が塔から出た場合と同じ道を辿ります」

 

「そんな…いったいどうすれば……」

 

兵士達はさっきまでの喜びが嘘のように頭を抱えている。

 

「冬の女王、何故春の女王は訪れないのですか?あなたは知っているのでは?」


「……あれは、本来の交代の時期のことでした…」

 

冬の女王は独り言の様に話し始めた。

 


   

 -数ヶ月前-

 

 

「冬の女王様、もう少しで交代でございますね」

 

「お疲れ様でした」

 

使用人として、共に住み込みで働いてくれた優しい人達の言葉は私を労る気持ちが溢れていました。

 

「皆も、この数ヶ月ありがとう。おかげで今年も役目を務められました」

 

1年の4分の1とはいえ、家族に会えずに共に暮らしてくれた。

私は、本当に感謝をしていました。

 

「冬の女王様!い、今、春の女王様からの遣いの者から手紙が!」

 

私は手紙を受け取り、読みました。

そこには春の女王からの民を裏切る言葉が書いてありました。

 

私は使用人達には伝えられませんでした。

 

 

『私、春の女王は愛する方と駆け落ちをします。この国を出て、自由になりたいの。彼と共に一生を終えたい』

 

 

春の女王が国を出る。

それは、この国を、民を捨てると言うこと。

そんな酷な話を私は使用人達に伝えられませんでした。

 

「冬の女王様、春の女王様はもうすぐいらっしゃるのですか?」

 

「……えぇ、ですが少しだけ遅れると」

 

「じゃあ、もうひと踏ん張り、冬の女王様を支えましょう!」

 

使用人達は腕まくりをし、やる気に満ちた顔をしていました。

 

「いえ、遅れると言っても1日程だそうですから、皆は家族のもとへお帰りなさい」

 

一生来ない春の女王を私と共に待たせるわけには行かない。

彼らには家族がいて、帰るべき場所があるのですから。

 

使用人達は戸惑った表情を浮かべたものの、冬の女王様が言うのならと1日分の仕事をして、翌日には名残惜しそうに塔を出ていきました。 

 

 

「春の女王、何故?何故民達を裏切る真似を?」

 

私はどうにも出来ずに塔の扉に結界を張りました。


春の女王を信じて待つしかない。

もし、春の女王が本当にこの国から出てしまったら、もう永遠に春は訪れない。


「……その時は……春の女王が戻るまで国の全てを凍結させるしかない…!」

 

私は塔にこもり、春の女王を待つ決意をしました。

 

 

 

事の全てを話した冬の女王は目に涙を浮かべていた。

 

「は、春の女王様が、駆け落ち?!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「偽物の可能性は?イタズラとか!」

 

冬の女王は目を伏せて首を横に振った。

 

「私も何かの間違いだと思いましたが、手紙の刻印も本物。それに未だに姿を現していないのが証拠です」 

 

国の凍結…。

もし生きたまま人を凍らせるとなるとかなりの力が必要だ。

ましてや国をまるごとだなんて。   

 

「……季節の女王は結界や国の凍結が出来るほどの力があるのか?」

 

冬の女王は俺を見た。

寂しそうな瞳をして。

 

「この力は、あなたの父、大魔道士アレクから授かった力よ」

 

「……なんだと?」

 

「この国の季節をもたらしたのは、数1000年前にふらりと現れた旅人の子連れの魔道士だった。その魔道士は他ね魔道士とは比べものにならない魔力を持ち、当時の国王は国の安定と繁栄のために、その魔道士に4人の娘に力を与えてくれと言ったの」

 

「その魔道士が俺の父アレクで、4人の娘が季節の女王達か…なるほどな」

 

「え、数100年前って?」

 

「力の強い魔道士は何100年、何1000年と生きることが出来る。大魔道士アレクは国に仕えて1000年は超えていたな。そのアレクの力を分け与えられた季節の女王達も、力が消えない以上、生きられる」

 

兵士達は困惑していた。


「じ、じゃあ!あんたも…?」

 

「俺は470歳だ。若く見られるが」

 

兵士達は困惑から驚愕の顔になった。

コロコロと表情を変えて、面白い。

 

「あんた、どう見ても20歳くらいにしか見えない……」      

 

「よく言われる。魔道士は力に左右されるから、時間の流れが他の人間よりも遅いんだろう」

 

「じゃあ、外で待ってる子ども達って……」

 

「俺の子だ。息子はあれで200歳、娘は120歳だ」 

 

兵士達は口をパクパクとさせ、言葉が見つからないようだった。 

 

「そんなことより、春の女王を探して塔に連れて来なけりゃいけないな」

 

 

    

 -塔の入口-


 

冬の女王は塔に残っている。

子ども達も冬の女王が塔の中で見ていてくれている。 

兵士達も事情を一部変更して、国王に伝えに走った。

 

 

 『春の女王はなんらかの事情で塔に入る時期が遅れている』

 

 

そう伝えるように言ったのは冬の女王だった。

民達を不安にさせない為、春の女王が戻った時の為に。                       

「しかし、ナラ様よ、春の女王様をどうやって連れ戻すんだ?」

 

兵士は頭をかきながら聞いてきた。


「ナラで良い。春の女王の居場所はわかる」

 

「え、なんでだ?!」

 

俺は懐から1枚の紙を取り出した。

紙を鳥の形に折り、息をフッとかけると、紙は本物の鳥に変化した。

 

「この鳥が居場所を教えてくれる」

 

兵士達は目を丸くしていた。

その中の数人が俺と案内をする鳥の後を追うことになった。

 

 

 

 -森の中-         

                  

「本当にこんな森の中にいるのか?」

 

「……確かに、俺もそれは気になっていた。駆け落ちして国を出ると書いてあったのにな」

 

俺達を案内してくれた鳥は、森に入ると案内終了の合図で紙に戻った。

 

何かがおかしい。

この森はまだ国の中だ。

本当に駆け落ちなら、とうの昔に国を出ているはずだ。

 

まさか、国から出られないように内側から結界が張られているのか?

 

……父ならやりかねない。

季節の女王を国から出さないように、季節の女王だけを出せない力。 

  


「……!伏せろ!!」

 

 バシュッ!バシュッ!

 

間一髪。

無数の矢が、俺達に向けて放たれたが、結界が間に合ったようだ。

 

「皆、大丈夫か?」

 

「あぁ、びっくりした!」

 

「ナラのおかげで、誰も怪我ひとつない!助かった!」   


「良かった……。おい、そこにいるんだろう?出てこいよ」

 

光の矢が飛んできた方向に声をかけた。

木の影から現れたのは爽やかな青年。


服装は厚手のローブに黒のブーツ。

袖をまくった手には魔道士の紋章が彫られていた。


「完全にしとめたと思ったんだけどなぁ。何者だ?その人数を一瞬で守れる……並の魔道士じゃねぇよな?」

 

「爽やかそうな顔をして、攻撃してくるとは、なかなかやるじゃないか。春の女王を連れ出したのはお前か?」


青年はフッと笑い、俺を睨みつけた。

なんだよ。

年下のくせに俺に喧嘩をうるなんて良い度胸だな。

 

「もうバレたのか。そうだ。俺だよ」

 

「何故そんなことをした?春の女王がいなければ国の崩壊が始まるぞ」

 

「こんな国、滅べば良いんだ」

 

「……何?」

 

青年は寂しそうな顔をした。

なんだ?

 

俺は近くの兵士達に呟いた。

 

「春の女王は近くにいる。こいつは俺が相手しておくから、そのうちに探すんだ」

 

「了解!」

 

兵士達は一斉に散り散りになった。

 

青年は兵士を狙おうとするが、攻撃はさせない。


 バシュッ!

 

「くっ!…なんなんだよお前!」

 

俺は青年に近づいた。

まだ若いな…25歳くらいに見える。

 

「それはこっちのセリフだ。春の女王を連れ出して何をしたかったんだ?」

 

口を閉ざす青年。

 

「言わないなら、お前の記憶を覗かせてもらう」

 

「やめっ…」

 

一瞬、青年の手に触れた。

 

あぁ、青年の記憶が流れ込んでくる。

 

 

 

 -数ヶ月前-

 

この国でずっと生きてきた。

この国は平和で季節があり、とても幸せな国だ。

 

今は冬の女王が塔に入っている。

もう少しで春の女王が塔に入るだろう。


俺は散歩に出掛けた。

夜だから人も出歩いていない。 

 

あぁ、そこのパン屋で夕食を買って…

 

 ドンッ!

 

「きゃっ!」

 

誰かにぶつかった

相手は転んでしまったらしい。

 

「すみません!大丈夫ですか?」

 

振り向くと、そこには、桃色の瞳、薄茶色のウェーブの綺麗な長い髪、可愛らしい桃色のローブを着た春の女王がいた。

 

「だ、大丈夫です」

 

なんてこった

俺は春の女王にぶつかったのか!


「怪我は!?」

 

「いえ、大丈…っ!痛っ!」

 

膝を抱える春の女王の手をどかせ、見てみると少し出血していた。

 

「大変だ!そこのベンチで手当します」

 

「いえ、本当に大丈夫です」

 

痛みに涙を浮かべる春の女王を横抱きにして、ベンチに座らせる。

 

「俺は魔道士です。すぐに治しますから」

 

治癒に時間はかからなかった。   幸い傷跡も残らずに治せた。

 

「ありがとう…ございます」

 

「いえ、俺がちゃんと注意して歩かなかったから…どうかしました?まだ痛みますか?」


春の女王は涙を流していた。

スカートをぎゅっと握りしめ、何かを耐えるように、桃色の瞳から涙がポロポロと流れてくる。

 

「どうかしたんですか?……春の女王様……」

 

その言葉にピクッと反応した。

俺を見上げ、春の女王はこう言った。

 

 

 『もう、塔には入りたくない』

 

 

「何故ですか?!」

 

「私は数100年この力で民達を守ってきました…。でも、もう嫌!なんで数100年も生きなければいけないの?なんで自由に暮らせないの?いつも民や国のことを考えて生きなければいけないの……?」

 

俺は愕然とした。

俺達の平和な暮らしは女王の負担になっていたんだ。

 

季節が廻り、幸せな時間を過ごす。

人は短い一生だからこそ誰かを愛し、懸命に生きる。

  

しかし女王はどうだ?

数100年もの時間、きっと誰かを愛しても必ずその者を看取らなければいけない。

友人、恋人、家族。

死は誰にでも訪れるのに、強い力があるからと、国のためだからと長い長い時間を生きなければいけない女王は、疲れ果てていたんじゃないのか?

 

「私はもう、嫌なの。こんな力いらない!もう友達も家族も皆いなくなった!もう……いっぱいいっぱいだよ……」

 

俺は春の女王を抱きしめていた。

春の女王は驚いていた。

 

こんな華奢な肩に、国という重いものを背負って、長い間生きてきた春の女王。

 

『愛しい。助けたい。』

 

そんな思いが俺の心を黒く蝕んでいった。

 

 

 

「なるほどな。だから塔には入れずに国を崩壊させようとしたのか」

 

「……そうだ……お前に、彼女の気持ちがわかるか!?何100年もの間、ずっと与えられた力に押しつぶされそうになってたんだ!」

 

青年は座り込み涙を流した。

冬の女王は気丈に振る舞っていたが、もしかしたら春の女王と同じ気持ちだったのだろうか…。

 

「春の女王様を見つけたぞ!」

 

森の奥から兵士の声がした。

青年は頭を垂れて、泣き続けていた。

 

 

 

 -国王の部屋-

 

 

「そなたが、あの大魔道士アレクの息子か」

 

俺は片膝をついて頭を下げる

 

「お初にお目にかかります。アレクの息子ナラと申します」

 

国王は優しげな笑みを浮かべ、近づいてきた。

 

「そんなにかしこまるな。息子がいるとは聞いたことがあったが、会えるとは思わなかった。そなたの父は国に多大な貢献をしてくれた。おかげでこの国は、平和で豊かな国でいられている」 

 

「ありがとうございます。本来であれば父の跡を継ぎ、国に仕えなければいけない所を、姿を隠し生きていたこと、深くお詫び申し上げます」

 

国王は俺の手を優しく握った。

 

「そんなこと気にするな。そなたの父の力で季節の女王達も長く生きることが出来、民達も幸せに暮らしている。…実は、そなたを探さなかったのはアレクとの約束でもあったのだ」

 

「父との約束?」

 

「あぁ。存在は知っていたのだが、そなたが自由に暮らせるように、探さないでやってほしいと。その代わりに季節の女王に力を与え、アレク自身が国に仕えるとな」

 

……なんてことだ。

今回の一件、元を辿れば原因は俺じゃないか。


「そなたには力を継いでも自由に生きてほしい…そう願っていたのだ。アレクは」

 

俺の自由のために?

…ふざけるなよ。

何人の人々が苦しめられた?

 

季節の女王は長い時間を生き、望まない役目を与えられ、今回は冬が長引き民が辛い思いをしてきた。

 

「まさか、息子のそなたが春の女王を連れ戻してくれるとは。これも運命なのだろうな」

 

「……」

 

何も言わない俺に、首を傾げる国王。

 

「おぉ、そうじゃ。ナラよ。冬の女王を塔から出し、春の女王を塔に連れ戻してくれた褒美をやろう。何が良いのじゃ?」

 

 

 

「季節の女王と春の女王を連れ出した者の解放を」

 

 

 

国王は愕然としていた。

 

「な、何を言う!季節の女王の解放?そんなことをすれば、この国は…」

 

「滅ばない。望まぬ時を無理矢理生き、国や民の幸せを願わせる人柱のような女王達。中にはそんな生き方を重荷に感じている方もいるでしょう。ならば次の女王に役目を渡せば良い!」

 

俺の剣幕に黙る国王。

俺は失礼ながら国王の前に立ち上がった。

 

「俺も父の力を継いだ者として、500年もの間、自由に生きてきた。楽しいこと、悲しいこと、愛した者達を看取らなければならない辛さもわかる。だから、季節の女王達も、もう自由にしてあげてほしい。父が力を与えたせいで人の何100倍もの思いが、彼女達やあの青年を苦しめた。もう…自由にしてやってほしい……」

 

国王は静かに語りかける。


「確かに…季節の女王達に甘えてきたのも事実じゃな。彼女達は最初は望んで力を与えられたのかもしれないが、今は辛いだけだったのかもしれない。……そうじゃな…。しかし、次の季節の女王はどうするのじゃ?」

 

「なりたい者が、なりたい年月やれば良い。父がしたように、今度は俺が力を与える。国にも仕える」

 

「じゃが、そなたがもし病に倒れたら?力を与えられぬじゃろ?」

 

「俺の子ども達が、俺の力を継いでいる。そうやって、繋いでいけば良い。季節の女王に負担をかけないように」

 

国王は納得し、翌日には街に新しい通達が貼り出されていた。

 

 

 『季節の女王になりたい者を急募する。

 条件は女性であること。

 何年でも良い。1年でも数100年でも。どうか国のために手を貸してほしい』

 

 

「季節の女王になれるのかい?」

 

「私、なってみたい!季節の女王になって国を守りたい!」

 

街は大賑わいだった。

今までの季節の女王達の頑張ってきた姿を民達は、ちゃんと見ていた。

感謝をしていた。


「女王達に恩返し…か」

 

俺は子ども達の手を引き、城に向かって歩き出した。

         

 

数日後、季節の女王達は俺の魔力を経由し、無事に次の季節の女王達へと力を継ぎ、皆自由になった。

 

やはり顔には出していなかったが、夏の女王、秋の女王、冬の女王も自らの運命に疲れ果てていたようだ。

 

「やはり、アレクの息子のあなたなら、私達を解放してくれると信じていました」

 

冬の女王…いや、元冬の女王は晴れやかな笑顔で俺に告げた。   

 

元季節の女王達は各々、力を無くし、普通の人間として生きる道を選んだ。

 

元春の女王は、あの青年と生きる道を選び今は幸せに過ごしている。

 

元夏の女王は、他国を見てみたいという理由で、元秋の女王は他国の王子からの求婚を受け、国を出た。

 

元冬の女王は、国の一角で店を出し、楽しく暮らしている。

 

大魔道士アレクが、愛しい息子のために、色々な人を苦しめた。

 

それはこれから息子である俺が償っていこう。

同じことを繰り返さないように、俺の子ども達や俺に弟子入りしてきた者達にしっかりと教えながら。


 

 

長い冬が終わり、また新しい春が訪れる。


とある国の物語は受け継がれ、まだまだ終わることなく永久に紡がれるのであった。

長いお話を見ていただいて、ありがとうございました。


お題があるというのは、簡単でもあり、難しくもありましたが、なんとか一作品書かせていただきました。


子連れ魔道士は私自身、初めての設定でしたが、いつかイラストで描いてみたいです。


読んでいただいて、本当にありがとうございます!

お目汚し、失礼いたしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王道で切なさもあってよい話でした。 春の女王が救われてよかったです。
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